〈番外面・終〉それぞれの動向
題名に『終』の文字が入っていますが、この回で終わりじゃありません。詐欺ではないです(笑)。『終了』の『終』ではなく、『終盤』の『終』だと思ってください・・・。初期の頃に比べると、何だかんだで長い回ばかりになってきてしまいましたが、まあいいですよね?許してください(懇願)。
今回の後書きは、いつもの感じ通りではない感じです(笑)。意味が分からないと思いますが、見てくだされば、何となく分かるかも・・・?
史織さんたちがクロマリーヌに到着した頃・・・。
ウェンディ「ふぅ・・・。」
万能の湖の畔にて、少し休憩中のウェンディさんです。
ウェンディ「やっぱり、あの子の気配はこの近くからは感じられない・・・。のどやかの痕跡はこの周辺一帯には拡散しているのに。昨日の夜に感じたあれは気のせいだったのかしら・・・。」
やはり、リミューさんのことを調べていたんですね。ですが、これといった成果が出ていないようです・・・。
ウェンディ「昔はずっと一緒に暮らしていたというのに、こんなにもあの子のことが分からないなんて。姉として情けないわね・・・。」
かなり落ち込んでいるご様子。まあ・・・、元気を出してくださいな。
ザバァッ!
っと、いきなり湖から何者かが・・・!って、何となく分かりますね・・・。
筑紫「いやぁ、今日もいい天気ですねぇ。水の中もいいですが、よく日の当たる地上もいいものですねぇ。」
ウェンディ「・・・、誰?」
筑紫「おやおや、怪異がいるとは珍しい。あなたは・・・あぁ、昨日の怪異ですか。まあ、ゆっくりしているのでしたら、どうぞごゆっくり。」
と言うと筑紫さん、その場から離れようとしますが。
ウェンディ「ちょっと待て。」
筑紫「はい?何ですか。」
ウェンディ「今お前、『昨日の怪異』って言ったか?私は昨日、お前と会ってなどいないはずだ。」
ウェンディさん、ぐいぐいと筑紫さんに詰め寄ります。
筑紫「えぇ・・・?あ、あぁー。よく見たら、人違いですね。すみません、服の形状が似ているだけでした。色も違うようですし。では・・・。」
ウェンディ「ちょっと待て。」
筑紫「はいぃ?まだ何か。」
ウェンディ「お前、私と似た格好をした者を見かけたのか!?いつ、どこで見かけたんだ!?」
筑紫「ええぇ・・・?昨日の夕方過ぎくらいに、確かにあなたのような人が湖の上空を飛んでいくのを見ましたけど。」
ウェンディ「昨日の夕方か・・・。他に何か気になったことはないのか?」
筑紫「そうですねぇ・・・。あまり関係ないかもしれませんが、昨日の夜、この辺り一帯に何か大きな力が降りかかったみたいです。」
ウェンディ「・・・、詳しく教えなさい。」
筑紫「私は湖の中にいたので分かりませんでしたが、夜遅く地上に一度上がった時、周りの皆の様子が一律におかしかったんです。妙に気分が高いというか、浮かれているというか、前に私もそんな風になったことがあるんですけどねー。まあ夜も遅かったし、中にはすっかり眠っている子たちもいましたけど。」
筑紫さんは万能の湖周辺に暮らす一般動植物たちのことを親しみを込めて『皆』と呼んでいるようです。筑紫さんにとって『皆』は共に暮らす仲間のような存在なんでしょうかね。
ウェンディ「・・・じゃあ、最後に一つ。その怪異がどっちの方へ行ったか分かる?」
筑紫「ああ、さっきの話のことですか。北です。明らかに北に飛んでいきましたね。」
ウェンディ「・・・ありがとう。お前のこと、覚えておくわ。」
ウェンディさんは新たな手掛かりを手に、北へ向かいました。
筑紫「・・・。最後まで『お前』って・・・。覚えておいてくれるのでしたら、せめて名前くらいは聞いてほしかったですかねぇ・・・。」
・・・・・・
ウェンディ「さっきの怪異の言ってたことが本当なら、昨日の夜に感じたあれは気のせいじゃなかった。あれは間違いなく、のどやかの暴走の兆候だったんだわ。でも、あんなに大きいのを感じたのは初めてだった・・・。館との距離もかなり離れていたはずだっていうのに・・・。今のあの子はもう、自分の気持ちすら制御できていないんだわ・・・。それくらい、思い詰めているのね・・・。」
ウェンディさん、様々な考えを巡らせながらリミューさんがいる可能性のある方へと向かって行きます。
一方、クロマリーヌ前にて・・・。
史織「じゃあ、手分けして二人を探しましょう。」
伊予「ええ。でも、単独で動くと危険だわ。二人一組で動きましょう。」
小冬「それもそうですわね・・・。」
伊戸「では、私と伊予さん。史織さんと小冬さんで丁度いいですね。」
史織「そうね。じゃあ、各自のどやかにかからないように最大限に感覚を研ぎ澄ませて動くわよ!」
伊予「(っていうか、何で史織が仕切っているのかしら・・・。何か癪だわ、というか癪だわ・・・。別に何でもいいんだけど・・・。)」
少し不満の残る伊予さんを含め、皆さん、ウェンディさんとリミューさんを探しに出かけました。
その頃、生命の森南方にリミューさんの姿が。
リミュー「ふふふふふっ、いい気持ぃ。」
気分よく飛行中のリミューさん。この世に不満など微塵もない、と言わんばかりの素晴らしい笑顔ですね。ですが、この様子は・・・。
リミュー「何も考えないで、自由に飛ぶのがこんなにも気持ちいいなんて・・・。すっごく楽しいわぁ。生まれてからずぅっとひとりだったのに、どうして知らなかったのかしら・・・?・・・、あれ?わたしって・・・、ずっとひとりだったかしら・・・?」
ショクム「アララー?何だか楽しそうなヤツ、はっけーん。」
と、いつぞやのショクムさんがリミューさんに近づいてきました。
リミュー「あら、あなたは怪異さん?あなたは空を自由に飛ぶのは好き?」
ショクム「んー、まあそうかなー。そんなことよりアンタ、何してるのー?」
リミュー「わたしは、ただ自由に飛んでいたのよ。特に何もしてないわ。」
ショクム「なぁーんだ。何か楽しいことしてるのかと思っちゃったよ。でもいいや。ワタシもついていくわー。」
リミュー「うん。一緒に行きましょう。」
ぽわぽわあぁぁぁ・・・!
