〈番外面・序〉考え過ぎは悪い癖か良い勘か
今回、後書きの設定はお休みです。
午後三時頃、史織さんが人里南門前に到着しました。
史織「ちょっと、聞きたいんだけど。いいかしら?」
門番「あれ、史織さん?どうかされましたか?」
史織「あれから、万能の湖からの資源はちゃんと届けられているのよね?」
門番「ええ、今朝も来てくれましたよ。また届けに来てくれるようになったのも、史織さんと小冬さんのおかげだと聞いていますよ。我々も感謝しています。」
史織「ふふっ、それくらい当然のことよ。・・・じゃあ、例の鉱石の贈り物って、ここ数日の内にあったかしら?」
門番「あっ、もう知っていたんですか。さすが、お早いですね。」
史織「え、もうって?」
門番「え?いや、てっきり今日その届け物があったのを聞いたんだと思ったんですが・・・。」
史織「・・・。今日の何時頃だった?」
門番「ちょうどお昼の十二時ちょっと前だったと思いますよ。門番交代の時間が四時間置きで、私の持ち時間がお昼から午後四時まで。届けがあったのは前の番の奴と入れ替わるほんの少し前でしたから。」
史織「・・・そう。ありがとっ!」
と言うと、史織さんは再び空へと飛んでいきました。
門番「はっ!史織さん、お気をつけて!」
史織さん、どうやら万能の湖の方へ向かっているようです。何か掴んだのでしょうか・・・。
史織「うーん、私の考えすぎだといいんだけど・・・。とりあえず、今はアイツの話を聞くのが一番ね。」
しばらくして、万能の湖に到着しました。前回来た時は大嵐中でよく見えませんでしたが、こうしてよく見ると自然と水の恵みが溢れるきれいな場所ですね。
史織「さてっと・・・。」
筑紫「ああぁっ!あなたは!」
ザバァッ!
っと、筑紫さんが湖の中から飛び出てきました。
史織「やっぱり、ここにいたわね。」
筑紫「やっぱりも何も、ここが私の住処ですよー。久し振りですね、史織さん。話は柊さんから聞きましたよ。あの嵐を追っ払ってくれたそうじゃあないですか!いやー、助かりましたよ!」
史織「ええ。まあそのことは今は別にいいのよ。それよりも・・・。」
ぐいぐいと筑紫さんに詰め寄ります。
筑紫「え。な、何ですか?ち、近いですよ。」
史織「アンタさぁ、人里にアンタ以外に何か物を卸しているヤツって、知らないわよね?」
筑紫「え、人里にですか?うーん・・・、確かに人里には怪異でも欲しがるような食料や道具なんかがありますし、私も里の中で他の怪異を見ることはよくあります。でも、私みたいに物を卸している怪異の話は聞いたことないですねぇ・・・。」
史織「う~ん・・・、そうよね~。(嘘を吐いてる感じはしないし、筑紫は大丈夫そうね・・・。)」
筑紫「ええ?一体何の話なんですかー。」
史織「んー、まあこっちの話よ。あっ、念のため聞いておくけど、今日アンタが人里を出たのはいつ?」
筑紫「え?うーんと・・・、朝の十時頃には資源を卸し終わって・・・、それから里を回って・・・、えぇーっと・・・、お昼の十二時ちょっと前くらいですかねぇ?」
史織「っ!?里を出た後、何か里の近くに異変はなかった!?」
筑紫「う~ん・・・。異変・・・と言いますか、何と言いますか・・・。」
史織「何っ!?気になったこと、何でも言ってみて!」
筑紫「いえ、大したことではないと思うんですが。ちょっと妙な怪異の気配を感じました。」
史織「妙な怪異の気配?別に変わった怪異くらいなら、里の近くでもいそうなもんだけど。」
