〈第四面〉怒りの捌け口×2
少しばかり長めの回です。ようやく今章の根幹に関わりそうな部分に入ってきました。
今回少し、決闘描写シーンがいつも以上に分かり辛いかと思われます。まあ、理由は擬声語の描写が多すぎるせいです、はい。作者の頭の中では割と詳しめに決闘描写はでき上がっているんですが、やはりそれを文字だけに起こすのは難しい・・・、という理由で勘弁して下さい(涙)。擬声語それぞれのチョイスは完全に作者の加減ですので悪しからず・・・。
史織さんが客間の中で待つことしばらく。廊下の方から声が聞こえてきました。
???「んー・・・。お客さん・・・。私、お客さんなんて招いてたっけ?」
史織「(っ!?この声はっ!!??)」
すぅっー
???「失礼しまぁぁ・・・。」
声の主が客間に入るべく、襖を開けかけたその瞬間。
ビュゴオォォッ、ズザッ!!!
ビイィィィン・・・!!!
史織「ようやく会えたわね・・・。会いたかったわよ・・・?(ゴゴゴゴゴ・・・)」
???「ひっ、ひいぃぃぃっ!!!」
っ・・・!!??
瞬前まで襖から離れた位置の座布団に座っていたはずの史織さんが一瞬で襖の前まで移動し、声の主の首元にまるで凶器を突き付けるかのように、近接術式を威嚇代わりにと突き付けました・・・。(当ててはいません。)
どうやらこの方が『百科全草』を借りていった張本人のようですね。
???「あああ、あなたはっ・・・図書館のっ・・・!?」
史織「ええ、そうよ?覚えててくれて嬉しいわ?でも、肝心なことを忘れたまんまにしてくれてちゃ、こっちも黙ってられないから、ねぇ・・・?(ゴゴゴゴゴ・・・)」
もう史織さん、殺気がだばだば溢れ出ちゃってます・・・。マズいですね・・・。
???「ととと、とりあえず、その攻撃態勢を解いてくれませんかー!?どうか、落ち着いてくださいー!!」
しゅん
史織「・・・ん?ああ、そうね。ごめんなさい。」
・・・えっ?史織さん、やけにあっさりと手を引きましたね。・・・いや、別にいいんですが。
???「ふう・・・。とにかく、まずは座って話しましょう。ね?」
史織「・・・それもそうね。」
とりあえず、お二人は向かい合うように座りました。
???「えぇーっと・・・。とりあえず、あなたはあの図書館の司書さんで間違いないんですよね?」
史織「ええ、そうよ。私は古屋図書館司書長、古屋史織。・・・そういやアンタの名前、聞いてなかったわね。何?」
???「私、集宮といいます。そういえば、あの時は慌ててたせいで名前を言うのを忘れていたんでしたね・・・。すみません。」
ようやく名前が明らかとなった本の借主、集宮さん。・・・少し変わった名前ですね。
史織「宮?宮じゃなくて?ふーん・・・。」
宮「えっと・・・。それで史織さんは一体何をしにここへ?お客さん、なんですよね。聞きましたよ?」
史織「んー、まあ、客と言えば客かもしれないけど、そうじゃないと言えばそうじゃないとも言えるわね。・・・んっ?てかアンタ、私がどうしてここに来たのか分からないの?」
宮「うぅーんっと・・・・・・。あっ!もしかして、この前あげた『純正霊魂』の使い道が分からなくって、相談に来たとか!なぁ~んだ、それなら・・・。」
ごすっ
史織「違うっての。」
宮「い、痛いですー・・・。えぇー?じゃあ、一体何を・・・?」
むむむ・・・。どうやら宮さん、本を借りたままだってことを忘れてしまっているんでしょうか?
まあそれもそうなんですが、史織さんがやけに落ち着いているのが語りの者としては気になります。あれだけ殺気増し増しの状態でしたのに・・・。
史織「アンタが図書館から借りていった『百科全草』。返却期日が過ぎても一向に返しに来ないから、家の特命に従って、ここまでやって来たの!」
宮「『百科全草』・・・。あっ・・・!!!」
史織「・・・どうやら思い出してくれたみたいね?」
宮「・・・えっと、ちなみにお聞きしますけど・・・。その特命とやらに従ったとして、具体的に史織さんはこの後、どどど、どうするおつもりなんですかね・・・(震え)?」
史織「・・・(にっこり)。」
宮「ひぃっ・・(怯み)!!」
史織「とりあえず私の気が済むまでアンタをシメて、その後に『百科全草』を返してもらって、ついでに何か価値のありそうな物を頂いていくからそれの選別と、それから・・・。」
もう、思うがままの欲求を述べる史織さんです(笑)。
それを聞いた宮さんは。
だっ!
