〈後日談〉一通りを終えて
ってなわけで、なし崩し的な感じになっちゃいましたが、この回にて『第二章』は終了になります。前章と比べると〈番外面〉が短めの内容になってますが、あれはちょっと前章のが長くなりすぎちゃっただけで・・・(笑)。でもまあ、それを踏まえても今章の〈番外面〉は少し短めでしたかね?引き続き、贔屓にして下さっている方には感謝をしつつ、またの次章をお待ち頂けると嬉しい限りでございます。
裏空き地での決闘の日から数日後。
史織「・・・で。あれから全く音沙汰がないから、ここまで来たんだけど。何か文句ある?」
永佳「い、いやぁ~・・・。えぇ~っとだなぁ~・・・。」
午後二時過ぎ、今日はそれなりにいい天気です。
ここは座学堂。永佳さんが手掛ける教育施設であり、史織さんも嘗て通った施設でもあります。
永佳「わ、わざわざ史織の方から来てくれるとは、嬉しいねぇ・・・(焦り)!えぇ~っと、な、何か?」
史織「とぼけるんじゃないわよ。あの時、『詳しいことはまた今度』なんて言ったっきり一向に話に来ないから、直接来たの!」
永佳「あ、あぁー・・・。そ、そのことね・・・。えっと・・・、でも、今から子供らとの授業があるんだけど・・・。」
史織「・・・しょうがないわねぇ。少しくらいなら手伝ったげるから、その代わり、後できっちりと話してもらうからね?」
永佳「おっ・・・、それは助かるね。皆も喜ぶと思うよ。」
史織「はいはい。(・・・ま、子供の相手くらい安いもんよ。)」
と、軽い気持ちで引き受けた史織さんでしたが・・・。
・・・・・・
史織「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」
永佳「はっはっは!なんだ、くたくたじゃないか(笑)。」
午後四時過ぎ。授業も終わり、子供たちも帰った後です。
史織「い・・・、今の子供らって・・・、何であんなにすっごい元気溌剌なわけ・・・?私の子供の頃とは大違いね・・・。」
永佳「いつもはもうちょっとマシなんだが、今日の相手は史織だったからね。いつもの五割増しくらいは元気だったかな(笑)?全く、史織は人気者だね。ふふっ。」
史織「大体、アンタが授業だ、って言うからてっきり座学の何かかと思ってたのに。よりによって『裸足遊び』って・・・。」
永佳「どうだった?久し振りの『裸足遊び』は?」
史織「子供の頃は何で裸足でやるのか意味が分かんなかったけど・・・。今になっても・・・、やっぱり分かんないわね(思考放棄)!」
永佳「まあ、そう言うなって。史織が皆の相手をしてくれたおかげで、私は座ってのんびりと子供らを観察できたよ。」
史織「うぎぎ・・・!私に全部押し付けてくれちゃって・・・!」
永佳「でも・・・、楽しかったろう?」
史織「・・・ふんっ(照れ)!」
永佳「ふふっ。まあ何にせよ助かったよ。また何かあったら頼むことにしようかな?じゃあ、気を付けて帰るようにな。」
史織「ふっ、それ私に言うこと~(余裕)?もう・・・、じゃあね。」
そう言うと、史織さんは座学堂を後にしようとします。
・・・えっ?
