〈第四面〉我が儘な雷の鉄槌
まさか再びこの二人の決闘シーンを描写することになろうとは・・・。まあ、結局作中の文章表現ではほとんど描かれてはいませんが、実際にはしっかりと、それはもうお互い激しく戦い合っているという設定です。
もちろん、前書き部分でネタバレするわけにはいきません。・・・ただ少しだけ言わせてもらうとするならば、作者的に「この強さはもう、後には引けないな(真顔)。」って感じです(笑)。誰がとは言いませんが・・・。
今回、後書きの設定はお休みです。
ドォォォォォン・・・、ゴォォォォォン・・・
ぐらぐらぐら・・・
ウェンディ「・・・ん?」
クロマリーヌの館、ウェンディさんの部屋にて。
・・・何だか館がぐらついてますね。
伊予「あらあら。伊戸ったら、ここにきて随分と張り切ってあの子の相手をするようになったんでしょうかね。ふふっ。」
ウェンディ「ふむ・・・。伊戸が張り切って相手をしようとするほど、あの子が戦い慣れてきたってことかしら。んー・・・、でも・・・。」
伊予「うーむ、そうですね。確かに・・・。」
ズガァァァァァン・・・、ドキュォォォォォン・・・
ぐらぐらぐら・・・
ウェンディ「さすがにちょっと張り切りすぎじゃない・・・?これ、館大丈夫よね・・・(震え)?」
伊予「そ、その辺は伊戸も考えているかと・・・(震え)。」
午後六時過ぎ、日がやや沈みかけた頃。彩羽さんは史織さんと伊戸さんの決闘をまじまじと見ていました。
本物の、生の決闘を目の前にして、とても言葉にならないような感想を抱いている様子です。
彩羽「・・・(ごくり)。こ、これが・・・、『決闘』・・・。」
岩肌の影に腰を下ろして休んでいる彩羽さん。やはり伊戸さんと模擬決闘をした後ということで、身体中に傷が散見されますね・・・。
彩羽「こんなにお二人と距離を取ってるのに、流れ弾がこっちの方まで飛んできちゃうことあるんだもん。私となんかじゃ、やっぱり比べ物にならないくらいお二人とも強いんだなぁ~・・・。」
???「ふふふっ・・・。貴方はいつか史織たちのように強くなりたい、って思うのかしら?」
彩羽「う、う~ん・・・。でも、さすがに私じゃ史織さんほど強くはなれないかなぁ~、って。」
???「史織ほどを目指さなくても、貴方には今よりもっと強くなれる資質があると思うわよ?」
彩羽「そそそうですかね~(照れ)。ふふふっ。」
???「うふふっ・・・。」
彩羽「じゃあ私なら・・・って、あれ・・・?」
・・・彩羽さんが周囲を見渡しても、別に誰の気配も感じられません。
彩羽「(・・・今私、誰と話してたんだろう・・・?もしかして、幻聴・・・かしら。)」
幻聴・・・なんですかね?
彩羽「私、そんなに疲れてたっけ・・・。体調管理はしっかりしとかないと・・・!」
彩羽さんが少しの間、史織さんたちの方から目を離していたその時。
ズガァァァァァン・・・!!!
