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若鄙の有閑  作者: 土衣いと
始まりは大きな嵐から
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〈第二面〉嵐の湖畔で待つ者

 正午過ぎ、まだ快晴。人里の北側を飛行中の史織さん。人里の様子がよく見えます。

史織「こうして見ると、やっぱり里って大きいわねぇ・・・。」

人里の出入り門は南側の一つのみ。今の史織さんの位置からでは門は見えないくらい遠いようです。北側には自警団本部があり、今日も里の秩序を守っています。

史織「さーてと、早いこと仕事を片付けちゃいましょ。」


 しばらくすると急に空模様が怪しくなってきました。どうやら万能の湖の近くまでやって来たようです。

史織「急に曇ってきたわね。丁度この辺りから湖周辺に集中して雨雲があるみたい。どういうことなのよ。」

今までの快晴が嘘のように、激しい嵐が吹き荒れ始めました。

史織「くっ、こんなんじゃロクに飛べもしないわね。高度を少し下げようかしら。」

ゆっくりと下降しながら進んでいくと、湖の畔に到着しました。

史織「とりあえず着いたけど、調べるって何を調べればいいのかしら。ずっとここだけ嵐の理由なんて分かりっこないし・・・。ていうか、ここの資源を里に卸してる人なんて、本当にいるのかしら?里からは遠いし、怪異だっているのに。柊は『人』って言ってたけど、多分『人間』じゃないでしょうね。」

ぶつぶつと考えながら湖の傍まで寄ってみると、どこからか声が。

???「やっと戻って来たわね・・・。いつまでもいつまでも湖に嵐にしてくれちゃって!あれからずっと嵐続きで人里に資源を届けてあげられてないのよ!いい加減に嵐を止めなさぁい!」

ザバァッ!

史織「えっ!?何?」

不意に湖の中から何か(・・)飛び出てきました。嫌な予感ですね・・・。

???「私は(くれない)筑紫(つくし)。あなたは・・・ん?何か前に見た時とちょっと違うような・・・。まあいいわ!とりあえず、観念しなさぁい!!!」


 現れていきなりですが決闘の時間のようですね。彼女には何か事情があるようですが、一先ず頑張ってください。

史織「ちょ、いきなりすぎるでしょ!全く、これだから怪異ってヤツは!」

筑紫「いきなりでごめーん!でも、諦めなさぁい!突撃ぃアターック!」

ドガーン!!

史織「うわっととと。」

筑紫「避けられたか・・・。だが、もう勝負をかける!必殺、『ブリッツリーク』!!!」

体勢の崩れかかった史織さんに向けて筑紫さんの奥義が放たれます。

筑紫「くらえやーいぃ!!」

ビュゴォォン!!!

史織「だから、いきなりすぎるっつってんでしょ!うぐぐっ!」

バギギィィン!!!

何とかシールドが間に合ったようです。凄まじい反応速度です。

史織「ああぁっ、こ、これは、キツイわ・・・!」

踏ん張りながらも、何とかシールドで守り切ったようです。ですが、少し厳しそう・・・。

史織「はぁ・・・はぁ・・・、くぅっ・・・!」

筑紫「ふふん。私の『ブリッツリーク』に反応し、防ぎ切ったことに関してはなかなかやりおる、と言っておきましょう。」

史織「くっ・・・、まだよ!今度はこっちの!!!」

筑紫「ですが、もう、私が限界ですぅぅ・・・。ぷしゅうぅ・・・。」

史織「・・・え?」

あらら、なんということでしょう。どうやらこの決闘、勝負ありのようです。

筑紫「まさか、防ぎ切られるなんてぇぇ・・・。」

史織「ちょ、ちょっとー。まだへこたれてもらったら困るんだけど?こっちは訳も分からず決闘されたってのに。こっちの質問に、ちゃんと答えてもらうわよ。」

筑紫「分かりましたぁぁ。」

史織「とりあえず、どこかこの嵐を(しの)げる場所はないの?洞窟とか。」

筑紫「では・・・、湖の中へ。」

史織「私は人間なの!」

筑紫「ええぇぇ、その強さで!?で・・・では、あっちにある私の小屋へ。」


 一先ず、畔にある筑紫さんの小屋で話をすることに。

史織「まず最初に、アンタは誰?」

筑紫「私は紅筑紫です。さっきも名乗ったじゃないですかー。」

史織「名前じゃなくて素性を言いなさい。」

筑紫「えー・・・。ゴホン、私はこの万能の湖に古くから住んでいる者です。普段は湖の中で暮らしていますが、地上に出て陸の生き物たちとも交流しています。人里に資源を卸しているのも私なんですよ。」

史織「あぁ、アンタだったの。ここ最近、人里に行ってないらしいわね。何でよ?」

筑紫「そんなぁ、こんな嵐じゃ資源だってあまり採れませんし、地上にだって出たくないですよ!」

史織「んー、まあそれもそうよね。それで?何でいきなり襲ってきたわけ?」

筑紫「それはもちろん、この嵐に終止符を打つためですよ。」

史織「何で私を襲えば、嵐が止むことになるのよ?」

筑紫「あなたが嵐を巻き起こした張本人だからじゃないですか!」

史織「何でそうなるのよっ!」

ボコッ!!ぬめっ・・・?

