〈最終面〉動き出す正義(後編)
・・・空きましたねぇ、期間が(笑)。
まあ何はともあれ今章の本筋はここまでとなります。今から振り返ってみれば結局何をしたかったのかよく分からないような感じになりましたが、まあそれはそれ(強引)。多くの伏線を残したまま本筋が終わるのももはや雑とも言えますが、まあそれもそれ(横暴)。次回から何とかしていこー。
ぽわぽわわん・・・
アシュリー「ふう~・・・。とりあえず、これで大丈夫だと思います。」
史織「おっ、ホントに?」
すたっ
ぶんぶんっ
元気よく立ち上がって、腕をぐるぐる回す史織さん。
史織「うんうん、いい感じね。ありがと、助かったわ。」
アシュリー「ふひ~・・・。疲れましたぁ~・・・。」
サリアン「お疲れ様、アシュリー。よく頑張ったわね。」
なでなで
アシュリー「ふへへ~(照れ)。」
千理「さて、史織はこれでもう大丈夫と。彩羽も今は眠っていますが心配はないと。」
梓慧「そうですね。一先ず、これで一件落着ですね。」
サリアン「貴女がそれを言うの・・・?」
まあでも梓慧さんが言った通り、ようやく一段落って感じです。
千理「では、皆に事情説明が済んだところで。私は会議で提起する用の案を纏めるためにも、一度帰ることにします。梓慧。」
梓慧「はい。」
千理「後のことは任せます。」
梓慧「お任せを。」
千理「史織。」
史織「え、何?」
千理「この度は貴方たち人間を危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。後日、古屋図書館を訪ねることがあると思いますので、その時は宜しくお願いします。」
史織「え、いや、あの・・・そ、そう?」
千理「サリアン。」
サリアン「は、はい。」
千理「今回の貴方の過ちについては、情状酌量とします。このような結果を招いた根本の原因は、どうやら我々にあるとも言えるようですから。その点については貴方にも謝罪します。」
サリアン「い、いえ・・・。貴女に謝ってもらう必要はない・・・ですよ。」
千理「アシュリー?」
アシュリー「は、はい!」
千理「貴方のような心の優しい怪異たちでももっと暮らしやすい秩序を、我々が今一度立て直してみせます。だから貴方は、貴方の思うように生きてゆきなさい。無理をせず、安全に・・・。」
アシュリー「わ、分かり・・・ました?」
千理「ふふふっ。では、失礼しますね。」
ブオーン、・・・ブオーン
千理さんが何だか亜空間っぽい入り口を開き、そのまま中へ入っていきました。・・・入り口はもう閉じてしまいましたが。
史織「・・・え?何、今の。」
梓慧「『正義の門』っていう千理様しか扱えない特殊な移動手段さ。」
サリアン「・・・さすが、噂に名高い五種族長の一人ってわけね。とんでもない技術を持っているのね。」
史織「何?千理はアンタら怪異と何か違う存在だったりするの?まあ、確かに何か尋常じゃない力は感じてたけど。」
梓慧「千理様は、今の若鄙の秩序・紀律を築き上げた五賢者の一人。私ら怪異の間では『五種族長』と呼ばれている偉大な方たちの一人なのさ。古屋のでも知ってるもので言えば・・・、『人里不可侵契約』や『決闘原則』を定めたのは、千理様を含めた五種族長の方たちなんだよ。」
史織「へえ~・・・、知らなかった。」
サリアン「ま、人間にはほとんど知られていないことよ。寿命が怪異とはまるで違うんだから。私ですら初めて会ったもの。」
アシュリー「私もです。すっごい風格のある方でしたもん。」