史織「・・・っじゃないわよー!!!」
永佳「うっわっととと。」
史織「何さらっと帰そうとしてくれちゃってんのよー!まだ私の話は終わってないわよー!!」
永佳「あー・・・。じゃ、じゃあ、とりあえず中に入ろうか。」
そして、お二人は談話室へやって来ました。
永佳「さあ、ここでならいいだろう。」
史織「ったく、何でわざわざこんなところで・・・。」
永佳「まあまあ、細かいことは抜きだ。」
史織「まあ、いいわ。じゃあ、話してもらうけど・・・。」
と、お二人の質疑応答が始まります。
・・・・・・
史織「・・・つまりは、ただのアンタの自己満足ってわけー!?」
永佳「おいおい、自己満足とは言いがかりだなぁ。私はただ、修行嫌いな誰かさんが少しでも心変わりしてくれたら、と思っただけ。そのために、千鶴にちょっと働きかけただけさ。特訓自体は千鶴にとって悪い話じゃなかったし、おかげで千鶴は一段と成長できた。千鶴は嬉しいし、新たな教え子ができた私も嬉しい。」
史織「私は嬉しくないの!」
永佳「まあまあ。本当なら私が直接史織に稽古をつけてやりたい気持ちだが・・・、無理矢理させるのは、間違ってるからね。」
史織「うっ・・・。」
永佳「今更私が史織に教えることなんて、もうないからね。今の史織の気持ちを一番動かせそうだったのが、千鶴だったってわけ。史織ったら、小冬とは決闘したがらないからね。」
史織「そ、それは・・・。」
永佳「ふふふ、まあいいさ。私は皆にいろんなことを教えるのが生き甲斐。そうやって皆の成長をこの目で見るのが何よりも嬉しいし楽しい。今回のことは史織が修行を始めるきっかけにでもなれば、と思ってやったことだったけど、史織の言った通り、少し私の自己満足の意味合いの方が強かったのかもしれないねぇ・・・。でも、私はいつでも皆の成長を一番に望んでいるってことは分かってほしい。」
史織「・・・はあ。もう、分かってるわよ・・・、そんなこと。」
永佳「史織・・・。」
史織「私なんて高々十数年しか生きてないけど、永佳はずっと前から人里で里の人間と長く付き合ってきたんだから。永佳がそんな自己中心的なヤツだとは思ってないわよ。私も、さっきはちょっと言い方がキツかったかも・・・。ごめん・・・。」
永佳「・・・。ふふっ、ありがとう。」
ふむ。何とか上手くまとまった感じですかね。
永佳「・・・それで、どう?心変わりの方は?」
史織「あー・・・。でもねぇ・・・、修行嫌いの私が今更修行を始めるだなんてねぇ・・・。」
永佳「何なら、私が付き合ってやろうかい?」
史織「いや、それはいいわ(即答)。」
永佳「何で!!??」
史織「決闘の修行の時のアンタの雰囲気って、私苦手なのよねー。」
永佳「ええっ!?何それ、初耳なんだけどぉっ!!??」
史織「何なのかしらね。分かんないわ。一遍、他の連中にも聞いてみたら?」
永佳「うぅっ・・・。何だか少し不安になってきたわ・・・。」
史織「まあ、私だけかもしんないし。気にしないでいいんじゃない(軽め)?」
永佳「いや、これは教導者として由々しき事態だ。皆に不快感を与えながら教導するなどあってはならない!すぐにでも原因を調べ、対策・改善を試みなければ・・・。」
史織「(あ~あ、余計なこと言っちゃったかしら・・・。)」
そんなこんなで、史織さんは座学堂を後にします。
午後六時前。日がもう暮れようとしています。
史織さんは古屋図書館に帰って来ました。
ごわんごわんごわんごわん・・・、ぷしゅぅぅぅ・・・
・・・何やら妙な音がしますね。
裏へと回り込みますと。
史織「ちょっとー、まだ終わってないのー?」
千鶴「む、無茶言わないでくださいよー。これでも結構苦労したんですよー?」
木実「ねぇ・・・、これほんとに何とかなるものなの?」
高御「・・・時間をかければ、としか言えない・・・。」
名草神社のお三方が勢揃いで、何か作業をしているようですが・・・。
史織「あら、でも、ちょっとは直ってるように感じるわね。・・・感じるくらいしかない程ちょびっとだけど。」
千鶴「酷いですー!私、頑張ってるのにー!第一、へこんだ荒地を元に戻す必要なんてあるんですかー!?」
史織「そんなことは私が決めることよっ。大人しく言う通りにしなさい。」
実は、先の決闘にて史織さんが放った『天理相殺』により、裏空き地にクレーターのような地形がいくつかできてしまい、裏空き地がボコボコの荒地になってしまったんですよね。
