〈最終面〉動き出す正義(前編)
・・・作者はもちろん今後の展開を知っているので当初はそこまで感じていなかったんですが、改めてこの回を振り返ってみると、「初見である皆さんは作者が思ってる以上にこの展開を重く感じるのではないか・・・?」と思うようになりました。なんせ『決闘』の時とは違って、『襲撃』には死があり得るのですから。
・・・その頃、堅くな鉱山にある別の洞窟奥地で・・・。
???「ふんふんふふんの、ふーんっと。」
鼻歌交じりにとある花を摘んでいる怪異が一人。
???「ふう~・・・。ま、こんなもんでいいかな。」
彼女は平成梓慧さん。堅くな鉱山に暮らしている怪異の一人です。
梓慧「じゃあ、そろそろ戻らないと。いくら私の縄張り内とはいえ、これ以上あの怪異をあのまま放ったらかしにしておくのは危ないかもしれないしね。霊花で何とか回復してくれるといいんだけど。」
梓慧さんが自分の縄張りへと戻る帰り道。梓慧さんに近づく者が一人・・・。
???「梓慧。」
梓慧「ん・・・?あ、あれっ?千理様?」
千理「こんな所で、一体何をしているのですか貴方は。」
彼女は松正千理さん。梓慧さんのお知り合いの方・・・ですかね。
梓慧「え、私ですか?私はあの怪異がなかなか目覚めないものですから、霊花でも与えて魔力を回復させてやろうと思いまして。」
千理「ふむ・・・。それは確かに良いことかもしれませんが、だからといってあの者を放置しておくというのは些か無責任なのでは?私は、貴方にあの者を保護しておくよう頼んでおいたはずです。」
梓慧「い、いやー・・・。一応あそこは私の縄張り内ですし、ちょっとくらいなら目を離しても大丈夫かなー、って・・・。」
千理「全く・・・。そうだとしても、貴方の代わりに誰か信頼のおける者にあの者の看病を任せておくか、若しくは霊花を採取しに行ってもらうかすれば良かったのではないですか?」
梓慧「い、いやー・・・あっははははは・・・。」
千理「・・・梓慧(怒)!!」
梓慧「はいぃぃっ!!すすす、すみませんでしたぁぁっ!!」
千理「もう・・・。ですが、そうだとするとマズいですね・・・。」
梓慧「え、何がですか?」
千理「先程からあの者の微弱な魔力を感知していたのですが、すぐその近くで大きな力を持つ者が二人・・・どうやら戦い合っているようなのです。」
梓慧「えぇっ!?わ、私の縄張り内で、ですか?」
千理「別に誰かの縄張り内だからといって、洞窟内は基本的に皆の共用のものです。縄張りの主だと主張する貴方がその場にいないのですから、誰がその場に足を踏み入れようと問題はありません。」
梓慧「そ、それはそう・・・かもしれませんが・・・。」
千理「それよりも問題なのは、唯でさえあの者が弱っている状態であるのに、そのすぐ近くで戦いが起こっているということです。詳しい状態までは分かりませんが、巻き込まれでもすればあの者が危険です。急いで戻りましょう。」
梓慧「は、はい。かしこまりました。」
とりあえず、お二人は梓慧さんの縄張りの場所まで戻るようです。
梓慧「・・・そういえば、千理様。」
千理「はい、何ですか?」
梓慧「会議、随分と早く終わったんですね。」
千理「あぁ・・・(悲哀)。そのことには触れないで下さい・・・。」
梓慧「あっ・・・(察し)。困った方々ですね~、いつものことながら。」
千理「本当に・・・。」
そして・・・。
史織「これで・・・、大人しくなりなさいっ!!『返戻到来』よっ!!!」
サリアン「な、何っ!!??」
ズブオワァァァァァ!!!!!ドガァァァァン!!!!!
サリアン「うがはぁっっ!!!」
史織さんの強力な『返戻到来』が遂にサリアンさんに決まります。
史織さんも、かなりボロボロの満身創痍ですが・・・。
史織「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。げっほげっほげほ・・・。」
ガクッ
膝も手も地面に付いてしまって、かなり体力を消耗しているようですね・・・。
史織「な、何とか・・・なった・・・かしら・・・。」
サリアン「・・・に、人間風情が・・・、つけあがるんじゃないわよ・・・!」
史織「っ!?」
サリアンさん、どうやらまだ立ち上がれるようです。
サリアン「でも・・・、私もそう大きな力はもう残っていない・・・。こうなったら・・・!」
チラッ
うつ伏せに倒れ、気を失ったままの彩羽さんの方を一瞥したサリアンさん・・・。と、同時に何か手袋を身に付けました。
史織「(・・・ま、まさかっ!!!)」
サリアン「『ナーエル手袋』よ。さあ人間、こっちに来なさい。」
わしっ
史織「あぁっ・・・!!待って・・・!!彩羽ぁっ・・・!!!」
不思議な手袋を身に付けたサリアンさんは、遠距離で倒れていたはずの彩羽さんの背中を掴み、手元まで引き寄せてしまいました。
サリアン「よっ、と・・・。ふふふ、この人間はまだお休み中のようね。」
史織「や、やめなさい!!!い、彩羽を・・・離して!!!」
史織さん、捕まった彩羽さんを取り返すべくすぐさま立ち上がりますが。
サリアン「おおっと、動かないで・・・。ヘタに動こうものなら、今すぐこの人間の命をここで断ち切るわよ。」
史織「うぅっ・・・!くっ・・・。」
なんと、彩羽さんを人質に取られてしまいました。
サリアン「さて・・・。この人間の命が惜しくば、絶対に動かないことよ。・・・はあぁぁぁっ!!」
ピチュチュチュチュチュンッッ!!!ズバババァァン!!!
