〈番外面・完〉思い、そして再会(後編)
番外面、遂に完結です。全体的に、ちゃんとまとまったかな?まだ残っている伏線なんかもありますが、それはまた次回以降にでも。読み終わった頃、クロマリーヌの住人たちに少しでも好感を持ってくださっていれば幸いですね。次回は、後日談となります。
史織「・・・、何?」
ウェンディ「あの子と昨日今日と話してみて、何かあなたの中で食い違いや矛盾はなかった?」
史織「食い違い、矛盾・・・?」
リミュー「ううぅぅぅ・・・!わたしは・・・、ひとりぼっちが・・・!」
史織「・・・一人。」
ウェンディ「え?」
史織「リミューったら、いくら昔の記憶が封印されてるからって、ちょっと一人っていう言葉に囚われすぎてる気がするわ。」
ウェンディ「・・・。」
史織「さっきリミューは『ずっと一人ぼっちだった。』、『一人ぼっちが怖い。』、『寂しいのは嫌。』って言ってたわ。多分、館を出てからのリミューは一人でずっと過ごしてきたんだわ。」
ウェンディ「・・・。」
史織「『他の怪異は仲良くしてくれなかった。』とも言ってたわね。寂しかったのよ、リミューは。自分と一緒にいてくれたアンタたちから離れることになって、更に、外では尚更孤独になっていった。きっとそのせいでこんなことになっちゃったのよ。」
ウェンディ「・・・。リミューはいつでも明るく優しい子だった。伊戸ともすぐに打ち解け合ったくらい気さくな子だったのよ・・・。だから私は、リミューなら外に出てもやっていけるはず、って思ってた。けど、それがもう間違っていたのかしらね・・・。」
リミュー「はぁ・・・はぁ・・・。ま、まだ・・・、終わってないわ・・・!」
ぽわあぁぁぁ・・・
ウェンディ「えっ?」
史織「あっ、バカッ!!」
ウェンディ「うぅぅっ・・・、ぐっ・・・!・・・。すぅ・・・・・・。」
リミュー「・・・さあ、史織。続きを始めましょう?」
史織「ウェンディ!」
ああっと、ウェンディさんが一瞬の隙を付かれてのどやか状態に陥ってしまいました。
史織「ああっ!もう、仕方ないわね。何とか私がやってみせるわ。」
リミュー「その人のせいで余計な手間がかかっちゃったけど、別にいいわ。少し違うけど、ショクムがいなくなった分がその人の分って考えれば、元々二対二だったみたいになってキリが良いわ。ふふっ。」
史織「ふふっ、そうかもしれないわね。いいじゃない、私たちで決着をつけましょう!」
ウェンディ「すぅ・・・。・・・。」
史織「(あれっ・・・?もしかして・・・。)」
リミュー「でもね、史織。実は私、もうあんまり体力がないの。史織もでしょ?」
史織「えっ?え、ええ、そうね。」
リミュー「だからね、お互いに次の攻撃で最後にしましょ?それで、まだ立っていられた方の勝ち。」
史織「りょ、両方が立っていられたり立っていられなかったりした場合は、引き分けってことでいいのよね?」
リミュー「んー?うふふっ。大丈夫よ、そんなことは起こりえないから。」
史織「えっ?」
リミュー「だって、勝つのはわたしの方だもん。」
史織「ふっ、言ってくれるじゃない。とりあえず今は、この決闘の決着をつけるのが先ね。後の問題は、それが終わってからよ!」
二人が距離を取り、最後の一撃の構えを取ります・・・。
リミュー「うふふっ。さあ、のどやかの世界へ。史織、あなたも一緒に!」
史織「今度こそ、かち割ってやるわ。持ちこたえなさいよねっ、私の気力!」
リミュー「舞い踊れ、『ゲルートシューム』!!!」
史織「一点突破よっ!!!」
『ゲルートシューム』が史織さんに襲い掛かろうとしますが、史織さんはものともせずにリミューさん目掛けて一直線に迫っていきます!
史織「はあぁぁぁぁ!!!」
ぽわぽわぽわぽわああぁぁぁぁぁ!!!!
激しい『ゲルートシューム』の嵐が史織さんを襲いますが、それでも尚突き進む史織さん!
リミュー「どうしてっ!?のどやかを浴びてるのにっ!!??」
史織「うぐぅっ・・・、い、今こそ・・・!目を覚ましなさいっ!!『刹那魂砕』!!!」
リミュー「っ!!??」
ドキュオォォォォン・・・!!!