史織「・・・まあ何でもいいわ。いろいろあったけど、私と彩羽はアンタら怪異の揉め事に巻き込まれたっていうことでいいのかしら?」
サリアン「人間が人里の外にいる時点で、それくらいの覚悟はあってのことでしょ?」
史織「あー?」
梓慧「ま、まあまあ・・・。古屋の、とりあえず今回のこと。あんたらを巻き込んじゃって申し訳なかったと思ってる。だけども、できればここ数週間はあまり怪異の多くいる場所には足を踏み入れないようにした方がいい。彩羽が目を覚ましたら、すぐに人里まで引き返すことだ。」
史織「な、何でよ・・・。」
梓慧「・・・彩羽がまだ眠ってる今だから言う。さっきの千理様の話にもあったように近々『五種族長会議』って呼ばれてる五種族長の方々が一堂に会する会議が開かれるんだ。そのことに影響して、野良の怪異たちの様子が平時のそれではなくなっている。事実、アシュリーが襲われていたように今の状況は人里の外にいる人間にとってかなり危険なんだ。あんただって、これ以上彩羽が危険な目に遭うのはごめんだろ?」
史織「うっ・・・。」
梓慧「まあ、彩羽が目覚めるまでの安全は私が保障するよ。」
史織「・・・はあ。じゃあ、そうさせてもらうわ。」
梓慧「ふふふ。話が早くて助かるよ。サリアンたちはどうする?」
サリアン「私は・・・、その人間の子に一度謝っておかないといけないし。もう少しここにいるわ。」
アシュリー「私も。その子に手当てをしてもらったお礼を言わないといけませんから。」
梓慧「はっはっは。じゃあもうしばらくここでゆっくりするといいよ~。」
彩羽さんが目覚めるまで、もう少しこの雰囲気は続くようです。
彩羽「・・・う、う~ん・・・。」
アシュリー「あ、史織さん!彩羽さんが・・・。」
史織「えっ、ホント!?」
彩羽「ふにゃぁぁ~・・・。・・・あれ?私、今まで何を・・・。」
史織「彩羽!」
ガバッ
彩羽「あ、あれ、史織さん?どどどうしたんですか?」
史織「よかった・・・。ホントに、よかった・・・。」
アシュリー「うふふ。どうやら身体の調子も問題ないみたいですね。」
彩羽「あれ?さっきの怪異・・・さん。よかった、元気になったんですね。」
アシュリー「はい。あなたの手当てのおかげもあって、この通りです。」
サリアン「・・・あの、えっと・・・。」
彩羽「・・・?(この怪異さんも、さっき・・・。)」
サリアン「さっきはその、酷いことして・・・ごめんなさい。それと・・・アシュリーのこと助けてくれて、ありがとう。」
彩羽「・・・いえ。困ってる方を助けるのは、人として当然のことですから。私も、さっきはいきなり攻撃しかけちゃって・・・ごめんなさい。」
サリアン「私のことは気にしなくてもいいわ。私たちは怪異。相手と突然決闘になるなんてことはよくあることなんだから。」
アシュリー「うぅぅ~・・・。私は決闘、苦手ですけど・・・。」
梓慧「さてさて。彩羽も目覚めたことだし、二人はこれからどうするかえ?」
サリアン「そう・・・ね。私はもう目的を果たしたし、アトリエまで帰ろうかしら。アシュリー、いいわね?」
アシュリー「うっ・・・。そ、そうですね・・・。」
サリアン「・・・どうしたの?」
アシュリー「いえ・・・。サリアン様に喜んでもらおうとせっかくここまで霊花を探しに来たのに、結局何の成果も得られませんでしたし、私が未熟なせいでサリアン様にもご迷惑をおかけしてしまいましたし・・・。」
サリアン「アシュリー・・・。」
梓慧「なんだアシュリー、あんた霊花を探しに来てたのか。霊花なら、さっきあんたを治療した時の余りがあるけど。分けてやろうかい?」
