〈後談〉一先ず、いつもの日常の日
久し振りの日常回(笑)。いつもの〈後談〉回のノリにちょこっとだけ説明が加わっている程度。やっぱり日常回の方が話を創りやすいのは事実ですな(笑)。
彩羽さんとの特別任務を終えた日の翌朝。古屋図書館の周囲にある木々の方から、元気よく鳴く蝉の声が響きます。
史織「う、うぬぅぅ~~・・・。」
暑さが何より苦手な史織さん。今日も寝苦しそうですねぇ・・・。
史織「・・・ぐぅ~・・・。」
午前八時、いい天気。平常運転の史織さん。本当にいつも通りな光景の古屋図書館です。
正午過ぎ。史織さんがまだ寝ている中、一人来訪者がやって来たようです。
小冬「しーおーりーっ。いますかー?」
史織「すかぁぁ~~・・・。」
小冬「あら。まだ寝ていましたのね。・・・まだそっとしておいてあげましょうか。こんな寝顔をされては、起こすに起こせませんもの。」
史織「むにゃむにゃ~・・・、ふへへぇ~・・・。」
小冬「全く、何の夢を見ているんだか。・・・ふふっ。」
小冬さんが縁側でしばらくゆったりしていると、柊さんがやって来ました。
柊「あら、小冬ちゃん。来てたんだ。」
小冬「ええ。柊さんも、何か史織にご用ですの?」
柊「そうなのよ~。昨日と一昨日にね?史織ちゃんに自警団からのお仕事してもらったの。で、その報告を聞きに来たの。」
小冬「そうなんでしたの。んー、でも、報告には普通こちらから出向くものじゃありません?」
柊「まあ、いつもはそうしてもらっていたんだけどね?史織ちゃんと一緒にお仕事してもらった子が今朝報告してくれた内容によると、どうやらすっごく大変だったみたいなのよ。だから、きっとまだ史織ちゃん寝ているだろうから、私の方から聞きに来ようと思って。」
小冬「まあ、そうだったんでしたか。だから、昨日来た時はいなかったんですのね。」
柊「でー、史織ちゃん。まだ寝てる?」
小冬「ぐっすりと、ですわ。」
柊「ふふふ。やっぱりねー。じゃあ、史織ちゃんが起きるまでゆっくりしてましょ~。」
小冬「そうですわね~。」
しばしの間、二人だけの時間が流れます。
小冬「そう言えば、柊さん。さっき、『史織と一緒にお仕事をした子がー』って言ってましたけど・・・。」
柊「ええ、そう。彩羽ちゃんっていってね?小冬ちゃんたちよりもちょっとだけ年下の子なんだけど、真面目でいい子なのよ。」
小冬「・・・柊さんはその彩羽さんの報告を聞いて、図書館に来たんですのよね?」
柊「ん~?そうだけど・・・。」
小冬「なら、彩羽さんも史織と同じくらい疲れているはずですのに、史織よりも早く起きて柊さんに報告を済ませている、と・・・。」
柊「あ。言われてみれば、そうかも。今朝の訓練にも熱心に取り組んでいたし・・・。」
小冬「全く・・・。史織のだらけっぷりを痛感してしまいますわ・・・。」
柊「ふふふ、まあまあ。史織ちゃんが緩いっていうよりも、彩羽ちゃんが自分に厳しいっていう感じじゃないかなー。」
小冬「そういう子が今後の人里を支えていってくれるのであれば、安心ですわね。」
柊「そうよねー。」
小冬「あら。柊さんのことも含めて、ですわよー。」
柊「も、もう~・・・(照れ)。」
ぐうぅぅ~
柊「あら?」
小冬「うぅっ・・・。そういえば、まだお昼ごはんを食べていませんでしたわ・・・。」
柊「ふふふっ。じゃあ、何かお昼ごはん作りましょうか。台所に何かあるでしょうし。」
小冬「ここの台所を使うんですの?勝手に使って大丈夫かしら・・・。」
柊「どうせ史織ちゃんもまだなんだし、史織ちゃんの分も一緒に作っちゃえば万事解決よ!」
小冬「う、う~ん・・・。(万事解決とまでは言えないんじゃ・・・。)」
柊「氷とかも使っちゃいましょう。どうせまた届けに来ることになるんだし。となれば、この暑い季節に食べるものといえば、やっぱり冷たいおうどんよねー(チラッ)。」
小冬「手伝いますわ(キリッ)。」
きゅ、急に乗り気になった小冬さん。・・・あぁ、そうか。そうでしたね。
柊「小冬ちゃん、おうどん好きよね~。」
小冬「小麦粉をこねるところから茹でるところまで、全部私にお任せくださいまし!柊さんは付け合わせとおつゆの準備をお願いしますわ!」
柊「うふふ。はーい。」
史織「くぉぉ~~・・・。」
二人がお昼ごはんの準備をしてくれている間も、構いなく眠り続ける史織さんでした。
