〈第三面〉それでも伊戸は余裕です
『第一章』時は当然として、その後も地味に皆勤賞となっているクロマリーヌの面々。今章では割としっかりめに登場していますが、今章の本筋に大きく関わるというほどではありません。(ネタバレかよ。)
まあ彼女たちは作者的にとても動かしやすく扱いやすいキャラクターたちなので、もしかしたら柊と同等の準レギュラー格に・・・?・・・さすがにそれは優遇しすぎかな?
クロマリーヌの館、門前の開けた場所に伊戸さんと彩羽さんが対峙しています。
伊戸「こほん。では彩羽さん、お嬢様は模擬決闘と仰っていましたが、それで構いませんか?」
彩羽「は、はい!訓練方法は伊戸さんにお任せします!」
伊戸「ふむ・・・、分かりました。では、始めましょうか。」
彩羽「よ、よろしくお願いします!」
そんなわけで、伊戸さんと彩羽さんによる模擬決闘が始まりました。模擬なので、まあ心配要素はないですかね。
史織「ま、最初のうちは様子見しとこうかしら・・・。」
史織さんも、少し離れた所から二人の様子を窺います。
伊戸「ではですね、まずは私に彩羽さんが出せる限りの攻撃を仕掛けてきてください。どんな攻撃でも構いませんよ?とりあえず、全て受け止めてみせますので。」
おお、さすが伊戸さん。
彩羽「そ、そうですか?わ、分かりました!」
チャキ
彩羽「では・・・、いきます!」
彩羽さんが銃剣を構え、伊戸さん目掛けて突撃し・・・!?
すっ
伊戸「っ!?」
カキィィィン!!!
咄嗟に伊戸さんが彩羽さんの攻撃を受け止めます。
伊戸「っととと・・・。(危ない危ない・・・。でも、今のは・・・。)」
二人の距離は結構離れていたはずなのに彩羽さんがたった一歩で伊戸さんの間合いへと踏み込んできたことに、伊戸さんは少し気分が高揚してきたようです。
伊戸「・・・ふっふっふ、いいですねぇ~。さあ!どんどん打ち込んできてください!」
彩羽「で、では、遠慮なく!」
・・・・・・
史織「へぇ~・・・。彩羽って、あんなことができるんだ。なかなかやるじゃない。」
彩羽さんの通称は『間合い一歩』。訓練により鍛えた強靭な脚力と身のこなしによって、相手との距離が一定範囲内なら、わずか一歩で相手の間合いに踏み込むことができることから、そう呼ばれています。
史織「さすが、柊が言ってただけのことはありそうね。」
遠目から岩肌にもたれかかって、二人の様子を見ている史織さん。
史織「・・・。もしかしなくても、私の出番はないかもね。・・・ふあぁぁぁ~。むにゅぅぅ~・・・。」
・・・・・・
伊予「お嬢様、お待たせいたしました。お紅茶でございます。」
ウェンディ「ええ、ありがとう。あなたも、少し見ていったら?」
伊予「・・・そうですか?では。」
クロマリーヌの館屋上、ここは館周辺の景色を一望できる場所。ティータイムにはもってこいの場所なのです。部屋の中でのティータイムもいいですが、たまには外の空気に当たりながらするのも、また一興ですよね。
紅茶を楽しみながら、お二人が伊戸さんたちの様子を見物しています。
伊予「お嬢様から見て、どうですか?あの人間の子は。」
ウェンディ「ん~?ま、人間にしてはいい動きしてるんじゃないかしら?まだ粗削りな感じが多いけど、それはまあ今後に期待かしらね。」
伊予「あらまあ、高評価。」
ウェンディ「史織や小冬と比べたら及びはしないんだけど。・・・まあ、その二人と比べるのは酷かしらね(笑)?」
伊予「その二人は既に人間の範疇を超えていますもの。」
ウェンディ「全く・・・。最近の人間って、あんなのばっかりなのかしら(笑)?怪異の立つ瀬がなくなっちゃうじゃないの~。」
伊予「ふふっ。同感ですわ。」
ま、まあまあ(笑)。
すると、ふと伊予さんが・・・。
伊予「・・・あら?」
ウェンディ「ん?どうしたの?」
伊予「・・・うふふっ、いえ(笑)。お嬢様、あちらの方を・・・。ふふっ・・・(笑)。」
ウェンディ「ん・・・?」
伊予さんが何かを見つけたようで、そっちの方を促します。
ウェンディ「・・・ぷすっ、あっははははは!何してんのよ、あの子(笑)。」
伊予「くすくすくす・・・(笑)。まあ、どんなに強い力を持っていても、結局はまだ幼い人間だということで・・・(笑)。」
ウェンディ「くくくくくっ・・・(笑)。いいわ、伊予?私のことはもういいから、あっちの世話をしてやりなさい。」
伊予「ふふっ。かしこまりましたわ。」
史織「・・・はっ!?」
ガバッ!
