〈続談〉しかし、真相は未だ謎のまま(究明編)
いよいよ物語の終盤になってきました。二つの謎を残したまま、史織たちはこのまま忘れて水に流してしまうのか・・・。将又、きっちりと真相を突き止めに向かうのか・・・。まあ、向かうんですけどね。今回は謎の究明・考察編となります。途中、ウェンディ辺りが何を言ってるのか分からなくても、きっと大丈夫です(笑)。次回から、解決編となりますので。
クロマリーヌの決戦から数日経ったとある日の午後二時過ぎ。あれからも気持ちの良い日が続いています。
が、史織さんの顔色は曇っているようです。
史織「うーん・・・。やっぱりいくら考えても分かんないのよねぇ・・・。」
どうやら史織さん、まだ引っ掛かっていることがあるようですね。恐らく、考えていることは・・・。
史織「湖の大嵐の意図とクロマリーヌからの鉱石の贈り物よ。」
そうです。そもそもウェンディさんがどうしてあんなことをしたのか、そして、差出人がクロマリーヌの館と書いてある鉱石の贈り物の謎。この二つの謎が史織さんの頭を悩ませているようです。
史織「嵐に関して気がかりなのは、何かウェンディのヤツ、やったこと自体を覚えていなかったってことよね。あんな大嵐を吹かせたままにしておくなんて、普通ボケてなきゃ忘れないと思うんだけど・・・。でなきゃ、またおんなじことをしでかすかもしんないし。」
ウェンディさんの言ったことが事実であるならば、かなり不可解であることは事実ですよね。
史織「後は謎の贈り物の件。贈ってくる分には問題ないんだけど、柊が言うには気付かないうちに届けられているってことが気になるのよねぇ・・・。」
里の入り口付近に気付かぬうちに届けられているという差出人がクロマリーヌの館と書かれた贈り物。里の門番が目を光らせている入り口付近に、気付かれることなく贈り物を届けているという件ですね。
史織「そんなこと、あるかなぁ・・・。里の門番は自警団の中でもそれなりに戦闘ができる人が就く役職なんだから、いくら暇だからってちゃんと仕事はしてると思うんだけどなぁ・・・。ちょっと門番が気を抜いた瞬間を狙って、届けに来てるの?そもそも贈り物自体は別に悪い物じゃないんだから、ちゃんと堂々と届ければいいじゃない。人との接触を避けてるのかしら・・・?でも、アイツらはそんな風には見えなかったし・・・。そもそも人との接触を避けたいのなら、差出人名なんて書かないわよね・・・。」
確かに、史織さんの言う通りですね。わざわざ差出人名を書いているのだから、隠れて届ける意味はないですよね。
史織「う~~~ん・・・。別にもうどっちのことも被害が出るような案件じゃないし、気にしなくてもいいかもしれないわよね。一番は、またクロマリーヌに行ってアイツらを問い詰めるのがいいんだけど、遠いし面倒なのよねぇ・・・。」
ええぇ・・・(困惑)。遠い発言はともかく、面倒発言はマズいんじゃ・・・。
史織「でも、問い詰めても少なくとも大嵐の件は分かんないままよねぇ。主犯であるウェンディ自体が覚えていないんだから。従者二人だって、主の知らないことを知ってるとは思えないし・・・。」
さすがに、これだけの情報では限界がありますねぇ。
史織「まあ・・・。別に、いっか。私が気にしなければ、何も問題は起きてないわけだし!」
ええぇ・・・。い、いいんでしょうかねぇ・・・。
しばらく経った後に、珍しい来訪者の姿が。
伊予「失礼します。」
ウェンディ「邪魔するわよ。」
史織「・・・。何でアンタらがここに来んのよ。」
ウェンディ「伊予。準備を進めて頂戴。」
伊予「はいっ、直ちに。」
史織「ちょ、ちょっと。人の話を聞かないうちから何してんのよ。」
ウェンディ「何って、午後のティータイムでしょ?今日は先日の詫びを兼ねて、あなたにも参加してもらおうと思って。嫌だったかしら?」
史織「急に押しかけて来ておいて、何の相談もなくやられるのは嫌ね。ま、話を聞いた今なら、別に構わないわ。何かお菓子もあるんでしょ?」
伊予「全く・・・。お嬢様のご厚意に感謝するのよ。」
史織「ふっ。ま、ありがたくいただいておくわ。」
突然にやってきたウェンディさんと伊予さんです。しかし、史織さん。これはいい機会ですよ。二つの謎の真相を聞けるかもしれないんですから。
伊予「では、お嬢様。召し上がってくださいませ。」
ウェンディ「ありがとう。さあ、あなたもいただきなさい。伊予も食べちゃっていいんだからね。」
史織「これ何?お茶・・・なの?何か色が変な感じなんだけど。」
