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若鄙の有閑  作者: 土衣いと
秘境に起きた二度のご難
61/94

〈続談〉あの日の出来事(後編)

(・・・あれ?これってまだ〈続談〉だよな・・・?)

はい。ということで、まだ〈続談〉だというのに歴代最長回となった今回です(笑)。(笑い事じゃねぇよ。)途中で切るに切れなくなってしまったのでこんな長さに・・・。一応、前回の「回想話」からの続きです。ええ、最後までずっと。次回の冒頭は回想明けからになりますかねぇ~。

 午後六時半頃。きれいな夕焼けが若鄙の世界を照らしてくれています。

宮「ひ、姫さまぁ~、もうそろそろ帰らないと。暗くなってきましたし、危ないですよぉ~。」

珠輝「えぇ~、もうちょっといいじゃない。もうちょっとだけ~。」

今、お二人がいるのはとある山(・・・・)

珠輝「それに何かお土産を持って帰った方が、燈紅も芙もきっと喜ぶと思うわ(ノリノリ)。」

宮「そ、それはそうですけど~・・・。」

珠輝「決まりねっ!じゃあ、もうちょっと進んでみましょう!」

宮「あぁっ!ひ、姫さまぁ~!お、お待ちくださいぃ~!」

・・・・・

珠輝「な~にっかい~もの、な~いっかなぁ~?」

楽し気に歌いながら奥にずんずんと進んでいく珠輝さん。

すると、宮さんが。

宮「あっ・・・、姫さま。何か水の音が聞こえませんか?」

珠輝「えっ?」

さらさらさら~・・・

珠輝「・・・ほんと。近くに川があるのかしら・・・?行ってみましょう。」

宮「は、はい。」

二人が音のする方へ進んでいくと、そこには少し大きめの泉がありました。

珠輝「わあぁぁぁ~~!!きれいね~~!!」

宮「本当ですねぇ~。水が夕焼け色に染まって、素敵です!」

泉の畔には水を飲んでいる小さな動物たちの姿も見えます。この泉は近くに住む生き物たちの溜まり場になっているのかもしれませんね。

珠輝「いい所ね~。この景色が見れただけでも、ここまで来た甲斐はあったわね。」

宮「あぁっ!み、見てください姫さま!あそこに何だかすっごい大きな花がありますよ!!」

泉の真ん中に浮島があり、その真ん中に堂々と大きな花が一輪だけ咲いています。

その花の方へと宮さんが早々と近づいていきます。

・・・どちらかというと、何だか宮さんの方がはしゃいじゃってる気がしますね(笑)。

珠輝「もう、宮ったら。はしゃいじゃって・・・、ふふっ。宮ぅ~~、待ってよ~~。」

珠輝さんはのんびりと宮さんの後を追っていきます。

宮さんはその妙な(・・)花の傍まで近づき様子をまじまじと観察しています。

宮「な、何でしょうか・・・、この花?おっきい花ですねぇ・・・。私くらいなら何だかパクっと食べられちゃいそうですねー(笑)。」

モゴモゴッ・・・

・・・んっ?今、何だか花が・・・。

珠輝「宮ぅったら~、もう。どうしたの?」

宮「あっ。見てくださいよ姫さま、この花。何だか他の花と比べると、一段と大きく見えませんか?」

珠輝「まあ、ほんと。おっきいわね~・・・。(あれっ?この花・・・。)」

宮「もしかしてこの花、この泉を仕切っている泉の主だったりして~。はははっ、そんなわけないですよね~。きっとこの泉にも、芙さんみたいな方がいますよね~。」

モゴモゴッ・・・

すると。

宮「んっ・・・?くんくん・・・、何だかいい匂いが・・・。・・・後ろから?」

モゴゴゴッ・・・!

珠輝「っ!?宮ぅっ!!危ないっ!!!」

宮「へっ・・・?」

どんっ

咄嗟に珠輝さんが宮さんを突き飛ばします。

そして・・・。

ガバァッ!!!