筑紫「そういう感じではなかったんですよ。我々怪異は皆、怪異独特の気力みたいなのを持っていて、ある程度実力のある怪異なら近くに別の怪異がいれば、その気力を頼りに何となく分かるんですよ。まあ、分かると言っても近くに別の怪異がいるっていうことくらいですけど。姿を隠せる怪異でも気力だけはどうしようもなくって、近くにいるということは相手に気付かれてしまうんです。でも、さっきのあの感じは少し違いましたね。私と距離が開いている時は感じられた気力が、近づいていくにつれて感じられなくなって、そしてまた距離が開くと感じられるようになったんです。」
史織「要は、近い距離ほどその気力とやらが感じられなくなっちゃうような、妙な怪異が里の近くにいたと。姿は見てないの?」
筑紫「姿は見ていないんですが、何か妙な音が聞こえましたよ。石がぶつかり合うような擦れ合ってるような、そんな感じの音が。」
史織「っ!!ソイツだわっ!!!」
筑紫「な、何ですかー。急に大声出してー。」
史織「その石がぶつかり合うような音、その時の時間、間違いないわね。ソイツが、ずっと人里に鉱石を不気味に送り届けているヤツの正体よ!」
筑紫「へぇー・・・、そんな怪異がいたんですか。」
史織「最初はアンタが犯人かもしれないって、もしかしたら、アンタには人間にはまだ見せてない裏の顔があるんじゃないか、って思っていたけど・・・。まあ、杞憂でよかったわ。」
筑紫「えー、そんなこと私はしないですってー。」
史織「んもー、ごめんって。でも問題は、ソイツはどうやらアンタが言う分には感知しにくい怪異ってことよね。んー・・・、どうしようかしら・・・。」
筑紫「そうですね~。私も浮かれてなかったらちゃんと感知できていたのかもしれませんしね~・・・。」
史織「え、アンタ・・・。浮かれたまま帰ってきたの?」
筑紫「いやー、里を出るまではいつも通りだったはずなんですけどね。湖に帰ってきた時の私を見たウナギ仲間が言うには、妙に浮かれていたというかのどやかだったというか、変に気分が高かったみたいです。私自身は全然そんなつもりではなかったと思いますし、言われるまで全く気が付きませんでしたよ。」
史織「ふーん、変なの。」
筑紫「あー!もう、バカにしてー!」
史織「まあ、とりあえず色々と情報、助かったわ。ありがと、気が向いたらまた来てあげるわ。それじゃっ!」
バシュゥゥー・・・
と言って、史織さんは再び飛んでいきました。
筑紫「あっ、もうー・・・。全く、史織さんってば。最後まで話を聞いていかないんですから。似たようなことが随分に昔にもあった、って言おうとしたのに・・・。」
史織「後は・・・。まあ、一応アイツにも聞いておこうかしら。」
午後四時過ぎ、史織さんはクロマリーヌへとやってきました。
伊戸「あれ史織さん?どうしたんですか?お嬢様たちなら、そちらの方へ向かわれたはずなんですが。」
史織「ええ。強引に押しかけて来ててぃーたいむ?、なんて言ってお茶を飲みに来たわ。まあ、お菓子は美味しかったわ。」
伊戸「そう・・・ですか。えっと、お嬢様たちは?」
史織「そのまま放ってきたわ。まだ縁側にいるんじゃないかしら。それより、アンタに聞きたいことがあるのよ。」
伊戸「は、はあ・・・。何でしょうか?」
史織「アンタたち三人って、本当に普段から人里には関わってないのよね?」
伊戸「私はここの庭仕事・・・っじゃなくて、館の守護の仕事がありますし、伊予さんも館内の仕事で忙しいはずです。お嬢様はたまに外へ散歩に行かれるくらいで、人里に行ったという話は聞いたことがありませんよ。お二人が外に出かける時は、必ず私に声をかけてくれますから。間違いないです。」
史織「うーん・・・。じゃあ何でここの名前が人里に・・・。アンタたち三人以外に、誰がクロマリーヌの名前を人里に広めてるのよ・・・。」
伊戸「・・・、人里に館の名前が知られているんですか?」