『刹那魂砕』が今度こそ決まったようです・・・。
史織「(うぐぐぅぅ!ま、まだよ・・・。気を、しっかり・・・!!!)」
リミュー「うぅあぁっ・・・。」
リミューさんが気を失ったまま浮遊しています。
どうやらこの決闘、勝負ありのようです。
史織「わ、私の・・・、勝ち・・・、ねっ!!」
小冬「史織ぃぃぃ!!!」
史織「あぁっ・・・、小冬・・・。」
小冬さんが戻ってきたようですね。
小冬「史織!大丈夫だったんですの!?」
史織「え、ええ・・・。何とか・・・ね。ほら・・・。」
と、浮かんだままのリミューさんを指す史織さん。
小冬「そ、そう。よかった・・・。」
史織「でもね・・・、もう・・・無理・・・。」
ガクッ
小冬「ああぁぁ!史織ぃぃ!!」
のどやかを浴びまくった史織さんでしたからね。どうやらここで限界のようです。
ウェンディ「・・・そいつの面倒は任せたわよ。」
小冬「・・・ええ。そちらの方は任せましたわ。」
おや、ウェンディさん。目が覚めたようですね。
・・・でも、本当に今、目覚めたんでしょうかねぇ・・・?
リミュー「・・・。ううぅぅ~ん・・・。」
ウェンディ「ふふっ、強くなったのね。リミュー・・・。」
ウェンディさんがリミューさんを優しく抱きかかえてあげています。
リミュー「ん~・・・。あ、あれえ?お、おねえさま・・・?」
ウェンディ「おはよう。リミュー・・・。」
リミュー「・・・!?お、おねえさまっ!!??ど、どうして・・・!?」
ウェンディ「ん~?さあ、どうしてかしらね~?」
リミュー「わたしは、今まで何を・・・。」
ウェンディ「リミュー?」
リミュー「は、はいっ!?」
ウェンディ「今までずっと、あなたのことを分かってあげられなくて、ごめんなさいね。」
リミュー「お、ねえ・・・、さま・・・?」
ウェンディ「あなたがクロマリーヌにいる間も外に出た後も、ずっと悩んで苦しかったでしょう。一人ぼっちで辛かったでしょう。助けてあげられなくて、本当にごめんなさい。」
リミュー「おねえさま・・・。」
ウェンディ「あの時の私は愚かだったの。あなたの悩みを私が一人で解決してあげようと躍起になって、伊戸や伊予に頼らなかった。・・・いいえ、伊戸や伊予があなたに手を差し伸べようとしていたのを止めさせたりもしたわ。私が愚かでなければ、あんなことは・・・!」
リミュー「う、ううん!違うの、おねえさま。おねえさまたちは何も悪くないよ。悪いのはわたしだけ・・・。わたしが、悪いの・・・。ごめんなさい!」
ウェンディ「リミュー・・・。」
リミュー「わたし、ずっと謝りたかったの。ちゃんと晩ごはんの時間までにお館に帰るって約束したのに破っちゃったこと・・・。ううん、違うわ・・・。お館に帰るつもりはもう、なかったの。でも、そのことは言わないで勝手にお館を出ちゃったこと・・・。ほんとに、ごめんなさい!」
ウェンディ「ううん・・・。いいのよ、そのことはもう。」
リミュー「えっ・・・?怒って・・・ないの・・・?」
ウェンディ「どうして怒っているもんですか。私たちはあの時にはあなたがもう帰って来ないんだって分かっていたもの。あなたは優しい子だもの。私たちに迷惑がかからないように、心配させないように、ってそうしたんでしょ?」
リミュー「・・・うん。」
ウェンディ「あなたはいつも私たちを思ってくれていたわ。そんなあなたを誰が怒っているもんですか。それに、別に私たちはあなたの能力のせいで迷惑していたわけじゃないわ。」
リミュー「えっ?」
ウェンディ「のどやかになったからって別に嫌な気分になるわけじゃないし。って言うか、むしろいい気分だしね。だから、あなたが気に病む必要は何もないのよ?」
リミュー「おねえさま・・・。」
伊戸「そうですよ、リミュー様。」
伊予「リミュー様が、悪いなんてことは全くないんですよ?」
リミュー「伊戸、伊予!」
ウェンディ「あら、あなたたち。来てくれたのね。」