元々裏空き地自体は何もない荒地のようなただの空き地だったんですが、より一層荒地っぽくなってしまったのです。
ですので、決闘に勝利した条件としてその修繕作業を千鶴さんたちに要請したというわけです。
史織「ふーむ・・・、何だかまだまだ時間がかかりそうな感じね・・・。別にそんなに急ぎはしないけど、とにかくよろしくねー。」
千鶴「そんなー!」
木実「まあまあ千鶴、急ぎはしないみたいだし、今日のところはこのくらいにしようよ。」
高御「そうそう。千鶴も疲れたろ、休ませてもらおう?」
史織「・・・まあ、ちょっと休んでくくらいは構わないわよ。」
千鶴「そ、そうですか。それではお言葉に甘えさせてもらいますね。」
というわけで、一度古屋図書館母屋へと向かいます。
・・・が、しかし。
高御「なっ、なんだこの有様は・・・!?」
木実「うわぁ・・・、これはこれは・・・。」
千鶴「こういうの、何て言うんでしたっけ?えぇーっと、・・・半壊?」
そうです。史織さんの生活場所である母屋は、見事に半壊しているのです。
史織「うるさいわね・・・。私だって早く直したいわよ・・・。とりあえず、こっちの小部屋だけは無事だから、そこで待ってなさい。」
と言うと、史織さんは台所の方へと行きました。
千鶴「もしかして、裏の空き地とおんなじようにここも・・・?」
高御「いや、それはないだろう。もしそうだとしたら、空き地なんかよりも先にここを直せ、と私たちに言ってくるはずだ。」
木実「そうだね。ということは、ここ数日の内に誰かに襲撃されたか、或いは・・・。」
千鶴「ええぇぇ~!?た、大変じゃないですか!?しゅ、襲撃だなんて・・・。」
史織「襲撃だなんて、そんな物騒なことをこの私が防げなかったわけないじゃない。」
史織さんがお茶を持ってきてくれました。
高御「む、違うのか?じゃあ、一体何が・・・。」
史織「うっ・・・。そ、それは・・・。」
・・・・・・
木実「あっははははは!それは傑作だねぇ~!!」
高御「ふっふっふ、確かに。いくら古屋のでも、動けない時にそんなことされちゃあこうなってしまうわけだ。」
千鶴「ふふふふふっ。ご、ごめんなさい。笑いが止まら・・・。くすくすくすっ。」
史織「だぁー!もう!笑い事じゃ、ないってーの!全く!」
木実「うーふっふっふっふ!ふう・・・。でも、ちょっと気になるなぁー。」
高御「ああ・・・、確かにな。」
史織「ん、何がよ?」
木実「そんなことがあったんだったなら、空き地の修繕なんかよりもこっちを修繕するよう私たちに言えばよかったのに。」
高御「もっと言えば、その両方ともを私たちに修繕させる方がお前にとっては楽だったはずだ。」
千鶴「あ、それもそうですね。どうしてなんですか?」
史織「・・・。別に母屋半壊の直接の原因は千鶴にあるわけじゃないし・・・、決闘の決着前に私が千鶴に言ったのは、『母屋』じゃなくて『裏空き地一帯』の修繕だから・・・。筋違いなことはあまり言いたくなかっただけよ。」
高御「ほう・・・。なかなか素直じゃないか。」
木実「うふふ、ほんとだね。そういうところはちゃんとしっかりしてるってわけだ。」
千鶴「ですけど・・・。じゃあ、ここの修理はどうするつもりなんですか?」
史織「ああ。一応柊が何か手配はしてくれるみたいだけど、もうちょっと先かしらね。どういう理由であれ、さすがに自分が破壊しちゃったことには責任を感じてるみたいだし。・・・全く、じゃあ初めっからしないで、って話よね。」
まあ、柊さんのことですから、ちゃんと対応してくれると思いますね。
史織「もうー、母屋の話はいいのよ。で、空き地の方の様子はどうなの?てゆーか、どうやって直してたの?朝から来てやってた割にはあんまり進んでなかったみたいだけど。」
高御「いや、あれでも結構苦労したんだからな?」
木実「実はついさっき前までは全然進展してなかったんだよ。そりゃ空き地を元に戻すのにどうすればいいのかなんて分っかんないよね(笑)。」
千鶴「ですから、とりあえず私の力を色々試していたんです。そうしたらほんのりですが効果があるものが見つかったんで、それをずっと試していたんです。」
史織「効果があるもの?何なのよそれ。」
高御「微弱だが土地を豊かにするような効能があるものが見つかったんだ。」
