〈第五面・表〉手掛かりは、人づてに
今回のも引き続き前二回と同様、次回と今回のでワンセットみたいな感じになります。表と裏って響きが何か気に入っちゃったので、今後また再び〈表〉の回があった場合は「ああ、次回は〈裏〉なんだな。」と思っていただけるといいですかね。
午後三時頃、きれいな青空が広がっています。
少し母屋の縁側にて休憩を取っている史織さん。
史織「あー・・・。何も手掛かりが見つからない・・・。」
プラレンさんと別れてからも色々と捜し回っていたようですが、手掛かりは全く見つからなかったようです・・・。
史織「あー・・・。小冬は何か分かったりしてるのかしらねぇ・・・。」
すると、噂をすれば小冬さん?・・・ではなく、プラレンさんの姿が。
プラレン「・・・。何してんの?」
史織「んー。休憩中ー。」
プラレン「えー・・・。」
史織「あぁ、アンタか。何、何か分かったの?」
プラレン「も、もうちょっと関心を示してほしいところだけど・・・。まあ、いいわ。結構いい情報を手に入れたつもりよ。」
史織「あら、なかなかいい仕事してくれるじゃない。聞かせて?」
ということで、プラレンさんが色々と話してくれるようです。
プラレン「里の外にいるあんた以外の人間のことね。これはかなり有力なことが聞けたわ!」
史織「(・・・、んっ?)」
おや?何か嫌ぁな勘が冴えた気がした史織さん・・・。
プラレン「その人間はね・・・、かなり凄腕の剣士らしいわ!」
史織「・・・。」
・・・。
プラレン「私は知らなかったんだけど、つい最近の事変以来噂が広がっているらしいわ。何でもその人間は鉄壁を誇ってたあの翡翠を負かしたとかなんとかって聞くじゃない!私も聞いて驚いたわよ。私たち怪異でも困難と言われてたことを人間がやってのけちゃうなんてね。これは私も一度手合わせしてみないとね!」
史織「・・・。」
あぁ、これは・・・。
プラレン「その人間なんだけど、生命の森でよく見かけられるらしい・・・って、何よ。あんたが捜し求めてた里の外にいるあんた以外の人間の情報よ?何でそんなに反応が薄いのよ。」
史織「あぁ・・・。これは私にもちょっと非があるわね・・・。説明が足りてなかったわ・・・。」
プラレン「え、何?」
史織「その剣士はね・・・、私の友達よ。つまり、私が捜してた人間じゃないの。」
プラレン「えー・・・。」
史織「里の外にいる人間は私とその剣士の二人だとずっと思っていたのよ。けれど、実はもう一人いるんじゃないかってことで、私はそのもう一人の人間を捜してたの。」
プラレン「えー・・・。」
史織「で、そのもう一人に関する情報は・・・?」
プラレン「・・・な、ないけど・・・。」
史織「はああぁぁぁぁぁ・・・。」
プラレン「しょ、しょうがないじゃない!そんなの聞いてなかったんだから!」
史織「まあ・・・、いいわよ。何となくそんな予感がしたから。やっぱり里の外にいる一人の人間を見つけるなんてできっこないのかしらねー。」
うむむ・・・、千鶴さんに関する情報はなしですか。
プラレン「だいたい、人間が人里の外にい続ける方がどだい無理な話よね。人間は大人しく人里の中にいて契約で守ってもらうか、あんたみたいに強くなるか、外にいたいならずっと隠れて過ごすかしないと無理よね。」
史織「隠れて過ごす、か・・・。」
プラレン「ああ、そうそう。隠れてって言えば一つ、奇妙な話を聞いたわ。」
史織「・・・話して?」
プラレン「ちょっと前まで暑まし山の頂上にあった名草の神殿が、つい最近になって突然復活したらしいのよね。」
史織「突然復活した、って何よ。意味分かんないわね。暑まし山にそんな神殿なんてあったかしら?」
プラレン「私もその時のことはよく覚えてるわー。名草の神殿はずぅっと昔からあったわよ。知らないの?」
史織「えぇぇー?」
プラレン「でも、確かにここんとこはずっと神殿はなかったのよね。なくなった当時は結構皆騒いでたからね。なのに、つい最近になって知らぬ間に神殿がおんなじ所におんなじように現れてたって話よ。皆も不思議がってたわ。」
史織「うーむむむむ・・・。」
プラレン「ま、私が聞いたのはこれくらいかな。ちゃーんと言うことは聞いてあげたからね。それじゃ、私はこの辺で・・・。」
史織「待ちなさい!」
プラレン「ひっ!な、何よ。」
史織「・・・プラレン。アンタ、いい仕事してくれたわ。ありがと。」
プラレン「っ!?・・・ふ、ふんっだ(照れ)!今度会う時はあんたに勝って、私の言うことを聞かせてやるんだからなっ!!」
史織「ふっ、望むところじゃない。」
と言うと、プラレンさんは勢いよく去っていきました。仄かに顔が赤かったような・・・?
