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若鄙の有閑  作者: 土衣いと
始まりは大きな嵐から
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〈第三面〉金城湯池の守り人(前編)

 史織「な、何とか嵐は抜けたけど、服がびしょびしょよ・・・。うぅっ、寒い・・・。」

午後三時頃、晴れたり曇ったり。万能の湖から堅くな鉱山までやって来た史織さんですが、びしょ濡れのままでは風邪を引いてしまいますねぇ。一度休憩がてら、服を乾かした方がいいのでは?

史織「この嵐の雲の流れを見ると、やっぱり筑紫が言ってたように堅くな鉱山の方から流れてきていたのは確かね。うっすらだけど、鉱山の方から雲が広がってきているように見えるわ。・・・あぁっ、寒い。・・・、一度日向に降りて、温まりましょう・・・。」

それがいいです。休憩は大事ですから。よく日に当たれそうな場所を探しましょう。

史織「あっ、何かあの辺りだけやけに晴れてるわね。丁度いいわ。」

すいぃ~っとその方角へと飛んでいく史織さん。近づいていくとあら不思議。植物などほとんど生えないこの堅くな鉱山に、その晴れている周辺だけ植物の緑豊かな景色が映ります。気候も良好、最高の陽気ですね。

史織「すっごーい・・・、この鉱山にこんなきれいな場所があったなんて。・・・、ん?」

おや、史織さん。どうやら気付いてしまったようです。その緑豊かな景色の奥に、奇妙な館が建っていることに・・・。

史織「ああー、キテるわ。私の勘がうずいてる。どうやらあそこに犯人がいるみたいね。」

ふむ。史織さんの勘ならほぼ間違いないんでしょうが、服を乾かしたり休憩したりするということはすっかり頭の外へいってしまったようです・・・。大丈夫でしょうか?

史織「ああー、服・・・。まあ、まだ濡れてるけどこのままでも大丈夫でしょ。」


 速度を上げて、その奇妙な館へと近づいていきます。

すると。

???「ちょーっとお待ちを。どちらさんですかねー?今日は来客があるとは聞いていないんですが。」

むっ、館の入り口付近に誰かいますね。

史織「あー?そんなこと、こっちには関係ない話だわ。アンタ・・・、じゃあない(・・・・・)わね。この館の中にいるヤツに用があんのよ、私は。」

???「ですがねー、客人でも商人でもなさそうな人を館に入れるわけにはいきませんねー。ましてや貴方は何だか・・・、敵意が()き出しといいますか・・・。そんな人を通すわけにはいきません。」

史織「ていうか、アンタは誰よ?」

???「私は河瀬見(かわせみ)伊戸(いと)と申します。お嬢様から、この館・クロマリーヌの外回りを任されている者です。」

どうやらこの方、このクロマリーヌという館の主人さんに仕えている方のようです。

史織「外回りって・・・、いつも何やってるの?」

伊戸「え・・・?ええ~・・・、まあ、普段は館の庭仕事をやったり・・・。この辺り一帯を緑でいっぱいにするのも大変でしたね~。」

史織「この一帯の緑を、アンタがやったっての?し、信じられないわ・・・。でも、おおよそただの雑用ってところなのね。」

伊戸「・・・はっ!ち、違いますよっ!本来の仕事は館の守護・警備ですよっ!ただっ、普段は来客なんてありませんから暇なだけで・・・。」

史織「・・・、何だか私んとこと一緒で泣けてきたわ。」

伊戸「庭仕事の技術力が上がるっていうのも、得意分野が増えるみたいでいいものですよ。」

史織「私んとこもさ、図書館だってのに誰も来ないのよ・・・、仕方ないけどさ。来るヤツと言えば、いつもの顔馴染みが来るくらいで。まあ、私は縁側でゆったりと過ごすのも好きなんだけどね。」

伊戸「あぁー分かりますそれ。昔ならともかく、今じゃ来客といえばお嬢様のご友人くらいで特に気を張っていなくても大丈夫な方ですし。ぽかぽか陽気に当たりながらゆっくり過ごしたり、庭仕事したりするのも私は好きですから。」

史織「そうなのよね。あのゆったりした時間を過ごすってのが、私の生きがいと言っても過言じゃないわね・・・。」

お二人さん、何だか会話が盛り上がってきましたね。

史織「・・・、はっ!」

伊戸「・・・、はっ!」

史織「ち、違うわよっ!そんな呑気な話をしに来たんじゃないわ!」

伊戸「そ、そうですよ!貴方とは、話は合いそうな気もしますけど、敵意のある方を館へ通すわけにはいきません!」

史織「ふん!湖の嵐の件についてはアンタじゃ話にならなさそうだから、この館のお嬢様(・・・)とやらに話を聞かせてもらうわよ!そのためにも、アンタにはここで極楽の日向ぼっこでもしててもらうわっ!!」

伊戸「久々の守護のお仕事、ここで守らねばお嬢様に示しがつきませんっ!『鉄壁の守護神』と謳われたこの河瀬見伊戸、全身全霊を以って侵入者を排除しますっ!!!」


 本日三戦目の決闘の時間のようですね。何だかようやく正々堂々とした決闘で、ホッとしています。強敵の予感がします、頑張ってください。

伊戸「ふぅぅぅぅ・・・。」

史織「(ん・・・、攻めてこない?だったらこっちから!)」

伊戸さん、何やら深呼吸しているようですね。どうしたんでしょうか。

史織「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」

ドッカァーーン!!!

