〈第五面・中断〉二人の魔族
そして、唐突な回想(?)回。今回は開幕から最後まで全て過去のお話です。とりあえず、新しい二人の普段の様子を描いておきたかっただけ・・・(謝罪)。そのため、ちょっと後書きが多めです。
ここにきて『第一章』〈番外面・序〉で述べられていた伏線が遂に回収されることになりました。(誰も覚えてねぇよ(笑)。)あの当時から設定だけは考えていましたがようやくここにきて、といった感じです。作者的には、ですけどもね(笑)。
つい数日前のこと・・・。クロマリーヌの館に久し振りの来客がありました。
サリアン「久し振り、伊戸。」
アシュリー「こんにちは、伊戸さん。」
伊戸「おや、お二人とも。お久し振りです。ささ、どうぞ。お嬢様がお待ちですよ。」
やって来た二人のお客さんを館へと招き入れる伊戸さん。クロマリーヌの皆さんとは既に面識があるようですね。
まず、サリアン・ヴァルフェイさん。堅くな鉱山外れに暮らしているウェンディさんのご友人です。
そしてもう一人、アシュルン・ホルクスさん。サリアンさんと一緒に暮らしながらサリアンさんの研究のお手伝いをしている方です。
とんとんっ
伊戸「お嬢様、失礼します。サリアン様たちがお見えになりました。」
ウェンディ「おおっ、来たわね。入って~。」
ガチャ
サリアン「ディア、久し振りね。」
ウェンディ「リア~、よく来たわね。待ってたわ?アシュリーも、相変わらず元気そうね。」
アシュリー「はい!ウェンディお嬢様も、お元気そうで何よりです。」
伊予「お嬢様、私はティータイムの準備をしてまいりますね。」
ウェンディ「ええ、お願い。」
サリアン「ああ、伊予?」
伊予「は、はい。何でしょうか、サリアン様。」
サリアン「できるなら、甘いものと渋いものも準備してくれるかしら?ちょっと皆にも見せたいものがあってね。」
伊予「うふふっ、研究の成果ですか?」
サリアン「くっくっく・・・(にやり)。期待してもらっても構わないわよ?」
伊予「あら、それは楽しみですわ。では、お望みのものも用意いたしますね。」
アシュリー「あ、伊予さーん。私もお手伝いしますー。」
伊予「ふふっ。じゃあ、お願いするわね?」
サリアンさんたちの来客にとても楽し気な日常の風景が見て取れるクロマリーヌの館です。
サリアン「・・・でね?この甘いクッキーに、新発明の『ネーベルジュース』を吹きかけて・・・。」
シュッシュッ・・・
ウェンディ「えぇっ・・・?ちょっ、大丈夫なの・・・(不安)?」
サリアン「大丈夫だって。さっ、食べてみて?伊予もどう?」
伊予「でっ、では、せっかくですので・・・(焦り)。」
ウェンディ「うぅ~ん・・・。はむっ。」
サクッ、サクッサクッ・・・
ウェンディ「・・・ん!」
伊予「・・・甘さが、全く感じられなくなりましたね。」
サリアン「でしょ~?」
ウェンディ「え、いや、まあそうだけどさ・・・。これ・・・、むしろ味がなくなった分、不味くなったんだけど・・・。」
サリアン「え?」
ウェンディ「え?」
・・・おや?