伊戸「当然です!お嬢様方の危機には全力でお力になってみせますよっ!」
伊予「私も、伊戸と同じ気持ちです。お嬢様、リミュー様。」
ウェンディ「・・・ね?リミュー。あなたが私たちのことを大切に思ってくれているように、私たちもあなたのことを大切に思っているのよ。」
リミュー「みんな・・・。」
ウェンディ「あなたは一人ぼっちなんかじゃないわ。こんなにも私たちに思われているんだから。だからリミュー・・・、もう安心して帰っておいで?私たちの、クロマリーヌに。」
リミュー「うん・・・。うん!!!」
・・・・・・
小冬「どうやら、上手くいったようですわね。」
史織「すかぁー・・・。くぅぅー・・・。」
小冬「もう・・・、史織ったら。まあ、史織も一人で頑張ってくれていたようですし、労わってあげましょうか。」
正午前、晴れ渡るいいお天気です。無事にクロマリーヌの皆さんが再び元の鞘に収まり、一時的に若鄙に広まったのどやかの気も収束していくことでしょう。
続けて起きた最初の『湖嵐事変』、そして『安寧事変』。この百数十年振りに起きた大きな事変を解決に至らしめた二人の人間のことは、広くそして密やかにあらゆる怪異へと伝わっていくことでしょう。もちろん、その二つの事変を起こしたクロマリーヌの住人たちのことも・・・。
まあ何はともあれ皆さん、それぞれお疲れ様です。まだお昼前ですが、疲れを癒せるようゆっくりと今日を過ごしてくださいな。また明日からの、新たなる日常を過ごせるように・・・。
(追加)クロマリーヌの住人
◎ウェンディ・フィアラ 年齢・(成熟年齢)一般未満、(種族年齢)幼い
従者思い、妹思いのクロマリーヌ当主様。心を許した者には気楽に思いやりを持って接し、そうでない者にはクロマリーヌ当主として誇り高くやや尊大に接する。力を認めた者にも一定の接し方をする。たまに散歩と言って、山を下りることもある。基本的に館からはあまり出ないのだが、やはりずっと館にいるのも有閑なのだろう。(種族的に)幼い割には戦闘能力も高く、頭も良い。館の主としての資質は充分。堅くな鉱山の外れに、古くからの友人がいるらしい。今でも館に呼んで、よく交友している。
◎リミュー・フィアラ 年齢・(成熟年齢)幼い、(種族年齢)姉よりは幼い
思いやりの心が非常に強い優しい子。大切に思う人からは漏れなく大切に思われている。(種族的にも成熟年齢的にも)幼いゆえに難しい言葉や理論は分からない。気持ちや感情で行動するのが基本。純真無垢で好奇心があり、知らないことはどんどん知りたいタイプ。館に戻ってからは一人ぼっちの怖さも克服できることだろう。何故なら彼女はもう、一人ぼっちではないのだから。助けてくれる家族が傍にいるのだから。姉と同様、戦闘能力は高い。のどやかが強すぎるのもあるが、のどやかを使わずとも強いのは確か。
◎河瀬見伊戸 年齢・並以上
鉄壁の守護神の名は本物。頑丈さとタフさはもはや計り知れない。物理、魔法を問わずあらゆる攻撃を受け止められる根性、精神力を持つ。ただ、『斬られる』のは得意でないらしい。(得意ではないだけ。)彼女でもリミューののどやかは受け止められない。その気さくで朗らかな性格により、誰とでもすぐに打ち解けられる。砕けた言い方をすれば『なかなかいいヤツ』、と言うのが最も似合うか。何事も正々堂々と行うので、曲がったことは好きではない。
◎越久鳩伊予 年齢・若い
万能人と呼ばれることも。能力によりあらゆることに対応でき、鋭い洞察力・観察眼を持つ。だが、必要な時にしか能力は使用しない。能力に依存し切らないようにするためだとか。生真面目なので、身内以外にはあまり冗談は通じない。身内には逆に心を許し切っているため、周りからは贔屓かとも思われるような言動をとることもある。だが、それは彼女が生まれてから常に周りにはウェンディたちがいたため。絶大なる忠誠心があっても不思議ではないのだろう。伊戸には少しツンツンなところがあるが、仲は良好。彼女なりの照れ隠しか。