史織「ああぁぁぁっっ!!!!」
サリアンさんの容赦ない攻撃が史織さんを襲います。
彩羽「・・・、うぅっ・・・。」
サリアン「・・・あら、目が覚めたの。でも・・・。」
彩羽「うっ・・・、ぐぅっ・・・。」
サリアン「動くのは無理そうね。まあいいわ。今はあの人間から先に・・・!」
彩羽「や、やめっ・・・。し、史織・・・さんを・・・!」
意識が朦朧とする中、彩羽さんは必死にサリアンさんの攻撃を止めようとします。
サリアン「ええい!うるさい!!お前たち人間が、私の大切なアシュリーを傷つけたからこうなっているのよ!!邪魔するなら、お前から先に・・・!!」
・・・その時。
アシュリー「サ・・・リアン・・・様・・・?」
岩陰で倒れていたはずのアシュリーさんが、残る力を振り絞って声を上げました。
サリアン「アシュリー・・・?アシュリー!!!無事なのっ!!??」
アシュリー「サリアン様・・・。違うんです・・・。その・・・方たちは・・・、私の手当てを・・・してくださった・・・方・・・で・・・。」
ガクッ
サリアン「・・・、アシュ・・・リー・・・?」
長かったサリアンさんの誤解も、ようやく解けそうな気がしてきた語り主です。
・・・しかし。
あちらの方には、ボロボロの姿で仰向けに倒れたまま完全に意識を失っている史織さん・・・。
彩羽さんも、サリアンさんの手元で完全に意識を失っています・・・。
サリアン「わ、私は・・・・・・。」
すると。
???「そこまでです。」
サリアン「っ!!??」
背後から聞こえてきた声に驚き、咄嗟にサリアンさんは後ろを振り返ります。
???「これ以上の戦闘は無意味でしょう。しかし・・・、まだ『人質を取って一方的に攻撃をする』という卑劣な行為を続けるというのであれば・・・この私、松正千理が直々に貴方に制裁を下すことになりましょう。」
サリアン「あ、貴女・・・。っ!?ま、松正千理・・・ですって・・・!!!???」
千理「さあ、選びなさい。私と一戦交えるか、頭を冷やして手を引くか。」
圧倒的威圧感でサリアンさんに言い寄る千理さん。
サリアン「っ・・・。わ、分かったわ・・・。これ以上、この人間たちには手を出さない。ただし、今の間だけよ。」
そう言うと、サリアンさんは抱えていた彩羽さんをそっと地面に横たえました。
千理「ふふっ、宜しいでしょう。・・・梓慧。」
梓慧「はいっ。」
千理「直ちにこの人間たちとあの妖魔の手当てをしなさい。重傷のようですからね。早急に且つ適切に、ですよ。」
梓慧「お任せを。」
サリアン「・・・。」
千理「貴方にも、もう少し付き合ってもらいますからね。」
サリアン「・・・ええ、分かってる。でもちょっとだけ・・・、外の風に当たってくるわ・・・。アシュリーのこと、お願い・・・します。」
そう言うと、サリアンさんは一度その場から立ち去っていきました。
千理「・・・さて。こちらは人里の人間、あちらは古屋の司書・・・ですか。もう少しで一大事になるところでしたね。それもこれも・・・。」
チラッ
梓慧「ギクッ・・・!」
千理「はあ・・・。まあ、今は誰かを責める時ではありません。急いでこの者たちに目を覚ましてもらわないと。」
静かに降っていた小粒の雨も、サリアンさんが立ち去ると静かに止みました。
どういう訳かは分かりませんが、どうやら千理さんが史織さんと彩羽さんのことを助けてくれたようです。
サリアンさん、アシュリーさん、千理さん、梓慧さん。この四人の怪異たちの思惑と背景には、一体何があったのでしょうか。そして、史織さんたちは無事に人里まで帰ることができるのでしょうか。
中編へ続く
(とある怪異)平成 梓慧 種族・黄銅 年齢・成熟程度 能力・〈未公開〉
堅くな鉱山に暮らす怪異の一人。洞窟内に自分の縄張りを持っていて普段はそこで生活している。近くで暮らす他の怪異たちとも交流が深く、力比べや話をしたりと気ままに生きている。のらりくらりな性格ではあるが、かなりの実力者。後述する千理とは、とても深い関係がありそう。
(とある怪異)松正 千理 種族・〈未公開〉 年齢・成熟 能力・〈未公開〉
今まで見たことないほど途轍もなく凄まじい風格を持つ怪異。少々お堅い雰囲気も感じる。サリアンとは初対面のようだが、サリアンは千理の名前を聞いて酷く動揺していた模様。梓慧とは、とても深い関係がありそう。
〈ナーエル手袋〉
サリアン発明の一品。装着すると、自分の身体を移動させずとも遠距離にある物を自分の手で掴めるようになる。イメージとしては、マジックハンドのような感じか。掴みたいと思った物のすぐ傍に自分の手(どちらかと言うと、手首以下の部分のみ)がワープして、自分がイメージした通りに目的の物を掴むことができる。掴んだ物はそのまま自由に移動させることができる。ただし、掴める距離も移動させられる距離も自分の目が届く範囲内に限られる。掴む意思を放棄した時、ワープ先の自分の手は元に戻る。