〈第四面〉夜の館の灯(前編)
史織「・・・、やっと着いたわ。もうすっかり日も落ちちゃったけど、この館のお嬢様とやらにしっかりと話をつけてやらないと・・・!」
午後七時頃、すっかり夜。鉱山地帯のここでは月明り、星空がとてもきれいに見えますね。クロマリーヌの門前まで史織さんも到着したようです。
史織「館には、所々うっすらと灯火も付いてるし・・・。中に誰かがいるのは間違いないわね。」
さっそく館へと侵入していきます。
・・・・・・
史織「うーん、静かね・・・。誰もいないみたいに・・・。・・・、外から見えていたのはこの蝋燭の灯だったのね。」
静まり返る館内。こんな立派な館なんですから、もう少し誰かいてもいい気がしますけどねぇ・・・。何となく館内を進んでいく史織さん。
・・・・・・・・
史織「うーんん・・・。何となく蝋燭の灯っている方に進んできたけど、ここはどの辺りなのかしら・・・。あっ、ここで蝋燭が途切れてる。この先は・・・、吹き抜けみたいね。月明りがきれいだわ・・・。」
館の少し広めの吹き抜けまでやってきた史織さん。天井はガラスで、そのまま夜空が見渡せますね。
???「あら、伊戸。遅かったのね?貴方が庭仕事をほっぽり出して決闘しに出かけたの、私知ってたのよ?まあ、お嬢様には黙っててあげるけど。」
史織「っ!?誰っ!?」
???「え・・・?伊戸・・・の声じゃないっ!!??」
史織「さあ!姿を見せなさい!!!」
???「・・・。」
吹き抜けの上からゆっくりと、降りてくる人がいます・・・。
???「お初にお会いいたしますことで。私は越久鳩伊予と申します。お嬢様から、このクロマリーヌ館内の仕事全般を任せれている者です。」
静かな佇まいのこの方、伊戸さんと同じくこの館の主人さんに仕えている方のようですね。
史織「ふーん。アイツが外回り雑用なら、アンタは内回り奉公ってところかしらね。」
伊予「そんなことよりも。なぜ貴方のような輩が館内にいるのかしら。あの伊戸が、貴方程度の相手に敗れるはずがないんですが。」
伊予さん、どうやら伊戸さんが二度の決闘をしていたことは把握しているようですが、その戦った相手がそれぞれ別の人間だったということまでは把握し切れていないようですね。
史織「・・・。確かに、アイツは強かったわ。私が負けたくらいなんだから・・・。でも、お生憎様ね。アイツの相手はさっき、私の親友が、ちゃんとケリをつけてくれたわ!」
伊予「まさかっ!?あの伊戸が、人間ごときに敗れたですって!?」
史織「今頃は多分、山のあの場所でおねんね中でしょうね。」
伊予「・・・。そうですか。まあいいでしょう。伊戸が破られたことは重大ですが、今は目の前にあることを処理しましょう。それで、伊戸を突破までして、貴方は何のご用なんですか?」
史織「万能の湖がずっと大嵐のまんまで困ってるの。それを引き起こしているここのお嬢様とやらに引導をくれてやりに来たのよ。」
伊予「はあ・・・。湖が、嵐に。さっぱり意味が分かりませんが、なぜお嬢様の仕業と?」
史織「私の勘よっ!!!」
伊予「はあぁぁ・・・。ますます理解に苦しみますね・・・。とにかく、お嬢様に対して敵意のある者をこれ以上通すことなどできませんので。お引き取りを。」
史織「なら、アンタもぶっ飛ばすまでよ!!!」
伊予「・・・。お嬢様の側近として仕えるこの越久鳩伊予。貴方なんかを、絶対にお嬢様に近づけさせなどしません!!!」
史織さん、本日四戦目の決闘です。まだ手負いの状態ですが、頑張ってください。
伊予「ふふふっ・・・。私も決闘はとても久しいですから、伊戸の高鳴る気持ちも分かります。」
史織「ふんっ。アイツの時みたいのには、絶対にならない!」
すると伊予さん、マッチを取り出しさっと火をつけました。ん・・・?青い火です。一体何をする気でしょうか・・・?
史織「ちょっ、まさか館に火を放つつもりっ!?」
伊予「まさか。お嬢様の大切な館を燃やそうなど、死んでも償いきれないですわ。」
史織「(ってことは、何か攻撃の前触れってことよね。)」
伊予「・・・、はっ!」
ぶぉわっ!