しばらく経って・・・。
史織「・・・、んん~・・・。くんくん。あれぇ?何か涼しい香りが・・・。」
す、涼しい香り・・・?と、とりあえず、史織さんがお目覚めのようです。
小冬「ずずーっ。んん~!冷たくって美味しいですわ~!」
柊「ずるずるっ。・・・うん、本当に美味しいわね~。心まで涼しくなりそう~。」
史織「あっ!アンタたち!」
小冬「あら史織、やっと起きたんですのね。」
柊「お邪魔してまーす。ずずーっ。」
史織「何二人で美味しそうなもの食べてんのよ!しかもそれ、うちの食材でしょ!」
小冬「ちゃんと史織の分も作ってありますわー。」
柊「そうそう。心配しなくても、ちゃんと冷やしてあるからー。」
史織「むっ。そ、そういうことなら・・・。」
小冬「じゃ、史織の分も持ってきますから、ちゃちゃっと準備しておいてくださいなー。」
そう言って、小冬さんは台所の方へと向かって行きました。
史織「・・・小冬がうちに来てるのは何となく分かるんだけど、何で柊まで来てるの?」
柊「もうー。忘れちゃったの?昨日のお仕事の報告を聞きに来たの。」
史織「あら。別にわざわざ来てもらわなくても私の方から出向いたのに。」
柊「今朝彩羽ちゃんからの報告を聞いた限りだと、どうせ朝の内には史織ちゃん報告に来てくれないだろうからと思ってね。予想通り、今の今まで眠ってたわけだし。」
史織「うっ・・・。ご、ごめん・・・。」
柊「うふふっ。気にしなくてもいいわ。別に急ぎのものでもないし、報告さえしてくれたらそれで。」
史織「そう・・・なの?じゃあまあ、お昼ごはんを食べてながらゆっくり報告するとしましょうか。」
そんな感じで、三人のお昼時は過ぎていきます。
柊「・・・なるほど。分かったわ、ありがとう。昨日は本当にお疲れ様。」
史織「別にいいわよ。・・・ずずーっ。」
柊「大体は彩羽ちゃんから聞いた内容と同じね。だけど、彩羽ちゃんからは聞けなかったこともある。その『千理』っていう怪異の話は特にそうね。彩羽ちゃんの話には全く出てこなかったわ。」
史織「あぁー、それもそうかもしれないわね。千理って、彩羽とは直接話さないで帰っちゃったから。」
柊「う~ん・・・。怪異たちの間で一目置かれている存在『五種族長』、そんな存在がいたなんて・・・。」
史織「直に千理と話してみて私が感じたから言えることだけど、千理から感じられた力は半端じゃなかったわ。」
小冬「史織にそこまで言わせるなんて、よっぽどの方なんですのね。」
史織「でも、話はかなり通じるヤツだったわ。人間の私たちにも割と友好的だったし。」
柊「友好的、ねぇ・・・。まあ、史織ちゃんがそう言うなら、そうなのかな~・・・。」
史織「千理自体から、特に敵意は感じられなかったもの。逆に、敵意剥き出しで襲ってきたヤツもいたけど。おかげで危ない目に遭ったわけだし。」
柊「彩羽ちゃんから聞いてるわよ。彩羽ちゃんのこと、命懸けで守ろうとしてくれたんだってね。」
史織「そりゃそうよ。あんな敵意剥き出しの危ないヤツと彩羽を対峙させるなんてできないもの。・・・結果的には、ちゃんと彩羽を守り切れなかったけどね・・・。」
柊「でも、彩羽ちゃんは笑顔で感謝してたわ。『史織さんは全力で私を守ってくれました!』ってね。」
史織「・・・そうなのかな~。」
柊「私たちは皆、史織ちゃんを咎めるつもりなんて全くないんだから。あんまり自分を責めないでね?」
史織「う~ん・・・。あ、そう言えば忘れてた。」
柊「あら、何?」
史織「朱寧よ朱寧!聞けば、私と彩羽の観察任務をしてたっていうじゃない。どーゆーことよ!?」
柊「あ、あれ?観察任務?朱寧さんがそう言ってたの?」
史織「え?そ、そうだけど・・・。」
柊「・・・あぁー、そっか。そういうことね。」
史織「ん?何よ、一人で勝手に納得しちゃって。」
柊「ふふふ、いや朱寧さんらしい言い訳だなーと思って。」
史織「言い訳?」
柊「朱寧さん、昨日と一昨日って休暇中だったのよ?」
史織「?」
柊「朱寧さんって、休暇中は里の外に出かけて外の様子を見に行くことがあるのよ。昔の勘を取り戻すことも兼ねてね。だから、一昨日も休暇申請と外出届けはいつも通りの理由で提出されていたわ。でも、本当のところは史織ちゃんたちの特別任務の様子が気になってたのね。」