伊予「私が独自に配合した紅茶です。今日のはお菓子が甘い焼き菓子といいうことで、少し渋めの配合にしてみましたわ。」
ウェンディ「・・・うん。いい感じね。今日のも美味しいわよ、伊予。」
伊予「お褒めに預かり、光栄ですわ。」
史織「私、普段は緑茶しか飲まないから、こういうのは初めてだわ・・・。・・・、渋っ。」
気持ちの良いお天気に複数人でのこうしたお茶会というのも、史織さんには新鮮だったようですね。
史織「そうだ。アンタら、詫びの意思があるのなら正直に教えてほしいことがあるのよ。」
ウェンディ「ん?何、言ってみなさいな?」
史織「まず・・・、ウェンディ。アンタ、本当に嵐を起こした理由を覚えてないの?」
ウェンディ「それなら覚えてないと言ったでしょう?本当よ。私が起こした嵐なら、私が消滅させるまで絶対に私の制御下から離れることはできない。湖の嵐は確かに私の制御で動いていたものだったわ。でも、本来なら能力を使いっぱなしにしていて私が気付けないはずがないのよ。でも、気付けていなかった。と、いうことはね?もしかしたら、というか恐らく、『私が湖を嵐にした』というより『私を使って誰かが湖を嵐にした』という可能性の方が高いわ。」
史織「どういうこと?」
ウェンディ「私の能力はね、私個人の意識と能力の意識が共鳴しているのよ。私が意識的に嵐を起こしたのなら、私が意識的にしていなくても嵐の能力は私の制御下にある。」
史織「と、当然じゃない。」
ウェンディ「でもね?例えば、誰かが私の意識を乗っ取って嵐を起こさせたとしたら、私は意識的にしていないと嵐の能力は私の制御下にはないの。」
史織「ちょ、ちょっと待って。ややこしくなってきた・・・。」
ウェンディ「もうー・・・。じゃあ簡単に言うとね?私が自分自身の意識で使った能力は、当然私に感知される。能力を使ったことを忘れるなんてことは、記憶喪失でもない限りあり得ないの。」
史織「う、うん。」
ウェンディ「でもね?私が無意識的に使った能力は、誰かから言われたりしないと私だけじゃ感知できないのよ。そういう時は、言われるまで能力を使ったことは覚えていないの。言われさえすれば、感知できて私の制御下にも入るんだけどねぇ。」
史織「つまり、今回のあの嵐はアンタが無意識に能力を使ったから、ほったらかしになってたってわけ?」
ウェンディ「んー、まあ、そうね。でも、私が誰かに操られるなんて、そう起こりえる話じゃないわ。」
史織「何で無意識で湖を嵐に何かしちゃったのよ。」
ウェンディ「そんなこと、分かるわけないでしょ?無意識なんだから。」
史織「んー・・・。一つ目の謎は分かったかもしれないけど、何かしっくりこないわね・・・。」
伊予「もう一つ、謎があるの?」
史織「そう。アンタら、何か隠れて人里に鉱石の贈り物なんてしてるそうじゃない。どういうことよ?」
ウェンディ「人里に・・・、鉱石の・・・。」
伊予「贈り物・・・ですって?」
史織「差出人のところに、律儀に『クロマリーヌの館』って書いてあるそうじゃない。でも、別に悪いことしてるんじゃないんだから、そんな隠れてやらなくてもいいじゃない。」
ウェンディ「・・・。伊予、あなたがやってるの?」
伊予「い、いえ。私はそのようなことは・・・。」
ウェンディ「それじゃあ、伊戸が?」
伊予「伊戸がそこまでして、外回り役をすっぽかしているとは思えませんわ。」
ウェンディ「そうよねぇ・・・。」
史織「え・・・、何?アンタたちじゃ、ないの・・・?」
ウェンディ「少なくとも、私たちではないわね。やる理由も筋合いもないわ。」
史織「だって、クロマリーヌの館ってアンタんとこの名前でしょ!?」
伊予「見間違いでは?それか、誰か別の者の悪戯か・・・。」
史織「ちょ、ちょっと待ってよ・・・。これはマズいわ・・・。少なくともこっちの謎だけは、聞けば分かると思っていたのに・・・。」
ウェンディ「聞きたいことはそれだけなの?じゃあ、ティータイムを再開し・・・。」
史織「嫌な予感がするわ・・・。のんびりお茶なんて飲んでる場合じゃないわね。ちょっとアンタたち!私は今から出かけてくるけど、お茶飲み終わったらちゃんと片付けてから帰るのよ!いいわねっ!」
すると史織さん、急いで里の方へと向かって飛んで行ってしまいました・・・。
ウェンディ「あら。せっかく伊予が準備してくれたのに。勿体ないわね。」
伊予「全くです。せっかくお嬢様のご厚意でティータイムに参加させてもらっているというのに。」
ウェンディ「そういう言い方をしてはダメよ、伊予。」