史織「あっ!!ちょっ!!まっ、待ちなさいっ!!!」
一目散に逃げていきました。
宮「ひいぃぃぃ~!!お許しをぉぉ~!!」
史織「アンタが忘れてたのが悪いんでしょーがぁぁぁ!!」
全速力で逃げる宮さん、それを追いかける史織さん。
少しばかりの逃走劇が繰り広げられます。
・・・・・・
宮「ぐうぅぅ~~~!!」
史織「やっと・・・、追い詰めたわよ・・・!」
逃走劇の終着点は御魂邸の裏庭となりました。
史織「さあ、観念して私の怒りの捌け口になりなさいっ!!!」
史織さんの怒りも再び湧き上がってきてしまいました。
ああ、宮さん。もはや、これまでか・・・。
宮「わわわわ、ダメですってぇ~~!!!」
しゅん
史織「・・・ん?うーん・・・、それもそうかしら・・・。ちょっとやりすぎかも・・・?」
あ、あれあれ?またもや、すんなりと手を引いちゃいました・・・。うーんっと・・・、これは?
宮「・・・ですか。」
史織「え?」
宮「大体、どうしてそこまでされなきゃいけないんですか・・・!?」
あれれれれ?今度は何やら宮さんの様子が・・・?
宮「私が本を返すことを忘れていたから悪いんです。悪いのは私なんです。なので、あなたの怒りは私が全て引き受けます。でも、私以外への攻撃行為は、私が許しません!!」
史織「ふふん、言ってくれるじゃない。見上げた精神ね。」
宮「ぐうぅぅ~~~!とにかく、私は怒ってるんです!」
史織「えっ?な、何によ?」
宮「私が全部悪いのに、私があなたの怒りを全部引き受けるからですっ!!」
史織「・・・アンタ、言ってること破綻してない?」
宮「はい!そうですね。私もそう思います!」
ふふっ。お互いに少しばかりか、本調子に戻ったようですかね?
・・・いいえ、分かりませんけどね(笑)?
史織「じゃ、相手になってもらおうかしら?私のこれまでの鬱憤、全部引け受けられるもんなら、引き受けてみなさいっ!!!」
宮「いいですもんっ!あなたの怒りを引き受けながら、私の怒りもあなたに発散させてもらいます!私が怒ってる理由とか道理とかは、この際気にしないでくださいっ!!!」
お互いの怒りを発散させるため、流れるように決闘のお時間となりました。もう、何だかよく分からないですね(笑)。
史織「こんなに決闘したいって気分になるの、久し振りっ。さあ、思う存分暴れさせてもらうわよっ?」
宮「いいですとも。何もかも、私が引き受けてあげますっ!!」
その頃、御魂邸内のとある一室にて。
とんとんっ
???「入りますよ?」
すぅっー
珠輝「あら、どうしたの?」
???「いえ・・・。見回りの者からちょっと前に廊下を飛び回っている者を二名見かけたという報告を受けたんですけど・・・。まさか、と思いまして。」
珠輝「・・・?まさか、って何が?」
にこにこ笑顔で問い返す珠輝さん。
珠輝さん、どうやら自分が疑われているとは夢にも思っていないみたいですね。
???「う~ん・・・。その様子だと、本当に知らないみたいね・・・。ということは・・・。」
珠輝「なぁにー?どうしたのー?」
???「いいえ、何でもありませんよ?もう夜も遅いですから、早くお休みになってくださいね?」
珠輝「えぇー?」
???「えぇー、じゃないです。では、失礼しますね。」
すぅっー
???「ふぅ・・・。てっきり宮と二人で何かしてたのかと思ったけど、どうやら違ったみたいね・・・。ふむ・・・、これはちょっとややこしい事態になっているのかもしれないわねぇ・・・。」
その通り。ややこしい事態は裏庭で起こっているんです。
宮「てやあぁぁ!!」
バシュシュシュシュッ!!
史織「ほいさっさ。」
しゅっしゅっ
史織さんは軽快に宮さんの攻撃を避けていきます。
戦況は史織さんが優勢ですね。優勢というか史織さんはまだ全然余裕な感じです。
史織「まだまだね。その程度の力じゃ、怒りの発散なんてできないんじゃないの?」
宮「ぐうぅぅ~・・・!やっぱりまだ私の実力じゃ、姫さまのお力になってあげられないってことですか・・・!」
史織「え、えっ?別にそこまでは言って・・・。ていうか、今なんて・・・『姫さま』?」
宮「私の怒りなんて、もうどうでもいいことです!ですが、このまま一方的にあなたにやられてしまうくらいなら・・・。せめて一矢報いて、私の実力の真価を今ここで発揮するのみ!」
史織「え、ちょ、覚悟を決めるの急すぎない!?」
ずごごごご・・・!
