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若鄙の有閑  作者: 土衣いと
摩訶不思議な人間と
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〈第五面・裏〉調べ物は、自主的に

 午後三時頃、気持ちの良い風が吹く過ごしやすい気候です。

小冬さんはあれからもあちこちに情報集めに勤しんでいます。ですが、なかなか手掛かりは見つからないようです。

小冬「はあ・・・、困りましたわね。何も見つからないのでは事が進みませんわ。」

力なくふわふわと飛んでいると、ネリーさんとシルちゃんさんがやって来ました。何か手掛かりを掴んできてくれたんでしょうか。

ネリー「おおぉぉぉい!小冬ぅぅ!!」

シル「ネ、ネリーちゃぁぁん・・・。ま、待ってぇぇぇ・・・。」

小冬「あら、お二人とも。」

ネリー「小冬!何だかいいことを思いついたんだよ!」

小冬「ほ、本当ですの!?」

ネリー「うん!シルちゃんが思いついたんだよ。ねっ?」

シル「え、えっと・・・。じ、実は、その・・・。」

寡黙なシルちゃんさんが頑張ってゆっくりとですが話してくれるようです。彼女にとって非常に勇気ある行動なのです。

ですが、少し時間がかかってしまうため、語り主が内容をまとめて説明しますね。

シルビーティンは小冬が捜している人間の名字『名草(なくさ)』という名字が気になった。どこかで聞いたことのあるような、何かの本で読んだことのあるような、そんな気がする。寡黙な彼女は本が好きなおかげで、少し知識がある。それは昔、とある場所(・・・・・)にある本をよく読んでいたから。もしかしたら、そこ(・・)に行けば何か分かるかもしれない。そこ(・・)にある本を探せば『名草』の謎も何か分かるかもしれない。もう長らく行っていないあの場所(・・・・)に行けば・・・、と。