彩羽「っ!!??」
彩羽さんのいるすぐ隣の岩肌が急に砕け散りました。土煙が周囲を包みます。
彩羽「げっほげっほ・・・。あ、危ない危ない・・・。流れ弾が・・・。」
史織「がはぁっ!!・・・はぁ・・・はぁ・・・、うぐっ・・・!!」
彩羽「しし史織さんっ!!??」
そう。岩肌が砕け散ったのは流れ弾が飛んできたせいではありません。
文字通り、史織さんが吹き飛ばされてきたせいなのです。岩肌に少しめり込むように史織さんが岩肌を背にしてもたれかかっています。
史織「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
もう身体中ズタボロの満身創痍な史織さんですが・・・。
彩羽「だ・・・大丈夫・・・ですか・・・?」
史織「い・・・彩羽・・・?はぁ・・・はぁ・・・、ご、ごめん・・・。私のせいで・・・危ないところだったのね・・・。け、怪我は・・・なかった・・・?」
彩羽「わわ私のことなんかよりも、今は史織さんの方が・・・!」
史織「うぐぅっっ!!」
ガクッ
彩羽「し、史織さん!!」
膝から崩れ、手を地についてしまった史織さん。
史織「うごぉぉぉ・・・。キ、キッッッツいわぁぁ・・・。ったく、ホントに伊戸は・・・!」
伊戸「・・・おやおや。これはすみませんでした、彩羽さん。私ってば、気が舞い上がっちゃうと周囲に目が向かなくなっちゃう時があるもので。つい考えなしに史織さんを吹き飛ばしちゃいましたよ~(余裕)。」
伊戸さんが近づいてくる足音が聞こえてきます。
史織「こんのぉぉ・・・、無尽蔵体力オバケがぁぁ・・・!」
伊戸「私としては体力よりも頑丈さの方が売りなんですけどねぇ~。」
彩羽「(あ、あの史織さんがこんなに押されてボロボロになっているのに、伊戸さんはまだこんなに余裕でピンピンしてるだなんて・・・。)」
史織「とにかく、ここじゃ彩羽を巻き込んじゃうからあっちに戻って仕切り直しよ・・・!」
伊戸「それには同感ですね。ああ、それなら彩羽さんには館の門内へ避難していただいた方がいいでしょう。こっちよりも安全だと思いますし。」
彩羽「そ、そういうことなら・・・。」
ということで、一度仕切り直して・・・。
史織「じゃあ、続きを始めるわよ・・・!」
伊戸「ふふふ。もうボロボロの身だっていうのに、よく続けようと思いますよね~(煽り)。」
史織「うううるさいっ!私は・・・。(んっ?)」
彩羽「(じぃーっ・・・)」
彩羽さんが門の陰から史織さんを不安そうな顔で見つめています。
史織「(う、うぅーん・・・(動揺)。)」
それに気付く史織さん。
伊戸「ん?どうしました?」
史織「・・・いえ、何でもないわ。さぁ・・・、すぐにでもアンタをぶっ飛ばして、この仕事中最っっっ高の土産話にしてやるんだから!!!」
伊戸「ふふっ、いいでしょう・・・。何度でも何度でも、その見上げた精神を弾き返してやります!!!」
再びクロマリーヌ門前にて、この二人が激突しようとしたその時。
史織「はあぁぁぁぁぁ!!!」
伊戸「うおぉぉぉぉぉ!!!」
キュゥゥゥゥゥン・・・!!ゴロゴロゴロ・・・
クロマリーヌ館上空にどす黒い暗雲が一瞬で広がって・・・。
ウェンディ「お・ま・え・は何を・・・。」
史織「おぅっ?」
伊戸「えっ?」
ウェンディ「やってんのよおぉぉぉぉぉ(怒)!!!!!」
すっ
ピシャドォォォォォォン!!!!!
