〈第一面〉憧れの人は
今回、後書きの設定はお休みです。
午前十一時過ぎ。人里を離れ、少し経った頃。
彩羽「・・・(ごくり)。(ガチガチ)」
史織「あー・・・、えっと。あんまり緊張しないでもいいからね?気楽に気楽に。」
彩羽「はひっ!は、はいぃ・・・。」
彩羽さん、周囲を警戒しすぎているせいか、ガチガチに緊張していますね。
史織「(んー・・・。こんな緊張しっぱなしじゃちょっともたないわよね・・・。とりあえず・・・。)」
まあ、歩いてクロマリーヌの館まで行くのはかなり遠いですからね。もうちょっとゆとりを持ってもらいたいところですが。
史織「ねえ、彩羽。」
彩羽「は、はい!?」
史織「彩羽はどうして自警団に入りたいって思ったの?」
彩羽「えっ!?」
史織「自警団の団員って大半が私たちよりも年上の大人ばっかりじゃない?こう言っちゃなんだけど、まだ彩羽くらいの子が自警団に入りたいーって思う年齢じゃないんじゃないかなー、って。」
彩羽「え、えっと・・・。(どどどうしよう・・・。史織さん本人の前で『史織さんみたいになりたくて!』なんて恥ずかしくて言えないし・・・。)」
史織さんはあんまり意識していませんが、自警団の、特に実働隊に所属している団員は史織さんに憧れている人が多いんですよね。確か昔、柊さんがそんなようなことを言っていました。
彩羽「ひ、柊大佐みたいに里の人たちから頼られるような人になりたくて!(うぅぅ・・・、ごめんなさい!)」
史織「ああー、なるほどね。確かに、柊は里の人からも人気あるもんねぇ。ふふっ、よかったじゃない。憧れの柊と一緒に仕事ができて。」
彩羽「は、はい!(柊大佐のこともそうだけど、今のこの状況もすっごく嬉しいです!)」
史織「(ふう。ちょっとは気が紛れたかしら。)」
少し他愛もない会話も混ぜながら、二人は堅くな鉱山へ向けて歩みを進めます。
・・・・・・
彩羽「そういえば、史織さんは柊大佐と親しいって聞いたことがあるんですけど。」
史織「ん?ええ、まあそうね。私と柊、それと分かるかな?新風流剣術道場の娘の小冬。私ら三人はちっさい頃からの仲でね。」
彩羽「あ、知ってます!史織さんとおんなじで里の外で暮らしている方ですよね。剣術がとっても上手だって。」
史織「ええ。あの子の剣術の腕に関しては私も感心してるの。一生頑張っても敵う気がしないわ~。彩羽は自警団だし、やっぱり銃剣術かしら?」
彩羽「そうですねぇ。普段の訓練でも銃剣を扱いますから、得意な武器術はやっぱり銃剣術ですかね。」
自警団の実働隊の皆さんの手持ち武器は基本的に銃剣と呼ばれる特殊な剣です。戦闘訓練では光弾を放つ訓練や回避する訓練なんかもしますが、近接戦闘訓練では主に銃剣を使用します。
そういえば、史織さんには手持ち武器はありませんでしたよね。いつぞや、そのことについて話していたことがありましたけれど。
史織「柊から聞いた話だと、彩羽は凄く熱心に訓練に励んでいるって話だけど。」
彩羽「い、いえいえ!そんな・・・(謙遜)。私は真面目に頑張っているだけですよ。」
史織「一応、この任務に選出されるためには最低限の実力が必要だってことも聞いてあるのよね。ってことは、彩羽は割とできる方ってことかしら(にやにや)?」
彩羽「そそそういう風に言われると・・・(恥)。で、でも!自信がないわけではない・・・、と思います・・・(真剣)。」
史織「ふふっ。ま、自信を持つのは悪いことじゃあないわ。自信がないと、できることもできなくなっちゃうんだから。しっかり自信を持ちなさいよね。」
彩羽「は、はいっ!」
史織「んっ、そろそろお昼休憩にしましょうか。」
彩羽「えっ?・・・あ、そうですね。もうお昼を回ってたんだ。」
正午を少し回った頃。二人は近くの木陰でお昼ごはん休憩を取ることにしました。
史織「よいしょっと。腹ごしらえはしっかりしとかないとね。」
彩羽「はい。では、いただきます!」
はぐはぐはぐっ・・・
はむはむっ・・・
木陰でゆったりお昼ごはんを満喫していると、後ろの林から微かに何かの物音が聞こえてきました・・・。
ざぁっざぁっざぁっ・・・、がさがさ・・・がさがさ・・・
史織「ん、何かいる・・・?」
彩羽「もももしかして、怪異でしょうか・・・?」
史織「ちょっとここで待ってて。少し奥の方まで見てくるわ。・・・万が一に備えて、一応警戒はしておいてね?」
彩羽「は、はい。分かりました。(ガチガチ)」
史織「ふふっ、大丈夫。すぐに戻るわ。・・・何があっても、私が守ってあげるから。」
そう言って、史織さんは少し森の中へと入っていきました。
がさがさ・・・がさがさ・・・
史織「うーん、私が歩く音のせいでさっきの音の気配が分かんなくなっちゃった。・・・でも、できるだけ早く彩羽のとこに戻ってあげないといけないし、急がないと・・・!」
・・・・・・
彩羽「ううぅぅ・・・。史織さん、大丈夫かなぁ・・・。」
史織さんに言われた通り、警戒態勢を取って待機している彩羽さん。その手には、銃剣も装備されています。
彩羽「ダ、ダメダメっ!しっかりしないと。自分の身は自分で守れるように今まで訓練もしてきたんだ。いざって時は・・・!」
がさがさ・・・、がさがさ・・・
彩羽「ひっ・・・!く、くるなら・・・こい!!」
その時、茂みの中から。
がさっ!