小冬「なるほど・・・。それでその場所(・・・・)に行かないか、ということですのね?」

シル「は、はい・・・。」

ネリー「あたしらが大体の友達に話を聞き終わった後に、シルちゃんが言ってくれたんだ。」

シル「ず、ずっと早く言おうって、思ってたんだよ・・・?ご、ごめんね・・・?」

ネリー「いやいや、いいってことよ!あたしが気付いてあげられなかったのが悪いんだから!シルちゃんは気にしなくてもいーの。」

シル「あ、ありがとう・・・。」

小冬「ふむ・・・。まあ、今は他に当てもありませんし、シルさんの言うことに従ってみましょう。シルさん、案内をお願いできますか?」

シル「あっ・・・。は、はい・・・!こ、こっち・・・です・・・。」

ネリー「頼むよっ、シルちゃん!」

ということで、三人はシルちゃんさんの言う場所(・・)へと向かって行きます。


 それから約半時間程が経った頃、目的地に到着したようです。

シル「え、えっと・・・。こ、ここです・・・。」

小冬「え・・・?ここって・・・。」

ネリー「へぇー。何だか図書館(・・・)みたいなとこだなー。」

図書館?ええ、そうです。ご存知、古屋図書館です。

小冬「シルさんは・・・、よくここに来てらしたんですの?」

シル「は、はい・・・。で、でも、昔のことで・・・。」

ネリー「あたしはここに来るの、初めてだ。ここって昔から人間が住んでるって聞いたことあるよ。」

小冬「・・・ふふっ、そうですわね。実は私も、図書館(こちら)の方に来るのは初めてかもしれませんわね。」

シル「えっと・・・。な、中に入るには、し、司書さんに話を・・・。」

と、シルちゃんさんとネリーさんはここの司書(・・)を探します。

ネリー「うーん・・・、いない?」

実は先ほど、史織さんは人里へ向かったばかりなんですね。入れ違いになってしまったようです。

小冬「まあ・・・、大丈夫ですわ。私がいますし、中に入りましょう。」

シル「・・・そう、ですか?じ、じゃあ・・・。」

うむむ、まあ仕方ないですかね。

こうやってみると、史織さんが留守中の図書館はかなり管理・警備の手薄さが目立ちますね・・・。史織さんのお気楽さにも困ったものです。

さてさて、中に入った三人は手分けして何か手掛かりになりそうな本を探します。昔、シルちゃんさんが読んだという本も。

・・・・・・

シルちゃんさんの探し物は意外に早く見つかりました。

シル「・・・あった。」

ネリー「あったのー?」

シルちゃんさんが見つけた本のあった場所は地理分野。

ネリー「おおぅぅぅ・・・。何だか難しそうな本だね。」

一方、小冬さんも何か見つけたようです。

小冬「これは・・・。」

小冬さんが見つけた本のあった場所は宗教分野。

一度三人が一か所に集まり、見つけた本の詳細を探ります。

シル「この本には暑まし山のことがよく書かれています。そして、多分わたしが気になっていたのは・・・、この部分です。」

ネリー「んー?名草(なぐさ)神殿?」

小冬「名草・・・。」

シル「はい・・・。暑まし山の頂上に建つ、名草(なぐさ)神殿。小冬さんが捜している人間の方、お名前は『名草(なくさ)千鶴』さん・・・。」

ネリー「あー!名前が一緒だ!」

小冬「厳密には少し違いますが、でも、確かに似ていますわね。」

シル「この名草神殿には昔から二柱の神様がいると言われています。ですが、逆にその神様二人しかいないとも言われています。詳しいことは分からないんですが・・・。」

小冬「名草神殿のことならこちらの方が詳しく書かれていると思いますわ。」

小冬さんが見つけてきた宗教分野の本ですね。随分と古びた本ですが・・・。

小冬「これによると、どうやら人里にも少し普及している(・・)みたいですね。私は全然知りませんでしたわ。」

シル「暑まし山の近くに住む生き物は神殿のことをよく知っているみたいですね。でも、やっぱり人間の方は近くに住んでいないですし、小冬さんが知らないのも無理はないと思いますよ。」

名草神殿のことは少し分かってきましたが、まだ本質を掴み切れないですね・・・。

小冬「う~ん・・・。名草(なぐさ)神殿と名草(なくさ)千鶴さん・・・。何か繋がりがありそうな気がするんですけど・・・。」

シル「神殿には二柱の神様しかいないはずですし、人間の方が近づけるほど安全な場所ではないですし・・・。」

小冬さんとシルちゃんさんが悩む中、ネリーさんが一言。

ネリー「・・・ひょっとして、その千鶴って人間はその神様たちの子供だったりして。」

小冬「・・・え?」

シル「・・・ネリーちゃん?」

ネリー「んー・・・、いやさ?難しいことはよく分かんないけど・・・。」

更に、ネリーさんが言葉を続けます。

ネリー「神様の子供だったら、一緒に神殿に住んでてもおかしくないし、近くに神様がいるんだから他の怪異に襲われる心配もないかなー、って。その人間の名前も神様が付けたんだったら、人間の名前が神殿の名前と一緒でもおかしくないかなー、って。」

シル「ネ、ネリーちゃん。神様から生まれた子供は人間じゃないよ?」

ネリー「あ、そう言われたらそうだった。」

小冬「・・・。」

シル「こ、小冬さん・・・?」

ネリー「はっ!もしかして、あたしが余計なことを言ったせいで困らせちゃったか?」

小冬「・・・いえ、違いますわ。むしろ、その逆かも・・・。」

シル「えっ・・・?」

小冬「お二人とも、手伝っていただいてありがとうございますわ。私は一先ず、暑まし山に向かってみますわ。事を急ぎますし、神殿のことが分かっただけでも充分収穫がありましたもの。」

シル「そ、そう・・・ですか。こ、こちらこそ・・・、ありがとうございます。」

ネリー「そうか!見つかるといいな!」

小冬「ええ。ここの図書館を使ったことは私の方から司書(・・)へと話を通しておきますから、安心してくださいな。」

こうして小冬さんは暑まし山へと向かって行きました。

ネリー「そう言えば、シルちゃん。」

シル「えっ・・・。な、何・・・?」

ネリー「本で調べ物をしてる時のシルちゃん、普通に小冬とも話せてたね。」

シル「えっ・・・!?」

ネリー「あれ、気付いてなかった?ちゃんとすらすら話せてたよ。」

シル「ぅぅぅ・・・(恥)!」

おやおや、シルちゃんさんの顔が真っ赤に。

ネリー「あっはっは!何も恥ずかしがることないじゃん!いいことだよ!」

シル「ぅぅぅ、そうかなぁ・・・。」

ネリー「そうとも!シルちゃんも、頑張ってあれ(・・)を目指そう!」

シル「・・・?あれ(・・)って、何?」

ネリー「えぇっと・・・、『立て板に雨垂れ(・・・・・・・)』だよ!!」

シル「ネリーちゃん・・・。それって、わたしにどっち(・・・)を目指してほしいの・・・?」

午後四時半。晴れ渡る青空は空を飛ぶにはうってつけの天気ですね。

史織さん、小冬さん共に別々ながらも暑まし山に向かいました。はてさて、千鶴さんの行方は分かるのでしょうか・・・?

〈古屋図書館〉

 人里から離れた北東に位置する山の麓に構える古い図書館。それほど建物の規模は大きくないものの、古くから古屋一族が守ってきたありとあらゆる書物がわんさか眠っている。貴重な書物や学術書から、雑多な本や新聞まで。熱心に集められた巻物から何となく残しておいた紙切れまで。歴代の司書たちの集大成がここに残っている。

 人間だけでなく怪異でも図書館を利用することができる。図書館という名前だけあって館内で読めるだけでなく貸出もやっている。ただし、入館するにも本を借りるにもそれぞれ別料金を取られる。図書館規則なるものがあり、それを破った者には司書による制裁が科される(大半はボコボコにされる)。貸出が元々認められている書物は多いが、実際に借りるとなったら司書長による超自由裁量認定が入る。なので実際問題、司書長の気分や機嫌次第で貸出が認められるか認められないかが決まる点がかなり大きい。史織も例外ではない。全く・・・、何とかならないものだろうか。

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