〈番外面・序〉さあっ、お仕事お仕事~
今回の冒頭は前回二話分の回想明けからとなります。
振り返ってみると、前回との投稿間隔の差が過去最長になってしまいました。・・・精進しますね(戒め)。
史織「・・・ふーん。そんなことがあったんだ。」
宮「それで、すぐに私は史織さんの所に行ったんですよ。」
史織「あぁー・・・、そうそう。確かあの時って、すっごく朝早い時間だったわよねぇ。」
芙「朝早い時間って・・・。もう十時くらいだったでしょ・・・?」
宮「はい。確か、十時過ぎくらいでしたよ。」
史織「わっ、私にとっては早い時間なの!」
燈紅「はいはい・・・。」
芙「それで、お昼過ぎくらいには宮も戻って来てね。薬の調合なんかは私らには分かんないことだから、その辺は燈紅に任せっぱなしだったけど。」
燈紅「貴方たちには材料を集めてきてもらったんだからね。調合は私にしかできないから。」
宮「燈紅さまが調合した薬を姫さまが飲んでからは容体がかなり落ち着くようになりましたよね。さすがは燈紅さまです。」
史織「ふーん・・・。ま、大体の事情は分かったわ。アンタたちにとって珠輝がどれだけ大事な存在なのかってこともね。」
燈紅「ふふ。分かってもらえたのなら、何よりだわ。」
芙「さてっと!朝ごはんもしっかりいただいたことだし、そろそろ修復作業の方に戻ろうかな。」
燈紅「そうね、随分と長く話してしまったわ。」
宮「あっ、ほんとだ。もうこんな時間。」
芙「宮、ご馳走様。美味しかったよー。」
燈紅「ご馳走様、宮。じゃ、姫のことは頼んだわよ?」
宮「は、はい。」
そう言うと、芙さんと燈紅さんは部屋を後にしました。
部屋には史織さんと宮さんの二人だけに。(霊魂は何匹かいますけど。)
史織「ごくっごくっごくっ・・・、ぷはーーー。うん、美味しかったわ。ごちそうさまー、お腹いっぱいだわー。ふっ、ふわああぁぁぁぁ~~~・・・。」
宮「お口に合ったようで、何よりですよ。」
只今、午前七時半前。気持ちのいい朝日が御魂邸を照らしてくれています。
史織「くぉぉぉ・・・。すぅぅぅ・・・。・・・はっ!!!」
がばっ
史織「私・・・、もしかして・・・、寝てた・・・?」
午前十一時半頃。まさかの二度寝(?)をしてしまった様子の史織さん。
・・・何だか本来の目的なんてすっかり忘れてしまってませんかね(笑)?
史織「んっ、んんん~~~!!ふぅーー。あら、毛布・・・。気が利いてるじゃない。」
すぅっー
宮「あっ、史織さん。目が覚めましたか。」
史織「ふあぁ~・・・。ええ、毛布かけてくれたんでしょ?ありがと。」
宮「いえいえ。あのまま寝ていては風邪を引いてしまいますから。」
史織「何だか今日の朝からは私ってば、至れり尽くせりね~(にっこり)。」
宮「そっ、そうですかねぇー(焦り)?」
史織「・・・何か隠してない?」
宮「なななっ、何を言ってるんですかー(棒)。やだなー、もうー。」
史織「アンタたちから見れば、私は御魂邸へ突然押し入って来た賊も同然。そんな私に屋敷内での快適を提供するなんて・・・、怪しすぎるわ。」
宮「そそそっ、そんなことないですってー(焦り)。姫さまは史織さんのことを正式にお客人としてお迎えするよう仰りましたし。そ、そういうわけですよー(焦り)。」
史織「・・・。」
宮「え、えぇっと・・・。で、では、私は姫さまの所に戻りますねー・・・。」
史織「待ちなさい。」
がしっ!