宮「いいんです。元々あなたと決闘をしたところで勝てる見込みなんてありませんでしたから。ですが、私の虚しく散った様を姫さまたちに見られたくはなかったので裏庭まで逃げてきたに過ぎません。さあ、私の覚悟は決まりました。あなたの覚悟はよろしいですか!?」
史織「ふふっ、上等じゃない。この消化不良な感じを次の一撃で発散させられるのなら、ドンっとこいってもんよ!」
おやおや、お互いに次の一撃で勝負を決める覚悟をしたようですね。
宮「この集宮!私の全力を以って、あなたの全力を受け止めてみせますっ!!」
史織「いいわ!アンタの全力、きっちり受け切ってやるわっ!!」
・・・んっ?
今の言葉の掛け合い、何か違和感があったような・・・。
宮「『イドルの嘗胆』!!!」
ぐゅぉぉぉぉぉ・・・!!!
史織「(コイツの技を、『返戻到来』で返すっ!!!)」
しゅびんっ・・・!!
宮さんは奥義『イドルの嘗胆』を展開し、史織さんは奥義『返戻到来』用のシールドを展開。
お互いの奥義が激しくぶつかり合って・・・!?
し~~~ん・・・・・・
史織「・・・。えっ?」
宮「・・・。あれっ?」
・・・えぇーっと。
宮「えっと、あの・・・、ど、どうしたんですか(焦り)?どうぞ、攻撃してきてくださいよ?」
史織「・・・何言ってんのよ。アンタの方こそ、早くかかってきなさいよ。」
・・・あー。なるほど、そういうことですか。
宮「い、いえいえ。あの、その・・・、できれば早く、攻撃していただけると・・・。」
史織「・・・?ああー・・・、そういうことね。分かった分かった。」
史織さんもどうやら気付いたみたいです。
史織「じゃあ、せっかくだしアンタのそれに見合う術にしようかしら?」
宮「えっ?あ、はい・・・。あの、できれば早く・・・。じ、時間が・・・。」
史織「私が独自で編み出した新技なんだから、ヘタに受けるんじゃないわよっ!」
おおっ!?
史織「とっておきの、『悠楽寛燕』!!!」
ピシュゥゥゥゥン!!!
史織さんの奥義『悠楽寛燕』が宮さんへと放たれます!
宮「うっ・・・。予想より弾速が遅い・・・けど、ええい!もう、やってやります!!早めに私が頑張ればいいこと!とおぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁ!!!」
宮さんが『悠楽寛燕』へ自ら突っ込んでいきます!
バリバリバリリリリリリッ!!
史織「おおぉぉぉ。まさか自分から突っ込んでいくなんてね。さあ・・・。どんなもんか、見せてもらおうじゃない。」
ピジュンピジュンピジュンピジュンッ!!
宮さんが『悠楽寛燕』と激しくぶつかり合うことによって『悠楽寛燕』のエネルギーが徐々に宮さんに引き込まれていきます。
宮「ぬぐぐぐぐう~~~!!!あ、あと少しぃぃぃ~~~!!!」
ピジュンピジュンピジュンピジュンッ・・・ピジュン・・・!
史織「うっそ・・・、本当に全部吸収しちゃったっていうの!?」
宮「はぁぁ・・・はぁぁ・・・はぁぁ・・・。うぐぐぅ・・・、私の全力を・・・、以ってすれば・・・!」
『悠楽寛燕』のエネルギーを全て吸収し尽くした宮さん。現状の様子はギリギリな感じですが・・・?
宮「でもこれで・・・、一矢報いてやれるはず!!」
史織「っ!?マズいっ!!??」
宮「私の真価、とくと味わってくださいっ!!『イドルの嘗胆』、解放!!!」
ぢゅぃんうぃゅぅん、ズババババババババババババババババッッ!!!!!
ズゴゴゴゴゴゴゴゴオォォォ!!!!!
ありとあらゆる種類・大きさの超多量の光弾が重く鋭い衝撃波と共に、宮さんを中心に全方位に展開・超高速で弾き出されていきますっ!
しゅんしゅんっ、ずがっ、ひゅんひゅんひゅんっ、ばしっ、どごっ
史織「ぐふっ・・・!な、何でシールドをすり抜けて・・・、うぐっ・・・!がはっ・・・!」
途端にシールドで防御しようとした史織さんですが、どうやらこの攻撃、シールドを通り抜けてこれるようで。向かってくる光弾があまりに超多量・超高速であるため、さすがの史織さんでも捌き切れずかなりの数の攻撃を受けてしまっています。
ズババババッ・・・!!
史織「うっ・・・。お、終わった・・・の?」
大雨のような光弾の嵐は止んだよう・・・ですが!?
ぢゅぃんぢゅぃんぢゅぃん・・・、ブオォォォォォォ!!!!!