珠輝「うぐぅっ・・・!?」

どてっ

宮「いったたたぁ・・・。ひ、姫さまぁ・・・、一体何を・・・。」

珠輝さんに突き飛ばされ尻餅をついてしまった宮さん。何が起こったのか、よく分かっていないみたいです。

宮「・・・・・・!?ひ、姫・・・さま・・・(震え)?」

ゴモモッ、ゴモモッ、ゴモモッ

宮さんが顔を上げるとそこに珠輝さんの姿はなく、傍に咲いてあったあの大きな花が何かを飲み込んだか(・・・・・・・・・)のように大きな花弁(・・・・・・・・・)を閉じ(・・・)、激しく上下に動いている光景が目に映りました。

ゴモモッ、ゴモモッ・・・、ベアァッ!!

どちゃっ

・・・数秒後、その花の花弁から何か(・・)が吐き出されました。

珠輝「・・・、ぐふっ・・・。」

宮「っ!?ひ、姫さまぁぁっ!!!」

そう・・・。あの大きな花が珠輝さんを飲み込んでしまったんです・・・。

宮「姫さまぁぁぁ!!!し、しっかりしてくださいぃぃ!!!ど、どうして私なんかを庇って・・・!!」

珠輝「・・・うっ、うぅぅ・・・。ぐ、宮ぅ・・・?」

宮「は、はいっ!(ぐう)ならここにっ!!」

珠輝「け、怪我は・・・なぁい・・・?」

宮「ぐすっ・・・、はい(涙)!!姫さまのおかげで、私は怪我一つありませんよ!!」

珠輝「うっ、うふふふっ・・・。そう・・・、よかったぁ~・・・。宮が無事で・・・、本当に・・・。うぐぅ・・・。」

ガクッ

宮「ひ、姫さまっ・・・!?へ、返事をしてください!!姫さまぁぁぁ!!!」

・・・・・・


 午後八時半過ぎ。いつもの抜け出しなら少なくとも八時前までには澄水池に戻って来ていた珠輝さんたち。しかし、お二人はまだ戻って来ていません。

芙「・・・。おかしい・・・。いくら何でも遅すぎる・・・。夜は野良の怪異たちが活発になる時間・・・、何も起こってなければいいんだけど・・・。」

ふわふわぁぁぁ~~

すると、芙さんの所に一匹の霊魂が近づいてきました。

芙「ん?ああ、伝令役かい。どした?」

ふわふわわわあ~

芙「むむー・・・。燈紅、違うんだよ。あの子たちが澄水池(ここ)にもう帰って来ているなら、私だってさすがに御魂邸(そっち)へ帰るよう促してるさ。でも・・・、まだなんだよ・・・。・・・帰って来たらあんまり心配かけるんじゃないよー、って二人に注意しとくからさ?お咎めは勘弁してやって、って伝えておくれよ。」

ふわっふわっ

伝令役の霊魂が御魂邸へ戻ろうとしたその時。

芙「あっ、ちょ、待った。」

ふわっ?

芙「・・・おおっ、霧の流れを感じる。・・・二人だ、たま姫と宮の感じがするよ~(安堵)。ふうぅぅ~~~。何だよ~、心配かけさせてくれちゃって~。これは少しキツめのお咎めを受けてもらわないとな!」

芙さんが近づいてくる二人に芙さんの術の解除を施します。遠隔でも問題なく術の解除はできますから。

芙「・・・?随分とゆっくり飛んでいるなぁ・・・。ああ、そうか。これは、怒られるのが分かってるから時間稼ぎをやってるわけだと。ふふっ、全く。そんなことしたって無駄さ。ちゃぁんと叱られてもらうんだからね。」

芙さんが深い霧の中に浮かぶ二人の影をようやく視認できたその時。

芙「ちょっとちょっとー?たま姫に、宮?あんたたち、こんな遅い時間まで帰って来ないだなんて、私も燈紅もカンカンだよー?分かってるのー?」

ひゅうぅぅ・・・、どさっ

芙「・・・?ちょっとー?二人とも、聞いてるのー?」

そう言って、芙さんが影の方へ近づいていきますと。

芙「全く、私らがどれだけ心配したと思っ・・・。・・・えっ?」

宮「うぐっ、はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。は、芙さん・・・、よ、よかったぁ・・・(安堵)。」

