〈番外面・中〉さあさあ、いざ再戦の時(前編)
あれから約一か月が経ちまして。古屋図書館にはしばしの平穏が訪れていました・・・。
・・・え?どうしてですか?
史織「最近千鶴が来なくなったから、余計な決闘しなくて楽になったわねぇ~。」
小冬「本当にどうしたんでしょうね?もしかして、千鶴さんの身に何かあったんじゃ・・・。」
史織「大丈夫大丈夫。アイツらがいるんだし、千鶴に何かあったとしても心配ないって。」
小冬「それはまあ、そうですけど・・・。」
史織「いいのいいの。さ、小冬もゆったりしましょ~。」
のほほんとゆったり時空を満喫する史織さんです。
どうやらあれから千鶴さんが決闘しに来なくなったようですね。だから今もこうしてゆったり時空を満喫中だと。
小冬「まあ、史織がいつも通りなのは変わりありませんし、私もいつも通り過ごすとしましょうか。」
史織「小冬はいつでも修行が頭にあるからなぁ。もうちょっと緩んでもいいと思うよ~?」
小冬「私から言わせてもらえば、史織が緩みすぎなだけですわよ、全く。あんまり緩んでいると体が鈍って、千鶴さんにも後れを取るようになってしまいますわよ?」
史織「ふふん、へーきへーき。千鶴の術式は私からすれば大したことはないんだから。ふああぁぁぁ・・・、お昼寝しよ~。」
小冬「もうっ、史織ったら・・・。」
完全に余裕の史織さんです。
この時、史織さんは忘れていたのです。先の武闘大会にて、『一度、千鶴さんの攻撃により敗北寸前までに追い込まれていた』ということを・・・。
そして、数日後のお昼前。遂にやって来ました・・・。え、何がやって来たのか、ですって?
そりゃあもちろん、千鶴さんが史織さんの所にやって来たんですよ。
千鶴「史織さん!」
史織「あー・・・、千鶴?何、どうしたの。」
千鶴「私と、決闘してください!」
史織「えー・・・、またぁ?」
千鶴「はい!」
史織「・・・ヤケに威勢がいいわね。あれからしばらく来なかったのは、修行でもしてたからなのかしら?」
千鶴「・・・そうです。ですから、私との真剣勝負を、お願いします!!」
何だか千鶴さん、今日は気合が漲っているみたいです。
史織「ふぅ・・・。どうせまた高御から何か知恵でも授かってきたんでしょ?今ここで断ってもどうせまた明日来るんじゃ、意味ないし。まあ、相手してあげるわ。」
千鶴「・・・本当の真剣勝負でお願いしますね?」
史織「あぁー?本当の本気でなんてやったら、この辺一帯消し飛んじゃうわよ。決闘とは、力比べ。相手の力量が分かれば、それでいいのよ。」
とまあ、やや二人の意見が噛み合わないまま裏空き地にて、二人で決闘をすることになりました。
史織「さ、きなさい?アンタの修行の成果とやらを、見せてもらおうじゃない。」
史織さんが受けの構えを取ります。
千鶴「では、行きますよっ!!たああぁぁぁ!!」
シュババババッ!!
千鶴さんは力を込めた光弾を放ちます!かつての弾速よりも速いですね。
史織「・・・。」
バシュバシュバシュウゥゥゥン・・・
史織さんはしっかりとシールドで受け流します。
千鶴「っ・・・。うぬぬぬぬ・・・、えやあぁぁぁ!!」
ぴちゅちゅちゅちゅちゅん!!!
今度は光線を複数発射しました!
しゅぼぼぼぼぼん・・・!!!