伊戸「ギャアァァァァアバババババババァァァ!!!!!」
ピシュゥゥゥゥン・・・
伊戸「・・・ゴホァッ。(ビリビリ)」
バタンッ
ウェンディ「ふんっ!」
ウェンディさんが倒れ込んだ伊戸さんの傍に降り立ちました。
伊戸「お、お嬢様・・・。ど、どうして・・・(ビリビリ)?」
上空から強烈な雷の直撃を受けた伊戸さん、地面に倒れ込んだ今もまだビリビリと身体中痺れているようです(笑)。
ウェンディ「久し振りに受けた私の雷の味はどうだったかしら、ねえ・・・伊戸(威圧)?」
史織「・・・。あ、あぁー・・・、えぇーっと・・・。あぁー・・・(察し)。」
バタンッ
史織さんもようやく状況を飲み込むと力が抜けたのか、仰向けに倒れ込んでしまいました。
彩羽「史織さぁぁん!!」
彩羽さんが傍にやって来ました。
史織「ああー・・・、彩羽。」
彩羽「史織さん!大丈夫ですか!?」
史織「まあ・・・、身体はボロボロだけど、意識ははっきりしてるわ~・・・。」
彩羽「えええとえとえと・・・。」
史織「彩羽ぁ~・・・。」
彩羽「は、はい!」
史織「ごめんね、みっともないとこ見せちゃって・・・。」
彩羽「い、いえ、そんな・・・。」
史織「ちょっといいとこ見せようとしたんだけど・・・。ダメだったか~・・・。悔しいなぁ~・・・。」
彩羽「・・・いえ。史織さんが気に病むことは何もないですよ。」
史織「彩羽・・・。」
彩羽「それに、私のために頑張ってくれてたってことが私にとってはとっても嬉しいことですよ!」
史織「むぅ~・・・(照れ)。」
彩羽「ああっ!とととにかく、今は怪我の手当てを・・・!」
ウェンディ「伊予!」
しゅたっ
伊予「はいっ、ここに。」
ウェンディ「早急に史織と彩羽の手当てをしてやりなさい。伊戸はここに放置!いいわね?」
伊予「はい、仰せのままに(笑顔)。」
伊戸「・・・そ、そんな・・・せ、殺生な・・・(ビリビリ)。・・・ガクッ。」
・・・。この決闘、もはや決着はどうでもよくなったみたいです(笑)。
伊予「・・・。大丈夫じゃないのは見て分かるけど、どう?一人で立てる?」
史織「無理~・・・。」
伊予「はあ・・・。彩羽はここまで酷い状態じゃないみたいね?」
彩羽「は、はい。私は特に・・・。」
伊予「・・・じゃあちょっと悪いけど、史織を運ぶの手伝ってくれるかしら?」
彩羽「も、もちろんです。け、けど・・・。」
彩羽さんが心配そうな様子で伊戸さんの方を見ます。
伊予「あぁー、伊戸のこと?大丈夫よ。貴方が気にする必要はないわ。あんなのよりも、今は史織の方を気にしてあげなさい。」
伊戸「(あ、あんなの呼ばわりなんて、酷いです~・・・。)」
彩羽「わ、分かりました。では史織さん、少し肩をお貸ししますね。」
史織「うぐぅ~・・・。わ、悪いわねぇ~・・・。」
ウェンディ「・・・案内するわ。ついて来なさい。」
ウェンディさんに案内され、史織さんは彩羽さんに支えられながら館内へと入っていきました。
・・・一方。
伊予「・・・(じっ)。」
伊戸「うぅぅ~・・・(ビリビリ)。」
倒れ込んでいる伊戸さんを見下ろす形で、伊予さんが話しかけます。
伊予「・・・どう?調子は。」
伊戸「ど、どうにもこうにも・・・(ビリビリ)。」
伊予「それにしても、お嬢様の雷を諸に受けたっていうのにまだ意識を保っていられるなんて。さすがと言うか、何と言うか・・・。むしろ意識が飛んだ方が楽になっていたんじゃなくて?」
伊戸「へ、返答に困りますぅ~・・・。」
伊予「ふう・・・。ま、私はお嬢様の言い付け通り、貴方をここに置いていくけど・・・。」
伊戸「そ、そんなぁ~・・・。」
ぽんっ
伊戸「ちべたっ!」
伊予「・・・それで、身体の焦げた部分でも冷やしてなさいな。」
伊戸「い、伊予さん・・・!」
伊予さんが去り際に、伊戸さんの頭の上に氷を詰めた氷嚢を置いていってくれました。
伊戸「あ、ありがとうございますぅ~・・・。」
伊予「べ、別に、貴方の手当てをするな、とまでは言われてないから・・・(照れ)。・・・後、どうしてお嬢様がお怒りだったのか分からないのであれば、ついでにそれ使って頭も冷やしておくことね。」
そう言い残して、伊予さんも館内へと入っていきました。
とりあえず、伊戸さんは動けないためその場に仰向けになって倒れ込んだままに。
・・・・・・
伊戸「う~~ん・・・。」
放置されること、しばらく。
伊戸さんはその間、考えていました。
伊戸「・・・もしかして、私もかなり熱くなっちゃってたからなのかな~・・・?」
