〈番外面・次〉司書とタガメと霊魂と
今回は題名通り、お三方の会話(?)劇が中心です。ただでさえ言葉を話せるのが史織しかいないのに、会話も何もあったもんじゃないと。・・・ええ、全くその通りですね(笑)。霊魂は相変わらず「ふわふわ」言ってますが、タガメに限ってはもう為す術なんてありません(笑)。まあ、そんなに長い回ではありませんので、いつものようにゆる~く、気楽な感じでお読み下さいませ。
今回、後書きの設定はお休みです。
史織「はぐはぐっ・・・。ん、美味しい。」
ふわわあぁ~
史織「ねー。宮の料理も上手だったけど燈紅もなかなかやるじゃない。」
ふわ、ふわわぁ
史織「うふふっ、ごめんなさいね。アンタが何て言ってんのかは分かんないけど、多分美味しいって言ってんのよね。」
ふーわわ~!
史織「ねー。」
あれからしばらく経った後、給仕係の霊魂たちが運んできてくれたおにぎりを近場の石に腰掛けながら美味しくいただく史織さんと伝令役の霊魂さん。何だか知らぬ間にすっかり仲良しさんです(笑)。
そんな様子を足下からじっと史織さんたちの方を見つめるタガメさん・・・。
史織「ん?どうしたの、ガメ吉。」
ガ、ガメ吉・・・?
史織「あ、分かった。アンタも食べたいんでしょ?」
その言葉を聞いて嬉しそうに前肢をチョキチョキと動かすタガメさん。
・・・どうやら正解のようですね。
史織「じゃあ、ちょっとだけ・・・、よいしょっと。はい、食べなさーい。」
史織さんが自分のおにぎりの一部をちょちょっと摘まんでガメ吉さんに分けてあげました。
史織「あ・・・。でも、タガメにお米って食べさせても大丈夫なのかしら・・・。」
むしゃむしゃむしゃっ・・・
史織「・・・ま、こんなにむしゃむしゃ食べてるんだから、きっと大丈夫よね。」
ふわっふわぁぁ!
何だか愛玩動物でも飼っているかのような、そんな微笑ましい光景です。
もうずっと長い間、澄水池の奥地に進もうとする者はいませんでした。それは池の奥地には進めないという話が若鄙中に広まっていたからです。
もちろんそれは芙さんと燈紅さんたちの企みに因るものです。霊魂たちがこれ以上乱獲されないために池の奥地に霊魂たちを匿いその一切の情報を遮断した、というのは高御さんと木実さんが話していた通り。
芙さんたちは既に情報を知っている者には口止めをお願いし、知って尚やって来る者には芙さんが撃退して黙らせる、という構図がずっと昔にでき上がったのです。
一方で、情報を知らずにやって来る者は芙さんの能力によりその者は知らず知らずのうちに奥地に進むことを諦めるようになります。
こうすることでいつしか池の奥地にまでやって来る者はいなくなっていったのです・・・。
そう・・・。つい昨日まではそんな者はいなかったんですけどね(笑)。
史織「ねぇねぇ。じゃあ、『疲れた~。』ってどんな風に言うの?」
ふ、ふわわわぁぁ~
史織「え~?それじゃあ、さっきの『眠た~い。』とおんなじじゃな~い?」
ふわ、ふわわっわあ~!
・・・あの史織さん、何やってるんですか(笑)?
史織「うーん。やっぱり霊魂の言葉(?)ってのは、そう簡単に分かるようになれるもんじゃないのね~。私には難しいかな~。」
・・・そんな感じで史織さんはのほほんとしていました。さすがにもうちょっと気を張って任されたお仕事をしていてほしいものですが・・・。
ですが、それからしばらく経った頃。事態は急速に動き出しました。
ガメ吉ことタガメさんの様子がおかしくなったのです。
史織「ん?ガメ吉、どうしたの?」
史織さんの問いかけに対しガメ吉さんは前肢を大きく交差させて何かを伝えようと必死になっています。
史織「ん、んー?う~ん・・・、一体何て言おうとしてるのかしら・・・。ちょっと分かんないわねぇ・・・。」
史織さんが首を傾げる中、霊魂さんが。
ふ、ふわわっ!?ふわわっ!ふわわっ!
史織「え、ええっ?ア、アンタまで・・・。ど、どうしちゃったのよ、二人とも~・・・。」
霊魂さんは恐らくガメ吉さんの伝えようとすることが分かったのでしょう。それを何とかして史織さんに伝えようとしますが・・・。こればっかりはどうしようも・・・。
ふわわっ!ふわわっ!
史織「え、えっと・・・、お腹空いた・・・とか?」
ふるふるっ
史織「じ、じゃあ・・・、お腹痛い・・・とか?」
ふるふるっ、ふるふるっ!
史織「う~ん・・・、そうよね。そんなわけないわよねぇ。さっきまで大人しかったガメ吉がこんなに必死になって何か伝えようとしてるんだから、きっと非常事態なのよね・・・。」
すると。
こくこくっ
霊魂さんが頷きます。
史織「・・・ん?非常事態・・・?」
こくこくっ
合わせてガメ吉さんも、史織さんの言葉に頷きます。
史織「非常事態・・・。いつもとは違う事態・・・。いつもとは違う・・・。」
こくこくっ!
史織「・・・え?もしかして・・・、誰かがこっちに来てる?」
その瞬間。
ビュオォォォォォ!!!
史織「うわっ!!」
強力な突風が一瞬、辺りに吹き荒びました。
しかし、ここは澄水池。突風如きで深すぎる霧が晴れたりはしないのです。
史織「もう・・・、何よ今の風はー?あっ、二人とも、大丈夫!?」
ふ、ふわぁぁ~
霊魂さんもガメ吉さんも何とか無事のようです。
史織「ふう、よかった・・・。二人とも無事ね。」
でも、どうして突然突風なんかが・・・。
史織「(・・・今の風、自然のものじゃないわね。微かだけど攻撃性を帯びているように感じたわ。・・・ってことは、やっぱり・・・。)」
ふわ、ふわわ・・・?
霊魂さんとガメ吉さんが不安そうに史織さんを見つめます。
史織「・・・アンタたちは下がってなさい。大丈夫よ、心配いらないわ。こっからは、私の仕事だから。」
すると、向こうの方から声が聞こえてきました・・・。
???「むぅ・・・。思ったよりもここの霧って全然晴れませんのね。もう少し簡単に進めると思いましたのに。これではせっかくの風の力も暖簾に腕押しですわ。」
・・・!?こ、この声って・・・。
史織「っ・・・!?こ、小冬?」
小冬「えっ・・・?し、史織・・・!?」
驚くべきことに、史織さんの目の前に現れたのは、なんとなんと小冬さんでした。
この瞬間、史織さんには二つの未来が見えたといいます。それはもう、とっても穏やかに収まりそうな未来、そして、途轍もなく面倒で乗り気のしない未来の二つだったといいます。
しかし、勘のいい史織さんにはそれがどっちに転びそうなのか、何となく分かったそうな・・・(笑)。
史織「あぁ・・・、もう。やな予感がするなぁ~。」