〈第三面・延長戦〉金城に挑む戦風(そよかぜ)
・・・、はい。今回はいつもの倍近く長いです。ですが章分けの都合上、そして、描写の都合上、第三面はこの回で何とか区切らせたかったので、このような長さに・・・。そして何やら、当初の想定と比べて展開が別方面へと変わっていますね・・・。第三面、こんなことになるなんて・・・。まだ三面なんですよねぇ(笑)。まあ、後編の前書きでも記した通り、これはいくつかあるうちの一つのルートだと思っていただければ、気が楽だと思いますので悪しからず・・・。
一方、少し時間は遡り、小冬さんはというと・・・。
小冬「ふう、やっぱり人を抱えずに飛ぶ方がよっぽど楽ですわね。」
午後六時過ぎ、夕暮れ時。史織さんが目を覚ました時間くらいですね。
小冬「・・・、ようやく着きましたわ。」
どうやらクロマリーヌに到着したようです。
小冬「頼もうぉぉぉ!!!」
伊戸「おおっ、待ってましたよ。おや?貴方はあの人間を連れていってくれた人間ですか。どうもどうも。」
小冬「ふんっ!今回は私があなたのお相手をさせていただきますわっ!私が史織の雪辱を、果たしてみせます!さあ、今からここで勝負なさい!!」
伊戸「おやおや、威勢のいいことですね~。あの人間の知り合いっていうことは・・・、少しは期待できそうですし。いいですよ。別に貴方はあの人間と違ってお嬢様他このクロマリーヌに敵意があるといいますか、どちらかといえば・・・、私のみに敵意があるようですし。館の防衛戦ではないですが、個人的な決闘でも私はお受けしますよ。」
小冬「何をぶつぶつと言ってますのっ!では、いきますわよっ!!」
伊戸「いや、ちょっと待ってください。」
小冬「はあ?ど、どうしてですの?」
伊戸「いやー、さっきの決闘のせいで周辺が滅茶苦茶になってしまってですね、お嬢様が大層お怒りなんです・・・。私としても、この場での全力を出すのは控えたいと言いますか・・・。ですので、場所を変えましょう。お連れしますので。」
小冬「はあ・・・。そういうことでしたら、構いませんけれど・・・。」
ふむ、小冬さんと伊戸さんの決闘は場所を移しての開始のようです。
移動先は堅くな鉱山近くの別の山の頂上のようです。カルデラ盆地のようで、北側には草木も生えていますね。二人もその北側で行うようです。
伊戸「ふう。では、この辺りで。」
小冬「ええ。」
伊戸「始めましょう。」
小冬「では。新風小冬!この身がたとえ朽ち果てようと、修行し得たこの剣術で、友達の雪辱を果たして見せます!!!」
伊戸「ふふっ。その心意気、嫌いじゃないです。私もクロマリーヌ守護者たる礼儀を以って、全力でお相手させていただきます!!!」
小冬さんと伊戸さんによる、決闘の時間のようです。小冬さん、頑張ってください。
伊戸「ふんっ!!!」
小冬「はぁぁぁぁぁ!!!」
ヒュンッ!
ガキィィィィン!!!
伊戸「ほう。刀で私の正拳を受け止めるとは驚きです。」
小冬「まだまだこれからでしてよっ!」
伊戸さんの正拳を小冬さんの愛刀の一振り『宙刀』で受け止めました。お互いすかさず距離を取ります。
伊戸「(んんん・・・、どうしましょうか。この人間もかなりの腕です・・・。ん!?)」
小冬「・・・壱の型、『瞬閃』っ!!!」
シュバァッッッ!!!
伊戸「のわっ!?」
小冬「くっ、避けられましたか・・・。」
新風流壱の型『瞬閃』は、文字通り一瞬で相手の間合いへと入り込み鋭い一撃を斬り込む抜刀術です。
伊戸「お、驚きです・・・。間一髪でしたよ。」
小冬「ふんっ!当たらなければ、どうということはないでしょう?」
伊戸「ふっ、今度はこちらの番です!」
小冬「(この方の攻撃方法は物理系の技のみ・・・。集中すれば受け止められるはず!そこから斬り込めば・・・!)」
伊戸「はぁぁぁぁぁ!」
伊戸さんが小冬さん目がけて飛び掛かってきました!
小冬「(来た・・・!)」
伊戸「ここです!波動弾!!!」
なんと!物理技ではなく、至近距離からの波動弾です!
小冬「(うっ、嘘!?よ、避け切れない!!!)」
バコォォォン!!!