史織「・・・じゃあ、何で任務だなんて嘘を?」
柊「きっと本音を言うのが恥ずかしかったんじゃないかしら。それに史織ちゃんに気付かれるとも思っていなかったでしょうから、きっと他の理由も思いつかなかったのよ。朱寧さんだって、ずっと二人の様子を見ていたわけじゃないでしょうし。」
史織「ふ~ん。まあ確かに、ずっとは見てなかったー、って言ってたけど。」
柊「さすがにずっと見ていたら気付かれる、って思ったんでしょうね。史織ちゃんが朱寧さんに気付いたのって、鉱山からの帰り道なんでしょ?」
史織「そうよ。けど・・・、どの辺を見られてたのかはちょっと気になるわね・・・。伊戸とやり合ってたところとか、見られてたのかしら・・・?(ぼそっ)」
小冬「えっ?史織、何か言いました?」
史織「べ、別に何も言ってないわよー。さあ柊、私から話すことはこれくらいよ。上層部にどう報告するかは、アンタに任せるわ。」
柊「そ、そうねえ・・・。私も一度ゆっくり考えをまとめてみるわ。報告ありがとね。報酬の手続きも、後でしっかりしておくから、期待しててねー。」
そう言って、柊さんは人里へと帰っていきました。
小冬「何だか随分と大変なお仕事だったんですのね。」
史織「まあ・・・そうだったかもしれないわね。ただの護衛任務かと思ってたら巻き込まれ的に怪異たちの裏事情を知っちゃった、みたいな。」
小冬「怪異たちにも、いろいろあるんですのね。」
史織「まあ私たちが気にしても仕方ないわねー。ずずーっ。んん~、美味しかった。ご馳走様ー。」
小冬「ふふっ、お粗末様でしたー。」
まあ、そうですよね。ウェンディさんが言っていた通り、人間にはあまり影響のないことのようですし。
史織「さーてと、それじゃあ今日もゆったりしましょーか~。」
ぐでー
小冬「もう、史織ったらー・・・。」
・・・さすがに呑気すぎる気もしますけど(笑)。
そんな最中、縁側にいた二人の近くに一匹の蝉が飛んで・・・。
小冬「・・・あら?」
ブーン
史織「えっ?」
ぴとっ
小冬「あっ。」
寝っ転がっていた史織さんの鼻先に・・・止まりました。
史織「・・・・・・~~っっ!!!!!」
柊「・・・あれっ?今何か、史織ちゃんの叫び声が聞こえたような・・・。」
図書館から人里へ歩いて帰る途中の柊さん。
ふと、図書館の方角を振り返ります。
柊「ん~・・・。まあ、気のせいかな。史織ちゃんが何か叫ぶことなんてないし~。大丈夫よね~。」
小冬「ねえ史織!史織ってばー!大丈夫ですのー!?お起きになってーー!!」
史織「・・・・・・。(ぴくぴく)」
小冬「あぁー・・・、ダメですわ。完全に伸びてますわ・・・。もう~・・・、仕方ないですわね~。」
誰がどう見ても気を失っている史織さん(笑)。
そう・・・。何を隠そう、史織さんがこの世で最も苦手なモノ。
それこそが蝉。
小冬「はあ~・・・。これだから史織は、この暑い季節が苦手なんですのよね~。・・・お布団でも敷いてあげますか。」
暑さと蝉が何より苦手な史織さん。その二つが同時にやって来るこの季節が何より苦手な史織さん。
どんな人でも、苦手なモノの前では、我を失う(物理)ものなんですね。
(補足)
・朱寧の本心は柊の言っていた通り、史織と彩羽の特別任務の様子を個人的に観察したかっただけのこと。任務でも何でもない。ただ、人里からの外出の主たる目的は、いつも通り里の外の様子を見に行きたかったということ。史織たちの観察はどちらかと言うと従たる目的。実際に朱寧が史織たちを観察していた時というのは、「史織たちが堅くな鉱山に入る前後の時」、「史織が伊戸と決闘をしている前後の時」、「史織たちが堅くな鉱山から出てきた後の時(この時に見つかった)」の三点のみ。そう・・・。史織が伊戸と決闘している場面を、朱寧は遠くから観察していた。その時一瞬だけだが、彩羽とは接触している。
・彩羽が柊に報告した主な内容は大まかに分けると、「クロマリーヌの住人達とは友好的な関係を築けたこと」、「模擬決闘による訓練をしたこと」、「堅くな鉱山周辺は思っていた以上に鉱山地帯だったこと」、「洞窟内で怪異に襲撃されたこと」、「被害は受けたものの、最終的には相手の怪異と和解できたこと」の五つ。報告内容に『五種族長』や『五種族長会議』の話はない。そこら辺の内容は史織が柊に報告している。