史織「・・・。」
同じようにシールドで受け流しました。数もかつてより増えており、威力も上がっているみたいですね。
ですが、やはり史織さんにはあまり通用していないようです。
千鶴「ぐっ・・・!」
史織「ふっ、さっきまでの威勢はどうしたの?確かに前よりは強くなったみたいだけど、この程度じゃまだまだ私には及ばないわよ?」
千鶴「・・・。確かに、そうかもしれませんね。」
史織「ん?」
千鶴「私の力だけでは、まだ貴方に一矢報いることはできないみたいです・・・。ですが・・・!!!」
史織「っ・・・!?(今、何か・・・?)」
千鶴さんから何かを感じ取った史織さん。少し怯んでしまいました。
千鶴「さあ・・・、ここからが修行の成果発揮の本領だと思ってくださいよっ!!!」
史織「・・・いいわ。きなさいっ!」
千鶴「今こそ、私に力を・・・!『綿抜きの風説』!!!」
ぼゎんぼゎんぼゎん!!!
史織「うわっ!何これっ!?」
辺り一帯に色の薄い綿状の物体がばら撒かれました!綿状ゆえに宙に浮いたまま漂っています。
いくつか史織さんも避けましたが、とうとう綿に触れてしまい体や腕にくっついてしまいました。
史織「な、何よこれ!離れないじゃない!もうー!」
ぶんぶんぶんぶん!!
必死に綿を振り払おうとしますが、なかなか離れません。
千鶴「・・・ぷっ!」
ふふっ。一生懸命腕を振り回す史織さんを見て、千鶴さんが思わず吹いてしまいました(笑)。
史織「ちょっと?!何笑ってんのよ!いい加減に・・・!」
と、史織さんが千鶴さんに近づこうとすると。
千鶴「あわわわわ!もももも、もっとぉぉぉ!!!」
ぼゎんぼゎんぼゎん!!!
史織「うわっ・・・!!ちょっ・・・!!」
もごもごもご・・・
再び千鶴さんが放った大量の綿を体中に浴び、そのまま綿の山に埋もれてしまった史織さん。だ、大丈夫ですかね?
千鶴「ふう、何とか上手くいきました。これでこの後は確か、こう・・・、えぇいっ!!」
・・・
千鶴さんが何か構えを決めますが、何も起こりません。
千鶴「あ、あれ?おかしいなぁ・・・。えいぃっ!!」
・・・
千鶴「う、うーん?上手くできないなぁ・・・。こう・・・。」
ボォン!!!
と、綿の山に埋もれていた史織さんが周囲の綿をまとめて吹き飛ばしました!まだ体にいくつか付着したままですが、とりあえず復帰はできた感じですかね。
史織「アンタ・・・。私をバカにするのも大概に・・・!」
千鶴「そぉれぇぇっ!!」
パシュンッ!
史織「なっ!!??」
バシュコォォォン!!!
史織「がはぁっ!!」
ドザザザァァァァ・・・
千鶴さんの掛け声の直後、辺りに存在した全ての綿状物体が一斉に光弾へと変化し、そのまま炸裂しました。史織さんも体に付着していた綿状物体が光弾へと変化したため、光弾攻撃の直撃を受けました。大きく吹き飛ばされ、地面に体を打ち付けられてしまいました。
千鶴「あっ!やっと上手くできました!」
史織「うぐぅっ・・・。な、何だったのよ、今のは・・・。」
千鶴「うふふっ、いいですねぇ。貴方から一本取った、っていうこの感触。」
史織「うっ・・・。わ、私だって、よく分かんないものには弱いのよ!ったく・・・、もう今ので吹っ切れたわ!そろそろ私も動かせてもらうわよ!!」
千鶴「望むところです!!」
後編へ続く
〇木実の技『綿抜きの風説』
周囲にやや見えにくい綿状の物体をばら撒く。性質は本物の綿と似ていて宙にふわふわと浮かんだまま存在できるし、突風が吹けばそのまま飛んでいく。違う点と言えば、別の物体に付着するとなかなか離れなくなるということ。術者はばら撒いた綿を任意で『自分の力の制御下にある別の物質』へと変化させることができる。(例・光弾や光線など、基本的には決闘用の攻撃方法のもの)今の千鶴ではまだ発動が安定せず、光弾へと変化させるのがやっとのようだ。綿自体に攻撃性はなく初見では(実は、初見でなくても)相手には理解不能のため、相手の裏をかくにはうってつけ。
史織でも原理を見抜けず攻撃を受けたようにこういう性質であることを考えると、さすがは木実の技と言ったところか。