小冬「きゃああぁぁぁぁぁ!!!!!」
ズザザァァァァァ・・・
ああっと、小冬さん避けられず大きく吹き飛ばされてしまいました・・・。
小冬「うぐぐっ・・・、げっほげほ・・・。」
伊戸「(あれ?思ったよりも効いたみたいですね。あの正拳を受け止められたのだから、そこまで効くとは思っていなかったんですが。まあ私としては、少し頭を使った戦法でしたが。)」
小冬「はぁ・・・はぁ・・・、くっ!(物理系ならまだしも、やはり魔法系の技はダメージが大きいですわね・・・。仕方ないこととは言え、情けないっ!)」
人間というものはそもそも魔力を持って生まれていませんから、魔法系能力がとても低いのです。魔法系の技の耐性がほとんどないということです。鍛えようにも魔法系能力はほぼ先天性のため鍛えることも叶わないのです。小冬さんも例外ではありません。史織さんは例外です・・・。
小冬「こ、今度は、こちらの番ですわ・・・!」
伊戸「ええ。こちらはいつでも大丈夫です。」
小冬「・・・、伍の型。」
伊戸「(また、『型』ですか。先ほどのは危なかったですが、所詮は刀。斬られるのは苦手なんですが、まあ避けられる範疇ですね!)」
小冬「『烈波』ぁっ!!!」
ズザアアァァァァ!!!
伊戸「(ええ、斬撃波!!??刀の攻撃範疇から外れてますってー!!)」
強力な光の斬撃波が伊戸さんを襲います。必死に堪える伊戸さんですが・・・!
伊戸「うぐぐぐぐぐ・・・、ぐわぁ!!」
ズガァァァン!!!
小冬「・・・ふぅ。今回は、決まりましたわね。」
プシュゥゥゥ・・・
伊戸「・・・・・・、あぁ。これは、想像以上に効いてますね・・・。これからはその『型』とやらには気を付けなければならないようですね・・・。最初の抜刀術のも、もし当たっていたならばただじゃ済んでいなかったでしょう・・・。では、今度はこちらの番です・・・。」
小冬「(今、『烈波』は確かに命中しましたけどあの余裕のある感じだと、どうやらまだまだ足りていないようですわね・・・。史織が苦戦を強いられたのが分かりますわ・・・。史織、大丈夫かしら・・・?)」
シュタッ!
伊戸「決闘の最中に他の考え事とは、随分と余裕ですねっ!」
シュバッ!!
小冬「(は、早いっ!?)」
伊戸「あの人間にも試したこの一撃、貴方は耐えられますかねっ!?」
小冬「しまっ・・・!?」
伊戸「そぉらぁ!!」
ドグガァッ!!!
小冬「うぐぐっ・・・、ぐわはぁっ!!!」
ヒュゥゥゥゥ、ドカーン!
ああっと、伊戸さんの素早く且つ強烈な蹴りに小冬さんは対応しきれず直撃、大きく吹き飛ばされて北側外輪山の岩肌へと背中を打ち付けてしまいました。
小冬「ぐふっ・・・!がはっ・・・!」
どさっ・・・
ああ、小冬さんそのまま地面へと倒れ込んでしまいました。小冬さん、大ピンチです!
小冬「・・・はぁ、・・・はぁ。くっ・・・、げっほげほげほ!」
伊戸「ふうー。まだ意識はあるみたいですが、ここまで、ですかねぇ・・・。最後のトドメを・・・、っといきたいところですが、さすがに心が痛みますね。あの人間よりかは短い時間でしたが、私は満足ですかね。さあ、もう降参してください。せめて人里の入り口付近くらいには私が送って行ってあげますから。」
小冬「・・・だ、・・・です。」
伊戸「え?」
小冬「まだ・・・、私は・・・、負けていません・・・!」
小冬さん・・・?
伊戸「っ!?」
小冬「この程度で伏せるようでは、あの古屋史織の親友などと、言う資格などありませんわっ!!!」
・・・、小冬さんからの凄まじい思いが伝わってきます。
伊戸「・・・。分かりました。全く、その心意気には本当に感心させられます。いいでしょう。貴方のその心意気に応えるべく、私も最後まで本気で相手をさせていただきます!」
小冬「新風小冬!次の一撃に、全てを懸けますっ!!!」
伊戸「さあ、決めましょう。これが最後の一撃です!!!」
次の一撃で全てが決まるようです。伊戸さんは恐らく史織さんにも放った究極奥義『翡翔天翠波』を放つでしょうが、果たして小冬さんはそれを凌ぐことができるのでしょうか・・・!?