部屋を出ようとした宮さんの肩を史織さんが手でしっかりと押さえます。
宮「な、何でしょうか・・・(震え)?」
史織「ふふーん?私と二人じゃ話せないってんなら、アンタんとこの姫さまからお願いしてもらおうかしら?さっ、珠輝のとこまで案内してちょーだい。」
宮「ぐうぅぅ~・・・。わ、分かりましたぁ~・・・。」
あらら。史織さんの勘の良さの前には隠し事はできないみたいですねぇ。
とりあえず、二人は珠輝さんのお部屋にやってきました。
とんとんっ
宮「姫さまー、失礼しますよー・・・。」
すぅっー
宮「姫さまー・・・。」
珠輝「すぅぅぅ・・・。くぅぅぅ・・・。」
まだ、お休み中のご様子の珠輝さん。
宮「(あっ・・・。姫さまはまだお休み中みたいなので史織さん、一度出直して・・・。)」
と、宮さんがひそひそ声で言いかけたものの、そんなことはお構いなしにと史織さんは布団で眠っている珠輝さんの傍に近づいて。
史織「珠輝ー。おはよー。もう朝よー。起きなさーい。」
ゆっさゆっさ
宮「(ああぁぁっ!史織さん!そんな体を揺すったら姫さまが!)」
珠輝「んっ、うう~~~ん・・・。・・・あれぇ?史織ぃ?」
史織「はーい、そうよ?史織さんですよー。」
珠輝「ふわあぁぁぁ~~・・・。おはよー。」
史織「はい、おはよー。」
宮「お、おはようございます、姫さま。」
珠輝「あっ、宮ぅ~。おはよー。」
約八時間の睡眠から目覚めた珠輝さん。ぐっすり眠れましたかね。
宮「ひ、姫さま。もう、お目覚めになりますか?まだお眠いようでしたら、もう少しお休みになっていても・・・。」
珠輝「ふわあぁぁぁ~~・・・。・・・ううん、だいじょーぶ。そろそろ起きるわ~。」
宮「では準備に。ささっ、史織さん。」
そう言って、手で廊下の方に史織さんを誘導する宮さん。
史織「え、・・・何?」
宮「『・・・何?』じゃありませんよ!姫さまの服を召し替えるので、しばらく外でお待ちくださいー!」
史織「あわわっ、ちょ、ちょっとー。」
ぐいぐいと史織さんの背中を押して珠輝さんの部屋から史織さんを追い出しました。
すぅっー、たんっ
宮「もうー・・・。全く、史織さんったら。」
珠輝「んん~~~!!ふうーー・・・。あれ、史織は?」
宮「部屋の外でお待ちいただいていますよ。」
珠輝「あら。別に外に追い出さなくってもいいじゃない。史織は私の大事なお客さんよ?」
宮「そ、そうは言ってもですね・・・。いくら史織さんとはいえ、外部の者に姫さまのお召し替えの姿を見られたとあっては・・・(震え)。」
珠輝「うぐっ・・・。そ、そうね・・・。燈紅に怒られちゃうかもしれないわね・・・。」
と、とりあえず、珠輝さんのお召し替えを済ませちゃいましょう。
・・・・・・
宮「・・・っと、これでよし。」
珠輝「ありがとう、宮。」
宮「いえいえ、これが私のお役目ですから。」
すぅっ・・・
史織「(ちらり。)」
襖をちょっとだけ開けて中の様子を見る史織さん。
宮「あっ、ちょっとー。史織さん?」
史織「あ、いやー・・・。何だか終わった気がして。」
宮「まあ、確かに終わりましたけど・・・。」
珠輝「史織ぃぃーー!!」
がばぁっ!
史織「うわっ、ちょ、珠輝ー!」
部屋に入ってきた史織さんに抱きつこうと飛びかかる珠輝さん。元気一杯です。
珠輝「史織ー、元気になったみたいね。よかったわー。」
史織「おかげ様でね。朝からゆったりさせてもらってるわ。」
宮「姫さま。あの、朝ごはんはどうしましょうか。お召し上がりになりますか?」
珠輝「あ、食べる食べるー!私、お腹空いちゃったわー。」
宮「ふふっ、分かりました。では、すぐにお持ちしますね。少々お待ちを。」
そう言うと、宮さんは冷静にかつ急いで部屋を後にしました。
史織「もうすぐお昼だってのに、朝ごはんを食べるなんて。もう朝ごはんは抜きにするか、いっそのこと朝ごはんと昼ごはんを一緒に食べちゃえばいいのに。」
珠輝「ダメよー。せっかく宮が作ってくれたお料理なんだからきちんと食べてあげたいわ。それに、一度にたくさん食べるのはあんまり良くないと思うわ。」
史織「・・・ま、それもそうかしらね。」
珠輝「・・・はぐはぐっ・・・、ごくんっ。ふうぅぅーー、ごちそうさまー。ありがとう、宮ぅ。」
宮「いえいえ、これも私のお役目ですから。お皿、お下げしますね。」
午後一時前。珠輝さんが今、朝ごはんを食べ終わったところです。
史織「(じぃーっ・・・。)」
珠輝「ん、なぁに?史織。」
史織「へっ・・・?あっ、い、いや、何でもないわよ(焦り)?」
珠輝「・・・?」
史織「(あぁー、ダメね・・・。ぼーっと珠輝を見てると、何だか心が洗われてくような気がするわー・・・。食べるとこずっと見てたけど、きれいな所作だったわね~・・・。品があるっていうか何て言うか、こういうところはちゃんと姫してるのねぇ~。)」
すこーしばかり珠輝さんの姿に見とれつつ、改めて感心する史織さん。まあ、逆に史織さんは普段から司書してませんけどね(笑)。
史織「・・・(威圧)。」
うぐっ・・・(怯み)。じょ、冗談ですってー・・・。
宮「えっ・・・?な、何を怒ってるんですか、史織さん・・・?」
史織「・・・ふふっ、いや。何でもないわ。じゃ、そろそろ・・・。」
珠輝「しーおりー!私と遊びましょー!」
がばぁっ!