サリアン「・・・いいの?」
梓慧「なぁに。私は別になくても困らないし、必要な時はいつでも採りに行けるしね。」
サリアン「・・・ちなみにその採取地を教えてくれたりは?」
梓慧「それは自分で探すこったぁね。」
サリアン「・・・ケチ。(ぼそっ)」
梓慧「あー?」
アシュリー「あわわわ~・・・。し、梓慧さん!ありがたく頂いておきますね!」
梓慧「ふっ。サリアンよりもアシュリーの方が世渡りが上手みたいだねぇ~。」
サリアン「ふんっ。なんてったって、私の従者だからね。」
梓慧「(何であんたが自慢気なんだよ・・・(笑)。)」
史織「彩羽、立てそう?」
彩羽「だ、大丈夫です。立つくらいなら何とも・・・。」
すたっ、・・・へなっ
立ち上がってすぐに足から崩れ落ちてしまった彩羽さん。
史織「ちょっ!全然大丈夫じゃないじゃない!」
彩羽「あ、あれ?・・・い、いや、ほんとに大丈夫なんですけど・・・。」
史織「・・・けど?」
彩羽「えっと・・・、その・・・。」
ぐうぅぅ~
史織「・・・あれ?」
彩羽「ううぅぅ~~!恥ずかしいぃぃ~~・・・。」
梓慧「あぁー、そうだねぇ~。もうとっくに昼時は過ぎてるからねぇ~。」
実は現在午後三時過ぎ。もうクロマリーヌの館を出てから随分と経っていたんですね。
史織「そうなの?ってか、何で今の時間が分かるのよ?」
梓慧「どれだけ長い間この洞窟で暮らしてきたと思ってるんだい。日や影がなくたって、私くらいになれば大体の時間は分かるんだよ。」
史織「へぇ~。・・・あぁー、そっか。私はいっつもあんまりごはん食べなくても何とかなってたからお昼ごはんを食べないくらい平気だったんだけど、そうよね~。もうお昼を過ぎてるんなら、彩羽はお腹空いたわよね~。ごめんね?気が付かなくて。」
彩羽「うぅぅ~~・・・、ごめんなさいぃ~・・・。お腹が減って力が・・・。」
梓慧「って言ってもねぇ~。悪いけど、人間が食べられるような食べ物なんて家に無いよ?」
史織「そ、そうよね・・・。私たちも一度外で食料調達するつもりだったのに、こんなことになっちゃったせいで結局食料調達できてないのよね。ど、どうしよ・・・。外に探しに行くにしても、見つけられる保証はないし・・・。」
まだ体力が回復し切っていない彩羽さん。少しでも何か食べ物があれば、元気になってくれるかもしれないですが・・・。
彩羽「うぅぅ~~・・・。」
サリアン「・・・。」
そんな様子の彩羽さんを横目で見つめるサリアンさん。
サリアン「・・・・・・はあ、仕方ないわねぇ。ねえ、ちょっとこの山銅借りるわよ?」
彩羽「え、あ、はいぃ・・・。」
サリアン「アシュリー?魔力の充填を頼めるかしら。」
アシュリー「分かりました!」
すると、サリアンさんが懐から何か取り出しました。
ぽんっ!
何か取り出したと思ったら、なんとその場に大きな釜が現れました。
・・・まさか?
サリアン「この場所、借りるわよ。」
梓慧「ほいほーい。」
史織「ちょっ、何するつもり?」
サリアン「・・・せめてもの償いに、彩羽が食べられる物でも作ってあげようと思っただけよ。」
史織「・・・そう。・・・ありがとう。」
サリアン「別に。貴女に感謝される覚えはないわ。」
彩羽「あ、ありがとうございますぅ~・・・。」
サリアン「・・・(照れ)。」
アシュリー「サリアン様!充填完了しました!」
サリアン「よし。じゃあ、調合を始めようかしら。」
・・・・・・
ものの数分で。
ぷしゅぅぅぅー、しゅぽーん!
