〈番外面・完〉思い、そして再会(前編)
次回にて、長かった番外面も完結となります。いやぁ、長くなりました。本当に。
この回ほんの一瞬くらいですが、リミューの口調が少し変化しています。あの優しい優しいリミューが、怒った時でもまだ可愛げの残るリミューの口調が、ああも変化するのは今後はもうないでしょうね。のどやかの暴走って、恐ろしいぃぃー。
一方その頃、伊予さんと伊戸さんのお二人は・・・。
ぽわぁん・・・
伊予「(ん・・・?)」
伊戸「どうしましたか?」
伊予「今、あっちの方から何か・・・。」
伊戸「・・・感じましたか?」
伊予「ちょっと待って。」
ボォッ・・・!
伊予さんは、緑の炎に包まれました。緑の炎は感覚強化です。
伊予「・・・。微かだけど、のどやかの気の痕跡が感じられるわ。あっちの方ね!」
伊戸「了解ですっ!」
二人は東の方へ向かって行きます。
伊予「ねぇ、伊戸。」
伊戸「はい、何ですか?」
伊予「ウェンディ様とリミュー様は今、何を思われているんだろうってね。」
伊戸「・・・。」
伊予「きっと、お二人とも凄く辛い思いをなさっていると思うの。リミュー様は館を出られてからもうずっと長い間外でお暮らしになっていた。ウェンディ様は、あの子なら大丈夫、と仰っていたけど、私は少し違ったと思うの。」
伊戸「どう、違ったって思うんですか?」
伊予「能力の暴走が始まってからのリミュー様はずっとお一人で悩まれていた。でも、私たちの前では明るいリミュー様でいてくださった。きっと私たちに迷惑をかけたくないって思ってくださっていたのよ。そう・・・。リミュー様は館を出る前からお一人で悩みを抱え込んでおられた。館を出た後も・・・。本当は、『誰かに助けてほしかった』はず。でも、それは周りに迷惑をかけることだと思い、することができなかった。きっとリミュー様は寂しかったと思うのよ・・・。」
伊戸「周りに助けてもらいたい、でも、周りに迷惑はかけたくない。その葛藤がリミュー様を苦しめていたと。」
伊予「館にいるうちも一人、外に出てからも一人。それがずっと・・・。一人ぼっちって、誰でも寂しくて辛いことだと思うのよ。・・・生まれてからずっと館にいる私が言えた口じゃないんだけどね。」
伊戸「そんなことありませんよ。伊予さんの言う通りだと思います。」
伊予「ウェンディ様がリミュー様のことを大丈夫と言ったのは、恐らく『一人でもちゃんと生きていける』っていう意味だったと思うの。リミュー様は強いお方だもの。そんじょそこらの怪異如きに遅れは取られないわ。でも、リミュー様の本当の問題は『一人で寂しく生きていくこと』だったのよ・・・。」
伊戸「・・・。ウェンディ様は一人ぼっちで生きていくことになるリミュー様のことまでは、考えられていなかったということですね。」
伊予「私個人の憶測だけどね。でも、あの時のウェンディ様も相当参っていたはず・・・。当然と言えば当然のことだと思うわ。」
伊戸「お嬢様方二人とも人が良すぎるせいで、つい一人で抱え込んでしまいますからねぇ。もっと私たちを頼ってくださってもいいんですけどねぇ・・・。」
伊予「そのことに関しては、私たちではまだまだ力不足だと思われているってこと。二人でもっとお嬢様たちのお役に立てるように精進しよう、って誓ったじゃない。」
伊戸「ふふっ、そうですね。私もまだまだ修行が足りませんね。」
伊予「さあ、早くお嬢様たちを助けに行きましょう!」
伊戸「ええ、任せてください!」
そして、生命の森南方上空の決闘の様子は・・・。
バコォーン!!!