芙「宮・・・!?あんた、何でそんなにボロボロなのさ・・・?それに・・・、っ!!??」

ボロボロな身体の宮さんの肩には気を失い酷く衰弱した珠輝さんの姿が・・・。

芙「た・・・、たま・・・き・・・?な、何で・・・、二人とも、そんな・・・(驚愕)。」

宮「も、申し訳・・・ありません・・・。私のせいで・・・ひ、姫さまが・・・。は、芙さん・・・、ひ、姫さまを・・・、お、お願いします・・・。」

どさっ

力尽きてしまったかのように、宮さんはその場に倒れ込んでしまいました。

芙「ぐ、宮ぅっ!!珠輝ぃぃっ!!」

・・・・・・


 翌日の午前八時過ぎ。珍しく今日の天気(・・・・・・・・)はどんより曇り空(・・・・・・・・)いつものよう(・・・・・・)な清々しい朝(・・・・・・)という感じで(・・・・・・)はありません(・・・・・・)

がばぁっ!!

宮「姫さまぁぁっ!!!」

ふよよっ!?

ふわわっ!?

ここは御魂邸の一室、宮さんのお部屋。

そして、宮さんがお目覚めのようです。

宮「・・・あっ、あれ・・・?ここは・・・、私の部屋?どうして・・・、いったたたぁ・・・。」

ふよ~よ~!

ふわっふわわっ!

宮「ああぁ、ごめんごめん。大丈夫よ。あっ・・・、これ、あなたたちが手当てしてくれたの?」

宮さんは昨晩澄水池にてまさにボロボロ・満身創痍の状態で芙さんたちに保護され、すぐに御魂邸へと運ばれました。どうやら手当てはしてくれているようですが・・・。

ふるふるっ

ふわわふわっ!

宮「えっ・・・、燈紅さまが・・・?そう・・・、ふふっ。でも、あなたたちも今は私の介抱をしてくれていたんでしょ?ありがとう。」

ふ、ふよっふよっ!

ふわわわわぁぁっ!

宮「う~ん・・・。でも、私どうして怪我なんか・・・。今はえっと・・・、朝の八時くらいか。・・・えっ?は、八時っ!!??ってことは私、一晩眠っちゃったってこと!?」

むむ、少し今の状況が掴み切れていない様子ですね。

宮「・・・そうだ。昨日、私は姫さまと・・・。はっ!!ひ、姫さまぁぁっ!!!」

ばんっ

勢いよく宮さんは部屋から飛び出していきました。

・・・・・・

ばんっ

宮「姫さまぁぁっ!!!ご、ご無事ですかぁぁっ!!??」

芙「しーーーっ。」

珠輝「すぅぅぅ・・・。くぅぅぅ・・・。」

宮「ああぁっ、す、すみません・・・。」

宮さんが向かった部屋はもちろん珠輝さんの部屋。部屋には眠りについた珠輝さん、それを見ている芙さん、それと・・・。

燈紅「・・・少しは元気になったようね、宮。」

宮「ひ、燈紅さま・・・。」

燈紅「宮、貴方には聞きたいことがたくさんあるの。・・・話してくれるわよね?」

宮「は、はい・・・。」

芙「ここじゃ話し辛いだろう?たま姫の容体も今はかなり落ち着いた(・・・・・・・・・・)みたいだし、一旦場所を変えよう。」

燈紅「・・・そうね。じゃあ、皆?何か姫の様子に変化があったら、すぐに知らせてちょうだい。いいわね?」

ふややっ!

ふわわっ!

燈紅「じゃあ、宮に芙。私の部屋に行きましょうか、ついてきて。」

ということで、三人は燈紅さんの部屋へと向かいます。

・・・・・・

すぅっー、たんっ

燈紅「じゃあ、宮。話してくれるかしら?私はちょっと作業しながら聞くけど、構わずに話してちょうだい。」

宮「はい。実は・・・。」

・・・宮さんの説明は数分間続きました。

宮「~~~ということなんです・・・。」

燈紅「・・・。」

芙「つまり、要旨だけを取り出すとだ。たま姫があんなことになったのは山の泉に咲いてあったっていう大きな食人花がたま姫を飲み込んだのが原因だと。そして、飲み込まれたのは宮をたま姫が庇ったからだと。」

