〈最終面〉顕現する大気の機嫌(後編)
今回にて、本筋は一旦終了となります。いやー、長かった。文字だけで戦闘シーンを描くのはやはり難しい!ひしひしと感じましたね。
午後八時半過ぎ。こんな静かな夜の中、堅くな鉱山上空では熾烈な決闘が繰り広げられていることを多くの者は知りません。しかし、この決闘の行く末は数日も経てば知らない者が少なくなるほど若鄙に知れ渡ることを、史織さんは知りません。そしてこの先、数々の怪異たちに目を付けられるようになることも・・・。
ウェンディ「あっははは!やるじゃないの、人間。お前との戦いは本当に面白い!!」
史織「ったく、こっちは面白いからやってるわけじゃないっての!!」
両者共に一歩も引かぬ戦い、しかし、お互いに相手を認め合いながらの戦い。そんな戦いが、小冬さんたちが館に入ってから半時間も経ちました。お互いが体力の消耗を着実に感じて、しかし、相手にはそれを見せないようにする。長く苦しい戦いです。
史織「いい加減に、しなさいっての!!『半月心霊』!!!」
ウェンディ「(っ!?残像・・・?)」
史織さんの『半月心霊』。ざっくり言うと、もう一人自分を生み出す影分身みたいな感じですかね。本体は一方だけですが、分身体の方も本体の意思で自由に制御できます。
そして、二人になった史織さんがウェンディさん目がけて前後から同時攻撃を仕掛けます!
史織「たあぁぁぁぁ!!!」
ウェンディ「甘いわっ!!」
カキーン!
史織「なっ!!??」
史織さんの前後同時攻撃が、ウェンディさんに防がれました!
ウェンディ「二人まとめてっ!!」
バサァッ!!!
史織「うぐっ・・・!」
ウェンディさんが風の剣で回転切りをすることで、二人の史織さんを同時に攻撃しました!
ウェンディ「はぁ・・・はぁ・・・。お、惜しい技だったけど、まだ私の方が一枚上ね・・・。」
史織「はぁ・・・はぁ・・・。ま、まだまだよ・・・。」
うーむ、やはり史織さんの方がやや劣勢のようです。このままでは・・・。
ウェンディ「うむ・・・?・・・そうか。人間よ、残念だがそろそろ時間のようだ。」
史織「じ、時間?何のよ?」
ウェンディ「伊予からの合図が見えた。さすがにそろそろ、夕食が冷めてしまうらしい。」
史織「んー。じゃあ決闘はここでお預けってわけ?私はそれでもーーー。」
ウェンディ「そんなわけがないでしょう?今すぐケリをつけてあげると言ってるのよ?」
史織「ぐっ・・・!い、言うじゃない。アンタも大概息が上がってるクセに!」
ウェンディ「お前よりかはマシよ。ふふふ、大丈夫。殺しはしない、そういう決まりだからね。お前が落ちても下にいる人間が、お前を介抱してくれるだろう・・・。」
史織「(っ!?この感覚は・・・!!)」
ゴゴゴゴゴゴ・・・!
ウェンディ「さあ、私を楽しませてくれた人間よ。せっかくだ・・・、とっておきの奥義でこの決闘に終止符を打ってくれるわっ!」
史織「(はっ・・・!?)」
その瞬間、史織さんに天才的閃きが舞い降りたといいます。
史織「・・・、ふふっ。いいわ!かかってきなさい、ウェンディ!私もアンタを、ぶっ飛ばしてあげるわっ!!!」
ウェンディ「あっはっは!その生意気っぷり、完膚なきまでに叩き潰してわげるわっ!!!」
史織さんとウェンディさんが同じ高度に立ち、距離を置き、お互いこの決闘最後の攻撃に全てを懸けます!
ゴゴゴゴ・・・、ピシャァッ!!!
っとここで、ウェンディさんに雷が!しかし、この雷はウェンディさん直々の制御下にあるものです。
ウェンディ「疾風の刃、雷の裁き、その身に刻め!『シュトリッツカンプファー』!!!」
雷の力をまとったウェンディさんの風の剣の一撃が史織さんへと近づいていきます!
史織「不安だけど・・・。私は、私の勘を信じるわ。(念じるのよっ・・・、っ!!!)」
ウェンディ「はあぁぁぁぁっ!!!!」
ふぃゅん!