史織「がはぁぁっっ!!!」
リミュー「はぁ・・・はぁ・・・。もう、しぶとい人間さんね・・・!」
史織「げっほげっほげほ・・・。ぐふっ・・・!」
両者共に満身創痍状態。なかなか決着がつかない長期戦です。
リミュー「人間さんの中にも、こんなにわたしと長く戦える人がいるなんて・・・。」
史織「げっほ・・・、ええ。人間の中じゃあ、私ともう一人が精々ってところじゃないかしらね。」
リミュー「・・・史織の他にもいるの?」
史織「え、ええ。(ヤバ、余計なこと言っちゃったかしら・・・。)」
リミュー「そうなの・・・。」
史織「もしかしたら、もうすぐクロマリーヌの連中も一緒に連れてここに来るかもしれないわね。」
リミュー「クロマ・・・リーヌ・・・。」
ピクッ
史織「(っ!いけるかも!)そうよ、アンタの家族を連れてね!!」
リミュー「わたしの・・・。」
史織「私としては、アイツらが来る前までに何とかしておきたいんだけどね。」
リミュー「・・・・・・。」
史織「(動揺してる今がチャンスかも・・・!)」
リミュー「わたしに・・・家族なんて・・・、いないわっっっ!!!!!」
キィィーン!!!!
鋭いリミューさんの叫び声が辺りに響きます。怒りの形相とも見える顔ですが、目には涙が溢れて・・・。
史織「・・・。まずはずっと話の邪魔になってるその頑なな記憶、のどやかもろとも一遍かち割ってあげるわっっ!!!」
リミュー「ううぅぅぅ・・・!」
一気にリミューさんとの間合いを詰め、構える史織さん。
そして。
史織「目を覚ましなさいっ!!『刹那魂砕』!!!」
ふぅっ・・・
『刹那魂砕』がリミューさんに決まった・・・、かに見えたその瞬間。リミューさんの姿が・・・。
史織「なっ!!??」
リミュー「舐めないで。そうあっさりやられちゃうほど、わたしは甘くないわ。」
史織「(っ!!??後ろっ!!??)」
リミュー「『バクーラウム』・・・!」
バキュゥゥゥゥムン!!!
史織「うっぐぅはぁっ・・・!?」
大技の『バクーラウム』が史織さんに炸裂。史織さんも何が起きたのか理解できていないご様子・・・。大きくふらついてしまう史織さん・・・。
リミュー「今のはショクムの分。そして、これがトドメの分・・・。」
史織「(い、今ので・・・、か、体がもう・・・!)」
リミュー「『ゲルートシューム』!!!」
史織「(くっ、ここまでなの・・・!?)」
遂に史織さんも覚悟を決め、『ゲルートシューム』が史織さんに襲い掛かろうとしたその時。
ビュゴオォォォォォ!!!
リミュー「っ・・・、何?」
史織「っ!?この風はっ!!」
凄まじい突風が『ゲルートシューム』を跳ね除けました。
そして、風上からやって来たのは・・・?
???「ふふっ、人間よ。随分と我が妹に手を焼いているようだな?だが・・・、礼を言うわ。史織、後は私に任せなさい。」
史織「ったく、いいカッコしちゃって・・・。でも、助かったわ。ありがとう・・・、ウェンディ。」
ウェンディさんです!間一髪で史織さんの窮地を救ってくれたようです。
史織「あれ・・・、小冬と一緒じゃないの?」
ウェンディ「ああ、あの人間なら途中で見かけたが・・・、遅いから置いてきた。」
史織「・・・。まあ、小冬なら大丈夫でしょうね・・・。」
ウェンディ「さて・・・。」
ウェンディさんとリミューさん、実に数百年振りの再開です。ですが・・・。
リミュー「あなた・・・、誰?今、すっごくいいところだったんだけど。邪魔しないでよ。」
ウェンディ「・・・っ。」
史織「あの子、正確には分からないけど、多分クロマリーヌで暮らしていた頃の記憶が残っていないの。能力の影響だとは思うんだけど・・・。」
ウェンディ「・・・、そう。ありがとう。」
リミュー「ねえ、あなた邪魔だって言ってるのよ。早くどいてくれない?」
ウェンディ「リミュー・・・、ごめんなさいね。」
リミュー「・・・っ!?どうして・・・。」