史織「・・・あれ?」
伊予「ふふっ・・・。お目覚めかしら、陽気な人間さん(笑)?」
史織「・・・、うぅぅ~・・・。ひょっとして私は・・・、寝てたのか・・・(呆れ)。」
史織さんが唸りながら自分の頭を押さえています。
クロマリーヌ周辺はウェンディさんの気象操作能力によって基本的には晴れ、陽気、ぽかぽかな天気が維持されています。
模擬決闘の様子を遠くから見ていた史織さんでしたが、いつの間にかその陽気にあてられて眠ってしまっていたようです。まあまあ、何とも言えない気持ちのようです(笑)。
伊予「さすがの貴方でも、こうも穏やかな気候の下では人間らしい隙をみせるものなのね。ふふっ。」
史織「あ、あぁー・・・。ぐうの音も出ない・・・。自分が情けなくなっちゃうわ・・・。そ、そうだ!い、彩羽は!?」
伊予「あの人間の子も頑張り屋なのね。まだ伊戸の相手を頑張ってるわよ?」
史織「えっ?」
・・・・・・
伊戸「せいやあぁぁっ!」
ドガッシャァァン!!
彩羽「きゃぁぁっ!・・・はぁ・・・はぁ・・・、うぐぐ・・・。」
伊戸「さあさあ!まだまだ勝負はついていませんよー!!」
彩羽「ま・・・、まだまだぁー!!」
すっ
ずしぃっ!!
伊戸「うごっ!?」
彩羽「い、いけるわっ!」
・・・・・・
史織「・・・あれ?」
伊予「ふふふっ。ヘタしたら、貴方よりも伊戸とはいい勝負をしてるんじゃないかしら(煽り)?」
史織「そ、それは・・・。どうなのかしら・・・(震え)。」
さすが、自警団で日々鍛えられているだけの体力と実力はあるようです。
伊予「(あら・・・。思ったよりも落ち込んじゃったかしら?)」
史織さんのちょっと愕然とした様子を見て、伊予さんが続けます。
伊予「ま、貴方には貴方しかできないことがあるんだから、別にいいんじゃないかしら?今はあの子を守るのが、貴方にしかできないことでしょう?」
史織「・・・ふんっ。言われなくたって、そんなの分かってるわよ。でも・・・、ありがと。」
伊予「あらあら。貴方からそんな言葉が聞けるなんて。なかなかいいものですわねっ(煽り)。」
史織「も、もう!アンタは私を励ましたいのか怒らせたいのか、どっちなのよ!!」
伊予「さて・・・。私はそろそろ館の仕事に戻るけど・・・、頃合いを見て二人を止めてあげなさいよね?」
史織「・・・止める?」
伊予「さっきから見てた様子だとあの人間の子、ちょっと無理してる感があるわ。頑張り屋なのはいいことなんだけどね・・・。貴方はどうだか知らないけどあの子はれっきとした人間なんだから、程々にしておかないと身体を壊すわよ?」
史織「・・・私だってれっきとした人間なんだけどー。(むっすー)」
伊予「あらあら(笑)。ま、私の目がそう判断しているってことだけは伝えておくわ。では。」
そう言うと、伊予さんは館の方へと戻っていきました。
史織「うーん・・・。」
史織さんが彩羽さんの様子をじっくりと観察します。
史織「・・・まあ、そうよね。彩羽だって実戦慣れはまだしてないはずだし・・・、私がしっかり見てあげてなくっちゃね。」
柊さんから頼まれましたもんね。こういうのもあれですが、責任重大ですよ~?