なんと!伊予さんの全身をマッチの青い火が包み込みました。包み込んだ青い炎はすぐに消えましたが、一体何をしたのでしょうか・・・。
伊予「ふぅ・・・。いけそうね・・・。」
史織「(一体何の真似?何かの強化術かしら・・・。ん?何かさっきと目の色が違うような・・・。)」
伊予「あら、この距離でよく気付きましたね。ですが、そこまでですねっ!!!」
史織「(っ!?くるっ!!)」
ヒュッ!
ボォン!!ボォン!!
史織さん、驚異の勘でその場を離れます!すると、今いた場所が二度爆発しました!
史織「っと、何とか間に合ったわね。」
伊予「外したっ!?」
史織「残念だけど、反応力には自信があるのよ。・・・今アンタ、『よく気付いた』って言ったわよね。私の考えが読めるの?」
伊予「あら、そんな力は持ち合わせていませんわ。単なる観察眼ですよ。能力を使って目の色が変わっても、そもそもの洞察力などが落ちるわけではありませんから。」
史織「能力ね・・・。さっきの青い炎で何かしたのね?」
伊予「私は様々な色の炎で自身の、それぞれ対応した潜在能力を引き上げることができます。さっきの青い炎ならば、私の潜在的な速度全てを引き上げました。でも、速度を上げた状態での私の火の粉を避けた貴方の反応速度には感服です。」
史織「厳密には、勘だけどねっ!!」
伊予「では、その勘とやらだけでは対処できない攻撃をすればいいということですね。今の強化された私の速度に対応できる者などそういませんからっ!!!」
史織「えっ?」
伊予「青の火、『炎隼』!」
大きな鳥の形を模した炎攻撃が超高速で史織さん目がけて放たれました。
伊予「燃え尽きなさいっ!」
史織「ふんっ。いくら速い炎でも攻撃前動作が丸分かりじゃ、避けるのなんて簡単よっ!」
ヒュッ!
ボォドカーン!!
史織「っとね・・・。はっはー!どうよっ!!」
史織さん、またもや回避に成功です。でも・・・、その驕りはいけませんねぇ。
伊予「ふっ・・・。」
メラメラ・・・、ヒュゥゴォ!!
史織「えっ?」
ボォドカーン!!
史織「がはぁっ!!!」
伊予「愚かな・・・。」
ほんの少し前に史織さんが攻撃を避けた場所にあった『炎隼』が、油断した史織さんに再び超高速で襲い掛かりました。
史織「うぐっ・・・。何で・・・?」
伊予「やはり。貴方は自身の力に対する驕りが過ぎる。私の目によれば、確かに貴方には資質があり、戦闘能力も高い。ですが、それに頼りすぎるあまりにこうして油断が生じ、その気の緩みから自らの敗北を招くのですよ。」
史織「な、何ですって!!」
伊予「『炎隼』は狙った相手に攻撃が決まるまで、対象を追い続けるのよ。貴方は一度で避けたと思い込み、油断し、やられた。違いますか?」
史織「うっ、それは・・・。」
伊予「はあ・・・。戦闘の苦手な私に苦戦を強いられるような身でお嬢様に盾突こうだなんて、身の程を弁えてほしいものですね。」
史織「い、言わせておけばぁ・・・!!アンタみたいな上から目線全開なヤツが、一番腹立つのよ!こうなったら、アンタをぶっ飛ばすだけじゃ飽き足りないわ。この館もろとも、木端微塵にしてあげるわっ!!」
伊予「ふっ、威勢だけはいいことで。」
両者共に引かない熱戦。熱い夜がまだ続きそうです。
後編へ続く
(クロマリーヌの内回り)越久鳩 伊予 種族・トパーズ 年齢・若い 能力・熱処理で潜在能力を引き上げる能力
通称・火遊びマッチ人こと、トパーズの怪異。現在クロマリーヌの家事、掃除など館内に関わる全てを任されている影の実力者。働き始めは伊戸の方が早いがほぼ同僚のような関係。権限的に伊予の方が立場は上。ある日、当主が散歩先で拾ってきたトパーズの鉱石が怪異化した。怪異化してからずっと館内で働いているので、あまり館外のことには詳しくない。日々クロマリーヌの住人たちに色々と教えてもらいながら、楽しく過ごしている。能力とは別に、驚異的な洞察力・観察眼を持っており、事態の解決に最適な手段を即座に行動に移せる優秀な人物。また、熱処理能力の汎用性がかなり高いため、何をするのも得意になれる。能力使用時にはマッチ棒を使い、能力使用中は目の色が変化する。ただし、乱用注意。本人曰く、「戦闘は苦手」とのこと。