サリアン「ふう・・・。できたわ。思ってたよりも何とかなるもんね(安堵)。」
サリアンさんの錬金術によって、立派な食べ物が調合されました。
サリアン「さ、こんなのでよければ食べなさい。『クッパ―ブロット』とでも名付けましょうか。ちょっと堅いかもしれないけど、味はまだまともなはずだから。」
釜の中から『クッパ―ブロット』を取り出し、彩羽さんに差し出すサリアンさん。
彩羽「あ、ありがとうございます。いただきます。あ~ん・・・。」
ガリッ
もぐもぐもぐ・・・
サリアン「・・・ど、どう?」
彩羽「うん!美味しいです!」
サリアン「そ、そう・・・(安堵)。」
アシュリー「ふふっ。よかったですね、アシュリー様?」
サリアン「ええ。貴女も、お疲れ様。」
アシュリー「えへへ~。」
史織「本当に助かったわ。ありがとうね。」
梓慧「まさか、山銅と霊花を釜の中に入れてかき混ぜるだけで食べ物ができちゃうなんて。錬金術って、何でもありなんだね~。」
サリアン「何でもありじゃないわよ。私の知識と技術、それにアシュリーの魔力のおかげで、こうやって即席でも物を作れたのよ。」
彩羽「はぐはぐはぐっ・・・。」
サリアン「・・・まあ。それはある程度腹持ちがいいと思うから、それ一つで鉱山を抜けるくらいは大丈夫だと思うわ。それじゃ、私たちは先に帰るから。アシュリー?」
アシュリー「はい!それでは皆さん、失礼しますね。」
史織「あ、うん。えっと・・・、何かいろいろありがと。」
彩羽「私からも、ありがとうございました!」
サリアン「・・・。まあ、その・・・帰りは気を付けなさいよね。」
アシュリー「うふふっ。」
そう言ってお二人は洞窟を後にしました。
史織「ねえ彩羽。それ、ホントに美味しいの?」
彩羽「はい、とっても。・・・かなり堅いですけどね。ちゃんと噛めれば、美味しいと思いますよ。」
史織「ふ~ん。錬金術ねぇ~・・・。」
梓慧「錬金術を扱えるやつって、あんまりいないからね~。いや珍しいものを見せてもらったよ。」
・・・そして。
彩羽「史織さん、帰りの準備ができました。」
史織「うん。顔色もさっきより良くなってるわね。よかった。」
彩羽「ご迷惑をおかけして、ごめんなさいでした。」
史織「いや、彩羽が謝ることはないのよ。私がもっとしっかりしていればこんなことにはならなかったんだから。私の方こそ、彩羽を危険な目に遭わせて本当に・・・ごめん。」
彩羽「・・・いえ、いいんです。私はいい経験ができたと思ってますから。」
梓慧「ふふふ、まあまあ。」
史織「な、何よ。」
梓慧「いやなに。噂に聞いていた当代の古屋の司書が、思ってたよりもしっかりしてるもんでね。感心してただけさ。」
史織「何よそれ。私は、私の思う通りに行動してるだけなんだから。」
梓慧「まあいいってことさ。じゃあ、気ぃ付けて帰りなよ。古屋の、さっき言った忠告を忘れないようにね。」
史織「わ、分かってるわよ・・・。さ、彩羽、行きましょ?」
彩羽「はい!梓慧さん、お世話になりました。」
梓慧「ああ。気ぃ付けてな。」
こうしてお二人も洞窟を後にすることにしました。
そして、ようやく堅くな鉱山を抜けたお二人。
史織「やっと抜けた~・・・。」
彩羽「はい~・・・。何だかどっと疲れたような気がします~・・・。」
史織「えっと今は・・・、もう夕方かあ~。う~ん・・・、ちょっと帰るのが遅くなっちゃうわね・・・。」
午後五時過ぎ。まだ日は登ったままですが、ここから歩いて人里までは約三時間程かかりますから。里に着く頃には、もう夜になってしまいますね。
史織「(暗くなると怪異が襲ってきやすくなるから危険なんだけどなぁ・・・。でも、もうこれ以上彩羽を危ない目に遭わせるわけにはいかないし・・・。)」
確かに。暗くなるにつれて多くの怪異はより活発になりますから。
一方で梓慧さんの話によると、ここ数週間は普段より大人しくしている怪異も多くいるみたいですけど。
史織「なるべく暗くなるまでに里に着いておきたいから休憩なしで進もうと思うんだけど・・・、大丈夫?」
彩羽「は、はい!さっきの弱音は忘れてください。まだ・・・、いけます!」
史織「・・・うん、分かった。でも無理はしないでね?彩羽は気を休めておいていいわ。周囲への警戒は私がしておくから。」
彩羽「あ、ありがとうございますぅぅ~。」
史織さんは周囲を警戒しつつ彩羽さんは体力と精神力を温存しながら、人里へ向けて歩みを進めます。
そして、少し経った頃。
ザッ
史織「・・・。」
急に歩みを止めた史織さん。
彩羽「・・・史織さん?」
史織「・・・、そこかぁーっ!!!」
パシュンッ!