その時、人里南方を飛行中の史織さんたちは・・・。
史織「っ!!!今、微かに感じたわ!のどやかの気の流れが!」
小冬「ほ、本当ですの!?私は全く・・・。」
史織「こっちよ!」
小冬「ああ。史織、待ってくださいー!」
リミューさんののどやかを感じ取った様子の史織さん。大急ぎで東の方角へ向かいます。
史織「小冬っ。私は何となくのどやかの気が分かるけど、小冬は分からないのよね?」
小冬「え、ええ。私にはさっぱり・・・。」
史織「じゃあ、もしリミューを見つけたら、クロマリーヌの連中を呼んできてちょうだい。その間、リミューの事は私が引き受けるから。」
小冬「でも、それじゃあ史織が・・・!」
史織「私なら大丈夫。のどやかの気を察知できるし、一度リミューとも会ってるから。のどやかにかかったりしないって。それよりも連中を早く呼んできて直接会わせる方が、事が運びやすくなるはずだわ。」
小冬「う、うん・・・。」
史織「大丈夫、心配しないで。逆に、私の近くにいると小冬がのどやかにかかっちゃうわ。その方が危険だわ。・・・分かってくれる?」
小冬「・・・分かりましたわ。」
史織「ふふっ、ありがと。」
と、二人が話をしている間に!
史織「・・・っ!いたわ。小冬っ、お願いね。」
小冬「はい。史織も・・・、気を付けて。」
すぃー、っと小冬さんが元来た方向へと引き帰していきました。
史織「さて・・・。せっかく小冬に離れてもらったんだから、しっかりするのよぉー、私ぃー!」
史織さんがリミューさんに少しずつ近づいていきます・・・。
リミュー「・・・あら、そんなに強い人間さんがいたのね。」
ショクム「そうなのよ。あんなに強い人間なんて、久し振りだったわー。」
リミュー「人間さんに知り合いがいるなんて、何だか羨ましいわ。」
ショクム「別に知り合いっていう程じゃあないよ。あんな人間、敵よ敵。って言うか、羨ましい・・・の?」
リミュー「あれ・・・?どうしてわたし、羨ましがってるのかしら・・・?」
ショクム「さあー?よく分からないことは、考えてもよく分からないからねー。」
リミュー「・・・そうね。」
何やらお二人の会話も弾んでいるようですね。
しかし、お二人も近づいてくる人影に気が付きました。
リミュー「あら?誰か近づいてくるわ・・・?人間・・・さん?」
ショクム「ん?あぁー、そうそう。あの時の人間も、あーんな感じのヤツだったわ。」
リミュー「え?」
ショクム「え?・・・、ギャッ!ア、アイツだわー!ワタシをのした人間はー!」
史織「・・・昨日振りかしらね?リミュー。」
リミュー「あなた、わたしのこと知ってるの・・・?」
史織「・・・ええ。昨日クロマリーヌの前で話したからね。(・・・この様子、もうこの子・・・。)」
ショクム「ちょ、ちょっと!この人間と知り合いなのっ!?(こそこそ)」
リミュー「・・・知らないわ。わたし、あなたのことなんて知らない・・・。でも・・・。」
史織「・・・でも?」
リミュー「でも・・・、何だかあなたはわたしにとって、よくない人のような気がする・・・。」
史織「・・・そう。」
ショクム「ちょ、ちょっと!今、どういう状況なのよー?」
史織「アンタは黙ってなさい!!」
ショクム「ヒィィッ!!」
リミュー「ううぅぅっ!頭が・・・!」
ショクム「だ、大丈夫・・・?」
リミュー「・・・ねえ、ショクム。手伝ってくれる・・・?」
ショクム「え・・・?何を・・・?」
リミュー「目の前にいる人間さん・・・、いいえ、敵を倒すのを・・・!」
史織「っ!?」
ショクム「・・・ハハッ、いいよ・・・。この人間には少しばかり借りがあるからね!ワタシにとっても、その都合は願ったりーだよ!」
史織「・・・。こうなっちゃったら仕方がないわね・・・。いいわ、きなさい。この私、古屋史織が相手をしてあげるっ!そしてリミュー、アンタの目を、覚まさせてあげるわっ!!!」
リミュー「史織・・・。わたしは自由に飛んでいるとすっごく楽しい気分になるの。でも、あなたのせいでせっかくの楽しい気分が削がれちゃった・・・。楽しい空のお散歩を邪魔したあなたには・・・、のどやかさの持つ恐怖の力を体感してもらうわっ!!!」
どうやらリミューさん(とショクムさん)との決闘が始まるようです。史織さんはリミューさんの異変を既に感じ取っているようです・・・。
さあ、史織さんはリミューさんの目を覚まさせてあげることができるのでしょうか!?