ウェンディ「あの時の私は愚かだったわ。あなたの悩みを私が一人で解決しようと少し躍起になっていたわ。あなたや伊戸、伊予にもっとちゃんと寄り添って、もっとちゃんとあなたたちを頼っていれば・・・。そうしていれば、あなたが一人で出ていく必要なんてなかったのに・・・。」
リミュー「何を・・・言って・・・。」
ウェンディ「のどやかの暴走なんて、私たちは別に気にしてなかったのよ?だって、あなたが悪いんじゃないんだもの。あなたはわざとやっていたわけじゃないでしょ?」
リミュー「・・・・・・。」
ウェンディ「暴走の事は私たち皆でゆっくり解決していけばよかったの。あなただけが背負い込む理由なんて、何一つなかったのよ?」
リミュー「・・・・・・。」
ウェンディ「私はまず、またあなたに会えた時は、あの時のことを謝りたかった・・・。本当に、ごめんなさい。」
リミュー「・・・分からない。どうして・・・、あなたがどうして謝っているのか分からないのに、どうしてこんなに涙が溢れてくるの・・・?」
ウェンディ「リミュー、私はあなたの姉のウェンディ・フィアラ。あなたは、私の自慢の妹よ。」
リミュー「うぐぐぅぅっ!あ、頭が・・・!!」
史織「まただわ・・・。ねえウェンディ、何とか記憶だけでも呼び戻せないの?」
ウェンディ「・・・うーん。今のあの子は恐らく、自分で自分の記憶を強くのどやか封印しちゃってるんだわ。でも、そののどやか封印は暴走状態によって強制的にさせられたように感じるわ。私の思いをあの子に伝えただけじゃまだ足りない。まだ何か、あの子を縛っているものが他にもあるんだわ・・・!」
どうやらウェンディさんの思いだけでは、リミューさんの記憶は戻らないようです。
リミューさんはウェンディさんたちのことを思う他にも、確かもう一つ、何か気にしていたことがあったような・・・。
リミュー「ううぅぅぅ・・・!わたしは・・・、ずっとひとりだったの・・・!おねえさま、なんて・・・!」
ウェンディ「・・・もしかして・・・。いや、だって、リミューは・・・。」
史織「何、何か分かったの?」
ウェンディ「い、いや、違うわ・・・。そんな・・・。」
史織「あーもう!まどろっこしいわね。はっきりしなさい!」
ウェンディ「・・・。史織、一つ聞きたいことがあるわ。」
後編へ続く
〈伊予の炎色能力〉
・緑の火 自身に宿る全ての感覚を引き上げる
自分が感じることのできる全ての感覚器官を強化する。感覚器官でなくとも、気配や予感といったものも強化される。元々持っていない感覚は強化されない(霊感など)。戦闘向けの強化能力ではないが、応用くらいはできる。ただし、痛覚も強化されている。
〇リミューの技『バクーラウム』
大気種族の大技の一つ。一瞬の間だけ自分の体を『自然の大気』状態にし、相手の周囲に大気空間を作り上げ、相手を包囲する。大気空間内にいる相手はその後、空間内の全方位から直接的な圧迫を受ける。もう少し平たく言うと、大気空間内にいる者は全方位あらゆる方向から同時に圧力で殴られるような衝撃を受ける。この圧力は対象の体に直接響くためシールドなどによる防御は不能。また、『自然の大気』状態とは身体が空気中に存在する自然の大気と同様の性質になる。・・・。もう少し平たく言うと、自然の大気自体は殴れないのと同様に『自然の大気』状態の者を殴ることはできない。半無敵状態とも言えるか。大半の攻撃は基本無効になるが、身体の性質は大気なので突風や汚染の影響を受けやすくなる。リミューはこの一瞬の半無敵期間を利用して『刹那魂砕』を回避した。
〇リミューの奥義の一つ『ゲルートシューム』
のどやかの気の粒子を花吹雪の如く対象へと放つ。この粒子は更に物理的なダメージ源にもなるが、この技の真骨頂はある程度対象を追尾するのどやか粒子に加え、自身の周囲にも粒子を張り巡らせ不可視の防御壁を作る攻防一体の技もであるというところ。もちろん、放たれる粒子全てにのどやかが詰まっているため迂闊に相手は近付けない。花吹雪の如く舞うこの粒子はリミューの自在によって舞い続ける。しかし、のどやかの気全般にも言えることだが、強力すぎる突風などの前には吹き飛ばされてしまう。