終焉の森
アークデーモン
レベル 678
「ばぶぶ(死んだな)」
それが辞世の句になろうとは。
せめて一端の声くらい上げてみたかった。
どうして、こんな状況になったかというと理由は簡単だ。
石で転移させられ、暇潰しに目に魔力を通していたら、敵が来た。
異世界の定番スキル、鑑定を身に付けた瞬間に死ぬとは勿体無い。
これがレベル一桁のスライムやゴブリンなら足掻いてみる気にもなるが。
三桁である。
しかも種族がアークデーモン。
下手をしなくても魔王クラスではなかろうか。
少なくとも魔王と同中なはずだ。
件のアークデーモンは俺の様子を訝しげに見ている。
ゆりかごに入った赤子なんて初めて見るだろうし、罠と思っているのだろう。
そのまま罠と思ってどこかに行ってくれ。
「くわぁっ!」
アークデーモンが大口開けた。
ダメでした、残念。
敬虐なる信徒である俺は十字を切って、南無と言った。
「ぐわああああああああああああああああああああああああ」
凄まじい爆風に包まれた。
ゆりかごには魔法の加護でもあったのか壊れはない。
一方、アークデーモンは落ちてきた何かの直撃を食らったようで爆発四散していた。
「ばぶ(南無)」
おっ、初めて言葉らしい言葉を出せた気がした。
「いちちち......なんだ、これ?」
邪神
レベル ××××××
どうやら鑑定がまだ発動していたらしい。
解除する暇もなかったからだが、ふむ。
レベルが六桁って、ヤバイな。
しかも邪神って。
一難去ってまた一難。
「ぶっぶばばばぶぶ(ぶっちゃけありえない)」
「ん? いっちょまえに俺を鑑定してるのか。しかも弾かれた様子もないとか、お前本当に赤子か? これでも神殺しの邪神なんだけど」
「ばぶぅ(そうなのか、それはすまないことをした)」
「あぁ、良いってことよ」
この赤ん坊と会話が出来る全身黒い鎧に黒髪黒目の優男。
それが邪神と俺の初めての邂逅であった。
「ばぶ」
「おい、なに漏らしてんだよ! 良い感じのモノローグだったのに」
意外にもノリが良い男であった。
「ばぶ(それより俺を匿ってくれないか? できれば衣食住、並びに生きていける術も教えてくれると有り難い。今はまだ役立たずだが、そこそこ強くなれる予定ではある。頼まれてくれないか?)」
「その二文字に言葉乗せすぎだろ......まぁ、いいぜ。神殺しの後で気分が良い。それにお前には光るものを見た。お前ならいずれ神をも殺せるだろう」
「ばぶ(いえ、神教なので遠慮します)」
「じゃあ、邪神教に乗り換えな」
宗教の自由とはなんだったのか。
こうして俺は辺境の森で出会った邪神と一緒に生きていくのであった。
ちなみにこの森は終焉の森と呼ばれる高レベルが跋扈する場所であった。
もう何も驚きはしない。