伊予「も、申し訳ありません・・・。」
ウェンディ「ふふっ、あなたはもっと広く物事を見ないと駄目よ?せっかくとびっきりの観察眼を持っているんだから。」
伊予「そ、そうでしょうか・・・。」
ウェンディ「ふう~・・・。それにしても、私は史織の考えすぎだと思うんだけどねぇ。誰かの悪戯だったとしても、別に私たちに危害はないわけだし。まあ、私の無意識での能力発動は気を付けないといけないわねぇ。」
伊予「・・・。」
ウェンディ「ねぇ伊予。あなたはどう思うの?」
伊予「あの、お嬢様。私、一つ思い当たることがありまして・・・。」
ウェンディ「あら、何?言ってみなさいな。あなたの観察眼はなかなか鋭くて、当たるのよ?」
伊予「いえいえ・・・(謙遜)。じ、実はですね・・・。」
伊予さんと言えば、熱処理による強化能力が印象的でしたね。彼女の固有能力でしたし。
ですがそれとは別に、彼女は驚異的な洞察力・観察眼の持ち主でもあります。もしかすると、彼女はもう事件の真相に気付いているのかもしれません・・・。
伊予「あの日・・・。お嬢様が最後に湖へ散歩に行かれた日。恐らく、あの日が湖での嵐が始まった日だと思います。その日、館に戻られた時のお嬢様は・・・。その・・・。」
ウェンディ「何?正直に言っていいから。言ってみなさい?」
伊予「い、今になって考えてみますと、いつもの散歩帰りの時と比べてお嬢様は少しのどやかだったような気がします。」
ウェンディ「・・・。のどやか、ねぇ・・・。」
伊予「その時は、何かいいことでもあったのかと勝手に判断してしまい、そのことには触れずにしておりました。ただやはり、いつもより、ほんの少しですが、のどやかの気があったと思います・・・。」
ウェンディ「うーん・・・、そうねぇ・・・。」
伊予「あの、もし私の予想が当たっていると仮定しますと・・・、恐らくお嬢様は・・・。」
ウェンディ「うふふっ、そうねぇ。あの子のせい、かしらねぇ。だとすると、もはや私にはどうしようもなかったってことね。もし本当にあの子が近くにいるのだとしたら、気付かぬうちに届けられている贈り物とやらの謎も、一件落着ね。」
伊予「そう・・・ですね。」
ウェンディ「さあて。史織がいなくなって私たちだけになった今になって、史織の謎が全部解けちゃったわ。どうしましょう。」
小冬「誰の謎が、解けたですって?」
ウェンディ「お前は・・・。」
小冬さんがウェンディさんと伊予さんの近くへとシュタッと降りてきました・・・。
小冬「私にも、状況説明を願えますか?ウェンディさん?」
何やら意味ありげに謎を解いてしまったウェンディさんたち、二人の会話の後にやってきた小冬さん。そして、嫌な予感がすると言い急いで調査に出かけた史織さん。この三者の背後に潜む、真の黒幕の正体とは・・・?
◎追加版
〈史織の、内なる話〉
古屋一族は代々若鄙の人間たちの問題や困難を解決する役目を果たしてきた。それは古屋一族が常人ではない力を持ち、それを正しく利用して、他種族との橋渡し役になれたからだ。ひ弱で力のない種族である人間が他種族と対等な関係であるためには、力を持った人間が必要だったのだ。
史織も生まれる際に、一子相伝の強力な術式を親から授かった。そして、古屋家としての役目・使命を教えられた。幼き日の史織がそれを正しく理解できたのかは分からない。だが、史織は今も正しく役目を果たそうとしている。いつもはのんびり屋でゆったり屋な彼女だが、根っこは真面目で自分の正義を守ろうとしているのだろう。
人里から遠く離れた古屋図書館で幼い頃から一人で暮らしているが、寂しいことはないそうだ。里の人間とも昔から友好に接し、馴染みの深い小冬や柊もいる。多くを求めない彼女にとって、今の現状で充分満足しているようだ。
〈現時点での史織の技〉
・奥義『到来返戻』
史織の十八番。体の内部に存在する一部の力を抽出してシールドを張り、受けた攻撃エネルギーを相手へと送り返す。この時に張るシールドは、普段使用する防御用シールドとは性質が異なっている。攻撃力は相手の放った技の威力の約五割増し。ショクム戦では体内の毒エネルギーを抽出したため体力に変化はなかったものの、抽出する力によっては体力の消耗が大きくなる。
・奥義『刹那魂砕』
刹那の間に相手との間合いを詰め、その移動速度の力を最大限に利用し、渾身の衝撃波を放つ。詳細は〈第四面〉後編にて。
・『半月心霊』
体内に備わる霊魂を呼び覚まし、実体を与える。詳細は〈最終面〉後編にて。奥義ではない。




