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若鄙の有閑  作者: 土衣いと
摩訶不思議な人間と
32/94

〈第三面〉高度に重要な要請依頼?

うむむ・・・。〈三面〉と題名にはありますが、内容は第一章の時の〈序談〉のような内容になります。統一感が乱れてしまうのは、作者個人的には少し不本意です・・・。まあ、皆さんはあまり気になさらなくても結構なので。

 お祭り明け、二日目の朝。午前七時頃。

史織「すやぁぁぁ~・・・。」

昨晩は三人で少し楽しく話し込んでしまい、やや夜更かし気味な史織さん。

史織「すぴぃぃぃ~・・・。」

しかし、気持ちの良い寝息は史織さんの分しか聞こえてきません。

小冬さんと柊さんは既に起きて、どこかに出かけているようです。

今日も快晴、お祭り二日目も問題なく行われそうですね。


 少し経って小冬さんが戻って来ました。

小冬「史織ぃぃ~。そろそろお起きになって~。」

史織「う、うぅ~ん・・・。」

小冬「もうー、全く。史織ったら・・・。こほん、これは・・・。」

と言うと、小冬さんが史織さんの顔の傍まで近づいて・・・。

小冬「かぁぁぁぁぁつっ!!!」

パチィィンッ!!!

史織「にぎゃぁっ!!??」

寝ている史織さんの両頬を小冬さんが大きく手で叩きました。爽快な音が響きます。

小冬「うふっ、おはよう?史織。」

史織「ううぅぅぅ・・・、痛いぃぃ・・・。おはよう・・・、小冬・・・。」

な、なかなかキツめの起こし方ですね、小冬さん・・・。

小冬「さあ、早く支度をしてくださいな。朝ごはんなら、ここにおにぎりがありますから。」

朝早くから柊さんが用意してくれたもののようです。小冬さんは柊さんと一緒に既におにぎりをいただき終わっています。

史織「・・・あれ~?柊は~・・・?」

小冬「柊さんなら早くからお仕事に行かれましたよ。毎日遅くまで大変だというのに朝早くから。感心しますわ。それに比べて・・・。」

史織「うぅぅ~ん・・・。ふああぁぁぁぁ・・・。」

小冬「はあ・・・。まあ、私がどうこう言える立場ではないですわね。さあ!史織!起きますわよ!!」

と、まだ寝ぼけ中の史織さんをしっかりと起こしにかかる小冬さんです。


 朝ごはんを食べ終わり、支度も済ませ、柊さんの家を後にするお二人。どうやら向かうべき場所があるようです。

史織「はあ、せっかくの祭りだってのに呼び出しだなんて、面倒よね・・・。」

小冬「まあまあ、仕方ありませんわ。急用であることは間違いないってことですから、かなり重要なことなんでしょう。」

史織「一旦図書館に帰って、この『雷獣の爪』の準備を早くしたかったんだけどなぁ・・・。」

小冬「そう言えば、どうしてそんなに欲しかったんですの?教えてくださいな。」

史織「ふっふっふー、実はね。この爪は我が家秘伝の秘薬の材料になれるのよ。」

小冬「ああぁー、前に私にも飲ませてくださった速攻元気薬みたいな、あれですか?」

ほうほう、あの時の秘薬ですか。ある時の決闘の際に服用された、一時的に体の疲れや傷を押し殺して活性状態になれる秘薬が以前にありましたね。あの時に確かその秘薬は飲み切ってしまったんですよね。

史織「ええ。それもその内の一つなんだけど、この爪なら他の秘薬の材料にも使えるの。なかなかこれでこの爪は汎用性が高いのよねー。」

小冬「あの秘薬以外の他にも色々種類があるんですのね。」

史織「まあ、どれも凄い効き目なんだけど、やっぱりどれも貴重な材料が必要でなかなか手に入らない物が多いからね。こんな人里で『雷獣の爪』が手に入るなんて、かなり運が良かったわ!」

