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若鄙の有閑  作者: 土衣いと
短編その1・『うに』の話
94/94

〈完〉神々の黄昏

前回投稿から一年半・・・。非常に長い期間が空いてしまい、もう未完のまま放置されるのではとお思いになっていた方もいらっしゃるでしょう。(かく言う作者も半ばそう思っていた時期も。)

ですがこれで完結させましょう。この一年半、本格的に『小説っぽい作風』を学んで勉強してきた作者ですので、この作品のこの自由な作風とはこれでお別れです。

ではまたいつか、若鄙の人々(?)と相まみえる時を願って・・・。

 史織「・・・で?私がそれに応じるとでも思うの?」

千鶴「うぅぅ~・・・(涙目)!」

史織さんのとこにやって来た千鶴さん。ですが、もうこの有様です(笑)。

史織「大体、それがホントだったとしても、今の私には関係ない話よねー。ぱくぱく・・・。」

千鶴さんの話には目もくれず、うにご飯を口に運ぶ史織さん。

史織「やだっ、何これホント美味しいわね。」

千鶴「で、ですから、何とか今夜の晩ご飯分だけでいいんです!欲は言いません!高御さまと木実さまに美味しいうにを召し上がって頂くためにも、少しだけお裾分けを・・・。」

史織「もぐもぐ・・・。対価もないのにせっかく手に入れた珍しいうにを渡す気にはならないわね。」

まあ確かに。元を辿れば、この巨大うには名草神殿内にあったもの。とは言え、史織さんからすれば焼き芋をめちゃくちゃにされた代償に手に入れた巨大うに。

運搬作業をしてもらった自警団の皆さんにはちゃんと取り分を渡してありますものね。無償の条件を呑むほど、史織さんは優しくありません(断言)。

千鶴「・・・確かにそうですよね。」

史織「あぁー(イラッ)?」

小冬「うふふっ。」

史織「そこっ!笑わないの!」

千鶴「正直私も史織さんがタダで譲ってくれると思ってはいなかったので、ちゃんと準備してきたんです!」

と言って、何やらゴソゴソと準備し始める千鶴さん。

すると。

千鶴「じゃーん!これを見てくださいっ!」

千鶴さんが取り出したのは何やら藁でできた輪っかのようなもの。

何ですかこれは?

千鶴「これを、こうして、ですね・・・。」

千鶴さんがその輪っかを庭に五つ程円状に並べて置いていきます。

史織「ちょっと、人ん庭で変なことしないでよね。」

千鶴「いいですか史織さん!見ててくださいよ!」

史織「な、何よ・・・。」

千鶴「せーのっ!はいっ!」

パァンッ!

掛け声と共に千鶴さんは手を叩きましたが・・・。

千鶴「・・・あれ?」

史織「何も起きないわね。ぱくぱく・・・。」

小冬「失敗ですの?ぱくぱく・・・。」

千鶴「えー?いやそんなはずは・・・えぇいっ!やぁっ!とぅっ!」

パンッ!パンッ!パンッ!

史織「何だか知んないけど、諦めてさっさと帰ってねー。もぐもぐ・・・。」

千鶴「いーやまだです!上手くできればきっと・・・!こう・・・。」

・・・・・・


 時刻で言うと少し前、名草神殿では・・・。

木実「千鶴のやつ、上手くやれてるかなぁ?」

高御「うーん?古屋のとの交渉のことか?」

木実「千鶴は優しいからさ、やっぱり折れちゃうんじゃないかなって。」

高御「古屋のはあの性格だからな。相性は良くないが、そのためにさっきまで練習してたんじゃないか。」

木実「あぁ、さっきのあれ?ってか私何にも聞いてないけど、あれって何なのさ?」

高御「ふっふっふ。あれは千鶴の素っ頓狂な能力の矛先をちょっとでも調整するための憑代みたいなもんよ。」

木実「憑代?」

高御「あの子は空間を跳躍させる能力を持っている。自分も含め触った物を、ね。」

木実「あー、触った瞬間うにがどっか行っちゃったもんね。・・・なるほど、そーゆーこと。」

高御「ああ。でも跳躍先が無茶苦茶過ぎなもんだから、少し制御が効くようにってことよ。」

木実「あの巻き藁みたいなヤツが要は跳躍先になるように練習してたってわけ?」

高御「巻き藁じゃないよ『(わら)っか』だよ。そしてこれこそが今回の秘策、藁っかの進化版『藁っか戻り』だよ!」

高御さんもさっき千鶴さんが持っていたあの藁でできた輪っかを取り出しました。

木実「えー何そのネーミングセンス(笑)。それやめた方がいいよ(笑)。」

高御「うっさい。・・・いいか?千鶴が持ってる藁っかは跳躍先っていう憑代の性質しかないんだけど、この藁っか戻りはちょいと違うわけよ。」

木実「はー?何が違うの」

高御「どうせ古屋のはあの巨大うにの全部は渡さないだろう。精々普通のサイズぐらいか・・・。でも千鶴が上手く一欠片でもいいから手に入れてこの藁っか戻りにうにを跳躍させてくれれば、もし跳躍前が一欠けら程のうにであったとしても、跳躍後には元々の真の姿として戻って現れてくるって寸法よ!」