〈何か、色んなちょっとした解説〉
・今回、色々と地形に関する記述が多くあったため、若鄙の地形について今一度地図的に解説する。人里を中心として考えると、北東の山の麓に古屋図書館、東に生命の森(森内の入り口奥地に小冬の小屋がある)、西に少し離れて万能の湖、南西に堅くな鉱山、(南に小冬対伊戸戦の時のカルデラ盆地の山)といった感じか。人里には南にしか門がないため上記の各地域へ向かおうとしても歩いて最低でも三十分はかかる(最も近いのは生命の森)。今回、ウェンディは万能の湖の北へ向かい、史織と小冬は堅くな鉱山の東へ向かっていた。リミューとショクムは生命の森の南を飛んでいたので、史織たちとの距離はウェンディと比べるとかなり近い。逆に、ウェンディはかなり遠いのだ。
・そのことに関して、筑紫は別にウェンディに嘘を吐いたわけではない。ただ、その情報は昨日の夕方過ぎだったら、ということなだけ。筑紫は万能の湖を仕切っている怪異ではあるものの、自然を愛し、豊かに暮らしていたいだけ。湖を荒らすような者には容赦しないが根は優しい。動植物たちからも信頼されている。ちなみに、彼女は湖周辺に長く暮らしている動物の言葉なら何となく分かるらしい。
・リミューの『のどやかをお届けする』能力。正常であっても暴走中であっても、壁や隔たりを無視してのどやかの気はそれを乗り越えていける。だから、クロマリーヌ館内で発動したのどやかであっても、館の壁を越えて別の部屋にいる伊予や外にいる伊戸に影響が及ぶのは当然の事象である。だが実は、のどやかの気が乗り越えていける隔たりというのは固体だけ。つまり、地上で発動したのどやかが水中にいる魚などに影響を及ぼすことはない。液体や気体で隔たれた空間を跨ぐことはできない。(隔たれていないのであれば別。通常の空気中はそのまま伝わるし、通常の水中で放ったのどやかの気はそのまま水中を伝う。(逆に大気中へと跨いでいくことはない。))だが、今回館の外にいた伊戸がのどやかにかかったのに対して館内にいた伊予にはのどやかが及んでいない。固体である館の壁であるのに今回だけは内まで影響が及んでいないのだ・・・。そう言えば、ウェンディが館を出る直前に何かしていたような・・・?
・ショクムは今回、リミューと接触したがのどやか状態には陥っていない。受けたにも関わらずかかっていないのだ。つまり、今のショクムの動向は正常なのだ。
・今はクロマリーヌの決戦から数日が経っているが、まだ、史織と小冬の存在が怪異中に広まったわけではない。そこそこくらい。まだこれからも広がっていく。
・怪異は自身の固有の能力だけではなく、種族本来の能力も備わっていることを忘れてはいけない。例えば、『息するように毒を吐ける』能力があるからって、別に噛みつかれても毒は大丈夫、なんてことはないのだから・・・。
・決闘は相手に負けを認めさせればそれでいい。だがそうは言っても、実際のところ素直に負けを認めるような者はあまりいない。だから事実上、事の大きな戦闘に陥ることが多い。事が大きくなりすぎるのを嫌う者もいる。今回の事変を受けて、そのことを気にかける者がいるかもしれない・・・。
・登場人物は皆、誰と話すかで言葉遣いを変えている。史織はいつでも普通の話し言葉、小冬はいつでもお嬢様言葉、伊戸は誰にでも丁寧語だが一人の時は普通の話し言葉、ウェンディは気の許した相手には普通の話し言葉風口調だがそうでない相手には上から口調になる、など様々。また、人によって一人称や二人称の表記にも違いが存在している。
余談だが、人それぞれの言葉遣いや表記(漢字の変換等)には、厳重な注意が払われている。




