〈第一面〉いざ、聞き込み開始
実は、前回の話が構想段階で途轍もなく長くなってしまったので、前回のと今回のとに分けることにした裏事情があったりなかったり・・・。ですがまあ、分けた方が題名的にしっくりきたので、よかったんじゃないかと思いますね。
史織「~~~ってことなんだけど・・・、何か知らない?(ゴゴゴゴゴ・・・)」
ウェンディ「・・・あなた、少し怖いわよ?」
史織さんはまず、クロマリーヌ館にやって来ました。
少しばかり殺気をウェンディさんに悟られちゃっていますね。そこは史織さん、しっかり隠さないと!
史織「・・・。で、どうなのよ?」
ウェンディ「もう・・・。まあ、そうね。館の近くにも金くらいなら落ちてることもたまにあるけど、さすがに霊魂の類はこの近くでは手に入らないと思うわよ?」
史織「じゃあ、他に霊魂が手に入りそうな場所とか、それっぽい場所とか、何かないの?」
ウェンディ「う~~ん・・・、そう言われてもねぇ・・・。」
伊予「ちょっと、あまりお嬢様を困らせないでもらえるかしら?」
史織「はあ・・・。アンタはどうなの、伊予?」
伊予「私は生まれてこのかた、館を離れたことなどほとんどありませんから。」
ウェンディ「どうも私たちじゃあ史織の力になってあげられそうにないわね。・・・外に関することなら、伊戸の方が知ってると思うわよ?」
史織「伊戸・・・ねぇ・・・。」
伊予「あらあら。まだ伊戸に負けたことを根に持ってるのかしら(煽り)?」
史織「うぐっ・・・。そ、そんなんじゃないわよっ(焦り)!ったく・・・。」
ウェンディ「それよりも、ねぇ史織。どう?また私と一戦してくれないかしら?あの時みたいに、燃えるような熱い一戦をさぁ?」
史織「・・・。そうねぇ・・・、今の私は虫の居所がすっごく悪いのよね。何ならその捌け口にでもなってもらおうかしら・・・?(ゴゴゴゴゴ・・・・)」
・・・何だかすっっっごい殺意を出しちゃってます(笑)。・・・ってよく考えたらそれ、ただの八つ当たりじゃないですかー。
ウェンディ「うっ・・・(怯み)。ま、まあ、気分が乗らないのなら、仕方がないわね(焦り)。またの機会にしましょう、ねっ(懇願)?」
史織「ふんっ・・・!アンタがそう言うなら、仕方ないわね(得意気)。」
伊予「ちょっと、お嬢様をこれ以上・・・。」
史織「ん゛っ(威圧)?・・・何?」
伊予「うっ・・・(怯み)。」
ウェンディ「(ちょ、ちょっと伊予ー!?今の史織を怒らせたらマズいってー!きっとただじゃ済まされないよー!!ここは大人しく帰ってもらおう?)」
伊予「(ぐぬぬ・・・。お、お嬢様がそう仰るのでしたら・・・。)」
史織「・・・?何、どうしたの。」
ウェンディ「い、いやぁ、何でもないわよ(焦り)?」
伊予「そうそう。何もありませんわ(焦り)?」
史織「・・・。まあ、いいわ。邪魔したわね。」
ウェンディ「念のため、伊戸にも話を聞いておくといいわよー。」
・・・ばたん
史織さんがウェンディさんの部屋から退出しました。
ウェンディ「・・・ふぅ。」
伊予「だ、大丈夫ですか?お嬢様。」
ウェンディ「ええ、大丈夫よ・・・。あの威圧感、もう味わいたくはないわね・・・。寿命が縮んだ気がしたわ。」
伊予「伊戸の方は、大丈夫でしょうか・・・。」
