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若鄙の有閑  作者: 土衣いと
摩訶不思議な人間と
42/94

〈続談〉そう言えば、何で?(日常編)

何だか、ここ最近はまともな日常回が書けている気がします。『日常』、『ほのぼの』タグに相応しい回になっているかと思います。


(あれ?むしろこの回の方が〈後談〉じゃね・・・?)

 史織「そういえばさぁ・・・。」

あれからのとある日の午後。古屋図書館母屋縁側にて。

小冬「どうしましたの?」

史織「何で小冬は木実と戦うことになったの?」

あの日、名草神殿まで後から登って来た小冬さんと木実さんはお二人ともボロボロ。満身創痍な姿でした。

小冬「あぁ、そのことでしたか。史織が特に気にするようなことではないんですのよ?・・・まあ、あえて言うとするならば・・・。」

史織「するならば?」

小冬「・・・力試し、ですかね。」

史織「・・・それって、ただの暇つぶし(・・・・)じゃない・・・。」

小冬さんの回想話に入ります・・・。



 あの日の午後五時過ぎ頃、暑まし山の頂上付近で史織さんと葵さんが激闘を繰り広げている頃。小冬さんは暑まし山の二合目地上付近を飛んでいました。

しかし、この時の暑まし山の地上は普段とは到底異なる異様な風景が広がっていたのです。それは・・・。

小冬「・・・。どうしてこんなにも怪異があちこちでひっくり返っているのかしら。」

そうです。普段なら様々な怪異たちが跳梁跋扈しているはずの暑まし山なのですが・・・。でもこれはさっきまで史織さんがこの辺り一帯で暴れ回っ・・・、失礼、防戦していた名残ですね。

この辺りに住む血気盛んで勇猛な怪異たちが果敢にも史織さんへと挑んでいった成れの果ての光景が、今まさに小冬さんの目に映っているわけです。

小冬「う~ん・・・。暑まし山(ここ)に来たんですから、少しは怪異との決闘になると思っていたんですが・・・。まあ、今は進めるのですから進みましょうか。決闘よりも今は千鶴さんが優先ですからね。」

とまあ、史織さんのおかげ(・・・)なのかせい(・・)なのか、小冬さんは特に何も問題なく山を登っていきました。

そして、しばらく経った頃。

???「・・・ん?あれは・・・。」

小冬「ふう・・・。少し暑くなってきましたわ・・・。慣れているつもりでも、暑まし山(ここ)はやはり一段と暑いですのね・・・。」

小冬さんの存在に気付いた謎の人物。小冬さんはまだ気付いていません。

???「んー・・・。人間か。これは、当たりかな?」

シュバァァァ・・・!

と言うと、謎の人物は小冬さんの目の前に気配無く現れました。

小冬「っ!!??い、いきなり何ですの!?」

???「ん?あー、吃驚させちゃったかな?ごめんごめん、いつもの癖でね。」

まあ今だからこそ、この人物の正体は分かるようなものですよね。

小冬「あ、あなたは・・・?」

???「ん?私かい?私は鹿々栖木実。ちょっとこの辺りを散歩しててね。」

ここでお二人は出会ったわけですね。

小冬「私に、何かご用ですの?」

木実「んーそうだねぇ・・・。その辺一帯にひっくり返ってる怪異たちをのした張本人(・・・)に興味があるっていうか・・・、まあそんな感じかね。」

小冬「・・・私がその張本人(・・・)だと?」

木実「見たところ、あんたは人間みたいだし?まあ、暑まし山(こんなところ)にやって来るような人間は腕に覚えがある奴のはずだしね。実際、そうでないとこの山は人間には登れないよ。」

