〈番外面・中〉久し振り~な鉢合わせ
『久し振り』って大体どのくらいの期間が空いたら使うんでしょうかね?この二人みたいに一週間程会ってないくらいじゃまだ使うのは早いですかね?まあでも、二人にとっては一週間会ってないのは久し振り~なわけですよ。
小冬「え、えっと・・・、し、史織?お久し振りですわね(焦り)。」
史織「え、ええ。・・・久し振り。」
お二人とも久し振りのご対面。それもそのはず、確か小冬さんは『集中強化修行』という名の山籠もりを一週間程前からやっていたはずですから。
史織「言ってた山籠もり、終わってたのね。」
小冬「はい。丁度、昨日終わりましたの。」
史織「へぇ・・・。」
小冬「・・・。」
ふふふ。どうやらお互い相手の出方を探っているような間です。
小冬「し・・・、史織はどうしてここに?」
史織「あー・・・、私?んー、そうね・・・。・・・仕事?」
小冬「・・・何だか煮え切りませんわね。お仕事・・・ですの?」
史織「うん、仕事って言葉が一番しっくりくるわね。」
まあ、確かにそうですかね。
史織「そーゆー小冬はどうしたのよ、こんなところに何の用?」
小冬「えっ(焦り)!?い、いえ・・・。私はその・・・、お、お散歩?」
史織「ふぅ~ん、お散歩ねぇ・・・。」
小冬「うぅ・・・。」
じぃーっ、と小冬さんをやや疑いの目で見る史織さん。
史織「・・・ま、いいわ。小冬が何を隠してんのか知んないけど、澄水池は霧が濃くって迷いやすいんだから。気を付けなさいよね。」
確かに。史織さんの言う通り特に奥の方は霧が濃いですし。今お二人がいるのはまさに奥の方ですからね。
小冬「・・・史織は今、お仕事をしているんですの?」
史織「ええ、そうよ。」
小冬「具体的にどういうお仕事ですの?」
史織「まあ、ちょっとね。成り行きで、しばらく澄水池の番をする羽目になっただけよ。別に大した仕事じゃないわ。」
と言って、石の門の方を指差す史織さん。
史織「こっから先が池の奥地なんだけどさ。ここを越えて奥に進もうとするヤツがいたら、最悪ぶん殴ってでも追い返すってのが私の役目なわけ。相手が誰であってもね。」
小冬「あら・・・、それはそれは。」
史織「ま、元々こんなところに来るようなヤツはもうほとんどいないっぽいんだけどね。実際のところ、ずっと待ち惚けてるだけの楽な仕事よ。」
芙さんも言ってましたもんね。『誰も来ないとは思う。』と・・・。
史織「私の方はそんな感じよ。さっ、分かったらこんなところにいないで、小冬は早く帰んなさいよね。」
小冬「・・・ちなみにですが、今の話。」
史織「んー?」
小冬「『池の奥地に進もうとする者は相手が誰であっても、史織がぶん殴って追い返す』という話ですわ。」
史織「ああ、それがどうしたの?」
小冬「それは当然、相手が話し合いに応じなかった場合にのみ、『相手をぶん殴って追い返す』ということでよろしいんですのよね?」
史織「あー、まあ、そうね。無駄な決闘をしなくてもいいなら、そりゃあそっちの方がいいわよね。」
それはそうですよね。相手がちゃんと史織さんの話を聞いてそのまま引き下がってくれる者ならば、わざわざ決闘に持ち込む必要はないですから。
小冬「そしてもちろん、史織は引き受けたお仕事を途中で投げたりはしないと?」
史織「そりゃそうよ。一度引き受けた仕事は最後までやり遂げるのが筋ってもんだわ。当然よ。」
小冬「・・・ふふっ、そうですわよね。」
史織「な、何よー。」
小冬「いーえー。なーんでもありませんわー。」
史織「もうー・・・。ほら、早く帰んなさいよー。言ったでしょ?私は今、仕事中。山籠もり中の話とかなら仕事が終わった後、図書館でゆったり聞いたげるからさー。」
一応ですが、御魂邸は外部の者にその存在をあまり知られるべきではない禁足地。いくら小冬さんといえど、霊魂や御魂邸の存在を知られるのは避けなければなりません。
史織さんとしては小冬さんにこちら側の事情を悟られる前に、早く小冬さんを澄水池から遠ざけたいわけなのですが・・・。
小冬「そうですわね、お話の方は図書館に戻ってからのんびりとさせてもらいますわ。」
史織「うんうん。そうしよっ。」
こくこく、と頷く史織さん。
すると、小冬さんは・・・。
小冬「じゃあ・・・。」
すっ
チャキッ
史織「・・・で、どうしてアンタは刀を構えてるのかしら(苦笑い)?」
そう・・・。小冬さんは今、愛刀の二振りの内の一振り・宙刀を構えています・・・。
小冬「あら。さすがの史織でも、愛刀使用の私を相手に決闘するのは少々分が悪いのかしらー(煽り)?」
史織「いや、そうじゃなくって!何で私と小冬が決闘する流れになってんのよ!?」
小冬「うふふ。こうなることは、勘のいい史織なら分かっていたんじゃありませんの?」
史織「むむむ・・・。」
小冬「・・・私はここの奥地に行ってあることがしたいのです。もちろん、それは私の強い意志であり引き下がるつもりもありません。つまり、今の史織にとっての私は『ぶん殴ってでも追い返す対象』ということですわ。」
史織「ぐぬぬ・・・。で、でも、前からずっと言ってるでしょ?私は小冬と決闘をする気はないって・・・。」
小冬「・・・私は知っています。史織は誰かからお願いされたお仕事は絶対にやり遂げようと最後まで頑張るんだって。」
面倒臭がりで毎日ゆったりな史織さんですが、こういう一面もあるんです。
小冬「そんな史織が、半ば勝手に自分のしたくないことから逃げてお仕事を途中で放り出したりしないってことも!」
史織「うぐぐぅっ!!!」
あれ・・・あれれれれ?