ウェンディ「まあ、伊戸なら大丈夫でしょ。私たちの中で、唯一史織を負かしてるんだから。・・・きっと大丈夫よ・・・(震え)。」
・・・・・・
で、そんな伊戸さんはというと。
伊戸「あれー?史織さん、もうお嬢様とのお話は終わったんですか?」
史織「ええ。何の収穫も得られなかったけどね。・・・、一応アンタにも聞いておきたいんだけど。」
伊戸「え、何ですか?知ってることでしたら、教えてあげますよ?」
史織「あら、そう・・・。(・・・意外と素直に教えてくれそうね。リミューの時は勿体ぶってた癖に・・・。)」
ああ・・・、そんなこともありましたね。あの時は大変でしたね・・・。
史織「まあ簡単に言うと、霊魂がいっぱいある所とか手頃に手に入りそうな場所とかを探してるんだけど・・・。」
伊戸「・・・ふむふむ。霊魂が手に入りそうな場所、ですか・・・。」
史織「ウェンディは、アンタの方が当てになるかも、って言ってたんだけど。どう?」
伊戸「ふーむ・・・。霊魂というのは基本的に静かで穏やかな場所を好むものです。堅くな鉱山には怪異たちがいっぱい住んでますし、お世辞にも静かな場所とは言えないですからね~。探すのでしたら、もっと静かな場所がいいと思いますよ?」
史織「静かな場所ねぇ・・・。家の近くも割と静かなんだけどなぁ。」
伊戸「ですが、静かな場所って言ってもそんな場所はたくさんありますしねぇ・・・。あまり大した情報じゃなかったですかね。お役に立てず、すみません。」
史織「まあ、ウェンディたちと比べたら、まだマシよ。」
伊戸「まあまあ。そうお嬢様方にキツく当たらないでくださいよ。またいらしてください。お嬢様方もお喜びになりますので。」
史織「・・・そういえば、今日はリミューはいないの?」
伊戸「リミュー様でしたらいつものように外へ出かけられていますよ。日が暮れる頃にはお戻りになるかと。」
史織「・・・そう。」
伊戸「何か?」
史織「・・・いいえ。長い間外にいたリミューなら、もしかしたら、って思っただけ。それじゃあね。」
とりあえず、史織さんは次の目的地に向かいます。
伊戸「あぁー、なるほど。それは確かに一理あるかもしれないですね。お帰りになったら聞いてみようっと・・・。」
史織「~~~っていうわけ。何か知らない?(ゴゴゴゴゴ・・・)」
千鶴「いやあの、史織さん。・・・こ、こ、こ、怖いです・・・。」
次は名草神殿にやって来ました。
もうあまり殺気を隠す気がないみたいですね(諦め)。
史織「どうなの?」
千鶴「いやー・・・、私はさっぱり・・・。」
史織「そっちの二人は?」
高御「・・・ん?ああ、霊魂だろ?別に知らないこともないが・・・。」
史織「えっ、ホントっ!?」
木実「私たちを誰だと思ってるのさ。」
史織「何を知ってるの、教えて?」
高御「では教える代わりに、私と一戦するってのはどうだ?」
史織「・・・は(威圧)?」
千鶴「ひいぃぃ・・・(怯え)!た、高御さまぁぁ~!」
高御「うう・・・、分かった分かった。ごめん、ごめんって。」
木実「はっはっは!これは凄い殺気だこと。」
千鶴「笑い事じゃありませんよぉぉ~!」
史織「ふふっ、それでいいのよ。さっ、話してちょうだい。」
・・・。何だか史織さん、気迫だけで相手を黙らせる強盗みたいになってませんかね・・・?