小冬「まあ確かに、腕には少々覚えありですけれど・・・。やった(・・・)のは私ではありませんわよ?」

木実「またまたぁ~。悪いけど、私に嘘は・・・、ん?え、もう一度言ってみて?」

小冬「ですから、その辺の怪異たちをやったのは私ではありませんわ。」

木実「・・・あれ、()が反応してない・・・。ってことは、本当に?」

小冬「別に嘘を言ったところで、私に得はありませんから。」

木実「・・・ふふふっ、いいね。」

小冬「・・・?」

木実「あんた、気に入ったよ。名前は?」

小冬「私は新風小冬。今、私はこの山の頂上にあるという名草神殿という場所に向かっていますの。」

木実「ほぅ・・・、そりゃあ話が早そうだね。よし決めた!」

何やら気分の良さそうな様子の木実さん。

木実「小冬よ、神殿に行きたいんだろ?案内したげるよ。」

小冬「本当ですの!?それは助かりますわ。」

木実「でもその前に。あんたの実力とやらを、見せてもらおうかねぇ。」

小冬「むっ、やる気ですのね?」

木実「いくら自分に自信があるからって、井の中の蛙で終わってちゃあ話になんない。人間なら人間なりの力があるってことを私に認めさせてみな?そうでなきゃ、うちの(・・・)神殿に来たって門前払いされるだけだよっ!!!」



史織「えっ、そのまま木実と決闘になったの?」

小冬「ええ。」

史織「なんか、本当にただの暇つぶし(・・・・)みたいね・・・。何か木実からその後、説明なり弁解なりはあったの?」

小冬「決闘が終わった後、山を登りながら少しは話してくれましたわ。私と決闘したのは神殿まで行った後、高御さんともやり合える実力があるのかを見ておきたかったからだそうですわ。」

史織「あーね、そういう理由ならまだ分からなくはないかも。」

小冬「木実さんが神様だというのを聞いたのは決闘の後でしたけど、さすが神様というだけのことはありましたわ。伊戸さんたちとはまた違った強さでしたね。」

史織「へぇー、小冬は小冬で大変だったのね。」

小冬「史織が山の怪異たちをあらかたやっつけてくれていたおかげで、余計な決闘はありませんでしたから。そういう意味では史織の方が大変でしたでしょう?」

史織「私は暑いのさえなければ、特に不満はなかったわね・・・。」

小冬「まあまあ、うふふっ。」

今日も図書館には平穏な時間が流れます。


 一方、名草神殿母屋にて。

高御「ふああああぁぁぁぁぁ・・・・・・。」

日向で寝っ転がり、大きな欠伸をしています高御さんです。

シュバァァァ・・・!

木実「ふっふっふ、相変わらずの呑気っぷりだねぇ。」

そこに木実さんも現れました。

高御「木実か。いいじゃないか、こんな天気だ。あんたものんびりしたらどうだ?」

木実「ふふっ、私はいつでものんびりしてるよ。千鶴はまた外に行ったのかい?」

高御「ああ。あれから最近、千鶴は一段と楽しそうだ。千鶴が楽しいなら、何も問題はないさ。」

木実「ふふっ、そうだねぇ~。」

神様お二人の会話が続きます。

高御「・・・そういえば木実。」

木実「ん?どしたん?」

高御「あの時いた、新風とか言う人間。あんたとやり合ったそうじゃないか。」

木実「あぁ、小冬ね。そうさ、それがどうしたのよ?」

高御「いやなに、木実も私と同じように人間とやり合った者同士だからね。千鶴のためにも、何か聞けないかと思ってね。」

木実「う~ん・・・。」

高御「あんたも知っての通り、古屋の者(・・・・)のことに関しては私らもよく知っていることさ。あの人間一族とは随分と昔から縁があったからね。最近は(・・・)あまり話も聞かなくなったが。」

木実「・・・まあね。」

高御「だが、新風と言ったか。こっちの人間の方はかなり長らく話を聞いていなかった。まあ、恐らくは里の内での生活に重きを置いていたんだろうが・・・。」

木実「でも、小冬は力のある子だったよ?」

高御「そうなのか?木実がそう言うのも珍しいじゃないか。」

木実「最初あの子を見かけた時は古屋の(・・・)じゃないかなぁって思ったくらいだよ。だから、声かけたんだよ。一緒に来てもらって、あんたの暴走を止めてもらおうかなってね?」

高御「ぬっ!そんなつもりだったのか?」

木実「でも、小冬の返した言葉には私の()の力が反応しなかったんだよねぇ。最近の人間にしては珍しい澄んだ心の持ち主だよ。おかげで私は・・・、ちょっとばかし気分が昂っちゃってね。」