史織「うぅっ・・・。ま、まあ、頼まれた仕事は必ずやり遂げるってのが私の信条ってもんよ!」
ふふふ。そういうことでしたら、心配無用ですかね。
伊戸「ふぅー・・・。」
彩羽「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
模擬決闘が始まってからもう一時間程。ほとんど休みなしでここまできましたが・・・。
伊戸「そ、そろそろ終わりにしましょうか(焦り)。彩羽さんもだいぶお疲れみたいですし・・・。」
彩羽「はぁ・・・はぁ・・・。い、いえ!ま、まだ・・・やります!」
伊戸「う、う~ん・・・。ですが・・・。」
史織「その辺までにしときなさい。」
彩羽「し、史織さん・・・。」
史織さんが二人の間に割って入ります。
史織「そんな疲れた状態で訓練を続けても意味はないわよ。もう充分ってくらい今日はやったんだから、後は身体を休めなさい。」
彩羽「で、でも・・・。私、まだ・・・。」
史織「もう~、聞き分けのない子ねぇ~・・・。・・・ん、そうだ。ちょっと、伊戸ー。」
伊戸「はい、何ですか?」
史織「ねえ、私と軽く一戦しなさいよ。」
彩羽「えぇっ!?」
伊戸「・・・ふむ、なるほど。そういうことですか。いいですよ?相手になりましょう。」
史織「あら、話が早くて助かるわ?・・・じゃあ、彩羽。」
彩羽「は、はい。」
史織「アンタには一度、生の決闘ってヤツを見せてあげるわ。」
彩羽「お、おおぉぉ・・・。」
史織「実戦経験も確かに大事かもしれないけど、実戦現場をその目で見て学ぶってのも面白いと思うわよ?」
彩羽「・・・そ、それもそうかもしれませんね。分かりました。」
史織「うん、いい子ね。でも、ちゃんと身体も休めるのよ?」
彩羽「も、もちろんですよ(焦り)!」
史織「じゃ、あっちの離れた所でしっかり休憩しときなさい。」
彩羽「はい。史織さんの戦い、しっかり見て学ばせていただきます!」
何だかさっきまでの疲れが吹き飛んだかのような元気さであっちの方に行ってしまいました。
史織「ふぅ・・・。彩羽もなかなか強情ね。」
伊戸「ふふふ、史織さんに言われたくはないかと(笑)。」
史織「うううるさいわねっ!全く・・・。」
伊戸「ですが、史織さんが止めに入ってくれて助かりましたよ。彩羽さん、頑張りすぎているような感じがしてましたから。」
史織「このせいで彩羽の身体の調子がおかしくなっちゃったら大変だもん。もしそうなったら、アンタのせいにしようかしら。」
伊戸「ちょっ!それはあんまりでしょ~?」
午後五時前。この時期なら、日はまだ沈みかけてもいないこの時間。この鉱山にもまだ充分な明るさがあるのです。
史織「ふっ・・・。確かに彩羽を休ませるために言ったのは事実だけど、私にはそれ以上の意味があったのかもしれないわね・・・。」
伊戸「ふむふむ・・・、それは?」
史織「いい加減、そろそろアンタに一泡吹かせてやりたかったのよ。・・・丁度いい機会だわ。ここでアンタとの因縁を終わらせてあげる!!」
伊戸「おやおや・・・。私は別に因縁だなんて思ってないんですけどねぇ~(煽り)?私に言わせれば、史織さんは『弱い人間の中でも強い方の人間』なだけ・・・。どうあがいても、史織さんが私に勝てる要素なんて何一つないんですよ!!」
史織「ふんっ!あの時とは違って、今日は大事な後輩が見てるのよ。カッコつけて啖呵切ってきた以上、無様に負けるわけにはいかないのよっ!!!」
・・・あれ?『軽く一戦』じゃなかったんですか・・・?
史織「さあ、きなさい伊戸!彩羽のためにも、そして、私の個人的な気持ちのためにも!!今度こそアンタを私の前に跪かせてあげるわ!!!」
伊戸「ふっ・・・。いつも通り、威勢のいい人間です。貴方が強いことはもちろん知っています。ですが、だからと言って、貴方が私に勝てる道理にはならない・・・。彩羽さんには申し訳ないですが、貴方にはもう一度、敗北という名の屈辱を味わっていただくことにしましょう!!!」
◎追加版
(人里自警団員)錦 彩羽 能力・縮地のように動ける能力
作中でも描かれた通り、相当な頑張り屋。性格から既に真面目なため、やはり頑張りすぎてしまう傾向が見られる。一途と言うか何と言うか、まあその点に関しては今はまだ若さでカバーできている。その小さい背丈・幼い外見とは対照に、辛抱強い精神・機転の利く頭脳を併せ持つ。そして現実働隊員の中で唯一、仙術と呼ばれる『縮地』とほぼ同等の体捌きを身に付けている。この能力により相手との間合いの主導権を常に握ることができる。現段階ではまだ完全に『縮地』と言い切れるほどの力を発揮することはできないものの、極めていけば柊と肩を並べる程の実力にはなり得る。未完成な状態であっても、充分強力な能力であることに違いはない。
彼女自身まだ幼いため、一対一の戦闘以外はまだ苦手。(敵が複数の場合も味方がいる場合も。)一対一の戦闘なら自分のことにだけ集中できるのだが、それ以外だと周囲にも気を回さなければならない。まだ彼女には、そこまでの余裕はない。まあそれはそうだと言っても、一対一の戦闘に限れば、現実働隊員の中で上位三割くらいに入れる実力がある。若くして少尉の地位にいる実力は伊達ではない。




