〈後日談〉一通りを終えて
久し振り(?)の日常回です。『日常』、『ほのぼの』タグ形無しですね(笑)。一通りの流れが終わったため、この回にて『第一章』は終了になります。ですが、若鄙の物語はまだ続いていくので、贔屓にして下さっている方には感謝の気持ちを送りつつ、次の章をお待ち頂けると幸いです。
その日の夜のこと。きれいな夜空と月が目に映る中、お二人が縁側でくつろいでいます。
史織「あー・・・。」
小冬「どうしましたの?」
史織「いや、夕方までぐっすりだったからさー。目が冴えたまんまで、どうしたもんかと。」
小冬「あら。別によろしいんではなくて?夜に起きている方もいらっしゃいますし。別に起きてちゃいけない理由なんて、ありませんのよ?」
史織「まあー、それはそうなんだけど。ちょっと寝る時間を間違っちゃうと、明日の予定に響くからさぁ・・・。」
小冬「ふふっ、何を言ってますの?史織はいつもお昼過ぎまで寝ているじゃありませんか。起きてからも、のんびりとゆったり時空を味わっているだけで。基本的に、史織に予定なんてないのでは?」
史織「うぐっ・・・。よ、予定くらい、私にだってあるのよっ!」
小冬「あら。では、明日の予定とは何ですの(煽り)?」
史織「うっ・・・。そ、それは・・・。庭掃除とか・・・、ほ、本の手入れ・・・、とか・・・。」
小冬「ふふっ。ま、その程度の予定だと思いましたわ。」
史織「あー、もうバカにしてるでしょ!私はね、ゆったり時空が過ごせれば満足なの!予定なんて、私には必要ないわっ!!」
小冬「そうそう。本音でものを言えば、何事もすっきりするものですわ。」
史織「うー・・・。何だか手玉に取られてる気がするわ・・・。」
すっかり落ち着いた様子のお二人。いつもの感じに戻っているようで何よりです。
小冬「さて。夜も更けてきましたし、私はそろそろ帰りますわ。」
史織「あら、そう?気を付けて帰んなさいよね。夜は面倒な連中が多いんだから。」
小冬「ふふっ、大丈夫ですわよ。では、お休みなさい。」
史織「ええ、お休み。」
支度を済ませると、小冬さんは家に帰っていきました。
それからしばらく経って、そろそろ日付を跨ぎそうな時間になりました。
史織「はぁ~~~。いい気分だわ~。静かで気持ちのいい夜に縁側で飲む月見茶は、また格別ねぇ~。」
ずずっ
ゆったり時空を満喫中の史織さん。これほどまでに幸せそうな顔でお茶を啜る人がいるでしょうか。ふふっ、いい笑顔です。
史織「事件も謎もぜーんぶ解決して一番一息つける今だからこそ、この時間がたまらないわぁ~~~。」
と、何やら人影が・・・。
ウェンディ「ごきげんよう、史織。」
リミュー「こーんばーんは、史織っ。」
史織「ぶふっ!な、何でアンタたちがここに・・・。」
ウェンディさんとリミューさんがやって来ました。
ウェンディ「まあ、もう夜も更けているし、長居はしないわ。ただ、さっきはあなたにちゃんと礼を言えなかったからね。改めて、今回は本当に世話になったわ。ありがとう。」
リミュー「わたしからも。史織にはわたしのせいでいろいろ迷惑かけちゃったみたいだから、ちゃんと謝りたかったの。ごめんなさい。そして、ありがとう!」
史織「ああー。もういいわよ、別に。私は人里からの依頼を果たして、気になったことに首を突っ込んだだけ。リミューの件は私のお節介みたいなもんよ。だから、気にしなくていいの。」
ウェンディ「ふふっ、私たちもちゃんとけじめをつけたかっただけよ。今回のことであなたには大きな借りができてしまったからね。今後、何かあった時は館に訪ねてきなさい。力くらいなら貸してあげるから。」
史織「ふっ。まあ、そうね。アンタたちに用ができるかどうかは分からないけど、個人的にはまた行かせてもらうわ。」