サリアン「・・・つ、次はこっちの!渋いクッキーに試してみるとね・・・(焦り)?」
ウェンディ「(こ、こいつ・・・。効果の有無を気にするあまり、実用性のなさに気付いてなかったのか・・・(笑)。)」
サリアンさんは錬金術士。日々錬金術の研究をし、何か発明に成功した時はこうやってウェンディさんたちに見せに来るのです。
サリアン「さっ、今度はこっち!食べてみて?伊予もね?」
伊予「で、では・・・(焦り)。」
ウェンディ「んー・・・。はむっ。」
サクッ、サクッサクッ・・・
ウェンディ「・・・んんっ!?」
伊予「あ、甘くなりました!しかも、とっても美味しく。」
ウェンディ「え、ええ・・・(驚嘆)。これはなかなかどうして、凄いものね。」
サリアン「どうどう?凄いでしょ。この『ネーベルジュース』を吹きかけると、甘いものは甘くなくなるんだけど、それ以外の味のものはすっごく甘くなる効果があるの。これさえあれば、どんなものでも甘くすることができるのよ!」
ウェンディ「んー、でもさ。それ、最初の方の効果は必要ないんじゃないの?」
サリアン「・・・あっ。」
ウェンディ「・・・今、『あっ。』って言ったわね?」
サリアン「べべべべ別に気付いてなかったとか、そんなことは決してないから(焦り)!」
アシュリー「うふふっ。アシュリー様ってば久し振りに研究が上手く成功して、効果の実用性どうこうの話はすっかり忘れちゃってたんですよね。」
サリアン「・・・えっ、アシュリー。このこと、気付いてたの?」
アシュリー「えっ?はい。」
さも「当然ですよ。」と言わんばかりの顔つきで応えるアシュリーさん(笑)。
ウェンディ「やっぱりね~。リアって、そういうとこは何か抜けてるわよね~。」
サリアン「う、うぐぐぅぅ~・・・。」
サリアンさんの顔が真っ赤になったみたいです。
サリアン「そういえば、リミュー。帰って来たんですってね。よかったじゃない。」
ウェンディ「ええ、本当に・・・ね。」
サリアン「今あの子はいないの?久し振りに、会って話もしてみたいものだけど。」
アシュリー「私も、お会いしたいです。」
ウェンディ「あぁ。まだ寝てるのよ、あの子。今日はリアたちが来るーって伝えてあったのにさ。最近はよく外に遊びに行くようになってね・・・、本当に楽しそうよ。うっふふふっ・・・(笑顔)。」
サリアン「ふふふっ。そうやってリミューのことを話してるディアも、一層楽しそうだけど~?」
ウェンディ「も、もう・・・(照れ)。」
サリアン「私たちが帰るまでの間に、起きてきてくれるかしら。」
ウェンディ「まあ、そのうち起きてくるでしょう。きっと・・・。」
だっだっだっだ・・・!
ウェンディ「・・・ふふっ。噂をすれば。」
バコンッ!
リミュー「リアー!!!アシュリーー!!!」
いつも通り元気よく、リミューさんが部屋の扉を勢いよく開けます。
サリアン「リミュー・・・、久し振りね。本当に、元気そう。」
アシュリー「リミュー様!またお会いできて嬉しいです・・・!」
リミュー「うん!わたしも、二人と会えて嬉しいーー!!」
伊予「まあまあ、うふふ。」
ウェンディ「伊予?リミューの分のお茶も、お願いできるかしら。」
伊予「はい、直ちに。」
リミュー「ねえねえリアー、今日は何かおもしろいもの持ってきたのー?」
サリアン「うふふっ、ええ。リミューにもいろいろ楽しんでもらわないとね。」
リミュー「やったーー!!」
ウェンディ「あ、そうそう。リアに話しておきたかったことがあったのよ。」
サリアン「あら、何かしら?」
ウェンディ「最近ね?とても興味深い人間を見つけたのよ。リアも聞いたことくらいはあるでしょ?古屋の司書の話。」
サリアン「あぁ・・・。昔っから人里の外で暮らしてるっていう人間のことでしょ?」
ウェンディ「そうそう。その当代の司書が、これまたおもしろくってね、ふふっ。あなたにもぜひ紹介したいと思っていたの。」
サリアン「・・・ディア、知ってるでしょ?私は人間が嫌いなの。人間なんて、どうせ・・・。」
アシュリー「(サリアン様・・・。)」
ウェンディ「ま、まあまあ・・・。リアの気持ちも分かるけどさ?私の見る目をちょっとは信用してくれてもいいんじゃない?それに、史織はリミューのことを救うのに一役買ってもらった恩人でもあるの。」
サリアン「・・・。」
ウェンディ「リミューなんてこの前、史織のために一生懸命探して霊魂を贈ってあげたくらい史織のことを気に入っているのよ。ね?」
リミュー「うん!わたし、おねえさまたちや史織のことも小冬のことも、みーんなだいすきよ!でも、おねえさま。わたしが贈ったのはれーこんさんじゃなくてれーかだよ。」
