〈序々談〉物語の夜明け(日常編)
『第二章』開幕です。今回の章は、前回の章のように決闘尽くしになるかどうかは不明です・・・(笑)。少しくらいは、決闘描写を少なくしようかな?と思っていますが、はてさてどうなることやら・・・。
とある朝。爽やかな風の音・・・、さえずる小鳥たちの鳴き声・・・。どれほど清々しい朝を迎えても、起きない時は一切起きることのない人というのはいるものなのです・・・。
史織「くかあぁぁぁ・・・。すぉぉぉ・・・。」
まあまあなんとも気持ちよさそうな寝息ですこと。
午前八時、今日の天気も晴れ。晴れ渡る空の色が、今日の陽気を表しているかのようです。
正午過ぎになりました。
史織「う、う~~ん・・・。ふああぁぁぁぁ・・・。」
ようやくお目覚めのご様子。いつも通りの日常です。
史織「はふぅぅ・・・、ふぅ。ん、まだお昼過ぎ・・・。んん~~・・・。でも、そろそろ起きとかないと誰か来そうな気がするぅ~・・・。」
しぶしぶ、布団から起き上がって身支度を始めました。
ここ最近は特に大きな事もなく、平和でのんびり過ごしてきた史織さん。たまに小冬さんがやってきて、色々話したり・・・、そんな感じの毎日。史織さんは、こうしたのんびりゆったりな毎日を望んでいるのです。
史織「ふああぁぁぁ・・・、眠い・・・。ええぇ~っと、じゃあとりあえず、ごはんの準備でもしましょうか・・・。」
まあ、お昼時ですからね。
史織さんのごはんというのは普通の人よりも少なめの量。朝ごはん・・・は基本的に食べません。・・・寝てますからね。昼ごはんは大体寝起き時と重なるくらいの時間なので、茶碗一杯分のご飯ともう一品くらい。晩ごはんは寝る前くらいの時間なので、茶碗一杯分のご飯、味噌汁、もう一~二品くらい。それで、史織さんのお腹の調子は程よい感じに収まるのです。
史織「ふぅ、お米はとりあえずこんなもんでしょ。後は適当に炊いておいて・・・。」
史織さんの竈の火加減はいつも適当なのです。まあ、ちゃんと炊きあがっているので問題はないのでしょう・・・。
史織「後は・・・、ああ、鮭があったわね。ふむ・・・、焼き鮭にでもしましょうか。」
今日の昼ごはんは、ご飯と焼き鮭に決まったようです。
史織「ふんふんふ~ん。」
縁側で鼻歌交じりに七輪で鮭を焼く史織さん。
史織「う~~ん!いい香りね。っと、そろそろ竈の方も見ておかないと・・・。」
と、七輪の傍から離れた史織さん。うむむ、離れて大丈夫だったのでしょうか・・・。
台所の方へと向かう史織さん。
史織「おっと、釜の加減も良さそうね。焼き鮭もいい感じだったし、そろそろ食べましょうか!」
釜からご飯を茶碗によそっていきます。
と、その時!
ギャワーギャワー!
史織「っ!!??」
縁側の方から何やら妙な鳴き声が!
史織「マ、マズいっ!?」
慌てて七輪の下へと向かいます!
ギャワーギャワー・・・、バササッ!
しかし、既に手遅れ。
史織「ああっっ!!!」
ギャワー!ぱくりんちょ
なんと!木の陰にいた一羽のサギが七輪の方へと飛びかかり、こんがり焼きあがった鮭を一飲みに・・・。
アチチッ、ギャワー!バサバサバサッ・・・
そのまま飛び去っていってしましました・・・。
史織「そ、そんな・・・。私のお昼ごはん唯一のおかずが・・・。」
ガクッ
その場に崩れ落ちる史織さんでした。
そして、少し後・・・。
柊「おーい、史織ちゃーん。」
柊さんが図書館にやってきたようです。
柊「あら、史織ちゃん。お昼ごはん中だったの。って、あらあら・・・。何だか随分とご機嫌斜めみたいね・・・。」
史織「むっすぅぅぅ・・・(怒)。はぐはぐっ・・・。」
お昼の一品を奪われた怒りはまだまだ収まらないようですね・・・。
・・・・・・
柊「・・・あらら、それでそんなに怒ってるのね。」
史織「当たり前よ!全く。あの鶏冠頭のサギのヤツ、今度現れたら焼き鳥にでもしてやろうかしら。」
柊「もう、そんなこと言っちゃダメよ?ちゃんと目の届く所でやってなかった史織ちゃんも悪いのよ?」
史織「うぅ~、だってぇ~・・・。」
柊「はいはい。今度また、ちゃんとお魚もたくさん送ってあげるから。機嫌直して?」
史織「はぁ・・・、もう分かったわよ。で、今日はどうしたの?何かあったの?」
柊「あぁー、ええぇっと、ね。実は、丁度一週間後にね・・・。また・・・、えぇーっと、あ、あるのよ・・・。」
史織「一週間後?・・・、ああ。もしかして、武闘大会?もうそんな時期だったのね。」
柊「ええ、そうなの・・・。それでね?もしよかったら・・・。」
史織「出ないわよ、私は。」
柊「もうー!やっぱりぃー!」
人里では年に一度自警団主催のお祭りが開かれていて、一つの出し物として『武闘大会』が開かれるのです。力自慢と言ってもルール自体は概ね『決闘原則』に沿っていますが、力自慢の人間が集まって強い者を決めようというちょっとした大会です。要は、里中の人が集まってがやがや盛り上がる比較的大きめのお祭り事なのです。
史織「毎年毎年言ってるでしょ?私は出ないって。どうして私がわざわざ出場金を払ってまでしてそんな大会に出ないといけないのよ。面倒くさい。」
柊「だって、私たち自警団としては参加者は多い方がいいし、何より史織ちゃんが戦ってるところを見たいって人も結構いるのよー。」
史織「そりゃ、柊たちにとっては運営資金が目当てなんでしょうけどねぇ・・・。里の皆も何でかこういうのには積極的なのよねぇ・・・。」
柊「それに、史織ちゃんたちが出てくれた方が大会の雰囲気も盛り上がるのよぉー。」
史織「ちょっと、たちって何なのよ。もしかして、また小冬にも話したの?」
柊「え?いやー、さっき小冬ちゃんのとこにも寄って来たんだけど、いなくってね。まだ話してはないんだけど話はするつもりよ?」
史織「もう・・・。あの子だって毎年断ってるんだから、もう諦めなさいって。それに毎年言ってるけど、私たちが出ちゃったら大会が成り立たないんじゃないの?」
そ、そうですよね。確かに、出場者が人間限定である武闘大会にお二人が参加してしまうと、もうその時点でほぼ結果が分かってしまうのでは?
