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異世界に終焉を  作者: 餅巾着
2/4

誕生

世界が天変地異に見舞われた日。


一人の赤子がこの世に誕生した。


それはどこにでもいる貴族の三男だった。


兄が二人、姉が一人の四子。


兄と姉は弟が出来ることを心待ちしていた。


だが、いつまで経っても弟には会えなかった。


両親がそうさせなかったのである。


母はその手で赤子を抱くことが出来なかった。


見た目に異常はない。


先祖帰りの一種で髪も瞳の色も黒かったが。


母が抱けなかったのは、その全てを見透かすかのような目が原因だ。


その目を見た瞬間、母は母であることを諦めた。


自分で育てることは勿論、世界でこの子を牛耳れる者は恐らくいないだろう。


まるで世界の憎しみを背負っているかのような。


まるで触れるものを全てを傷つけ覇道を歩むような。


長年乳母をやってきた者も使用人達も皆が一様に首を横に降った。


きっとこれは神の子だ。


そして、悪魔の子だ。


脆弱な人間では近くにいるだけでも害を成す。


息子と娘に会わせることはしなかった。


この罪は大人達で背負おう。


ゆりかごに赤子を入れ、転移の石を投げ付けた。


育てることも出来ないが、殺すことも出来ない。


そんな思考停止が生んだ結果だ。


願わくばどこかで幸せに。


もし再び会うことがあれば、それは自分達を殺しに来るときだろう。


兄弟達に手を掛けないよう両親はそんな身勝手な願望を抱いた。



ーーーーーー


目が覚めた。


まるで羊水に浸かっているかのような心地よさだった。


実際全くもってその通りであったのだが、俺を取り上げた女が見せた顔は酷かった。


見てはいけないものを見てしまったような顔だった。


そこまで酷い顔なのだろうか、先行きが不安である。


しかし、女神とやらと話した通りになったな、と赤子は思う。


前世の記憶がある。


あの醜く豚のような体からおさらば出来たのは素直に喜ばしい。


そして、自分を取り巻く環境が一新出来たもの喜ばしい限りだ。


強姦に殺人。


今は別の呼び方をするのだったか。


そんな罪を犯した俺は漏れなく死んでしまった。


一日限りではあるが俺の記事が一面を飾ることだろう。


最も天涯孤独の身であった俺には関係のない話だ。


どうせよく知りもしないクラスメイトや同僚が


「そんなことをする人には見えなかった」


「彼に何も出来なかった自分が恨めしい」


などと定型文と美辞麗句を並べるのだ。


ロイヤリティくらい貰えないものか。


などと馬鹿なことを考えていたが、どうやら俺は生まれてすぐに捨てられるようだ。


幼少期から魔力操作を覚え、本から知識を得る計画が台無しだ。


この世界で手加減をするつもりは毛頭ない。


以前の俺は努力を怠り、惰性の上で生きていた。


その結果があれだ。


ならば、次があるならば努力は惜しまない。


よく老人に悔いはあるかと訪ねると


「もっと勉強していれば良かった」


と言うだろう。


年を取れば取るほど学生の頃にもっと何かをしたかったと思うものだ。


女が俺に石を投げ付けてきた。


眩い光が辺りを包み込む。


気が向いたら会いに行こう。


そして、許してあげよう。



その死を以て。

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