史織「暑まし山に神殿ねぇ・・・。全然聞いたことなかったんだけど、多分嘘じゃないわね。まあ、最近までなくなってたって言ってたし、私が知らないのも無理ないかもね。・・・あれ?名草神殿って言ってたわよね・・・。確か、千鶴の名字って・・・。」
どうやら何かに気付いた史織さん・・・。
史織「これは一度、調べてみないとね・・・。」
何か思い当たる節ができたのか、史織さんは人里へと向かっていきました。
人里に着いた史織さんは自警団本部にいる柊さんの下へやってきました。下へ、というか柊さんの私室にですね。
史織「柊ぃぃぃ!!!」
柊「わあぁぁぁ!ちょ、急にどうしたのよ?史織ちゃん。」
史織「聞きたいことがあってね。アンタさぁ、暑まし山の名草神殿って知ってる?」
柊「えっ、暑まし山にある名草神殿?・・・いや、聞いたことないわね・・・。」
史織「うーん、そう・・・。」
柊「・・・そこに何か、重要な手がかりがあるのね?」
史織「ええ。私の勘が、そう言ってるわ。」
柊「分かった。私も少し調べてみるわね。」
自警団員「あの・・・、少しよろしいですか?」
すると、柊さんの私室に構えている自警団員の一人が話しかけてきました。
柊「あら、何かしら?」
自警団員「その、今話しておられた名草神殿のことなのですが・・・。」
史織「何か知ってるの!?」
自警団員「は、はい・・・。自分は少し歴史に興味がありまして、若い者でも歴史を嗜んでいる者なら名草神殿のことを知っている者もいるかと思います。」
柊「歴史?」
自警団員「はい。名草神殿はこの若鄙に古くからある由緒正しい神殿だと伝わっています。詳細なことは分かっていませんが、そこには二柱の神様がおられるとか。」
史織「神様・・・。」
自警団員「人里から暑まし山まではかなり遠いですが、つい一昔前までは名草神殿のことは人里の皆にも一定数知られていたそうなのですが・・・。」
柊「ですが?」
自警団員「約十数年前に突如として神殿が消滅したという噂が流れてきまして。まあ、実際に確認に行った人はいないと思われますが、怪異の噂によるとどうやら本当らしいということが分かりまして。それ以来、人里の皆からは名草神殿の名前は忘れ去られていったんです。」
史織「神殿が消滅・・・。プラレンが言ってたことと一致するわね・・・。」
自警団員「今でも名草神殿のことを知っている者は怪異か、私のような歴史を嗜んでいる者か、初老を既に迎えているような方くらいかと思います。なので、お二人が知らないのは無理もないかと・・・。」
柊「へぇ、知らなかったわ・・・。」
史織「じゃあ、名草神殿は本当にあるのね?」
自警団員「はい・・・、いえ。ですが、今は消滅したままで・・・。」
史織「ふふっ。じゃあ、同じ歴史を嗜む仲間たちに伝えてあげなさいな。『名草神殿は復活した』ってね?」
柊「史織ちゃん・・・?」
史織「ありがと、柊。これだけ聞ければ充分だわ。後は私に任せなさいって。そこのアンタも、ありがとね。」
自警団員「い、いえっ!史織さんのお役に立てたのであれば、何よりですっ!」
柊「そう・・・。待ってるからね?」
史織「ふっ・・・。じゃ、行ってくるわ。」
そう言うと、史織さんは人里を後にし、まずは例の暑まし山に向かうことにしました。果たして一体、どうなるのでしょうか・・・。
〈暑まし山〉
人里から遠く離れた、万能の湖から北西先にある山。若鄙では珍しく比較的暑い気候。ここまで人里から離れると、足を踏み入れる人間はまずいない。おかげで怪異が自由に過ごし、暮らすにはうってつけの場所にもなっている。特に何の変哲もない自然の山である。古き時代から山頂には名草神殿が構えられている。
〈名草神殿〉
古き時代から暑まし山の頂上に構えられている神殿。暑まし山付近に住む生物なら皆が存在を知っている。そうでなくても、怪異ならこの神殿のことを知る者は多い。それだけ古い神殿なのだ。約十数年前に突如として神殿が敷地ごと消滅したことが怪異の間で当時広まった。その噂のせいか、現在の人里での認知率はほぼない。元々人里からも遠く訪れる者もいないため仕方がないとも言える。つい最近になって神殿が復活していたことが怪異の間で広まってきているらしい。消滅期間中、神殿に暮らしていた二柱の神がどうしていたのかを知る者はほぼいない。
プラレンは「ちょっと前」、自警団員は「約十数年前」に神殿がなくなったと話していた。この表現の違いは怪異と人間との時間感覚の差の最たるものなのであろう。実際の事実関係は「約十数年前」なのだが、別にプラレンが嘘を言っているわけではない。たかだが数十年前のことなど怪異にとっては「ちょっと前」のことなのだ。