史織「ええ、そうよ。里中に広まってるってわけじゃあないでしょうけどね。ここの名前で鉱石が届けられているの。里の門番に気付かれることなく、ね。全く、どういうつもりなのかしらっ!」
伊戸「はあ、気付かれることなく・・・ですか。」
史織「そう。ここの名前を広めて、どうするつもりなのかは知らないけど、アンタたち三人以外にそんなことする利点が考え付かなくってね・・・。」
伊戸「あの・・・、さっきからアンタたち三人ってやけに言ってますけど。・・・あぁ、そうか。史織さんは知らないんですね。」
史織「え、何が?」
伊戸「このクロマリーヌには私、伊予さん、そしてウェンディお嬢様。今は我々三人が暮らしていますが、別にクロマリーヌのことを知っている方が他にいない、なぁんてことはありませんよ?」
史織「どういうこと?」
伊戸「もっとも、館によくいらっしゃる方もお嬢様のご友人の方々くらいなものですが。」
史織「じゃあ、もしかしてソイツらが!?」
伊戸「いやぁ、あの方たちはどちらかと言うと人間嫌いな方たちなので、そういったことはしないかと・・・。」
史織「じゃあ、他に誰がやってるって言うのよ?」
伊戸「ふむ・・・。後、私が知る限りだと、他にクロマリーヌのことをよく知っていらっしゃる方でしたら、もうお一人いますよ?」
史織「だ、誰!?教えなさい!!」
伊戸「いーやー、何だかそのまま教えてあげるのも面白くないですねー・・・(笑)。」
史織「なっ!ちょ、いいじゃないの。別にアンタに迷惑はかからないでしょ!」
伊戸「えー。お嬢様たちのご厚意のティータイムをほっぽり出してきたみたいですしー。何だかいい気分じゃないですねー。ああー、この前の決闘で荒れちゃった庭、一緒に手入れをするのを手伝ってくれる人はいないですかねー?(チラ見)」
史織「ぐっ・・・!アンタ、イイ性格してんじゃない・・・!」
伊戸「ふふんっ!なんなら、また決闘してみますか?私に勝てたら、教えてあげますよ?」
史織「うぎぎ・・・!」
伊戸「じゃあ・・・、別に勝てなくてもいいですよ?私をまた決闘で楽しませてくれるだけでもいいです。正直なところ、今の史織さんでは私を倒すのはキツイと思いますので・・・(余裕)。」
史織「ぐぬぬぬぬぅ・・・!!」
あらあら?何だかマズい雰囲気が漂っていますよ・・・。二人とも、どうか落ち着いて・・・!
あわや決闘突入かと思われた、その時。
ぽわぽわぽわわあぁぁぁぁぁ・・・・・・!
史織「(っ!!!何か来たっ!?)」
シュバッ!
っと、その場で急上昇した史織さん。伊戸さんは飛び上がった史織さんを見上げたままです。
伊戸「あ、あれ、どうしたんですかー?もしかして、ちょっとイジメすぎちゃいましたかね・・・。すみませんってー。ちゃんと教えてあげますよー。」
史織「(何この感じ!?何だか分からないけど、何かが押し寄せてきたような・・・。)」
すると、伊戸さんの様子に変化が・・・。
伊戸「あ、あるれぇぇ~・・・?こ、この感じはぁぁ~・・・?昔懐かしのぉぉ~・・・、のどやか感かなぁぁ~・・・。ふああああぁぁ~・・・。」
ふらふら~~~・・・・・・
伊戸さん、何やら気の抜けたような口調で何かつぶやきながら、足元が覚束ない感じでゆらゆらふらふらとクロマリーヌ館内へと向かって歩いていきました・・・。一体何が起きたんでしょうか?
史織「伊戸のヤツ、急に腑抜けた感じになったわね・・・。浮かれてたというか何というか・・・。」
???「あれぇ?だぁれぇ??」
史織「っ!!??」
???「今、伊戸がお館の中に入っていちゃった理由は・・・分かるんだけど、あなたは?あなたはどうして?・・・、平気なの?」
午後五時前、日が沈みかけてきました。伊戸さんをあっさりと引き下がらせた、と言えば少し語弊がありますが、史織さんの前に現れた者の正体とは・・・?