木実「・・・つまり、サイズはあの巨大サイズでうにが手に入るってわけ!?凄いじゃん!」

高御「はーっはっは!我が実を司る力の前にひれ伏すがいいわ!・・・まあ、この藁っか戻りは何かたまたま生成できただけで、一回効果を発動させたらその瞬間壊れちゃうみたいなんだけどね。まー千鶴のうに一欠けら分だけで十分よ!」

木実「なーるほどね。まー名前はともかく、仕組みとしては大丈夫そうね。」

高御「ああ。後はあっちで千鶴が上手くやるだけさ」

さっきまでは上手くできてなかったんですけどね。

木実「・・・ねえ」

高御「ん?」

木実「ちょっと確認なんだけどさ・・・」

高御「何だ口ごもって?」

木実「今千鶴は何しに行ってるんだっけ?」

高御「何って、古屋のの所にある巨大うにを貰いに行ってるんじゃないか」

木実「うん。だってさっき千鶴からのテレパシーで聞いたもんね」

高御「分かってるじゃないか。何で聞いたんだよ」

木実「で、仮に素直に史織がうにを渡してくれなかったらどうするんだっけ?」

高御「あー?そん時ゃ、物で釣るんだよ。だから千鶴に藁っかを持ってかせたんじゃないか。『もしうにを誰かが既に手にしてしまっていたら、物々交換を要求しろ。千鶴は藁っかを使って適当にうちに生えてる筍を好きなだけ手元に呼び寄せたらいいから』ってさ、千鶴に言ったんだよ。」

・・・あれ?

木実「それさ、おかしくない?」

高御「・・・え?」

木実「千鶴は触れた物を跳躍させられる。でも、その物の移動は『手元』から『どこか』への一方通行だよ。物を『どこか』から『手元』には引き寄せられないでしょ。千鶴は触れなきゃ(・・・・・)跳躍させられないんだから。」

高御「・・・あっ。」

木実「それに・・・。」

高御「えっ、まだあんの?」

木実「あんたが今持ってる巻き藁・・・。」

高御「藁っか戻り、な。」

木実「跳躍してきた物って、どうやって出現するんだっけ?」

高御「うん?・・・藁っかも藁っか戻りも同じだけど、基本はその藁のある上空だな。まあ物にもよるし、上空って言っても高さ二~四メートルくらいだけどね。」

木実「・・・なあ、私が間違ってるって認識でいいんだよね?」

高御「だから何がよ。」

木実「じゃあもし、たった今千鶴がうにの欠片をその藁っか戻りへ跳躍させたとしても、私たちの頭上真上にサイズの戻った巨大うにが出現して私たちを押し潰す、なんてことはないんだよね?ねぇぇ!?」

ひゅぅぅーん・・・

高御「・・・・・・あっ。」

木実「・・・・・・はっ?」

ズドォォォォォン!!!!!

・・・・・・


 次の日の朝。

史織「は?名草神殿が半壊?何で?」

小冬「いえ、私も詳しいことは・・・。まだ自警団の方だけの内緒話みたいなんですけど。」

古屋図書館の母屋縁側でいつものようにお二人がお話しています。

史織「ふーん・・・。ふわぁぁ~」

小冬「んもぅー、史織ったら。全然興味なさそうですわね。」

史織「あそこが半壊しようが全焼しようが、私の知ったこっちゃないわ。誰かさんに起こされたせいで、まだ眠いのよ~。」

小冬「もうそんなこと言ってー。千鶴さんが心配じゃありませんの?」

史織「アイツ昨日はそんなこと一言も言ってなかったじゃない。大丈夫なのよ。」

しゅいんっ!