宮「は、はい・・・。全部、私の責任なんです・・・。私が、不注意だったせいで・・・、姫さまが・・・。」

燈紅「・・・。」

芙「え・・・?じゃあ、昨日宮が池まで帰って来た時、ボロボロだったのは何で?」

宮「うっ・・・。そ、それは・・・。」

燈紅「宮、正直に話してちょうだい?」

宮「うぅ・・・。弱り切った姫さまを背負っての帰り道、何としてでも姫さまだけでも早く屋敷までお連れしなければと思って、池までの最短距離を飛んでいたんです。でも、それが間違いだったんです。隠れずに堂々と空を飛んでいたせいで、強い怪異に襲われてしまって・・・。弱った姫さまを執拗に狙う奴でしたので、これ以上姫さまに危害を加えられるわけには絶対にいかないと。私は姫さまに負担がかからないよう全力で姫さまをお守りしながら戦ったんですが・・・、相手も私の手に余る相手でしたので・・・。」

芙「・・・そうか。でも、よく頑張ったじゃないか。」

宮「確かに、最終的には諦めてくれましたけど・・・。私が弱いばかりに、姫さまを屋敷にお連れするのが随分遅くなってしまったんです・・・。全部全部、私のせいなんです・・・。」

燈紅「・・・。」

べしっ!

宮「いたっ!燈紅さま・・・、申し訳ありません・・・。私が不甲斐ないばかりに・・・!」

芙「ちょ、ちょっと燈紅・・・。何も叩かなくても・・・。」

燈紅「・・・違うわ。」

宮「えっ・・・?」

燈紅「私が叩いたのは宮が全部自分のせいだからってずっと自分を責めてばかりいるからよ。いい、宮?何も貴方が全部の責任を負う必要はないし負わなくていいの。確かに、貴方は姫の警護を完璧にできたとは言えないかもしれない。でもね?元々完璧に任をこなせる者なんてのは少ないの。宮、貴方は姫を連れ帰る時に襲ってきた怪異から姫をちゃんと守ってくれたじゃない。それだけでも貴方は立派に務めを果たしてくれたわよ。」

宮「ひ、燈紅さま・・・。」

芙「宮よ、気付いてたかい?宮がたま姫を池まで連れ帰った時、宮には怪異に襲われた時にやられたであろう怪我や傷跡がいっぱいあったんだけどさ。たま姫にはそういった怪我や傷跡は一切なかったんだよ。」

燈紅「つまり、宮は格上の怪異相手とやり合っても、最後まで姫を守り切ってくれたってことよ。」

宮「・・・そう、だったんですか。よかった・・・。」

燈紅「貴方には感謝してるわ。もし、姫がお一人で外に出かけられていたらどうなっていたことかってね・・・。だから、私は貴方の責任だと言って今貴方を叱るつもりもないし、貴方が責任を一人で抱える必要もないの。貴方には自信を持ってもらわないと困るのよ。」

宮「・・・ぐすっ。わ、分かりました。この宮、うじうじするのはもう止めますっ!」

芙「ははっ、いい返事だね。どうやら宮の方はもう心配ないみたいだね、燈紅。」

燈紅「ええ、そうね。問題なのは・・・。」

宮「え?・・・問題?」

芙「ああ・・・。実は・・・。」

芙さんが何かを言いかけた時、部屋に霊魂たちが駆け込んで来ました。

ふやややっ!!

燈紅「えっ・・・!?姫の様子が・・・!?」

芙「・・・行こう、二人とも。」

宮「は、はいっ。」

・・・・・・

再び珠輝さんの部屋へと戻ってきました。

珠輝「うっ、ううぅぅぅ~~・・・。げほっげほっげほっ・・・。」

芙「うーん・・・、マズいね。ようやくさっき落ち着いてきたと思ったのに・・・。」

宮「あ、あの、姫さまは・・・。」

燈紅「・・・今、姫は厄介な病魔に冒されているの。」

宮「えっ・・・!?」

燈紅「貴方たち二人が戻って来た時、弱っていた原因のほとんどが創傷だった宮と比べて、姫の場合は全く違っていたのよ。恐らく、その食人花に飲み込まれた時に精気を根こそぎ奪われた上に特殊な病原菌(・・・・・・)に感染してしまったんだと思うわ。」