史織「ぐわっ!ちょ、珠輝!」
再び史織さんに抱きつこうと飛びかかる珠輝さん。ふふっ、よっぽど史織さんのことを気に入ったようですね。
珠輝「何して遊ぶー?お話?それともお外で?それとも・・・。」
史織「ちょちょちょ!ちょっと待った!・・・ねぇ、珠輝ー?ちょっとお願いがあるんだけどー。」
珠輝「んー?何ー?」
史織「宮がさー、何か私に隠し事してるみたいなのよねー。」
宮「ひぅっ!」
史織「雰囲気から察するに・・・、宮にとって非常にマズいこと。」
宮「はぅっ!!」
史織「でも、話してくれないのよー。だから、珠輝。話すよう言ってくれなーい?」
・・・何か史織さん、口調が変わってませんか(笑)?
珠輝「んー・・・、宮ぅ・・・。」
宮「ひ、姫さまっ・・・!(お、お願いしますぅぅぅ!!)」
珠輝「うっふふふふふっ・・・、話して?」
宮「ガーーーーーン・・・。は、はいぃぃ~・・・(落胆)。」
あららら・・・。まあ、史織さんが珠輝さんからお願いしてもらおうと言った時点で結末は分かっていましたよね。
にこにこ笑顔の珠輝さんのお願いに、逆らえるわけがないのですから。
・・・・・・
そして、宮さんがその隠し事について話し終わって・・・。
史織「えええぇぇぇ!!!結局探しても『百科全草』、見つからなかったですってぇぇぇぇぇ!!!」
宮「ごごご、ごめんなさいぃぃぃっ!!!」
珠輝「あらあら~。うふふっ。」
史織「そ、そんな・・・。私は・・・、一体何のためにここへ・・・(放心)。」
宮「そ、そしてなんですけど・・・。」
史織「えっ、まだあるのっ!?」
宮「霊魂の皆の話によると、『そもそもそんなの持って帰って来てたー?』、『そういえば、そんな本見たことない気がするー。』、『宮ってば抜けてるからさー、持って帰って来るのも忘れてたんじゃないのー?』、とのことで・・・。」
史織「えぇ・・・。」
宮「皆にそう言われると、何だかそうだったような気がしてきまして・・・。」
珠輝「あー、分かる気がするー。宮は『どじっこ』なのよねー。」
宮「ひ、姫さまぁぁ~・・・。ど、どこでそんな言葉覚えたんですかぁぁ~・・・?」
史織「・・・つまり、アンタが図書館から本を借りてって、その後薬草を採りに行ったまさにその場所に本を置き忘れてきちゃった、ってこと・・・?」
宮「ま、まあ・・・、今はその可能性が一番高いかと・・・。さすがに、飛んでいる最中に落としたことに気付かないというのは考え辛いので・・・。」
史織「はああぁぁぁ~・・・、もう。場所は?」
宮「そ、それが、どこかの森だったのは覚えているんですけど、何て名前の場所だったか・・・。」
史織「えぇぇ・・・。」
宮「あっ、で、でも!その森の場所は何となく覚えてますから!捜しに行こうと思えば捜しに行けますから!」
史織「・・・じゃあ、何で今の今まで捜しに行ってないのよ?」
宮「うっ・・・、そ、それは・・・。・・・。」
珠輝「・・・宮?」
宮さん・・・、何か少し震えているような・・・。
史織「・・・分かったわ。私もついてったげるから。」
宮「えっ・・・、史織さんが?」
史織「何よ、嫌なの?」
宮「い、いえ!そ、そんなことは・・・。でも、いいんですか?」
史織「・・・いいも悪いもないわ。私は私の目的を果たしたいだけよ。」
珠輝「えっ、なになに~?もしかして、お出かけ?私も行くー!」
宮「いっ、いえいえ!ちょっと失せ物を捜しに行くだけですから。姫さまに手間はかけさせませんよ。」
珠輝「えぇー!?」
燈紅「そうよ、姫?当分の間、外出は控えてもらいますから。」
すぅっー
宮「あっ、燈紅さま・・・。」
宮さんたちの会話を聞いていたんでしょうかね?燈紅さんと芙さんが部屋へと入ってきました。