ウェンディ「あら、何か用があるのかしら?」
史織「ふんっ!伊戸のヤツを今度こそ負かしてやるのよっ!」
ウェンディ「ああ・・・、くすっ。聞けば、小冬は伊戸と互角にまでやり合ったそうだが、史織はほぼ完敗だったそうじゃないか(笑)。」
史織「あーもう!笑ってんじゃないわよっ!うぎぎ・・・、絶対に今度は負かしてみせるんだから!」
リミュー「伊戸ってすっごく強いもんね!でも、どうしてそんなに根に持ってるの?」
史織「負けっぱなしだなんて、私の気が収まらないからよっ!」
ウェンディ「ふふっ、うちの守護神を甘く見ないことね。」
リミュー「そうだよねー。わたしも、伊戸を応援するー。」
史織「ああもう、アイツの事を思い出したら何だかイライラしてきたわ・・・。アンタたちも、用が済んだのなら帰んなさい!」
リミュー「うん!それじゃあね。」
ウェンディ「ええ。じゃ、お前がまた来る日を楽しみにしているわ、人間。」
お二人もそのまま仲良く帰っていきました。
史織「全く・・・。せっかくいい気分だったのに、興が醒めちゃったわ。もう寝ちゃいましょ。」
まあ、史織さんも少々負けず嫌いなところがありますからね・・・。果たして伊戸さんを打ち負かすことができる日は来るのでしょうかねぇ・・・。
少し後、クロマリーヌへ帰る途中のウェンディさんたち。
ウェンディ「ねえ、リミュー。少し寄り道しない?」
リミュー「うん!いいよ。」
と言うと、お二人は少し進路を北へ変え、万能の湖の方へ飛んでいきました。
ウェンディ「それにしてもリミュー?あなた、本当に成長したわね。」
リミュー「んー、そう?」
ウェンディ「ええ、そうよ。怪異としての力も内面も、もうあの頃とは一味も二味も違いそうだわ。」
リミュー「えへへー。お外で過ごしてきたおかげでいろんなことを経験できたからかしら。」
ウェンディ「結果的にだけ見れば、あなたを外に出したのは良かったのかもしれないわね・・・。のどやかの暴走はどうやらほとんど沈黙したようだし。」
リミュー「むしろ、昔よりももっと上手にのどやかをお届けできるようになってるわよ?こうやって・・・、ぽわわあぁぁ!」
ぽわぽわあぁぁぁ・・・!
ウェンディ「あっ、こらっ、バカッ!」
すっ・・・
ひゅるるぅぅ・・・
リミュー「あ・・・。」
おやおや、リミューさん。話の流れで、ついのどやかの気を辺りに振り撒いてしまったようです。
ウェンディ「もう、あまりむやみにお届けしちゃダメよ?」
リミュー「うぅぅー、ごめんなさいぃぃ・・・。」
あれ・・・?ですが、至近にいたウェンディさんは何ともないようですね。
リミュー「あれ?でも、どうしておねえさまは平気なの?」
ウェンディ「ああ、私?のどやかにかかる直前に風の鎧を纏ったからね。風がのどやかを防いでくれているわ。」
リミュー「へぇー、そんなことができたんだ。」
ウェンディ「実は・・・ちょっと、ね。あなたののどやかの気は液体と気体の隔たりをすり抜けられないってことが分かったのよ。だから、私の能力を応用して風の鎧を纏えば、ある程度ののどやかくらいなら防げるようになるのよ。今日の朝、館を出る時にもこの力を試したのよ。館全体に風の鎧を纏わせておいたの。おかげで、中にいた伊予は無事だったけど、外にいた伊戸はのどやかにかかってたみたいだわ。」
なるほど。そういう仕掛けだったんですね。
リミュー「おねえさま、やっぱりすごい!」
ウェンディ「ふふん!もっと褒めてくれてもいいのよ?」
姉妹が仲良く飛行していると、万能の湖の畔に到着しました。
リミュー「ふぅー。」
ウェンディ「疲れた?」
リミュー「ううん、全然!」
二人が腰を落ち着かせると、何やら湖の中から気配が・・・。って、もう分かりますね。
ザバァッ!