サリアン「(っ・・・!?れ、霊花・・・ですって?)」
ウェンディ「まあどっちでもいいじゃないの。私もリミューも、伊戸も伊予も、今では史織のことを歓迎しているのよ。」
伊予「わ、私は・・・別に・・・。(ごにょごにょ・・・)」
アシュリー「わあっ!あの伊予さんが照れてる~!」
伊予「ちっ、違うから(恥)!ちょっと、アシュリー!あまり余計なことは・・・!」
ウェンディ「ふふっ。ねえ、リア?きっとあなたも史織のことなら気に入ってくれるんじゃないかって、私は思ってるわ。」
サリアン「・・・ねえ、リミュー。」
リミュー「ん?なぁに?」
サリアン「さっきの話。霊花を探したって話なんだけど・・・。一体どこで見つけたの?」
リミュー「ん~?んーっとね、わたしが探してた場所は鉱山の奥にある洞窟だよ。でもね、れーかを見つけた場所までは分からないの。わたしが探してたれーかと違う種類のれーかが洞窟のどこかに咲いてたみたい。だから、どのお花がれーかなのか分からないの。」
サリアン「そう・・・なんだ。(そわそわ)」
アシュリー「(・・・、サリアン様・・・?)」
ウェンディ「そういえば、霊花って錬金術でも扱えるんだっけ?」
サリアン「ええ。でも、私も実物の霊花を見たことはないわ。もちろん、霊魂も。リミューはきっといい子だから、見つけられたのね。」
リミュー「えへへ~、そうかなぁ~(笑顔)。」
ウェンディ「リアも欲しくなったんじゃない?」
サリアン「・・・まあ、手に入れられるものなら欲しいけど、そうそう簡単に見つけられるものじゃないからね。別に気にはしてないわよ。」
ウェンディ「そうなの?・・・おっと、話が逸れたわね。それで、史織のことはどう?」
サリアン「・・・ディアがそこまで入れ込むほどの人間なら、興味はあるわね。」
ウェンディ「だったら・・・。」
サリアン「でも、私は遠慮しとくわ。研究で忙しいし。」
ウェンディ「もう~。つれないなぁ~・・・。」
アシュリー「・・・。」
何か考え事をしているような様子のアシュリーさん・・・。
ですが。
リミュー「・・・。(じぃーっ)」
その様子をじっと見つめるリミューさん。
アシュリー「あっ、あれっ?どうしたんですか?リミュー様。私の方をじっと見つめて・・・。」
リミュー「・・・ううん、何でもないよー。」
サリアン「・・・?」
その日の夕暮れ時・・・。クロマリーヌ門前にて。サリアンさんたちがお帰りのようです。
サリアン「ふう。やっぱり貴女たちと話すのは楽しいわね。また暇ができた時にでも寄らせてもらうわ。」
ウェンディ「ふふふ、いつでもいらっしゃいな。また変な発明でもできたら、見せに来てよ。」
サリアン「変な、とは失礼ね。今度はもっとディアが度肝を抜くようなすんごい発明を持ってきてあげるんだから。」
ウェンディ「くくくっ、楽しみだわ。」
アシュリー「皆さん、今日はありがとうございました。」
伊予「ふふっ、アシュリー?サリアン様のお手伝いも大事だと思うけど、あまり無理をし過ぎないようにね?前に『アシュリーが倒れたぁぁっ!』ってサリアン様が駆け込んで来られた時は、大変だったんだから。」
アシュリー「うっ・・・。き、気を付けますぅぅ・・・。」
伊戸「お二人とも、道中お気をつけて。こんな状況ですから、特に。」
サリアン「ふふっ、いらぬ心配ね?伊戸。でもまあ、ありがとう。」
リミュー「リアーー、アシュリー、また来てねー!」
サリアン「ええ。リミューも、元気でね。」
アシュリー「はい!リミュー様も、お元気で。」
別れの挨拶を交わした後、サリアンさんたちは堅くな鉱山外れにあるアトリエへと帰ります。
その道中・・・。
サリアン「やっぱり、館はいいわね。研究の一息には充分すぎるくらい楽しいもの。」
アシュリー「ふふっ。サリアン様、ずっと楽しそうでしたもんね。」
サリアン「貴女も・・・、どう?楽しめた?」
アシュリー「もちろんです!皆さんとお話しするの、すっごく好きですよ。」
サリアン「・・・そう。よかった。」
そんな風にしばらく会話をしていると、アシュリーさんが一つ、切り出します。
アシュリー「あ、サリアン様。」
サリアン「どうしたの?」
アシュリー「私、アトリエにある素材で今切らしてあるものがあったの、忘れてました!」
サリアン「・・・あれ?そうだったかしら。」
アシュリー「なので、サリアン様は先にお戻りください。私はその素材を採取してから急いで帰りますので。それではっ!」
びゅぅぅぅーーん・・・!