宮「そんな・・・。な、治るんですよねっ!?」

芙「それが、どうやら分からないらしくてね・・・。」

宮「えぇっ!?」

燈紅「・・・元々、霊魂である姫のお体は人間や怪異とは違って生きて存在・活動するための精気が多いの。そのおかげで普段は風邪や病気にかかったりすることはほとんどないわ。でも逆に言えば、何らかの原因で精気がなくなってしまうと、途端にとんでもなく体が弱くなってしまうし、自身の存在を保つことすら危うくなってしまうということ。今の姫は、そういう状況にあるのよ。」

芙「とりあえず、今は何とか生きていてもらうために精気が回復するような薬を燈紅が調合してたま姫に飲んでもらってるんだよ。精気の方は何とかそれでギリギリ対応できるらしい。」

燈紅「でも、問題なのは姫が感染した特殊な病原菌(・・・・・・)の方。これをどうにかしないことには姫の元気な姿を見ることはできないわ・・・。」

宮「ど、どうすれば姫さまの病気は治るんですか・・・?」

燈紅「もちろん、この病原菌に最も効果的な成分を持つ薬を姫に飲んでもらうのが一番。けど・・・。」

芙「その成分が分かんないんだよねぇ~・・・。」

燈紅「姫の症状を見るだけじゃ、さすがに検討が付かないし・・・。」

宮「あっ・・・、そ、そうだ(震え)。」

燈紅「何?」

宮「わ・・・、私が、姫さまの病気を引き受ければ・・・。」

芙「なっ、何を馬鹿な事言ってんの!そんなことしたら、あんたが・・・!」

燈紅「宮、落ち着きなさい。それでは、根本的な解決にならないわ。」

宮「で、でも・・・!」

珠輝「だ・・・、だめよ?宮・・・。げっほげっほ・・・!」

宮「ひ、姫さまっ!」

珠輝「もしそんなことしたら・・・、もう宮と口利いてあげないんだから・・・!うぐぅぅ・・・、げほげほげほっ・・・。」

宮「姫さま・・・。」

芙「・・・ねぇ、やっぱり人里にいる人間の医者に見せた方がいいんじゃないの・・・?」

宮「人里・・・?人間・・・?」

芙「ああ。人里には人間が寄り集まって暮らしているし医者だっている。ここからはちょっと遠いけどやっぱりその方が・・・。」

燈紅「・・・でも、この病魔が人間たちにどういう影響を与えるのか全く分からないわ。私たちは大丈夫だけど、人間だとどう感染してしまうのかも分からない。もしそうなってしまったら、とんでもないことになってしまうわ。」

芙「う~ん・・・。でもねぇ・・・。」

珠輝「げほげほっ・・・。うぐぅぅぅ~~・・・。」

芙「もうこれ以上たま姫の辛そうな姿、見てられないよ・・・。」

宮「あ、あの!」

燈紅「ん、どうしたの?」

宮「人間ならもしかして、この病気の対処法を知っている方がいるかもしれないんですか?」

芙「あ、ああ、そうだね。医者本人が仮に知らなくても医学書なんかがあればもしかしたら・・・、あぁっ!!!」

燈紅「な、何よ急に。どうしたの?」

芙「そうだよそうだよ!人里の医者も確かにそうかもしれないけど、それよりもっと確実な方法があるじゃないか!何で今までそれに気付かなかったんだ・・・。」

宮「そ、それって?」

芙「古屋の図書館(・・・・・・)さ。」

宮「・・・古屋?」

燈紅「あぁ・・・、なるほど。聞いた覚えがあるわ。人里離れた場所にあるっていうこの世界の知識の保管場所。そこにはありとあらゆる書物が眠っているって・・・。」

芙「そこでならこの世界のほとんどのことが調べられる。そこにある植物図鑑みたいなのを調べれば、例の食人花のことも食人花から移る病原菌の対処法も分かるだろう。そうすればどういう成分の薬が効果的なのかも分かるはずだ。」

燈紅「・・・聞いたわね、宮。貴方はその食人花のことを調べて病原菌に効く成分を持った薬草か何かを探してきてほしいの。私と芙は宮が戻って来た時すぐに作業に取り掛かれるよう、他の準備をしておくから。お願いできるかしら・・・、姫のために。」