珠輝「むぅっ!どうしてよー?」
燈紅「どうしてもこうしてもありません。今まで姫が『お勉強』をすっぽかしてきた分が積もりに積もってるんです。ある程度消化してもらうまでは、勝手に屋敷を抜け出しても連れ戻すよう芙にも頼んでおきましたから。」
珠輝「えぇー!?芙ぅー!?」
芙「いやははは、悪いね。これも、たま姫のためだ。」
燈紅「というわけだから、姫は今日からしっかりと『お勉強』をしてもらいます。」
珠輝「むうぅぅぅ・・・。」
宮「あの・・・、燈紅さま?もしかして、お昼ごはんですか?」
燈紅「ああー。まあ、最初はそのつもりで芙と一緒に来たんだけどね。何だか取り込んでるみたいだし、別に後でも構わないわ。」
史織「そういやもうそんな時間だったわね。あ、私の分もよろしくー。」
燈紅「全く、貴方は・・・。宮はまずその失せ物を捜しに行きなさい。厄介事は早く済ませること。」
宮「は、はい!」
史織「誰の何が厄介事なのよ!私にとっては大事なことなの!」
燈紅「で、そのことなんだけど・・・。宮には芙と一緒に行ってもらうわ。」
宮「え、芙さんと?」
芙「ああ、そうさ。」
史織「・・・何で?」
燈紅「まあ、大した理由じゃないんだけど・・・。ちょっと芙から宮に話してもらいたいことがあってね。」
史織「ふ~ん・・・。まあ、別にいいけど。え、じゃあ、私はもしかして・・・暇?」
芙「だろうと思ってね。史織には私が留守の間、澄水池の石の門を守っておいてもらおうと思って。」
史織「やーよ~。何で私なのよ~・・・?別に誰も来やしないじゃな~い。」
芙「まあまあ、そう言うなって。私の仲間たちに任せておいてもいいんだけどね。でももし誰か来ちゃった場合、私が近くにいないと対処の仕様がないのさ。ま、誰も来ないとは思うけど・・・もし誰か来ちゃってもさ、古屋の司書様が守ってくれてれば安心だよね~。」
史織「えぇ~・・・。」
燈紅「・・・ちゃんとやってくれれば、報酬も出すわよ。」
史織「しょうがないわねぇ~・・・。」
燈紅「決まりね。じゃ、宮、芙。そっちは任せたわよ?」
宮「わ、分かりました!」
芙「任せときなって。じゃ、宮、行くよ。」
宮「はい!」
そう言うと、宮さんと芙さんは部屋を後にしました。
珠輝「むぅぅぅ・・・。」
燈紅「姫には今からみっちりと『お勉強』をしていただきますから。私がしっかり手解き致しますので。」
珠輝「えぇー?・・・史織からも、何か言ってよー。」
史織「え?ああ、まあ・・・しっかりやんなさい。」
珠輝「もうー!史織のいじわるー!」
史織「はいはい・・・。ちゃんとやるなら、後で少しくらい付き合ったげるから。」
珠輝「ほんと!?じゃあ私、頑張るわね!」
燈紅「・・・助かるわ。」
史織「どうってことないわよ。」
燈紅「じゃあ、姫?私はこの者を池まで案内してきますので、『お勉強』の準備を進めておいてください。」
珠輝「分かったわ。史織ー、また後でねー。」
史織「ええ、ちゃんとやんなさいよ?」
珠輝「もちろん!後で褒めてもらうんだもん!」
互いに約束を交わし、史織さんは一先ず部屋を後にします。
澄水池へと二人が向かう途中。
史織「そういえば、屋敷の修復は終わったの?」
燈紅「・・・半分くらいわね。全く、派手にやってくれたものだわ。」
史織「いやいや、半分以上は珠輝だからね?」
燈紅「貴方が私の防壁術を解いたりするからでしょう?それを考慮すれば、半分半分ってくらいだわ。」
史織「うっ・・・。わ、悪かったわね・・・。」
燈紅「・・・ふふっ。」
史織「な、何よー・・・。」
燈紅「いいえ、別に。・・・さ、着いたわよ。」
澄水池の石の門までやって来ました。