小冬「さあ、史織!私が引き下がらないと決めている以上、今のあなたには私と決闘をするという選択肢しか残っていませんのよ!覚悟を決めて、私と決闘なさいっ!!!」
いやぁ~、これはこれは。まさかこんなことになるとは・・・。
完全に戦闘態勢な小冬さんの言葉に対し、史織さんはというと・・・。
史織「・・・上等じゃない。いいわ、小冬。アンタとの決闘、受けて立とうじゃない。」
小冬「ふふふっ・・・。やっっっとその気になってくれましたのね。私、嬉しいですわ。」
史織「でも、勘違いしないこと。私はただ、引き受けた仕事を完遂するために、アンタを侵入者として迎え撃つだけよ。・・・普段から小冬に見せてるいつもの私だとは思わないことね。」
小冬「史織の方こそ。修行明けの私の実力、以前までの私だとは思わないでくださいね?」
・・・何だか小冬さんに痛い所を上手く突かれた。そんな史織さんでしたが、史織さんもどうやら腹を括ったご様子で。
史織さんの予感通り、途轍もなく面倒で乗り気のしない未来がやって来てしまったみたいですね(笑)。
午後四時前。ここでは一切時の流れが分かりませんが、お二人には関係のないこと。
さあ、数多くの怪異たちが注目している人間たち。古屋の司書こと史織さん、戦風こと小冬さん。この二人の決闘が遂に始まるようです。
史織「・・・一つ、いいかしら?」
小冬「何ですの?」
史織「ここの奥地に行って、一体何がしたいって言うの?」
小冬「あぁ・・・、えっと・・・、それは・・・。(目を逸らして)」
言葉に詰まる小冬さん・・・。
小冬「ひ、秘密ですわ!」
史織「えぇ~?」
小冬「せめて、決闘が終わるまでは我慢してくださいまし!いいですの?!」
史織「はぁ~い、分かったわよ~。」
・・・何だか場の空気が。微妙に緊張感がありませんねぇ~・・・(笑)。
◎追加版
(主人公)古屋 史織 種族・人間 能力・勘が結構鋭い能力
通称・ゆったり司書、古屋の司書こと我らが主人公。その類稀なる戦闘センスと反応力を武器に数多くの強大な怪異たちを打ち倒してきた正真正銘の人間さん。自信家でもあり驕りやすいためたまに負けちゃうこともあるし、驕ってなくても勝てない時もある。そんなこともあったっていいじゃない、だって人間だもの。でも負けたまんまじゃ終われない、そんな精神の持ち主。
面倒臭がりでいつもゆったりのほほんな彼女からはあまり感じにくいかもしれないが、信義を重んじる心は結構しっかりしている。筋の通っていないこと・道理から外れていることは認めたくないしそういうことはやりたくない性分。相手がどんな手段で挑んでこようとも自分は正々堂々と戦略的に迎え撃つことを心掛けている。本人曰く、「道理を平気で無視するようなヤツは私が真正面からソイツの性根を叩き直してやるわ。その手段が道理から外れてちゃ筋違いってもんでしょ?」とのこと。でも、「道理を無視するような・・・、そんな面倒で厄介なことなんて、古屋の奥の手だけでたくさんよ・・・。」と、力なく彼女は語っていたそうな・・・(笑)。