伊戸さん、余裕だったとはいえ史織さんとの決闘はかなり楽しんでましたもんね。
リミュー「どーして熱くなってたの?」
伊戸「あっ!リ、リミュー様!お帰りなさい。」
すると、お出かけ中だったリミューさんが帰って来ました。
リミューさんが伊戸さんの顔を上から覗き込みます。
リミュー「うふふ、ただいまー。ねえ伊戸ー、身体が熱くなってたの?それともー、気持ちが熱くなってたの?」
伊戸「ど、どちらかと言うと、その両方ですね・・・(苦笑い)。」
リミュー「ふふー、そうみたいねー。じゃあ、私がその氷袋で伊戸の身体も気持ちも冷やしてあげるー。」
伊戸「あぁ~・・・。助かりますぅ~・・・。」
ウェンディ「・・・ふふっ、さすがは史織。よく分かったわね?」
史織「まあ・・・。最初部屋にいた時のアンタの様子と、何で伊戸を仕留めたのかの理由を考えたら、何となくね。」
クロマリーヌのとある一室。さっきウェンディさんにここまで連れられて、今は彩羽さんからの手当てを受けている史織さんです。
彩羽「ほへ~・・・。あの一瞬でそこまで考えられたんですか~。す、凄いです。」
史織「ま、まあ・・・(照れ)。で、でも、ほとんど勘みたいなもんよ。」
ウェンディ「あなたの勘って、何にでも応用が利くのね?」
史織「そ、それほどでも・・・ないけど・・・(照れ)。」
ウェンディ「あ、いや、皮肉のつもりで言ったんだけど・・・。」
何の話をしていたのかと言いますと、どうしてウェンディさんが伊戸さんに雷を喰らわせたのか、ということについてです。
彩羽「でも、やっぱり伊戸さんを外に放っておくのはかわいそうなんじゃ・・・。身体に焦げ目も付いてましたし・・・。」
ウェンディ「あぁ。伊戸ならあの程度、平気さ。伊達にこの館の守護役を務めてないからね。」
史織「割と効いてたみたいだったけど?」
ウェンディ「もう、心配性ねぇ~・・・。大丈夫よ。それに・・・、伊戸のことは伊予が面倒見てあげてるわよ、きっと。」
彩羽「そうなんですか?」
ウェンディ「私が放っておけ、と言っても、きっと伊予は私の見えないところで伊戸の手当てをしてるわ。多分、『手当てをするな、とまでは言われてないから。』なーんて言ってね?何だかんだ言っても、あの二人はお互いに助け合いたいって思ってるのよ。そういう子たちなのよ、二人ともね?」
彩羽「わあぁぁ~・・・(感動)。」
ウェンディさんが言うと、説得力がありますね。
史織「・・・ふふっ、とぼけちゃって~。」
ウェンディ「うん?」
史織「わざわざアンタが私たちをこの部屋まで案内したのは、あの二人をあの場で二人っきりにするためだったんでしょ?アンタがあの場にいると、伊予も思うように動けないもんだから。」
ウェンディ「・・・どうしてそう思う?」
史織「だって、伊予はアンタに、私たちを手当てしろ、って命令されたのに結果的に今、伊予は私たちの手当てをしてはいない。そうだというのに、アンタは伊予のことを咎めるどころか黙認してる。それはもう、アンタは伊予が伊戸の手当てをすることを見越していたとしか考えられないわねっ。」
ウェンディ「・・・全く、どうにもあなたには敵わないわね。」
彩羽「あ、当たっているんですか?」
ウェンディ「まあ・・・、ほぼ正解ね。」
史織「ほぼ?」
ウェンディ「うふふっ。あなたの読みは、まだ少しだけ甘いってことかしらね?」
史織「・・・?」
ウェンディ「いいこと?史織。伊予はね、あれでかなりの照れ屋なのよ。」
史織「て、照れ屋ー?あの伊予がー?」
ウェンディ「あなたや私にはほとんど見せないでしょうけどね。」
史織「アンタにも・・・って、もしかして。」
ウェンディ「そう。いつも冷静沈着で真面目で優しいあの伊予は・・・・、伊戸と二人きりだと照れ屋になるのよ。本人は強がってるけどね(笑)。」
彩羽「う~んっと、それってつまり・・・。」
史織「・・・伊戸と伊予を二人きりにしても、伊予は強がって伊戸の手当てをしない、と?」
ウェンディ「んにゃ、さすがに手当てはすると思うわ。でも、最低限のことしかしないでしょうね。だからといって、それだけの手当てじゃさすがに伊戸も満足に動けないはずよ。だって、私の雷だもの(得意気)。」
史織「そこまで分かってて、じゃあ何で伊戸を放ったらかしにしたのよ。」
ウェンディ「ふふふ・・・。だから甘い、って私は言ったのよ?」
史織「え?」
ウェンディ「いるでしょう?私や伊予の他にも、伊戸のことを大切に思っている子が。多分、もうそろそろ・・・。」
バコンッ!