筑紫「ぷはあぁ!こんなにきれいな月が出ているなら、地上で眺める方がいいですよねぇー。」
はい、筑紫さんですね。
ウェンディ「お前は、朝の・・・。」
筑紫「おや、あなたは朝の怪異。捜していた怪異は・・・、隣の方ですかね?見つかったんですね。」
ウェンディ「ああ、お前の情報も少しは役に立ったぞ。ところで・・・、覚えておくと言ったのは覚えているのだが、肝心の名前を忘れた。お前の名前は何だ?」
筑紫「ええぇ・・・(困惑)。まあ、そもそも名乗ってはいないんですけどね。私の名前は紅筑紫。今度はちゃんと覚えておいてくださいね?」
ウェンディ「ふむ、筑紫か。覚えておく。私はウェンディ・フィアラ。こっちは妹のリミューだ。覚えておけ。」
リミュー「こんばんは、筑紫。・・・あれ?」
筑紫「おや、あなたは・・・。」
ウェンディ「ん?何だ二人とも。もしかして面識でもあるのか?」
リミュー「この人・・・、あの時の・・・怪異さん?」
筑紫「おやおや、やはりそうでしたか。そうですよ、リミューさん。なるほど、あなたがそうだったんですね~。」
ウェンディ「うん?どういうこと?」
筑紫「私はですね、随分と昔から人里にこの湖の資源を卸しに行っているんですよ。そしてある時、こちらのリミューさんは私の行動に興味を持ったようで、私の跡をつけたりしてたんですよね?」
リミュー「う、うん、そう。わたしも人間さんとお友達になりたくって、筑紫の真似をしようとして鉱石を贈っていたのよ。」
ウェンディ「ほう・・・。では、お前が・・・。」
筑紫「今朝ウェンディさんに出会った時、どこかで会ったことのあるような気がしていたのは・・・、なるほど。リミューさんと勘違いをしていたせいだったんですねー。」
リミュー「ていうか筑紫。わたしのこと、気付いてたの!?」
筑紫「ふふん、伊達に長く怪異をしてはいませんよ。怪異が近くにいれば、気力で分かりますから。さすが、姉妹なだけあって気力もそっくりですね。」
リミュー「すごーい・・・。わたし、知らなかったわ。」
ウェンディ「ほう・・・。お前が気力の分かる怪異だったとはな。それなりに腕も立つというわけか・・・。」
筑紫「ま、経験値と言ってくれればいいですかね。」
リミュー「おねえさまは、気力が分かるの?」
ウェンディ「うぐっ・・・!」
リミュー「あっ・・・、ごめんね?」
ウェンディ「何で謝るのよ!憐れんでくれなくても結構よ!」
筑紫「まあまあ。気力の感知力は怪異それぞれの資質にもよりますからね。じゃあ、ここは一発。運命的な再会を祝して・・・。」
ジャボンッ・・・
ウェンディ「・・・?」
リミュー「・・・?」
何やら湖の中へ潜っていった筑紫さん。首を傾げるウェンディさんたち・・・。
すると。
ザバァッ!
筑紫「っぱぁ!うちからとっておきのドジョウを持ってきました!こいつらを祝杯にして、一緒に食べましょう!!」
ぬめぬめうにょうにょぬまぬまぁ~!
リミュー「わぁー!ドジョウさんだぁ!わたし、食べるの初めてー!」
ウェンディ「き、きゃああぁぁああぁぁぁ!!!!!なっ、何なのそのうにょうにょぬめぬめのやつはあぁぁぁ!!!私に近づけないでえぇぇえぇぇ!!!」
筑紫「ガーーーン!そんなぁ・・・、私の好物なのに・・・。」
リミュー「もう、おねえさま!そんな風に言っちゃ、筑紫もドジョウさんもかわいそうでしょ?」
ウェンディ「ううぅわああぁぁぁっ・・・!!!無理無理無理無理・・・。私、あ、あっち行ってるから・・・。二人で、処理しなさい・・・。」
リミュー「もうー!おねえさまったら・・・。」
筑紫「ドジョウ・・・、美味しいんだけどなぁ・・・。」
ウェンディさんに苦手な物ができたようです。
そんな平和な夜だったのでした。
〈何か、色んなちょっとした補足〉
・リミューと和解したウェンディたちはその後、リミューによる人里への贈り物の許可も出し、再び四人でクロマリーヌの暮らしを始めた。もうリミューは今回の一件で能力の制御がほぼ完全に正常に戻った様子。結局、暴走が始まった原因は不明のままだが、もうそんなことなどどうでもいいらしい。リミューは自身の記憶をのどやか封印していた時のことはあまり覚えていないらしい。だが、「のどやかを振り撒き続けたこと」、「ショクムと共に過ごした時間」、「史織との交戦(その時、ウェンディが近くにいたことを除く)」は覚えているとのこと。
・今回の『安寧事変』によってのどやか状態に陥った怪異は数多くいた。しかし、特に大きな被害は出ていない模様。逆に、被害にあった怪異は史織と小冬に挑んだ怪異たちと一部好戦的だった怪異同士で争った者のみ。尚、里の人間には一切被害はない。
・史織は『古屋図書館の司書長である』が普段は『司書をしていない』。誰も来ない図書館にいても、面白くないらしい。月に一度くらい書架や本の手入れをしている程度で、存分に『司書』と言えるほど『司書』はしていない。そんなことをするよりも、ゆったり時空を満喫したいらしい。彼女の予定は普段、ゆったり時空で埋まっているのだろう。それが良いのか悪いのかは、誰にも決めることはできない・・・。