〈序〉縁側での日常
今章・・・と言うか、今回からしばらく『短編シリーズ』が続きます。ようやく待ちに待った(?)日常回が目白押しになります。
というわけで、一作目はこの『お話』執筆時からやりたかった話。元ネタ的に少々危険な臭いもしますが、ギリギリセーフでしょう(楽観視)。もし、アウトだったら大人しく身を引きましょう(笑)。
とある日のお昼過ぎ。暑かった季節も過ぎ去り、紅葉がきれいな季節になりました。
・・・バチバチッ
史織「うんうん。いい感じね。」
母屋縁側の庭で焚き火をしている史織さん。
史織「よしよし。早く焼けないかなー?」
いつになく、にこにこ笑顔ですね。
今日は焼き芋を作っているみたいです。この季節は食べ物も美味しいですから。
火加減を確認すると、そのまま縁側まで腰を下ろしに行きます。
史織「ふんふんふふ~ん。いい気分~。やっぱりこの季節が一番好きだわ~。」
すっかり上機嫌な史織さんです。司書としてのお仕事なんてなんのその、といった感じです(笑)。
このゆったり時空こそが史織さんにとって至福の時間。何よりも平和的で呑気な時間です。
・・・・・・
数分程が経って。
史織「すぅ・・・すぅ・・・。」
こくこくっ
今日はなかなかの陽気です。日当たりの良い縁側でゆったりしていると、眠たくなっちゃうものです。
おかげで史織さんも座ったまま、うとうと状態になっています。
バチバチッ・・・
そうしている間にも焚き火はよく燃えています。
・・・きらーん!
その瞬間をもって、ゆったり時空は終わりを告げられました(笑)。
ズドォォーーーン・・・!!!
史織「ぎゃああぁぁぁぁぁ!!!!!」
ぷしゅぅぅ~~~・・・、もくもくもく・・・
上空から何かが降って来たようです。
だいぶ大きいものなのか、砂ぼこりが辺りに立ち込みます。
史織「ちょっ!げっほげほげほ・・・。もう~!何なの~!?」
砂ぼこりが晴れていくと、段々と影が見えてきました。
史織「・・・ん、んんん~~~???これって、ひょっとして・・・。」
触ると痛いトゲトゲした丸い形の茶色い物体、斬って殻を割れば中にはとっても美味しい実、人には絶対投げちゃいけないちょっぴり危険で危ない植物。
そう、これは・・・。
史織「『うに』?」
どうやら、何とも大きい巨大なうにが降って来たみたいです。
史織「な、何でうにが空から降ってくんのよ・・・。しかもこのうに、デカすぎない・・・?」
地面から縁側の屋根くらいの高さまでの大きさはありますね。
史織「・・・って、あああぁぁぁぁ!!!!!」
あ、史織さん。気付きましたか。
史織「わ、私の焼き芋があぁぁぁぁぁ!!!!!」
そう・・・。巨大うには、丁度まさに焚き火がしてあった場所を直撃するかたちで落ちてきたのです。
おかげで焚き火はぐちゃぐちゃ。葉っぱの中で焼いていた芋も、もはや原型を留めていないでしょう。
史織「うぬぬぬぬぅ・・・。私の・・・お芋ぉ~・・・(涙目)。」
しゅん・・・
あららら。元気がなくなってしまいました。どーしましょーか・・・。
しかーし!史織さんの危機に現れてくれるのはやはりこの方。
小冬「しーおりー。いますかー?」
表の方から小冬さんの声が聞こえてきました!