なるほど。それであんなに欲しがっていたんですね、納得です。

小冬「ほっ・・・。史織が欲しがっていた理由が意外にきちんとした理由でよかったですわ・・・。」

史織「なっ!ど、どういうことよー!?」

小冬「私は普段から図書館収入のない史織が遂にお金に目が眩んで優勝賞品を質に入れるつもりではないかと、少し心配していました。ま、杞憂でよかったですわ。」

史織「そ、そんなことしないわよー!ていうか私、普段から図書館の収入がないことなんて・・・、別に・・・、き、気にしてないもん!!」

小冬「うふふっ。はいはい。」

あらあら史織さん。小冬さんには心の内を見透かされているんですね。


 しばらく歩くと目的地までやって来たようです。

史織「はあ・・・。私、ここの中の雰囲気は苦手だわ・・・。」

小冬「ま、まあ、今回の件も恐らく柊さんが・・・。」

と、小冬さんが言いかけると。

柊「あっ、二人ともー。待ってたわ。さっ、とりあえず、中にどうぞ。」

柊さんがその建物から出てきました。お二人を中に案内してくれるようです。

史織「柊、ここの中ではアンタが一番の頼りどころだわ・・・。」

柊「もうー、いつもそれ言ってない?」

小冬「柊さんがいてくれるだけで気が楽になるということですわ・・・。」

そう、ここは人里自警団本部。人里の治安を守る総本山です。

お二人は自警団本部の雰囲気が少々苦手なようです。本部が、というよりかは、本部にいる上層部の方々の雰囲気が苦手なんですよね。ここに来る時はいつも上層部の方々との話がありましたから。古き仲の柊さんがいてくれるからこそ、まだマシといったところなんですね。

ガチャッ

柊さんに連れられとある部屋にやってきました。中には二人、他の自警団員もいます。どことなく落ち着いた雰囲気の部屋・・・、誰かの私室でしょうか・・・。

柊「さ、二人とも座って?」

小冬「いつものお部屋と、違いますわね。」

史織「もしかして・・・、アンタの部屋?」

柊「ふふっ、当たり!よく分かったわね。」

小冬「え、そうなんですの?」

柊「何だか史織ちゃんたち、いつも上層部の相手は大変そうだったし、私が直接掛け合ってみたの。今後の史織ちゃんたちの相手は私に任せてください、ってね。すんなり認めてくれたし、上層部もその方が事を進めやすいって思ってくれたのね。」

史織「なるほど。それは助かるわ。でも、それなら別に本部に来る必要なかったんじゃないの?」

小冬「昨日の晩とかではいけなかったんですの?」

柊「うーんと、今回はちょっと二人に本部の資料を見てほしくて。その方が説得力があると思ったの。それに、昨日は最後までお祭りを楽しんでほしかったから・・・。」

史織「・・・そう。じゃあ今からする話は正式な自警団からの要請依頼ってことでいいのね?」

柊「ええ。史織ちゃんと小冬ちゃん、二人にお願いしたいの。」

小冬「とても今更ですけど、私にも要請が来るなんて珍しいですわね。」

柊「内容が内容でね・・・。じゃあ、今回の件なんだけど・・・。」

さてさて、史織さんと小冬さんのお二人に正式な自警団からの要請依頼が来ました。前回の時は史織さんだけでしたが、今回のはお二人への要請ということで・・・。何やら事の重大さが感じられます。

問題の概要はこうです。

最も簡潔に端的に言えば、『人間・名草千鶴の調査』。既に人里内にはいないことが調査で判明したため、里の外のどこかにいると思われる。もしこの失踪が怪異の手によるものであった場合、『人里不可侵契約』違反という高度に重要な問題となるため、もはや人間の手には負えなくなる。そうなった場合は二人の全面的な力が必要になるため、協力を仰いだ。だがしかし、実は奇妙な事実が別に判明している。この人間『名草千鶴』について里の人間に聞いて回ったところ、なぜか彼女を知る者は誰一人としていなかった。昨日、大会で初めて見たという者ばかりだったのだ。もしかすると、『名草千鶴』は里の(・・)人間ではない可能性が浮上してきた。よって、『名草千鶴』の正確な情報を入手したい、とのこと。

史織「やっぱり、アイツ(・・・)関連のことだったのね・・・。」

小冬「私も、確かにあの方のことは気になっていましたし・・・。丁度、都合が良かったですわ。」

柊「もう一度言っておくけど、いい?二人とも。もしかすると、この件は事によってはこの若鄙全体を揺るがす程の大きな事件になり得るの。そうならないことを私たちは祈ってるんだけど、真実までは分からない。本当に危険な状況になった時は自分の安全を優先して?お願い・・・。」