千鶴「大丈夫じゃありませんよー!」

史織「うわっ!びっくりした~。急に現れんじゃないわよ。」

昨日庭に置いていった藁っかを使って、千鶴さんはここまで跳躍してきたみたいですね。

小冬「まあ千鶴さん。無事でしたのね。」

千鶴「私は無事ですけど、高御さまと木実さまが無事じゃないんですよ~!助けてください~!」

史織「あー?・・・んなことより、昨日のうに分をまだ貰ってないんだけど?昨日何のために私が前払いでうにを渡してやったと思ってんのよ?」

そう・・・。昨日千鶴さんは藁っかを使って物々交換とするための筍を跳躍させようと必死になって頑張っていたんですが、木実さんが言っていた通り、成功せずじまい。

いつまでも千鶴さんが庭で粘るもんですから史織さんは仕方なく、前払いという形でうに一欠片を千鶴さんに渡していたんですね。

だからまあ、ああなってしまったわけなんですけども・・・。

千鶴「そ、それは・・・う、うちに来てくれたら更に上乗せしますんで、助けて下さい―!」

小冬「うふふっ、どうしますの?史織~」

史織「どうしますのって・・・」

千鶴「(うるうる)」

史織「っはぁぁ~。・・・ったく、今回だけよ。」

千鶴「ありがとうございますぅ~!史織さんなら来てくれるって信じてましたよ~!」

史織「どうだか・・・。小冬は?アンタは行かないの?」

小冬「もちろん。史織の行くところなら、どこへだってお供致しますわよ?」

千鶴「小冬さんもありがとうございます!お二人がいれば心強いですから!」

千鶴さんもようやく落ち着いた感じになりました。

そして跳躍のための準備に取りかかります。時間がかからないのはやはり便利ですね。

史織「・・・って言うか、私たちは何をしに行くわけ?」

小冬「神殿が半壊したっていうくらいですから、瓦礫の撤去とかお片付けとか、そんな感じじゃありません?」

史織「えぇー何それ。チョーめんどくさいんですけど。力仕事なんて私向きじゃないわよー。」

千鶴「何言ってるんですか。史織さんと小冬さんには協力して力仕事に携わってもらいますからね。」

さて、千鶴さんの準備が整ったみたいです。

円陣を作るように並んだお三方はお互いの手を握り合います。

もちろん跳躍先は、名草神殿。

千鶴「跳躍したらすぐに始めて(・・・)くださいね?準備してないと危ないですから。」

史織「・・・は?」

小冬「準備・・・ですの?」

千鶴「高御さまと木実さまの本気の決闘(ケンカ)、お二人でどうか止めてみせてください!」

史織・小冬「はいぃぃぃぃ~~~!!!???」

しゅいんっ・・・


 高御さんと木実さんの大喧嘩の仲裁に駆り出された史織さんと小冬さん。

二人の鏡の神様の大激闘は名草神殿を半壊から全壊までもっていき、暑まし山全体が揺れたと言われました。

結局二人の神様は上空から突如として現れた人間の少女二人によって鎮圧されたと言います。

そして、その二柱はと言うと・・・。

千鶴「いいですか(怒)!高御さまも木実さまも、周りの目を気にせず好き勝手に暴れ回るからこういうことになったんです!神様ならもっと落ち着きを持って周りを気遣って、そしてお互いを敬って・・・・・・(ガミガミくどくど)。」

高御「ぼそぼそ(なぁ木実よ。)」

木実「ぼそぼそ(何さ高御。)」

高御「(今は休戦協定を結んで、千鶴のご機嫌を取る事を最優先にしないか?)」

木実「(賛成。三時間も正座させられて説教を聞いてたら、さすがにあんたへの怒りも収まったよ。)」

高御「(よしきた。じゃああんたから千鶴に『今度人里で好きな物買ってやるから』って言ってやっておくれ。)」

木実「(はぁぁっ!?ヤだよ私から言うなんて!今この状況でそんなこと言える訳ないじゃん!あんたが言い出しっぺなんだから、あんたが言うべきじゃないのさ!?)」

高御「(作戦案は私が考えた。そしてあんたが斬り込み隊長。後で千鶴に金を出すのは私。・・・私の方が二回も働いてるんだよ!)」

木実「(はぁぁ~!?何その自分本位な計画。じゃあ私があんたの倍額出すから、あんたが斬り込み隊長しなさいよ!)」

高御「(作戦立案の私の言うこと聞いとけば大丈夫なんだよ!私が斬り込み隊長やったら失敗するって真実が、私にはもう見えてるんだよ!)」

木実「(私がやっても失敗するわ!!!)」

高御「(お前の信じるお前を信じるんじゃぁないよ・・・。)」

木実「(あぁぁー?)」

高御「私の信じる、私を信じろ!!!」

木実「こんな時だけ良いこと言ってんじゃないわよ!!!」

千鶴「聞いてるんですかぁぁぁ(怒)!!!お二人ともぉぉぉぉぉ!!!!!」

バキィィッ・・・!!

千鶴さんの怒号が傍にあった巨大うにの殻にヒビを入れましたとさ。


 めでたしめでたし。

〈藁っか〉

 高御が作り出した千鶴専用跳躍先誘導アイテム。見た目はただの藁が輪っか状になっているだけの巻き藁モドキな憑代。千鶴の、触れた物体を空間跳躍させる能力の跳躍先があまりにもデタラメなので、少しでも制御できるようにと高御が千鶴の能力の真を見極めて作り出した。地面に並べて置いておくだけで、千鶴が能力の発動を意識すると物体の跳躍先がその藁っか上空に誘導される。千鶴は触れた物しか跳躍はさせられないので、作中木実が言っていたように触れてもいない物を手元に引き寄せるのは無理。また、千鶴は自身も跳躍させられるので簡易ワープ的な扱いとしても可能。今は古屋図書館の庭先と名草神殿庭先の二か所に藁っかを設置している様子。

 一方、藁っか戻りは跳躍物の破損状況に関わらず、元の状態に戻した上で跳躍させるという特殊な能力が付随している。その代償か、一度のみの仕様で壊れてしまうとのこと。ただし、イレギュラーで生まれた産物なため、狙って再び作成するのは難しいらしい。

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