突然、史織さんたちのいる部屋の扉が勢いよく開きました。
リミュー「ちょっとおねえさま!!聞いたよ?おねえさま、伊戸がおねえさまに内緒で勝手に史織と決闘したことに怒って、伊戸にビリビリしたんだって?!そのまま伊戸の手当てもほとんどしないでお外に放ったらかしにするなんて、伊戸がかわいそうじゃない!!」
ちょっとお怒りなご様子のリミューさんです。
ウェンディ「・・・いいこと?リミュー。私だって史織と心躍るような熱い一戦をしたいってずっと思っていたのよ?けれど、今回はその思いを凄く我慢して、堪えて、抑えようとしていたの。それなのに・・・何?伊戸はしれっと楽しそうに史織と一緒に遊んでくれちゃって!!」
史織「わ、私は別に遊んでるつもりはなかったんだけど・・・。」
ウェンディ「私の方が!!史織と一緒に遊びたかったのにぃぃ!!!」
お、おおっ?
ウェンディ「私が我慢していたんだから、伊戸も我慢して当然のはず!!彩羽との決闘は私が許可したんだから構わないけど・・・、でも!!史織との決闘を私より先にするなんて・・・ずるいわっ!!!」
リミュー「おねえさま!そんな理由で伊戸に八つ当たりするなんて、子供っぽい上に大人気ないよ!!!」
ウェンディ「ぐさぁぁっっ!!!」
リミューさんの会心の一撃がウェンディさんに決まります。
伊予「ま、まあまあリミュー様(焦り)。どうか落ち着きになって・・・。」
伊戸「そ、そうですよ(焦り)!リミュー様。私のことはもうお気になさらないで・・・。」
ひょっこりとリミューさんの背後から伊予さんと伊戸さんが現れ、リミューさんを止めに入ります。
・・・しかし。
リミュー「うぅ~~~!二人とも!!おねえさまに甘すぎっ!!しっかりしなさぁぁい!!!」
伊予・伊戸「はっ、はいぃぃぃっ!!!」
おやおや・・・。どうも珍しい光景が見られたようで。
史織「あぁ・・・、そっか。リミューがいたからか。」
彩羽「え、どういうことですか?」
史織「伊戸の手当てをウェンディは伊予に命令しなかった。命令なんかしなくても、きっとするはずだと思っていたから。けど、それでも伊予が最低限の手当てしかしないことを見越して尚ウェンディが伊戸を放置していたのは・・・、丁度この時間にリミューが帰って来るのが分かっていたからなのね。リミューなら、確実に伊戸の手当てをしっかりやってくれるもんね。」
彩羽「リミュー・・・さん。あちらの方が・・・。」
史織「ん?・・・ああ、そうか。彩羽は初めてだったわね。」
リミュー「あら・・・、あなたは・・・人間さん?」
彩羽「は、はい!人里から来ました、錦彩羽と申します!よよよろしくお願いします!」
リミュー「わあぁぁ!うふふっ、初めまして。私はリミュー、リミュー・フィアラ。どうぞよろしくね?」
彩羽「はい!」
午後七時過ぎ。日が暮れ、辺りもすっかり夜になったこの時間。
クロマリーヌでの夜は、もう少し長くなりそうです。