風などほとんど吹かないカルデラ盆地、草木も音を立てることのない場所。静寂なる一瞬です・・・。
小冬「(大丈夫。今までの修行の成果の発揮所ですわ。・・・、本当は最初に史織に見せてあげたかったんですけど・・・。ううん、大丈夫。)」
伊戸「はぁぁぁぁぁ・・・!さあ、全力で来なさい!強き剣士よ!!!」
小冬「聞こえる・・・。風の子たちよ・・・。少しだけ、私に力を・・・!」
・・・そよそよ・・・そよそよ・・・
小冬「(行けるっ!!!)」
伊戸「いざ、『翡翔天翠波』ぁぁぁ!!!!!」
小冬「風と共に、『戦風』っ!!!!!」
一方その頃、人里南方を飛行中の史織さんは・・・。
史織「あぁ。まだ疲れが抜け切ってないみたいね・・・。でも、これ以上あの秘薬を飲むのはねぇ・・・。まあ、あの館までは後ちょっ・・・。」
ドゥゥンンン・・・!パリィン、ズガガアァァァァァン!!!!!!!!
ドガガアァァァァァン!!!!!!!!
ッッッゥゥズザン・・・!!!!!
史織「っ!?今の音はっ!!??」
午後六時半過ぎ、夕暮れ時。史織さんの耳にあの強烈な轟音が鳴り響いてきます。
史織「いっ、今のは!?あの館の方角からじゃないわね・・・。はっ、あの砂ぼこりはっ!!??」
史織さん、急速旋回でカルデラ盆地の山の方へと飛んでいきます。
・・・・・・・・
・・・、まだ砂ぼこりが立ち込めています。
・・・、ようやく辺りが見えるようになってきました。
二人はお互いに、背を向け合って佇んでいます・・・。
伊戸さんは、裏拳を打ち込んだ瞬間の姿のまま。
小冬さんは、両腕を八の字状に前方へ二刀流の状態で突き出し、恐らく、伊戸さんを斬り去った直後の姿のまま。
両者、固まりあったままです・・・。
伊戸「・・・、はっはっは。こいつは驚いたなぁ。こんな事、初めてかもしれないなぁ・・・。でも、それでも私は、満足だぁ・・・。」
どさっ・・・
小冬「うぐっ・・・!私、何とか、やれたのかなぁ~。史織ぃ~・・・。」
ばたっ・・・
・・・この決闘、相討ち決着のようです。
・・・・・・
史織「この砂ぼこりは・・・。はっ!?小冬っ!!!」
小冬「・・・・・・。」
地面に倒れた状態の小冬さんを見つけた史織さん。
史織「小冬!しっかりして!小冬ぅ!!!」
小冬「・・・、う・・・。んん・・・?」
史織「はっ!?小冬!」
小冬「あ・・・、あれ?史織ぃ・・・?どうしてこんなところに・・・?」
史織「バカッ!!アンタを追って来たんじゃない!!!」
小冬「ふふふっ・・・、嬉しいことを言ってくださいますのね・・・。」
史織「とにかくアンタ!コレ、飲みなさい!」
小冬「な、何ですの・・・?これは・・・?」
史織「私ん家直伝の秘薬よ。とりあえずそれ飲んで。すぐに人里の医者の所まで連れて行ってあげるから!」
小冬「お医者様はいいですわ。ねぇ、聞いてください史織?」
史織「え、何?」
小冬「私、史織の雪辱、果たせましたのよ・・・。ほら・・・。」
史織「私の雪辱?ほらって・・・。あ・・・!」
小冬さんが指差したその先には、倒れて気を失った状態の伊戸さんが。
小冬「今朝完成した奥義で・・・。本当は、史織に一番最初に見せてあげたかったんですけど・・・。ごめんなさい・・・。」
史織「そんなの・・・、いいわよ別にっ!アンタってヤツは・・・、ホント・・・、バカなんだからっ・・・!」
小冬「うふふっ、さあ。今のうちよ、史織?あの鉱山の館にご用があったんでしょ?今ならすんなり入れると思いますわ。」
史織「え・・・、でも小冬が・・・。」
小冬「私を里まで運んでいるうちにそこの方が館に戻ってしまっては、私の為したことの意味が薄れてしまいます。私は今・・・、史織の役に立てていることが嬉しいんですのよ?」
史織「小冬・・・。」
小冬「さあ、行ってください。私のことは大丈夫ですから。史織の秘薬も飲みましたし。」
史織「・・・、うん。ありがとう、小冬。終わったらすぐに迎えに来るから!」
史織さん、すぐさまクロマリーヌ館へと向かって飛び去っていきました。
小冬「ふふふっ、後は頑張ってくださいね。史織ぃ・・・。」