史織「・・・そんな効能のある力があったの(困惑)?」
木実「でも、千鶴も力を使うのに体力と魔力を消費するからさ。私たちがそれを補いながらゆっくりとやっていたわけだよ。」
史織「へ、へえー・・・。ま、まあ、とりあえずは何とかなりそうなのね?」
千鶴「時間はかかりそうな気がしますが、多分何とかなると思いますよ。」
史織「ふう~ん・・・。まあ、何とかなるのなら何でも構わないわ。じゃ、引き続きよろしくね。」
千鶴「はい、任せてください!」
ずずっ
木実「ん!このお茶、美味しい。」
高御「おおっ、木実もそう思うか。なかなかいいよな。淹れ方も上手いんだな、きっと。」
史織「ふふーん、私が淹れたお茶だもの。当然よねっ(自慢気)!」
高御「こういう美味いお茶と茶菓子を手元に置きながら、静かに月見でもできたら最高だろうなぁ。」
木実「史織はいつもこのお茶を飲んでるの?」
史織「まあ、そうね。いつも家にある飲み物はこの緑茶か水くらいしかないから。私はいつも母屋の縁側でこのお茶と一緒に茶菓子を食べて、ゆったりと過ごしてるのよ。」
高御「ふっふっふ、なるほど。そいつはいいね。」
木実「でも、今は頼みの綱である縁側が使えないと。」
史織「・・・早く直してほしいわ(切実)。」
高御「そうだ。こんな美味いお茶だ。茶葉を少し分けておくれよ。」
史織「んー、まあちょっとくらいなら別にいいわよ。たくさんあるし。」
木実「本当!?やったね!今後の家でのお茶が期待できるよ。」
高御「ああ。茶の質が上がれば、きっと少しは・・・。」
千鶴「ちょっとー!お二人ともー?いつもの私の淹れるお茶では不服なんですかー(ぷんぷん)?」
高御「えっ・・・?い、いや、そういうわけではないぞ(焦り)?千鶴の淹れてくれるお茶も、とっても美味しいよ?」
木実「そ、そうそう(焦り)!別に嫌ってわけじゃあないんだ。ただ、たまには違うのもいいかなー、なぁんて・・・(目を逸らして)。」
千鶴「ふーんだ。どうせ私はお茶を淹れるの、へたっぴですもん。つーんだ。」
あらら、千鶴さんが拗ねちゃいました。
高御「ああぁぁ!違うってぇぇ、千鶴よぉぉ!」
木実「お願いだから、機嫌直してよー?」
千鶴「ふーんだ、ぷいっ。」
ずずっ
千鶴「(・・・美味しい。)」
高御「千鶴よぉぉ!こっちを向いておくれぇぇ?」
木実「頼むよー!千鶴ー?」
拗ねちゃった千鶴さんのご機嫌を取るべく二人の神様は何とか頑張って話しかけますが、なかなか振り向いてはくれないようです。千鶴さんもしっかりしているようでまだまだ子供っぽいところがあるみたいですね。
二人の神様も神様で少々大袈裟な感じもしますが、それはそれ。
今日も夜はゆっくりと更けていくのです。
史織「・・・。私はこの状況で、どういう顔してればいいのよ・・・。」
〈何か、色んなちょっとした補足〉
・座学堂には人里中の子供たちが通っているため総人数はそれなりに多い。だが、ちゃんと全員に目が行き届くよう子供たちそれぞれに通う日と時間を割り振っているので、一つの授業当たりの人数は大した数ではない。これも永佳がしっかりとした教導計画を立てているからこそ成し得る業であろう。
・『裸足遊び』とは読んでそのままの通り、裸足で屋外で遊ぶということ。座学堂では、授業の一環として昔から行われている。史織も今回裸足で子供たちの相手をしたのでなかなか苦労したよう。今の子供たちは元気パワーで裸足のことなど物ともせずに、今日も目一杯遊んでいる。
・千鶴の『結局よく分からない不思議な能力』は本当によく分からない力であるので、何ができて何ができないのかさっぱり分からない。幽境結界の力、突然転移の力等他にもあるらしいが、今回周囲の土地を豊かにする効能の力があることが分かった。(なんだそれ・・・。)色々適当に力を試していくことによって、新たな力が次々と発見されるかもしれない・・・。もうちょっと原理を確立させてほしいものだ。
・一応だが、千鶴の淹れるお茶がマズくないのは事実。ただ、普通なだけ。平時に飲む分には特に支障はない。史織のところの茶葉が少し質が良いのは本当なのだが、それよりも史織のお茶の淹れ方がただちょっと上手いだけ。一応、千鶴の名誉のために。何でもかんでも人と比べるのは良くないよね。
・母屋の修繕はそのうち早急にされるであろうことを願いたい。