高御「嘗て霊魂はこの地に広範囲に分布していたんだが、その希少さと利便さから乱獲しようとする者が多くてな。そいつらによって霊魂の数は酷く減ったもんだよ。」
木実「そこである時、これ以上乱獲されないためにってことで霊魂を保護しようっていう動きがあったのさ。随分昔だけどね。」
高御「そしてその結果、霊魂はそれ以降身近では一切見かけられなくなるほどの希少な存在になったんだ。もう私も長らく見ていないな。」
史織「じゃあ、今はどこに行けば霊魂を見られるって言うのよ?」
木実「霊魂自体には二種類あるのは知ってるよね。意思があるものと、そうでないもの。本当に滅多にないことだけど、意思のない霊魂なら人目に付かない静かな場所で自然発生してることはあるよね。」
高御「でも、意思のない霊魂でも自然発生した後はいずれ回収されるからねぇ。どっちにしても、今じゃ霊魂なんてある場所を除けば見ることなんてできないさ。」
史織「ある場所、ってどこよ?」
木実「それは分かんないね。」
史織「えぇー!?」
木実「そここそが霊魂を保護している場所だからね。基本的にほとんどの者はその場所を知らないはずさ。場所が知られているようじゃ保護の意味が成り立たないからね。」
史織「そんなぁー・・・。」
木実「ところで・・・、史織が貰ったのって『純正霊魂』なんでしょ?」
史織「ええ、それは間違いないわ。」
木実「てことはさー・・・。」
高御「ああ、そうだな・・・。」
史織「え、何よ。何二人で納得してるのよ。」
高御「『純正霊魂』は意思のない霊魂の中でも最高の代物だ。しかし、そんな代物を本を一冊借りるためだけに譲るなんて、普通は考えられない。」
千鶴「た、確かにそうかもしれませんね。」
木実「じゃあ、千鶴よ。問題だ。本の借主はどうしてそんな貴重な代物を史織に譲れたんだと思う?」
千鶴「え、えぇっと・・・。どうしてもその本が欲しかったから?」
木実「うーん、確かに何か特別な事情があってどうしてもその本が欲しかったのかもしれないね。でも、ちょっと正しい答えとは言えないかなー。他に何か思いつくことはない?」
千鶴「うぅーんっと・・・。んん~~~・・・。」
木実「ふふっ、ちょっと難しいかな?」
千鶴「もしかして・・・、その方は『純正霊魂』の価値を知らなかったんじゃないですか?だから・・・。」
高御「いいや。本を借りる時、古屋のが本を貸すのを渋ったからその条件として金貨の後に『純正霊魂』を差し出してきたくらいだ。その者も価値くらいは知っていたはずさ。」
木実「でも・・・、惜しいところかな。」
千鶴「惜しいんですか・・・。うーんと・・・。」
史織「・・・ねぇ。一つ聞いてもいいかしら。」
高御「おっ、何だ?」
史織「霊魂を保護してるって場所にはそれなりの数の霊魂がいるってことで間違いないのよね?」
高御「・・・ああ。その当時に残っていた霊魂のほぼ全て、後から自然発生した分も合わせると、まあそれなりはいるだろうな。」
史織「はあ・・・。そういうことね。つまりは結局、その場所を見つけないと意味がないってことかぁ・・・。」
千鶴「・・・?」
史織「じゃあ、私はそろそろ行くから。色々聞けて助かったわ。」
木実「ふふっ、まあ頑張りなー。」
ん?何でしょうか。何か分かったような雰囲気で史織さんは神殿を後にしました。
千鶴「え、えぇっ?どういうことです?」
木実「あらあら、千鶴はまだ分かってなかったか。」
高御「まあ、古屋のは元々勘の良い奴だ。千鶴は悪くないよ。」
千鶴「ええー!もう史織さんは答えが分かったっていうんですかー!?・・・一体、答えは何なんですか?」
高御「はははっ。千鶴もいい線いってたんだけどねぇ。」
木実「いいかい、千鶴?家の傍には竹林があって、筍がたくさん採れるよね。」
千鶴「はい!私の大好物です!」
高御「(うおっ!・・・か、かわいいなぁ、もう!)」
木実「でも例えば、筍が家以外では採れなかったとしよう。すると、筍は外には出回らないから貴重品として扱われることになる。でも、家の中じゃあたくさん採れる物だから、私たちにとっては貴重品ってわけじゃあないよね。」