伊戸「・・・・・・。」
小冬「もう大丈夫ですわよ、伊戸・・・さん?」
伊戸「・・・ありゃりゃ、気付かれてましたか。」
小冬「ふふふっ、お気遣い感謝しますわ。」
伊戸「いや、構いませんよ。私も、いいものを見させてもらいました。」
小冬「まあ!私たちは見世物じゃありませんのよっ!」
伊戸「まあまあ、許してくださいよ。私はお嬢様に許されないのを覚悟で、あの人間を見逃したんですからね?」
小冬「まあ大変。お暇になったら、私の家に来ていただいても構いませんのよ?」
伊戸「さすがにお暇を出されるとは思いませんがね・・・。まあでも、もう少しここで横になっていますよ。当分、動けそうにありませんし・・・。」
小冬「私も・・・、ボロボロで。げっほげほ、もう限界ですわ・・・。」
伊戸「それにしても、最後のあの技。凄かったですねぇ。全く見切れませんでしたよ。」
小冬「ふふっ、あれは今朝会得したばかりの技でしたのよ。会得するまでの時間は長かったですけどね・・・。」
伊戸「あっはははっ!高々十年、二十年そこらで長かった、なんて言われても、私には分かりかねますよ。」
小冬「まあ!怪異のあなた方と比べてもらっては困りますわっ!」
伊戸「くっ、あっははははは。」
小冬「うっふふふふふ。」
おやおや。何だかもう既に仲が良さそうに見えますね。決闘を通じて分かり合い、友好的になるのは良いことですね。
◎追加版
〈小冬の、内なる話〉
小冬にとっての史織は、親友であり、支えてあげたい・力になりたいと思う人物。小冬は、里に住んでいたまだ幼い頃から人里の外へ、剣の修行をしによく出掛けていた。幼くしてすでに自警団実働隊レベルの強さがあり、本人も剣の腕に自信を持っていたが、両親にはその自信が不安の種でもあった。そんなある日、つい、いつもよりも遠くまで(生命の森まで)修行しに行ってしまった夕暮れ時の帰り道、いつものとは比べ物にならないほど強力な怪異に襲われてしまう(決闘ではない)。小冬も疲労のせいで上手く立ち回れずにやられてしまう。命の最期を覚悟したその時、同じくまだ幼かった史織が偶然通りかかり、小冬の命を救った。これが二人の初めての出会い。これ以来、史織と小冬の交流が始まることになる。そして小冬は史織のその強さに憧れ、更に日々の修行に邁進していくようになる。いつか、史織の力になれるようになる、その日まで。
今回の決闘にて、『あの河瀬見伊戸を破った』又は『互角に渡り合った』人間として、その際の奥義の名にちなんで『戦風』という二つ名で、怪異の中で急速に広まっていくことになる。
〈小冬の愛刀〉
小冬は普段、二振りの刀を持ち歩いている。ほとんどの場合、一刀流を扱うが、稀に二刀流も扱う。
・『宙刀』
新風家に代々伝わる家宝の一つで、小冬の愛刀の一振り。ほとんどの場合はこの宙刀での一刀流を扱っている。宇宙の力が宿るとされている刀だが、詳細は不明。代々残されている記録には、どんな衝撃を加えても一度も破損した試しがなく刃こぼれも見られない、とある。この刀を最大限に使いこなせたとされる者は存在しない。刀工も不明。
・『然刀』
こちらも新風家に代々伝わる家宝の一つで、小冬の愛刀のもう一振り。普段は宙刀を主に使用しているため、あまり使用されない。二刀流時、とりわけ奥義発動の際に宙刀と共に使用される。自然の力が宿るとされているが、強力な分扱いが非常に難しい。奥義である『戦風』も風の力を利用している。こちらの刀は過去に使いこなせた者もいるようである。刀工も分かっている。
〇小冬の奥義の一つ『戦風』
然刀による奥義の一つ。風の力を借り、風と一つになり、戦場に吹く風の如く、相手を斬り捨てる。風の力を借りることで、刀の切れ味指数が一時的に最上不変になる。風と一つになることで、不感知状態となり相手から認識・感知されなくなり一時的に無敵状態になる。伊戸の究極奥義の直撃を免れたのはこの効果による。使用による体への負荷が多大だったために、小冬は倒れたにすぎない。風と一つになるための条件は、周辺にそよ風が吹いていること。微弱で弱いが感知できるくらいの風でないと、発動条件を満たさない。