史織「ふっ・・・。柊、私たちを誰だと思ってんのよ?」

小冬「そうですわ、柊さん。私たちに任せてください。」

柊「二人とも・・・。」

史織「こう言っちゃなんだけど、千鶴を空に打ち上げたのは私だしね・・・。私のせいってとこもあるし・・・、最後まで責任は持つわよ。」

小冬「私も、千鶴さんともう一度会って話をしてみたいですし。きっと・・・、大丈夫ですわ。」

史織「さ、そうと決まれば早速調査に向かうとしましょうか。千鶴のことは私たちに任せて、アンタら自警団はしっかりと今日のお祭りを成功させなさい。そして、私たちの分まで、精一杯お祭りを楽しみなさい。」

小冬「あら、史織にしてはかっこいいこと言うじゃありませんか。ふふっ。」

史織「茶化さないの!もう、行くよ。」

小冬「ふふっ、はいはい。」

柊「あの、二人とも!」

史織・小冬「?」

柊「・・・ありがとう。無理しないでね・・・。」

史織「ふっ・・・。あ、そうだ。この分の私への報酬は『雷獣の爪』の入手元の情報で宜しくー。他はいいわ。他の分は私の責任ってことで。」

小冬「あーもう。せっかくかっこいいことを言ったんですから、報酬だの何だのの話はしない方がもっとかっこよかったですのにー。」

ガチャン・・・

と言うと、二人は柊さんの部屋を後にしました。

柊「二人とも・・・、どうか無事で・・・。」


 午前十時頃、とりあえず今後どうするのかの相談をしているお二人。

史織「一先ず、千鶴を見つけるのが先よね。やっぱ一番の手掛かりはあの時(・・・)空を横切った怪異なのよね・・・。でも、多分私しか見てなかったと思うし、他は誰も気付いてなかったと思うし・・・。う~ん・・・。どうしようかしら。」

小冬「もう少しその怪異についての情報があればいいんですけど・・・。」

史織「あの時は私、ヘロヘロだったし余裕もなかったからなぁ・・・。もうちょっと気を回せてたらよかったんだけど。」

小冬「もう過ぎたことですわ。お気になさらず。とは言いますが、はて、どうしましょうかねぇ~・・・。」

まだ本格的な調査には踏み込めない様子。調査が進むにはもう少し時間がかかりそうですね。

〈人里自警団〉

 人里内の秩序と治安を守る保安組織。全員合わせて約数百人程の人間(・・)で構成されている。人里の北側端に本部、後は残り南、東、西の端にそれぞれ支部が置かれている。団員は主に『管理・運営部』と『実働隊』の二つに分かれている。管理・運営部の仕事は主に里の人たちの悩みや困り事等の調査・管理。他にも今回のお祭り事等里での行事を仕切る役割もある。実働隊の仕事は主に管理・運営部からの伝令を受けそれの遂行、里周辺の見回りや門番・事件の調査等、表舞台で活躍しているのは彼らである。管理・運営部と実働隊の間にはその仕事の性質上軋轢なんかがありそうな気もするが、特にそんなことはない。自警団としての仲間同士という意識が強いため協力的な関係にある。この二つの部を束ねる上位機関として『お偉い方上層部』が存在する。

 団員それぞれに階級が存在する。これは我々の言葉でいうところの『軍隊の階級』とほとんど同じ。『お偉い方上層部』は将官以上の者だけで構成されている。よくある『会議室の中にいる人』というイメージとほぼ同義。普段はあまり仕事はなく資料整理か有事の際に話し合いをするくらい。だが、人としての器が完成している者ばかりで思考能力も非常に高い優秀な人物しかいないため、部下からの信頼は厚い。ただし、少しお堅い。そのお堅い雰囲気に慣れている者でないと会った時に苦手意識を持つのは仕方ないのかもしれない。人間側最後の要である史織と小冬の二人と親しい柊に結構頼っているところもある。そうでなくても、彼らからの柊への評価は非常に高い。

 人里の運営・管理を司る組織ではあるものの、やはり、人里での『長』という意味合いはない。古くから人里のために尽力してきたことに違いはないが、それでも一組織という立場であり続けている。人里を治めている、という役割や意味合いは一切ない。こういう意味では我々の言葉でいうところの『政府』という意味は全くないのだ。

 当然のことながら、自警団は税金なんてものは徴収していない。(そもそもそんな概念もない。)全ての負担は自警団内で賄っている。なので、慢性的に資金不足なのは否めない。でも、何とか運営できている。それは人里の皆の自主的な援助が程々にあるからだろう。自警団が人里の皆を助け、人里の皆が自警団を助けている。人間が日々協力し合って生きているといえる代名詞だろう。

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