アシュリーさん、少し慌てた様子で速度を上げて飛んでいきました。
サリアン「あっ、アシュリー・・・。別に素材一つ切らしてるくらいで慌てる必要なんてないのに・・・。」
とりあえず、サリアンさんは先にアトリエに帰ることにしました。
・・・・・・
アトリエに帰って来て、倉庫を調べてみるサリアンさん。
ごそごそごそ・・・
サリアン「・・・う~ん。やっぱり、特に何も素材切らしてないわよね・・・。あの子、一体何を採取しに行ったのかしら・・・?」
少し疑問に思ったサリアンさんでしたがこの時は特にそこまで気にすることはなく、いつも通り錬金術研究を進めることにしました。
・・・それから数日経っても、アシュリーさんは帰って来ませんでした。
(浮世離れな錬金術士)サリアン・ヴァルフェイ 種族・水魔 年齢・一般以下 能力・主に錬金術を扱える能力
通称・堅くな錬金術士こと、水魔の怪異。堅くな鉱山の外れに自分のアトリエを構え、普段はアトリエにこもりっきりで錬金術の研究をしている。後述するアシュリーとは主従関係にある。ウェンディとは古くからの友人であり、クロマリーヌの住人とも面識は深い。特にウェンディとは愛称で呼び合う仲。ウェンディからは「リア」と呼ばれ、ウェンディのことは「ディア」と呼ぶ。人間(?)関係については、アシュリーとクロマリーヌの住人以外に特に親しい者はいない。基本的に錬金術研究にしか興味がないため、交友の少なさに悩んでいるわけではない。積極的に浮世離れしようとしている・・・のかも。
たまに研究の成果を見せにクロマリーヌまで出かける以外に外出することはほぼない。素材の調達から身の回りのことまで全てアシュリーの補助のおかげで生活できている状態。一応主従関係とはいえ、アシュリーのことは家族同然にとても大切な存在であり、アシュリーからもそう思われている。・・・いやむしろ、アシュリーはサリアンのことが大大大好きなため、それ以上かもしれない・・・。
錬金術の腕はなかなかのもの。でも、失敗作も多め。いろんなものを発明しては自慢気にウェンディに見せに行くものの、実はウェンディからはそこまで期待されていない。それもそのはず、ウェンディはサリアンの失敗作のほぼ全ての被害者となっているのだから(笑)。でも、本当に凄いものも発明できる腕はあるので、ちょっと両極端なだけ。
「水魔」とは、魔族の中でも上位種族に当たる怪異。魔力も強く、特に水系の力が強い魔族。魔族自体が全体的に人間に対しあまり良い印象を持っていないし、逆も然り。その中でもサリアンは特に人間を嫌っている。何か強い理由があるようだが・・・。
(優しい世話役)アシュルン・ホルクス 種族・妖魔 年齢・若い程度 能力・頑張れば魔力を生み出せる能力
通称・仕える魔力こと、妖魔の怪異。サリアンと主従関係を結んでおり、毎日サリアンのために精一杯身の回りのお世話をしている。とにかくサリアンのことが大好きで、憧れでもある。サリアン同様、クロマリーヌの住人とは古くからの付き合い。サリアンやクロマリーヌの住人からは愛称で「アシュリー」と呼ばれており、その呼び名をとても気に入っている。
「妖魔」とは、魔族の中でも下位種族に当たる怪異。魔力も弱く、心の優しい性格の魔族。何だかそれだけ聞くと、「魔族」っぽくないような気がしないでもない。けども、れっきとした魔族。妖魔は概ね魔族の上位種族に憧れる傾向が強く、更に仕えようとしたがる傾向が強い。例に漏れず、アシュリーもそうなのかもしれない。魔族の中でも妖魔だけは人間に対して好意的。でも、人間から見ればやっぱり魔族に違いはないので、あまり好かれていない。相手から好かれていなくても、それでも好意的に接することのできる妖魔は本当に心が優しいと言える。
〈ネーベルジュース〉
サリアン新発明の一品。独自に調合された霧状の液体を食べ物に吹きかけると、甘味のないものはとても甘く美味しくなり、逆に既に甘いものは一切の味がなくなる。実用性はともかく、サリアン自信の発明品らしい。ちなみに、発明品のネーミングは全てサリアンが決めている。