???「ぎゃわっ?!」
どさっ
史織さんがいきなり、右斜め前方少し離れた所にあった茂みに向けて術攻撃を放ちました。
彩羽「えっ、えっ!?どどどうしたんですか!?」
史織「・・・あそこに、誰かいる気配を感じたから・・・。思わず攻撃しちゃった。」
・・・あのー、誰かがいる気配を感じただけでいきなり攻撃するのはどうかと思うんですが・・・。
彩羽「もももしかして、また怪異・・・?」
史織「攻撃が当たった手応えはなかったから、避けられたとは思うんだけど・・・。んー・・・でも今の感じ、もしかしたら・・・。」
すると、その茂みから。
がさぁっ!
???「ったたた・・・、いやはや。これだけ距離を取ってあって、私も極力気配を消してたつもりだったんだけど、まさか気付かれるとは。全く、史織には参ったよ。」
史織「ア、アンタは!?」
彩羽「えっ・・・、えええぇぇっっ!!ととと、樋渕少将!!??」
朱寧「やぁっ、二人とも。」
なんとなんと、そこにいたのは人里自警団員の朱寧さんでした。
史織「ど、どうして朱寧・・・さんがこんな所に・・・?」
朱寧「ふふふ。・・・確かに私の方が史織よりも年上だけど、別に私は気にしないからさ?『さん』付けが言い辛いなら呼び捨てで呼んでくれても構わないよ。いつも柊と話してる時みたいな口調で喋ってくれても構わないから。」
史織「そ・・・、そう・・・?じ、じゃあ、何で朱寧がこんな所にいるのよ?何で隠れるようにして私たちのことを見てたのよ?それに・・・。」
朱寧「ま、まあまあ。言いたいこと聞きたいことはいろいろあるとは思うんだけど、もう私の存在に気付かれちゃった以上は別行動しても仕方ないからね。とりあえず今は一緒に人里まで帰ることを優先しましょう?話は、帰りながらしてあげるから。」
史織「そ、それもそうね・・・。」
彩羽「え、えっと・・・。」
朱寧「彩羽もね?まあ私とこうやって話すのなんて初めてだろうから緊張してるかもしれないけど、今は別に自警団での立場なんて気にしなくていいからね。私のことは一人の大人として接してくれればいいわ。」
彩羽「わわ分かりました(緊張)。」
朱寧「うふふっ。さて、もうすぐ暗くなり始めるわ。史織、貴方も周囲への警戒を頼めるかしら?」
史織「もちろんよ。任せときなさい。」
朱寧「ふふっ、頼もしいわ。彩羽は・・・そうね。周囲への警戒は私たちに任せて、安心して私たちについて来なさい。」
彩羽「は、はい。」
ということで、史織さん、彩羽さん、朱寧さん。三人で人里まで帰ることになりました。
朱寧「さあ二人とも。帰りながら、聞きたいことがあるなら何でも聞いてちょうだい?それに、たとえ怪異が出てきたとしても、私が相手をしてやるわ!昨日今日と外にいたけど、結局怪異とは出くわさなかったからね。久し振りの実戦、鈍った腕を取り戻してやるんだから!」
史織「(私としては、あんまり怪異とは出くわしたくないんだけどなぁ・・・。)」
彩羽「(樋渕少将の生の戦いっぷりが見れるのなら、ちょっと見てみたいかも・・・!)」
・・・お三方の内に秘めた思いは、バラバラなようですね(笑)。
そして遂に、人里南門前に辿り着いたお三方。