筑紫「ちょっとぉ、何も殴ることないじゃないですかー。」

史織「いや、ちゃんと殴ったつもりだったんだけど・・・。何かぬめぬめでちゃんと殴れなかったわ・・・。アンタ、ちゃんとお風呂入ってるの?」

筑紫「失敬な。体はちゃんと清潔にしてますー。私の体表は粘液で守られているから殴ったり蹴ったりは効かないんですよー。」

史織「ええぇ、気持ち悪い・・・。っじゃなくて、何で私が嵐を起こしたみたいになってんのよ!」

筑紫「そんなの、こんな嵐の湖でうろちょろしてたからじゃないですかー。犯人は現場に戻って来るってヤツですよ!」

史織「私は人里からの依頼でこの嵐の湖の調査に来たの!」

筑紫「ええ!人里からの!・・・いやー、長らく資源をお届けできていませんからねぇ。」

史織「全く。・・・あれ?そう言えば最初にアンタ、私を見て『前に見た時とちょっと違う』とかなんとか言ってたわね?あれってどういうこと?」

筑紫「あ、そう言えば。こんな大嵐になる直前、湖の畔で人影を見たんですよ。人影って言っても、恐らく怪異でしょうけど。丁度人里に品を卸して帰って来た直後でしたよ。基本的にこの辺りは私が仕切っていますからゴロツキ怪異はいないはずなので、恐らくそれなりに力のある怪異かと。人影が見えるなんて珍しいなぁ、と思って私は湖の中に帰ったんですが、それからすぐ後でしたよ。帰って来るまでは雲一つない青空だったのに、急に雨雲が立ち込めて地上にすっごい嵐が急に吹き荒れ始めたんですよ。だから、これはもうその人影が犯人に違いないって!それがあなたです!」

史織「だから違うっての!」

ふむふむなるほど。筑紫さんの言う通りなのだとしたら、やはりその人影とやらが怪しいのは間違いないようですね。自然現象でこんなに嵐が続くはずありませんから。

史織「じゃあつまり、今のところはその人影ってのをとっちめてみるしかなさそうね・・・。ソイツがどっちの方に行ったのか分かる?」

筑紫「どうでしょう?見えたのが対岸だったから、南の方じゃないですかね?・・・ああ!!」

史織「ど、どうしたの?」

筑紫「雲ですよ!雲!今この上空にある雲なんですが、確か(かた)くな鉱山の方から流れてきていたはずです!犯人もきっとそっちの方角にいるはずです!」

史織「堅くな鉱山ねえ・・・。(うち)からは遠すぎるし、最近じゃ全然行ってなかったわ。ていうか、また移動しないといけないのね・・・。」

どうやら次の目的地が決まったようです。万能の湖の南の方角にある鉱山『堅くな鉱山』。今じゃ人間には危険な地域になってしまったので、怪異も溢れていることでしょう。頑張ってください、史織さん。

午後二時前、大嵐。堅くな鉱山へと向かい、史織さんは飛んでいきます。

(湖に住む怪異)(くれない) 筑紫(つくし)  種族・(なまず)  年齢・並程度  能力・電撃を上手く運用できる能力

 古くから人里へと万能の湖の水系資源を卸している者の正体。特に怪異であることを人間に隠してはいない。通称・水辺の充実仕事人。万能の湖一帯を仕切っている実力者で、彼女のおかげか、湖一帯では他の怪異が湖周辺を荒らし回るようなことは起きない。自然の動植物たちの安全も守りつつ平和に日々を暮らしている。超強大な電気エネルギーを操ることができ、正しく扱い運用することができる。今まで、ならず者を奥義一発で一瞬で一撃で仕留めてきたため、今回、奥義発動後の力は残っていなかった。今まで一度も避けられたこともなく、守り切られたこともなかったのだから。体表は粘液で覆われており、直接攻撃から身を守る。ただし、粘液のヌメヌメ感は自身の服や体に平時は影響を及ぼさない。明確な直接攻撃時にのみ粘液は反応する。なぜだ。


〇筑紫の奥義の一つ『ブリッツリーク』

 体内に込めた電撃を一直線上に雷速で放つ。とにかく速くて強力な一撃。当たれば、少なくとも失神は免れない。


(かた)くな鉱山〉

 万能の湖南方にある大きな鉱山。今でも様々な鉱石が採れるのだが、怪異がたくさん住み着いてしまい並の人間が近づける状態でなくなって久しい。今回の事件の犯人がいると思われる地点。尚、漢字の表記はこれで正しい。

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