〈第三面・中断〉今度は二つの目的のために
今回は戦闘パートではありません。基本、史織と柊の会話がずっと続きます。史織、小冬、柊の三人は幼馴染であり親友のような仲。それぞれが思いやり合って行動している、そんな風に感じていただければと思います。
午後六時頃、日が傾き始めました。
史織「うぐぐっ・・・、はっ!!」
柊「あっ、史織ちゃん!よかったぁ、目が覚めたのね!!」
史織「あれ・・・?確か私は、あの館の前にいたヤツと・・・。でもここは、私の家・・・。」
柊「史織ちゃん、決闘に負けちゃって・・・。倒れてたところを小冬ちゃんがここまで連れ帰ってくれたのよ?」
史織「柊・・・。え、小冬が・・・?」
柊「私は史織ちゃんが調査に出かけてくれた後、図書館の番をしていたんだけど、お昼ごはんを食べ終わったくらいに小冬ちゃんがやって来てね?史織ちゃんに見せたいものがー、なんて言ってたんだけど、私が事情を説明したらすぐに史織ちゃんの後を追いかけて行っちゃって。」
史織「そうだったの・・・。それで小冬は?」
柊「それが・・・。」
史織「まさかっ!?」
柊「史織ちゃんをここまで運んできて、『看病は柊さんに任せましたから。私は・・・、史織の雪辱を果たしに行きますっ!』って言ってすぐに・・・。」
史織「っ!?あのバカッ、一人でっ!」
柊「ああっ!ダメよ、急に動いちゃ!」
史織「ぐっ・・・。足がまだ・・・!」
柊「ごめんなさい・・・。私が湖の調査なんて史織ちゃんにお願いしたばっかりに・・・。」
史織「べ、別に柊のせいじゃないでしょ。自警団からの、いえ、人里からの究極的な非常時には、私の家が何とかするっていうことになってるんだから。」
柊「うん・・・。こんな時に言うのもなんだけど、史織ちゃんが決闘で負けちゃうなんてよっぽど強い相手だったのね。」
史織「強いっていうか何ていうか、相手がタフすぎるのよ。でも、ただの外回り雑用にしては確かに手強かったわ。堅くな鉱山に住んでる怪異って皆あんなのばっかりなのかしら・・・。」
柊「え、堅くな鉱山?万能の湖に行ったんじゃなかったの?」
史織「ああ。何か調べていくうちに、鉱山に建ってある何とかって館の主がどうやら犯人っぽいのよ。」
柊「堅くな鉱山にある・・・館?それ、何て名前だったか思い出せない?」
史織「ええぇ?えーと確か、『くりまろーる』とか『かろりーぬ』とかそんなだった気が・・・。」
柊「『クロマリーヌ』・・・、じゃない?」
史織「ああ、それだわそれ。何で分かったの?」
柊「・・・。実はね、かなり不定期になんだけどね。差出人の所に『クロマリーヌの館』って書いてある贈り物が人里の入り口近くに、気が付いたら届けられていることがあるの。結構昔からあったみたい。」
史織「何よそれ・・・、ちょっと怖いわね。贈り物って何よ?」
柊「鉱石よ。それに種類もたくさん。数はそんなに多くないしどれも原石のままなんだけどね。でも、堅くな鉱山への鉱石採集は危険だからもう長らくやってこなかったけど、その贈り物のおかげですごく助かっているのよ。」
史織「・・・、あの館から鉱石の贈り物?うーん・・・。これはやっぱりちゃんと調べる必要がありそうね。あ、柊。その押し入れの奥にある黄色い包み、取ってくれない?」
柊「調べるって、史織ちゃん・・・。気持ちは分かるけど、今は身体を休めないと。んっと、あ、この包みね?はい。」
史織「そうそうこれこれ。今なら・・・、これくらいでいいか。はむっ!」
柊「え!?中の粉・・・を飲んだの?そ、それ、何なの?」
史織「え?ふふん。そうね、代々私の一族に伝わる秘薬ってところかしらねっ。さっ、じゃあ私も行くわ。早く行かないと小冬のバカがどうなるか分かったもんじゃないし。」
柊「ええぇ?でも、まだ史織ちゃんだって怪我が・・・。」
史織「もう平気よ。疲れも取れたから大丈夫。心配させて悪かったわね。今度こそちゃんと事件の真相を究明して、・・・小冬も連れ帰って来るから・・・!」
柊「し、史織ちゃん!」
史織「ん?」
柊「が、頑張ってね!」
史織「ふっ、任せときなさいって!」
夕暮れ時、史織さんは急いであの館・クロマリーヌを目指して飛んでいきます。
この事件の真相を究明するため。そして、助けてもらった友人を今度は助けるために。
史織「小冬・・・!私が行くまで、やられんじゃないわよっ!」
〈怪異〉
怪異とは、若鄙に住む人間と一般動植物以外の者を指す。そもそも若鄙自体が『あらゆる種族や概念』の存在する世界なので、若鄙目線で見れば、どんな存在がいたとしても不思議なことではない。人間や一般動植物が怪異化した者もいれば、最初から怪異として生まれてくる者もいる。(ハブの怪異であるショクムは後者に当たる。)また、無機物や概念上の存在、空想上の存在であるものも、若鄙では怪異として存在できうる。(翡翠の怪異である河瀬見伊戸は無機物に当たる。)怪異として存在するに当たる経緯に能動的・受動的な要因は問われない。
怪異は元々の、怪異化前の寿命に関わらず、基本的に長寿である。その怪異によっても差はかなり大きいが、短くても数百年単位の寿命となる。長きに渡る有閑の時を過ごすのにうってつけの相手が人間。人間は寿命は短いが繁殖力があるため、飽きることなく様々な人間を眺めて過ごすことができるからだ。怪異から見れば、通常の人間は力の弱いただの動物に過ぎない。だが、そんなひ弱な人間でも力を持つ者が稀に存在するため、そんな場合は力比べをしたがる怪異も多い。ただやはり、人間から見ればただの傍迷惑に過ぎないのは事実かもしれない。
人間は他種族、もちろん怪異とも友好的に接しなければならないが、それは相手側が友好を求めてきた場合のみで足りる。人里不可侵契約は人間への最低限の生命保証でもある。この契約は人里内でのみ効力を発揮する。