史織さん、渾身の術攻撃が炸裂。大きな土煙が上がります。

史織「手応えあり、なぁんだ。呆気なかったわね。・・・、なっ!?」

土煙が晴れると、そこには微動だにしていない伊戸さんの姿が!

伊戸「ふぅぅぅぅぅぅぅ・・・。」

史織「なっ、何で!ちゃんと命中したはずなのに!術が効かないの!?だったらっ!」

おおっと!史織さん、伊戸さん目がけて突っ込んでいきます。これは・・・!?

史織「物理でぶっ飛ばすだけよっ!!はあぁぁっ!!!」

ドガァッ!!!

史織さん、相手に直接蹴りをいれるとは。思い切った行動です・・・。一発入れた後、すかさず伊戸さんとの距離も取ります。

しかし。

伊戸「ふぅぅぅぅ・・・。」

史織「何で!効いてないのよ!!!ていうか、少しは反応しなさいよねっ!」

伊戸「ふぅ・・・。いえ、ちゃんと効いてますよ。さっきの術も今の蹴りも、痛かったですもん。」

史織「嘘おっしゃい!じゃあ、何で微動だにしてないのよ!?」

伊戸「まあ、あれですよ。それは私が頑丈すぎる(・・・・・)だけですね。私でなければ今の二回分を直撃で貰って平然と立っていられるなんてのは、無理ですよ。」

史織「こんのっ・・・!」

伊戸「では・・・。貴方は二度私に攻撃をした。エネルギーも充填完了しましたので、私も二度攻撃させていただきますからねっ。」

シュタッ!シュバッ!!

史織「なっ!?(早いっ!!)」

ドグガァッ!!!!

史織「ぐぅふぅぅっ!!!」

ズザザァァ・・・。

なんと!伊戸さん、瞬間移動のような速さで間合いを詰め、すかさず強力な蹴りを決めます。さすがの史織さんも反応し切れず、腕でガードしたものの直撃です。地面と靴の擦れる音がはっきり聞こえるほど、大きく吹き飛ばされてしまいました。

史織「くっ、なんて速さなのっ!?・・・、はっ!?」

ヒュッ!

史織さん、驚異の勘で咄嗟にその場から離れます!

伊戸「おっ?」

ドグガァァァァン!!!!

今史織さんのいた場所に伊戸さんの踵落としが炸裂しました。史織さん、間一髪で回避に成功です。

史織「はぁ・・・、はぁ・・・。」

伊戸「今の二撃目・・・、よく避けられましたね。」

史織「はぁ・・・、か、勘よ、勘。」

伊戸「勘、ですか・・・。今までのような並の者なら今ので勝負は決まっていたんですが・・・。なるほど・・・、面白い。久し振りに熱い勝負ができそうですっ!」

こ、これは・・・!伊戸さんはかなりの強敵。史織さん、かなりの大ピンチのようです!


 後編へ続く

(クロマリーヌの外回り)河瀬見(かわせみ) 伊戸(いと)   種族・翡翠(ひすい)  年齢・並以上  能力・とことん頑丈でタフな能力

 通称・鉄壁の守護神こと、翡翠の怪異。現在クロマリーヌの守護役として働いている。が、最近はめっきり庭仕事・緑を育むことに精を出している。元々植物いじりが好きなのもあるだろう。誠実で真面目、少しのんびり屋で心の広い寛容な性格。出身は堅くな鉱山だが、クロマリーヌ当主にその鉄壁さを買われ、本人も望んで彼女(当主)に仕えることを決めた。人当たりも良いため、敵意のない相手となら誰とでも友好的になることができる。自身の資質とその能力も相まって、超強靭な防御力と耐久力を持つ。また、体術も心得ており高速で間合いを詰めてからの物理技が主力の攻撃手段。今までクロマリーヌ守護役として、一度も侵入者を通したことはない。肉体・精神共に超強靭であるため、彼女を突破することは凄腕の猛者であっても非常に途轍もなく困難を極める。彼女の頑丈さは、怪異の間ではかなり有名。


〈クロマリーヌ〉

 堅くな鉱山中腹に建つ館。周辺は伊戸の成果により緑に囲まれているが、元々は草木も生えない鉱山地帯であった。ここには今回の事件の主犯と思われる人物がいると思われ、その他にも数名の住人が確認されている。

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