柊「う、うん・・・。ま、まあ確かに、去年までだと史織ちゃんか小冬ちゃんの優勝は間違いなかったと思うわ。でも、そのことを考えた上で上層部はある新設案を出したのよ。」
史織「へえー。まあ、一応聞いてあげるわ。」
柊「まず、より多くの参加者を募るために、一つは階級別に分けて決闘を行うことになったの。上・中・下の三段階の組に分かれてすることにしたの。そして、もう一つはちょっと決闘のルールを変更しようっていう動きがあってね。細かいことはまだ私も知らないんだけど、上層部が言うには『誰にでも勝ち目のある決闘になるルール』にするらしいわ。」
史織「ふーーーん・・・。はぐはぐっ・・・。」
快調にご飯を口に運ぶ史織さん。まるで興味なさげなご様子・・・。
柊「・・・ねぇ、どうかしら?だいぶ上層部も二人に出てもらいたがってるの。かなり手を回してくれたみたいだし、もう『後は、栄井君の説得と頑張りに託す。』なーんて言われたのよ・・・。やっぱり二人が出てくれた方がきっといつも以上に盛り上がれる大会になると思うの!」
史織「・・・。はぐはぐっ・・・。」
柊「そ、それにっ!今回、上の組の優勝賞品は『雷獣の爪』っていう貴重な品物なんだって。」
史織「はぐはっ・・・・・・!!!???」
がちゃん、がらごろごろ・・・
咄嗟に茶碗を床に落としてしまいました・・・。
柊「あっ、史織ちゃん。お茶碗が・・・。」
ガタッ
史織「出るわ。」
柊「えっ?」
史織「私も武闘大会、出るわ!」
柊「ええっ!?ほ、ほんとに!?あ、ありがとう!助かったわぁ・・・。とりあえず、史織ちゃんだけでも出てくれると決まれば、少しは上層部に顔向けできるわ・・・。」
と、突然どうしちゃったんでしょうか・・・?急にやる気になった史織さんですが・・・。
柊「じ、じゃあ、私、小冬ちゃんにもう一度伝えに行ってくるね。じゃあ、大会は一週間後だからねー。楽しみにしてるわよー!」
と言って、柊さんは帰っていきました。
史織「『雷獣の爪』・・・。」
な、何でしょうか。史織さん、そんなに欲しい物なんですか?
史織「ふっふっふ・・・。まさかこんなところでお目にかかれる日が来るなんてね・・・。ふっふっふ・・・。少しばかし訓練でもしておきましょうかね・・・。」
な、何やら不気味な笑みを浮かべながら訓練の決意をする史織さん・・・。あの努力嫌いな史織さんが訓練・・・!?
午後二時半頃。不穏な雰囲気漂わせる史織さんの日常はこうして流れていったのです。
〈武闘大会〉
人里で年に一度、自警団主催で開かれる比較的大きなお祭り事の出し物の一つ。色々趣旨はあるが、一番の趣旨は人里に活気を付けるため。出場金を支払うことで人間のみが出場できる。見に来る観客は多く怪異も見に来る。逆に、出場者自体は毎年少ない。昨年までは主な出場者が自警団員十人程度であり実力も概ね拮抗していたため、盛り上がり具合はまあまあ良かった。くじ引きにより開始地点を決めるトーナメント方式で行われてきた。ルール自体は『決闘原則』にある程度沿っており一人の審判の前にて一対一の決闘を行う。開始と決着の宣言は審判が行う。基本的に相手を降参させるか、動けなくするか等をすれば勝ちなのは変わらない。だが、制限時間が決まっておりそれまでに決着しない場合は審判の公正な判断により勝敗が決められる。優勝者には毎年何らかの賞品が与えられてきた。今年の目玉の賞品は『雷獣の爪』だそうだが・・・。
〈雷獣の爪〉
日本の伝説上の妖怪『雷獣』の爪。まあ、そのままの説明だがどう考えても超一級の逸品。若鄙広しと言えど、伝説上の存在というものにはそうそうお目にかかれるものではない。そんな雷獣の爪をなぜ自警団が持っているのか、どうやって手に入れたのか、謎は深まる。その爪には強力な妖力と雷の力が詰まっているらしい。上手く加工できれば強力な物ができそう。まあ確かに、お宝であることには間違いないのだがなぜ史織があんなにも欲しがったのだろうか。別に彼女はお宝マニアなどではない。まあ、売れば金くらいにはなるだろうが果たして・・・。