高御「はっはっは!それで決闘を挑んだ挙句にやられたってわけかい?」

木実「いやー、いい線いってると思ってたんだけどねぇ。なかなか熱い決闘になっちゃって、そりゃあもう接戦だったと思うよ?後半はもう、ただ小冬との決闘を楽しんでたね。小冬もボロボロになりながらも最後までよくやり切ったと思うよ、うん。」

高御「ふっ、一度私とも手合わせ願いたいものだ。」

木実「あっ、高御でも無理だと思うよ?」

高御「なにおぅ?!」

木実「あっはっは!気になるなら一度戦う前に小冬の剣術の腕をよく見ておくことだね。さすがはあの翡翠の伊戸(・・・・・)を破った人間だよ。」

高御「何っ!?鉄壁と謳われたあの翡翠(・・・・)を、その人間が、か・・・!?」

木実「あれ?知らなかったの?外に出てりゃあ情報なんてすぐに耳に入って来るのに。高御、ずっと神殿に居っぱなしだもんなぁ・・・。」

高御「う、うむぅぅぅ・・・。」

ひゅるるるるぅぅぅ・・・、しゅたっ

千鶴「高御さま、木実さま。ただいま戻りましたーって、あれ?どうしたんですか、高御さま。唸ったような声なんか出して・・・。」

木実「おや、千鶴。帰ったのかい。いやー、ちょっと高御と話をしててね・・・。」

高御「あら、お帰り。いやなに、木実からちょっと信じられんような話を聞いてな・・・。」

千鶴「なんですかー?私にも教えてくださいー・・・!」

名草神殿でも今日は平穏な時間が流れているようです。

◎追加版

〈名草神殿〉

 十数年前に千鶴の幽境結界によって外界から遮断され、その間は高御・木実・千鶴の三人で暮らしていた。神殿敷地の脇には竹藪があり筍がよく採れ、小さい千鶴もその筍を食べて育った。三人ともそこで採れる筍が好物。

 千鶴の存在を隠しながら日々を送っていた高御と木実だが、実は、葵は千鶴の存在を知っていた。葵は昔から高御・木実と関係を持っていたので、神殿消滅時から二人のことを心配していた。そしてある時、偶然偶々幽境結界を内から外へすり抜けて現れた木実を目撃し、大慌てで事情を聴いた。木実も葵のことは信頼していたので、素直に話した。木実と共になら葵も幽境結界を越えることが出来たため、その日、葵は初めて赤子の千鶴と相まみえた。千鶴もどうやら葵には心を許したようで、それからは葵単独でも結界を越えることができるようになっていた。葵にも神殿と千鶴のことは他言無用ということで約束してもらった。それからは葵はたまに千鶴に会いに来るようになり、物心付いた頃には千鶴も葵のことをすっかり信頼するようになっていた。

 人里での武闘大会から数週間前の時点で、幽境結界は消滅していた。千鶴が意図的に術を解いたわけではないらしい。偶然木実が外へ出かけた時に幽境結界が消滅していることに気付いた。その日から外界の怪異たちにも神殿を感知されるようになった。千鶴の存在もその日からは特に隠さないで過ごしていた。もうある程度戦えるようにもなっていたし、暑まし山の雰囲気にも慣れてもらう必要があったからだ。他の怪異が神殿にやって来ることも多くなっていたが、千鶴も物怖じすることなく普通に接することができた。その朗らかで人当たりのいい性格の故か、千鶴はすぐに他の怪異たちから受け入れられ、少し人気者にもなった。

 神殿の建物自体はもうかなり古い。敷地内の至る所に劣化が見られる。だが、これは高御・木実の呑気さ・気まぐれさのせいである。二人は神殿が寂れ劣化しても、特に整備することなく今までずっと放置してきたのだから。だから、今の千鶴は神殿の復興を目指している。とりあえず、今は境内の掃除や手入れくらいしかできないが、寂れ切ったこの名草神殿を立派な見栄えにしたいと考えている。高御・木実はこのことに関しては「別に気にしなくてもいいよ」と言って特に手伝おうとはしていない。でも、千鶴がやってくれていることには感謝している。でも、手伝いはしない。千鶴的には二人への恩返しのつもりなのかもしれないが、ここまで寂れたこの名草神殿を立派に仕立て上げるまでに一体どれほどの労力がかかるのか・・・、考えたくはない。

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