???「うぉぉぉ・・・(焦り)!何だか誰かのもの凄い気配を感じたから気付かれないように、とりあえずここまで逃げてきたけど。ふぅ~・・・。何とか撒けたかな?」
彩羽「・・・あっ、あっ・・・。」
???「・・・ん?・・・あ。」
茂みから出てきた者と彩羽さんの目が合いました。
彩羽「(か、怪異・・・!)」
???「(・・・人間?どうしてこんな所に・・・。史織さんや小冬さんじゃあるまいし・・・。)」
ん?今、何て・・・。
???「あの・・・。」
怪異さんが彩羽さんに近づこうとします。
すると。
彩羽「まま待ってください!」
???「え?」
彩羽「ふう~・・・、よし。わ、私は人里自警団実働隊所属、錦彩羽!実戦経験・・・はありませんが、相応の戦闘訓練は積んできてあります!かか怪異のあなた!わ、私を襲うつもりなら、かかかかってきなさい!清く正しい『決闘』で、私としょしょ勝負です(震え)!!」
???「あ、い、いえ。そんなつもりは・・・。」
彩羽「くくくるならこいですー!!」
・・・非常にマズい事態になりました。彩羽さんが目の前の怪異さんに『決闘』宣言をしてしまった以上、もはや二人の決闘は避けられません。とりあえず、彩羽さん。何とか史織さんが戻るまで頑張ってください!
???「うぬぬ・・・。宣言をされた以上、引き下がるのもなんなんで、お相手しますよ!」
彩羽「わ、私だってー!!」
・・・きらーん
二人が正面からぶつかり合おうとしたその時、上空から太陽を背にするように何かが急降下してきて・・・。
史織「彩羽ぁぁぁ!!!下がってなさぁぁい!!!」
彩羽「えっ?」
史織「こら、宮ぅぅぅ!!!」
???「ん?」
史織「そ・こ・に、直りなさぁぁぁい!!!!!」
ドガシャァァァァァン・・・!!!!!
・・・。強烈な土煙が立ち込めます。
彩羽「げっほげっほげっほ・・・。あ、あれ?今の声って、史織さん?」
史織「ふんすっ!」
宮「ぐぉぉ・・・・・・。な、何で私がぁ・・・・・・。ガクッ。」
・・・。一先ず、事態を整理したいですね(笑)。
・・・・・・
史織「彩羽、大丈夫だった?怪我はない?」
彩羽「は、はい。私は全く。・・・むしろ、そっちの怪異さんの方が・・・。」
宮「そうですよ!全く。酷い目に遭いましたよ、史織さん!空から降って来たかと思ったら、そのまま私の頭に拳骨を喰らわせるなんて!」
宮さんの頭には大きなたんこぶができちゃってますね(笑)。
そうです。茂みから出てきた怪異とは、宮さんだったんです。
史織「それはアンタが彩羽を襲おうとしてたからでしょ。」
宮「誤解です!どちらかと言えば、彼女の方が決闘宣言をしてきたからであって・・・。」
史織「む、そうなの?」
彩羽「は、はい・・・。私が早とちりしちゃったせいで・・・。」
史織「ま、まあ、そういうことだったんなら・・・。で、でも!私は彩羽の護衛なの。彩羽が危険な目に合っているのを、黙って見過ごすわけにはいかなかったわ。」
宮「ぐうぅぅ~・・・。何だか納得がいかない~・・・。」
史織「まあ、逆に出会ってたのが宮でよかったわ。私が一撃で抑え切れる程度の怪異で。じゃなかったら、ホントに危なかったもの。ありがとね。」
宮「ぐうぅぅ~・・・。感謝されているんだろうけど、貶されている成分の方が多い気がする~・・・。」
彩羽「(お二人を見た感じだと、お知り合い・・・なのかな?)」
宮「じゃあ、私はもう行きますね?さっき感じたもの凄い気配が史織さんのものだってことが分かっただけで、ちょっとは気が楽になりましたよ。・・・代償は大きかったですけどねっ(怒)!」
史織「はいはい。気を付けて帰るのよー。」
そんな感じで宮さんは去っていきました。
史織「さて、じゃあ私たちもそろそろ出発しましょうか。」
彩羽「は、はい。」
彩羽「あの~・・・。」
史織「ん、何?」
彩羽「さっきの怪異さんとは、その、お知り合いだったんですか?」
史織「あー・・・。まあ、ちょっとね。」
まあ、一悶着あった仲ですもんね。
史織「とある理由ってゆーか約束でね、少し前までアイツの精神訓練に付き合ってやってたのよ。」
宮さんの訓練・・・ですか。あの時に約束していたことって、もしかしてそのことだったんですかね?
史織「外に出てたってことは、さっきは何かの採取でもやってたんじゃないかしら。久し振りに会ったけど相変わらずな雰囲気だったし、元気にやってるようね。」
彩羽「・・・ふふっ。史織さんって、やっぱり優しいんですね。」
史織「なっ!そそそ、そこまでじゃあないわよ(焦り)。」
彩羽「だって、里の人だけじゃなくって外の怪異さんのことにも気をかけてるんですもん。優しいって証拠ですよ。」
史織「わ、私は今後の仕事のために見知った怪異のことをちょっとは気にしてるだけよ!仕事のために、仕方なくよ仕方なく!進んで気にしてるわけじゃないわっ(焦り)!」
彩羽「またまた~、そんなこと言って~。」
史織「ほ・・・ほらっ!ぐずぐずしてると置いてくわよ!」
彩羽「あぁー、史織さん。待ってくださいよー。」