小冬「何か大きな音が聞こえた気がしましたけど・・・あっ、史織ー。やっぱりここにいたんですのねー・・・って、ええぇぇぇっ!!??」
小冬さんも庭の巨大うにに目が留まったようです。
小冬「これ・・・ひょっとして、『うに』ですの・・・?な、なんて大きな・・・。」
史織「ううぅぅっ・・・。ぐすっ。」
小冬「な、何で泣いてますの?」
史織「だって、私の大事なお芋がぁ・・・。」
小冬「お芋?」
すると小冬さん、巨大うにの下に散らばってある葉っぱの燃えカスを見て、全てを察してくれたようです。
小冬「ああー・・・。ま、まあ、大体の状況は察しましたわ・・・。でも、どうしてこんなにおっきなうにがここに?」
史織「そんなの私が知りたいわよ~・・・。あぁー・・・お芋、食べたかったのになぁ~・・・(落胆)。」
小冬「でもこのうに、こんなにおっきいんですもの。きっと実がたくさん入っていると思いますわ。ねえ史織?このうに、お芋の代わりに食べてみたくありません?」
史織「え。でも、ここまで大きいとそもそも殻が・・・。」
小冬「大丈夫ですわ。私にお任せくださいな。」
と言うと、宙刀を構える小冬さん。
そして。
小冬「ふぅぅーー・・・・・・、せいやぁぁっっ!!」
シャキィーンッ・・・!
超高速で高く飛び上がり、そのまま巨大うにに一閃。
すたっ
小冬「・・・っと。」
パカッ!
小冬「いっちょ上がり、ですわっ!」
巨大うにの殻だけが見事に切断されました。いやー、お見事!
史織「お、おおぉぉ~・・・!」
小冬「さあ史織、うにごはんでも作りましょう?」
史織「そ、そうね。これだけ大きい実だもん。結構贅沢できそうよね。」
ですが・・・、この巨大トゲトゲの殻はどうしますか?
っていうか、そもそもどうやって台所までこの巨大うにを運びましょうか?
史織・小冬「「あっ・・・。」」
まずはその問題を解決しませんとね・・・。
所変わって、少し前。名草神殿にて・・・。
千鶴「高御さまー、木実さまー。ちょっとこっちに来てくれませんかー?」
木実「およ?千鶴が呼んでるよ。」
高御「何だろうねぇ。竹藪の方からだ。」
母屋にいたお二人。声が聞こえた方に向かいます。
高御「どうしたー?千鶴。」
木実「何かあったの?」
千鶴「あっ、お二人とも。筍を採っていたら、何だか見たことのない大きなものがあって・・・。」
高御「見たことのない・・・。」
木実「大きなもの・・・?」
千鶴「こっちですー。」
千鶴さんに案内されていくと、そこには・・・。
千鶴「これです、これ!」
木実「・・・ほほ~ぅ。これはこれは、何とも立派な・・・。」
千鶴「ご存知なんですか?」
高御「これはね、『うに』って言うんだ。」
千鶴「うに?」
高御「このトゲトゲの中には実が入ってて、これがまた美味しいんだ。」
千鶴「このトゲトゲ、食べ物だったんですかぁ。大きい食べ物ですね。」
木実「でも、何でこんな所にうにが落ちてるのかな?ここにはうにの木なんてないのに・・・。」
高御「いやいや木実。それよりももっと気になることがあるだろう?」
千鶴「え?」
木実「まあ、それもそうだね。」
千鶴「ど、どういうことですか?このトゲトゲが何か・・・。」
そう言って、千鶴さんが物珍しそうにうにのトゲトゲに触ります・・・と!
高御「あっ!千鶴、危な・・・。」
千鶴「えっ?」
しゅいんっ
高御「・・・い?」
木実「はいっ?」
千鶴「あれっ?」
そこにあったうには、忽然と消えました。
・・・どゆこと(笑)?
〈うに〉
山とか森で採れるトゲトゲした丸い形の植物。中には実が入っていて、普通に美味しい。暑い季節が過ぎた後から寒くなる季節の前頃に、熟したものがよく落ちている。毒はない。人里では「絶体に人に投げてはいけないもの」として教えられている。だって、トゲトゲが当たると痛いもん。持つのも危ないし。一般的な大きさとしては、片手に乗るサイズが基本。大きくても、片手にいっぱいくらいのサイズ。地面から屋根ほどの大きさのものなんて、今まで確認されたことはない。
・・・念を押しておくが、これは我々の言葉でいう「海にいるアレ」でもないし、決して「くり」でもない。これは「うに」なのである(断言)。