千鶴「うーん、まあそうですねぇ。筍は大好きですけど、貴重品だとはあまり思わないですかね~。」
木実「でも、外じゃあ筍を欲しがる人がたくさんいるわけだ。そして、外の人が千鶴の欲しい物を持っているとしようか。そんな時、千鶴ならどうする?」
千鶴「そりゃあ、家の筍と私の欲しい物とを交換してもらいますよ!私は筍をたくさん持っているので少しくらいなら分けてあげてもいいですし、相手の方との利益も一致していますもの!」
木実「うふふっ。ま、そういうことだよ。」
千鶴「・・・そっかぁ!つまり、本の借主さんは『純正霊魂』を簡単に手に入れられる環境に住んでいる方、つまり、霊魂の保護場所に住んでいる方だから、少しくらいなら史織さんに渡してもよかった、ということなんですね!」
木実「保護場所は霊魂には住みやすい環境になっているはずだからね。『純正霊魂』も生まれやすいはずさ。それでも希少なはずなんだけどね。」
高御「けどまあ実際、本当にそいつが『純正霊魂』を簡単に手に入れられるのかどうかは分からないんだが少なくとも、渡してもいいくらいの認識はあった、ということだな。」
なるほどなるほど。つまり、史織さんの捜し求める借主さんはその霊魂保護場所に住んでいる可能性がかなり高いというわけですね。
高御「後は古屋のがその場所を見つけられるかどうかだな・・・。まあ、我々が教えるわけにはいかんからな。」
千鶴「・・・えっ?その場所を知っているんですか?」
高御「・・・まあな。実は意外と場所自体はどの辺にあるのかを知っている怪異は結構いるはずさ。」
千鶴「え・・・。じゃあ、どうして教えてあげなかったんですか?」
高御「まあ・・・その、なんだ。保護されている場所である以上、簡単に漏らすわけにはいかないってことさ。それは場所を知っている者全員に共通する暗黙の取り決めさ。けど、あの古屋のを相手にして『場所は分からない』なんて嘘、よく疑われなかったものだな。さすがは木実だ。」
木実「ふふっ、私の嘘は伊達じゃあないからね。内心は少しひやひやしてたけど。高御の言葉にも、史織ったら何の疑いなく納得してたもんね。」
高御「はっはっは。我が力も伊達ではないってことさっ!」
千鶴「(高御さまの『真実』と木実さまの『嘘』、お二人の巧みな話術の前には史織さんですら敵わないってこと・・・。やっぱり、お二人とも・・・凄い!)」
高御「・・・ん?どうしたんだい、千鶴や?」
木実「ふふっ、何さ。ぽかーんって口開けちゃったままで。」
千鶴「いいえっ、何でもないですよっ。ふふっ。」
〈霊魂〉
イメージとしては我々の言葉でいう『魂』で大差ない。ただ、若鄙においては『霊魂』と『魂』が厳密には別物扱いになっていたりするのでややこしい。
霊魂は自然的に生まれ自然現象のようにただふわふわと漂っているだけの霊魂と、意思・自我を持ち独立して行動できる霊魂の二種類に大別される。前者の霊魂は特に材料としての利用価値が高い。(『純正霊魂』は前者に当たる。)魔法、医術、錬金術、鍛冶等の分野において非常に重宝されている。高御と木実の話にあった『霊魂が乱獲されていた』という話は基本的に前者の霊魂のことである。また、『霊魂を保護しようとした動き』は後者の霊魂が前者の霊魂を保護しようと進めたものである。前者と後者の霊魂は今も尚静かに安全にその保護場所で共存している。その保護場所は若鄙のどこかに存在するらしい。霊魂は静かで穏やかな場所を好むらしいが・・・。
『純正霊魂』とは、自然的に生まれる霊魂の中でも特に希少な霊魂である。だが、自然的に生まれるものばかりではないという噂もあるらしい。透き通る程きれいで澄んだ見た目、触ると冷っとしたり温もりがあったりと温度が常に変化し続けている、といった特徴がある。本当に、滅多にお目にかかれる物ではない。そんな代物を差し出されたら、史織が貸し出しを許可したのも頷ける。そりゃあ欲しいもん。正直、しょうがないと思う。