宮「・・・はい!もちろんですとも!!この宮にお任せくださいっ!!!」

芙「古屋図書館は生命の森をずっと北の方にいった山の麓にあったはずだ。そんなに大きくはない建物だけど、すぐに分かるはずさ。」

宮「わ、分かりました。」

芙「頼んだよ、宮。今、たま姫を助けてやれるのは宮しかいないんだから。」

宮「・・・早く調べ上げてすぐに採取して帰って来ますから、待っててください。」

そう言って、宮さんが部屋を出ようとした時。

芙「あっ!ちょっと待った、宮。」

宮「えっ?な、何ですか?」

芙「危ない危ない、話し忘れるところだった。聞いたところによると、当代の古屋の司書は少々面倒な性格(・・・・・・・)らしい。」

・・・まあ、否定はしません(笑)。

芙「あそこは妙に変な規則(・・・・・・)を定めてあるんだ。それを破らないようにすること。司書に無断で本を読んだりしないこと。後は基本的に大丈夫だと思うけど、司書が何かぐずるようなら、これを条件として渡すように。」

燈紅「・・・そうね。後、これも持っていきなさい。」

そう言って、芙さんは金貨を燈紅さんは『純正霊魂』を差し出しました。

芙「ふふっ、いいかい?間違っても、両方同時に司書に見せるんじゃあないよ?必ず、先に見せるのは金貨からだ。最終手段が『純正霊魂』だからね?」

宮「・・・?わ、分かりました。では、行って参ります。」

すぅっー、たんっ

燈紅「宮・・・、お願いね・・・。」

芙「今は宮に任せるしかないさ。その食人花を知ってるは宮しかいないんだから。」

燈紅「・・・そうよね。」

芙「さあさあ!私らも準備に取り掛かるよ!私はたま姫の看病をしていようかな・・・。」

燈紅「・・・宮の持って帰って来る薬草以外の調合は先に済ませておきたいから、芙にはそれの採取をお願いしようかしら。」

芙「えー・・・?どういうもんなのか、分かるの?」

燈紅「ふふっ、昔の古知恵がこんなところで役に立つなんてね・・・。」

芙「ん?何て言ったの?」

燈紅「いいえ、何も。芙には、えぇーっと・・・。」

燈紅さんが紙に何かを書いています。どうやら芙さんに採取してきてもらう薬草の覚え書きみたいですね。

その覚え書きを芙さんに渡します。

燈紅「これをお願いしようかしら。」

芙「どれどれ・・・。げっ、こんなに・・・?」

燈紅「姫のためだもの、良質なのを大急ぎで頼むわね。」

芙「ふうー・・・、しょうがない。たま姫、待ってなよ?すーぐ戻って来て、手厚く看病してあげるからねっ。」

燈紅「私は、調合器材の準備と精気用の薬の補完。後は・・・。」

珠輝「うぐっ・・・、げっほげっほげほ・・・。」

燈紅「・・・。もう少し姫のお傍にいてあげないとね・・・。」

午前九時半前。珠輝さんを救うため、御魂邸総動員で全力を挙げて今やるべきことを尽くします。

◎追加版

(御魂邸の管理者)督守 燈紅   年齢・(成熟年齢)成熟未満、(種族年齢)成熟  能力・あらゆるものを扶ける能力

 元々の性格と能力が合わさって管理・統括・世話といった上からでも下からでも、何かを支える感じの役割が好き。好きというか、得意だし上手。長く生きてきたおかげでちょっとくらいなら独自の術も操れるようになったらしい。(例・屋敷に張っていた防壁術)どうやら何らかの古知恵があるようで医学や調合術の心得がある。でも、専門家ほどじゃあないっぽい。

 珠輝と宮の行動に日々手を焼いている節があるものの、それはそれで楽しんでいるという噂も。罰という名目で怪し気なお仕置き(・・・・・・・・)を考えていたり、それを聞いて慌てふためく宮の姿を見て楽しんだりと、なかなかいい(・・)性格をしている模様(笑)。そういった意味では宮から恐れられているものの、二人の仲は良好。長く生きている分頭の切れ具合は御魂邸一なので、からかい上手と説明するのが一番かもしれない。

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