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ノート作成法教えます

 啓示はある悩みを抱えていた。


 見やすいノートが作れないのだ。


 字はそう汚くもない。マーカーを使うなど、自分なりの工夫もしている。なのに後で読み返してみると、これがどうにもしっくりこない。


「……おお、そうだ」


 ふと、思いつく。


 部員たちの話を聞けば、何か参考になるのではないだろうか――。



 ケース1 外崎まのかの場合



「あの、まのか部長」

「あらけーじくうん。どうしたのお?」

「実はかくかくしかじかで……」

「ああ、なるほどお。じゃあ百万ほど用意してちょうだあい」

「か、金取るんですか!? しかも百万って!」

「当たり前じゃなあい。これは人生における総収入を左右するとおーっても重要な問題なんだからあ、百万でも安いくらいよねえ、本当はあ」

「は、はあ……」


 啓示は言葉を失った。理屈は分かるが、とても出せる金額ではない。


「まあわたしから個人的にお金を借りて払うというならあ、すこーしだけサービスしてあげてもいいんだけどお。どうするう?」

「い、いえ、結構です」


 提案も丁重にお断りする。高一にして借金生活などまっぴらごめんだ。


「あらあ、ざんねえん。せっかくお金でがんじがらめにできると思ったのにい」

「……」


 ため息混じりの一言を、啓示は聞かなかったことにした。



 ケース2 村雲匡の場合



「あの、匡先輩」

「やあ、神野けーじ。どうした?」

「実はかくかく……」

「ふむ、話は分かった。僕の場合はこれだな」


 そう言うと、匡先輩はカバンから取り出したノートをおもむろに開く。


「ん、んんん?」


 啓示の声がひっくり返った。紙の上には一筆書きの奇妙な記号がうにょうにょと這い回っている。


「あ、あの……これは?」

「ああ、これは速記文字というやつだ」

「そ、速記文字?」

「うむ。速記というくらいだから当然速く書けるし、一般にはあまり知られてないためちょっとした暗号代わりにもなる。今の世の中セキュリティは大事だからな。用心に越したことはないというわけだ」

「そ、そうですか……」


 啓示はがっかりした。これをゼロから習得するのはかなり大変だ。マスターした頃には高校生活が終わっていそうな気がする。


「まあ最低限の基礎を教えるくらいならやぶさかではないが、とりあえずは今僕が推している美幼女戦隊アニメの新作衣装と交換だな。当然、君に直接店頭で買ってもらうという条件はつけさせてもらうが」

「結構です」


 交渉するまでもなく、啓示は答えた。



 ケース3 実原沙妃の場合



「沙妃先輩、はまあ置いといて」

「おいこら、ちょっと待て。どういうことだよ、けーじっち」

「だって、聞いてもしょうがない感ありありじゃないですか」

「けっ、トーシロはこれだから。やだねー、偏見って。あー、やだやだ」


 沙妃先輩は肩をすくめると、やれやれといった感じで首を左右に振った。


「だ、だって沙妃先輩、新学期の学力テストだって赤点ギリギリとか言って……」

「でも赤点はいっこもなかった。それにな」

「何です?」

「あたしゃこれでも入試は首席だったんだ」

「……嘘をつくならもう少しましな嘘をついてください」

「なめてんのか、あんた」

「いや、どう考えても嘘でしょ」

「これは正真正銘本当の話さ。痴女の道を極める情熱をちょろっと入試に回したらどういうわけか首席になっちまってな。入学式の挨拶もしたんだぞ。まあ、壇上でムラムラしてついストリップしそうになったのは乙女の秘密だがな」

「そ、そんな……」


 啓示は呆然とした。首席もそうだが何その変態チックな秘密。


「てなわけで聞け。ほら、聞け。ほれ、ほれ、ほおーれ」

「わ、分かりましたよ。沙妃先輩はノート、どうしてるんですか?」

「序盤はいいんだけどだんだん字が荒れてきてさ、授業が終わる頃には意味不明の乱れ書きになっちまうんだわ。だからあたしとしては、ノート云々よりも教科書の丸暗記をお薦めしたいね」

「……人に質問させるならもうちょっとまともな答えを用意してください」

「ははは。ごめーんね❤」


 悪びれることもなく、沙妃先輩は笑った。



 ケース4 三田村瀬奈の場合+α



「と、いうわけなんだ」

「ふーん」


 説明する啓示に、瀬奈は大した興味もなさそうに応じた。


「で、瀬奈はどうしてるんだ?」

「ノート? とらないよ」


 こともなげにそう言ってのける。


「な、何で?」

「だって好きな教科は聞いていれば分かるし、嫌いな教科はどうせ見直さないからとっても無意味だし」

「……」


 己の凡百な意識とはかけ離れた存在が、ここにも一人。


「ま、人は自分流が一番ってことよね。つまるところ」

「自分流……か」


 啓示は独り言のように返した。確かにそうかもしれない。何かを参考にしながら改善を進めるのは大事だが、結局最後にたどり着くのは自分のやり方なのだ。


「なるほど……時に」


 ひとしきり納得したところで、瀬奈に向き直る。


「なぜか先輩たちまで俺をけーじと呼んでいる件について――」

「ん? んー、んふふふふう」


 とぼけるように口をすぼめると、瀬奈はいたずらっぽく笑った。


「んっ、ふふ、ふふ、んっ、ふふ、ふふ」


 ポケットから洗濯バサミを取り出すと、顔の前にうりうりと突きつけてくる。


「ぐげっ……」


 啓示はうめいた。先日の失態が、乳首の疼きとともにじんわり蘇る。


「んふふふ、ふふ~ん」

「ぐ、ぐぬぬ……」


 ……結論。


 この日替部における俺の名は「けーじ」で落ち着くことになりました。

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