柊「あっ!帰って来た!史織ちゃん、彩羽ちゃん、本当にお疲れ様。報告とかは明日でいいから、今日は早くお家に帰ってゆっくり休んでね?」
彩羽「は、はいぃ~・・・。お言葉に甘えさせていただきますぅ~・・・(疲れ)。」
史織「そ、そうね・・・。そうさせてもらうわ・・・(疲れ)。」
柊「朱寧さんも、お疲れ様です。」
朱寧「・・・え、ええ・・・(落胆)。」
朱寧さん、何か少し落ち込んでいるような・・・。
そんな様子を見て、柊さんが史織さんに耳打ちします。
柊「(ねえ、史織ちゃん?朱寧さん、何か元気ないみたいなんだけど、どうかしたの?)」
史織「(・・・ああ。多分、張り切ってた割に結局帰り道にも怪異が出てこなかったからじゃない?何か怪異と決闘したがってる様子だったし。)」
柊「(ああー・・・、そういうことね。相変わらずだなぁ~、もう・・・。)」
朱寧「どうして・・・?楽しみにしてたのに・・・。」
柊「だあぁぁぁーーー!!!もう、朱寧さん!!何落ち込んでるんですか!!ほら、もう本部に戻りますよ!!!」
朱寧「せっかく・・・、久し振りに外に出られたっていうのに・・・。」
ずるずるずる・・・
放心状態気味の朱寧さんを柊さんが引きずっていきました。
史織「えっと・・・じゃあ、彩羽。二日間世話になったわね。ありがと。」
彩羽「い、いえいえ!私の方こそ、お世話になりました!ありがとうございました!」
史織「ふふっ・・・。じゃ、またね。」
彩羽「はい!また!」
午後九時前。すっかり暗くなり、夜空がきれいに見えます。
今回の史織さんと彩羽さんのちょっと長めの旅。クロマリーヌの館での出来事、堅くな鉱山洞窟内での出来事、彩羽さんの特別任務のこと、そして、怪異のこと。いろいろ考えをまとめたいところではありますが、とりあえずお二人とも、今日はその傷つき疲れた身体を休めることを優先してくださいな。また明日から、いつもの日常を過ごせるように・・・。
〈錬金術について〉
この『お話』中における錬金術とは基本的に、錬金釜に何か材料を入れて上手くかき混ぜることで別の何かを作り出す術。錬成には魔力を消耗するため、基本的に人間には扱えない。サリアンのような高位魔族であっても、ちゃんと勉強しないと扱えない。ただし、『錬金術は学問である』。
サリアンは外出時には簡易型錬金釜を懐にしまっており、いつでもどこでも調合作業ができるようにしている。簡易型錬金釜は術者の任意で大きさを手乗りサイズから一般的な釜の大きさまで変更できる優れモノ。ただし、そこまで難しい調合は行えない。
調合中に外部から魔力を注ぎ込むことによって、作成時間や品質などを微妙に調整することができる。普段はアシュリーが調合の補佐的に担当している。
〈クッパ―ブロット〉
サリアンが手元にあった霊花と山銅を素材にして錬金術で作った食べ物。銅由来の味がする堅いパンのようなモノ。小麦もないのにパンを調合できる辺り、錬金術の末恐ろしさを感じる。アシュリーの魔力の補助もあり短時間で調合できた。彩羽曰く、堅いが美味しいとのこと。人里には我々の言葉で言うパン屋はないため(そもそも『パン』という言葉が通じない)、思ったよりも珍しい体験をしていた彩羽である。