史織「っ!!??」
ズゴゴオォォォォォォン・・・!!!!!
史織「ぐぐぐ・・・、うぅわあぁぁぁ!!!」
最後の最後に力のこもった衝撃波が史織さんを襲いました。
ダンッ、ズザザザザァァァ・・・!
大きく吹き飛ばされ、地面に叩き付けられてしまいました・・・。
・・・・・・
辺りがようやく静まった頃。
史織さんはというと地面に打ち付けられ、まだ倒れ込んだままなんですが・・・。
史織「・・・ぐふっ!げっほげほげほ・・・。」
おおぉぉ・・・、何とか意識はあるみたいです。
一方、宮さんはというとまだ宙に浮いたままなんですが・・・。
宮「・・・ぐうぅぅ~。私はここまで、ですかねぇ~・・・。」
ひゅるるるるぅぅ~~・・・、どさっ
そのまま地上へと落下していきました。
あらら・・・。まあ、とりあえずこの決闘、勝負あり(?)ですかね。
ごろーん
史織「ぐわぁぁぁ・・・。あー・・・、結構攻撃受けちゃった・・・。ったたたぁぁ・・・。」
その場に仰向けで寝っ転がりながら夜空を見上げる史織さん。
史織「ああぁぁー・・・、いい夜空ね。星がきれい・・・。」
少しばかり騒がしくあった決闘の余韻も消えて、いつもの御魂邸の静けさが戻ってきました。
史織「よっ、と。」
起き上がり、辺りを見回します。
史織「・・・あれ?変ね・・・。あんだけ激しい攻撃が飛び散ったってのに、建物や庭には被害がない・・・。何で?」
???「それは私がここの全てを保護しているからよ?」
史織「・・・誰っ!?」
午後十一時半過ぎ、夜も更けようとしている時間。
御魂邸の夜は、まだ続きそうですね。
(今回の主犯?)集 宮 種族・〈未公開〉 年齢・若いぐらい 能力・〈未公開〉
史織が捜し求めていた『百科全草』の借主その人。本人的には『百科全草』の存在をただ忘れていただけのようだが、本当にそれだけなのかは疑問が残る。『百科全草』程の分厚い書物の存在を忘れていただけ、とはなかなか考えにくい。そもそもなぜあそこまでして借りたかったのかも、未だに謎のまま。
性格は結構真面目な感じだが、やや抜けているというか詰めが甘いというかそういったところがある。少し臆病気質なところもありまだ実戦経験も少ないため、決闘はまだ苦手。近いうちに上手になりたいと考えている。それには、彼女が『姫さま』と呼ぶ者の存在が影響しているのだろうか。
〇宮の奥義『イドルの嘗胆』
自身を特殊な障壁で四方を覆う。敵からの攻撃が障壁に接触すると自身は普通にダメージを負うものの、障壁はその攻撃エネルギーを吸収し蓄える。一定時間が経つか、若しくは、吸収限界値に達すると障壁が解除され、それまで蓄えた攻撃エネルギーをその二倍の威力を誇る光弾と衝撃波に変換して周囲全方位に解放・放射する。簡単に言うと、カウンター技。まさかあの時、お互いの放つ奥義がまさか同じカウンター技だとは二人とも思っていなかっただろう。結果的に史織がそのことに気付いたので史織が積極攻撃側に立つことに決めたが。(『返戻到来』も『イドルの嘗胆』も相手からの積極的な攻撃行為がなければ全く意味をなさない。)障壁とはいうものの実質的にダメージを軽減してくれたりする効果はない。二倍の威力とはいうが単純に光弾の威力が二倍になるのではなく、数と速さのバランスで以って威力が調節されている。今回のでは史織の奥義が強かったため数も速度も物凄いことになり、結果的に史織へ多大なダメージを与えることに成功した。宮自身は史織の奥義を受け切った時点で既に体力の限界を迎えていた。
〇史織の奥義の一つ『悠楽寛燕』
史織が最近独自に編み出したという新奥義。つまり、古屋一族に伝わる一子相伝の術式系統ではない。今までの史織にはなかった感じの技であり、実に単純な技でもある。古屋の『術式』と史織固有の『気質』を混ぜ合わせ溜め込んだ特大の『術気』を放つ。見た目は特大の光弾みたいなものだが性質はまるで違うため注意。史織の気質のためか、弾速はゆったりめ。相手はこの攻撃を受けると史織の気質に飲み込まれる。要は、ゆったりになる(意味不明)。でも、威力は他の奥義と遜色ないくらいには強い。わざわざ新技を編み出したのはもしかすると、史織が個人的に今までになかった強力な遠距離技が欲しかったからかもしれない。いつか、どこかの誰かにリベンジを果たすために・・・とか?