燈紅「貴方にはこの石門の番をしてもらうわ。役目はただ一つ、石門を越えようとする者を絶対に通さないこと。もちろん、宮と芙以外のね。」
史織「・・・誰も来ないのに?」
燈紅「逆に、誰も来ないのが一番楽だと思うわよ?まあ、ないとは思うけど・・・もし何者かの侵入を許した場合、報酬はないものと思いなさい。」
史織「むっ、それを早く言いなさいよ。任せときなさいって!」
燈紅「後、芙から一匹仲間を預かってるから。」
と言うと、一匹のタガメを史織さんに手渡しました。
燈紅「この子に何か指示すれば、池にいる他の仲間たちが力を貸してくれるそうよ。困ったら力を借りるといいわ。」
史織「え、ええ・・・。そうね・・・。(・・・タガメ?)」
燈紅「それと、もし私に何か連絡を取りたかったら、この子に伝えてくれればいいから。」
ふわっふわっ!
どうやら伝令役の霊魂も貸してくれるようです。
史織「ええ、助かるわ。」
燈紅「じゃあ、後は・・・。」
史織「ねえ?」
燈紅「あら、何?」
史織「石門を越えて御魂邸に行こうとするヤツは宮と芙以外、全員追い返さなきゃいけないの?」
燈紅「ええ。今日、外部からの客人の予定はないから。・・・間違っても、貴方の知人だからって侵入を許したりしないように。当然その場合報酬はないし、理由によっては修復の手伝いもしてもらうわよ?」
史織「うっ・・・。そこを突かれると痛いわね・・・。まあ、大丈夫だとは思うけど・・・。」
燈紅「少し経った後、一度給仕の子たちにおにぎりでも運ばせるわ。腹ごしらえも必要でしょ?」
史織「あら、気が利くわね。えっと、今は・・・。」
現時刻は午後二時頃。ですが・・・。
史織「・・・霧が深すぎるせいで影がよく分かんないから、今が何時くらいか全然分かんないんだけど・・・。」
燈紅「まあ、澄水池にいる間は時間と言う概念を忘れることね。芙でないとここで現在時刻を知るのは難しいのよ。」
ここは澄水池の奥地。深すぎる霧のせいで太陽も見えず影も分かり辛いため、『今何時?』といったことがさっぱり分からないのです。いつもなら太陽や月、影を見ることで時刻と言うのが分かるんですけどねぇ~。
史織「まあ、別に時間を気にする必要はないか。じゃあ、おにぎり、よろしく頼むわよ?」
燈紅「ええ。そっちこそ、しっかりと役目を果たしてちょうだいね?」
そう言うと、燈紅さんは御魂邸の方へと戻っていきました。
史織「さて、とりあえず・・・、ゆったりしてましょうか。」
ふわわっ!?
・・・ゆったりできる時間があればどこでもゆったりする。これが当代の古屋の司書、史織さんなのです・・・。
◎追加版
(澄水池の主)垣出水 芙 能力・視程と距離感を操れる能力
澄水池は常に深い霧で覆われているため慣れた者でないと容易に霧の中を行き来することができない。しかし、池に慣れている者でも芙の支援がなければ迷うことも多い。それくらい澄水池は文字通り五里霧中な状態であり、芙はそんな澄水池を知り尽くしている。澄水池でとても長く暮らしてきた芙にとっては造作もないことらしい。澄水池の霧の中で現在時刻が分かるのも芙だけ。本人曰く、「んー、きっと体がもう覚えちゃってるんだろうね。」とのこと。
池の中や近辺にはタガメを含め数多くの仲間がいるらしい。普段は仲間の様子を見に行ったり、話をしたりしている。また、ある程度離れた場所に芙がいてもタガメの仲間からの信号は感じ取れるらしい。芙が御魂邸の屋敷の修復作業をしている間、石の門の番は仲間のタガメに任せていた。それくらいの距離なら非常信号は届くという。
長い間澄水池の主をやってはいるが外部の事情には詳しい。あまり池から離れたことはないが地理くらいなら宮よりも詳しい。もちろん決闘技術も高い。