史織「っ!・・・受け止められるなら、受け止めてみせるっ!!!はあぁぁっ!!!」
ガキーィィッギギギギギ!!!!!
史織さん、『シュトリッツカンプファー』をシールドで受け止めました!ですが・・・!
史織「ぐっぬぬぬぬぬぅ・・・!」
ウェンディ「はあぁぁぁぁっ!!!!いやらぁぁぁぁ!!!!!」
史織「うっぐぐぐぐぐぅ・・・、ぐふぁっ・・・!」
パリィィィン・・・
ウェンディ「そぉらあぁぁぁぁ!!!!!」
ズバガァァァァン!!!
史織「がはぁっ・・・・・・。」
あぁ・・・、『シュトリッツカンプファー』が史織さんにシールドごとバッサリと決まってしまいました・・・。史織さんが地上へと落ちていきます。
ヒュゥゥゥ・・・、シュワァァァン・・・・・・
ウェンディ「はぁ・・・はぁ・・・。ど、どうよ。これが私の全力よ・・・!ま、まあ、敗れ落ちていったお前に言っても意味ないでしょうけどね・・・。はぁ・・・はぁ・・・。あ、あれ?今、姿が消え・・・た?」
史織「ふふんっ、その全力のせいでだいぶ消耗したみたいね。いいわ、すぐに楽にしてあげるから。」
ウェンディ「なっ!?なぜ、落ちていったはずのお前の声がっ!?どこからっ!!??」
史織「ふふっ、いい反応ね。その反応が見れただけで、私は満足だわ。さあ、これで、お終いよっ!!!」
ウェンディ「・・・っ!!!上かっ!?」
史織「『刹那魂砕』!!!」
ドキュオォォォォン・・・!!!
ウェンディ「うがはぁぁっっ!!!」
バシュコォォォォン・・・、ドガァァァァン!!!
ほぼ同時刻、クロマリーヌ館内一室にて。
伊戸「さあ、これで一先ずは大丈夫でしょう。」
小冬「ありがとうございます。」
伊戸「いえいえ。元々は私がつけた傷ですから。」
小冬「そ、それは言いっこなしですのよ。」
ドキュオォォォォン・・・!!!
伊戸「っ!?い、今の音は!」
バシュコォォォォン・・・、ドガァァァァン!!!
小冬「っ!!??館のすぐ前からですわっ!し、史織っ!!!」
伊戸「ああぁ、小冬さん。待ってくださいぃ!」
二人が館の外へ出ると既に伊予さんがおり、その先にはモクモクと立ち込める砂ぼこりが・・・。
伊戸「伊予さん、これは・・・。」
伊予「ええ。恐らく、決着したのでしょう・・・。」
すると、上からするりと降りてきたのは史織さんです。
史織「っと。あら、アンタたち、まさかずっと見てたの?小冬まで・・・、もう。」
小冬「し、史織!」
史織「な、何よ。」
小冬「史織ぃぃ!!良かったです・・・。本当に、良かったぁ・・・。」
史織「私が負けるわけないでしょ?・・・ってのは、もう言えなかったわね・・・。ごめん、心配かけて。それと、・・・ありがと。」
伊戸「ええぇぇー!!じ、じゃあ・・・。」
伊予「その砂ぼこりの中に・・・、いるのは・・・。」
砂ぼこりがさーっと晴れていくと、地面が大きく衝撃でへこんでいます。そして、中心にはうつ伏せで伸びているウェンディさんの姿が。
ウェンディ「あぅぅぅぅ・・・・・・。」
伊予「おおお、お嬢様ぁぁぁぁぁ!!!」
伊戸「ああぁぁ、何という有様で・・・。」
この決闘、勝負ありのようです。
伊予「そんな・・・お嬢様が敗れるなんて・・・!い、一体どんな汚い手を使ったのよ!?」
史織「き、汚い手とは失礼ね。ちゃんとした戦法よ。まあ、直前で閃いた私の勘頼りだけど。知りたいなら、教えてあげるわ。」
伊戸「いやはや、また勘ですか。もはや勘を超えた超能力では?」
史織「違うっての。最後のちょっと前に私、分身したんだけど。」
伊予「それがもう常人ではない証ですね。」
史織「黙って聞きなさいっての。で、一旦分身ごと私もウェンディに斬られたんだけど、どうやらまだ分身の効力が残ってたみたいなのよねー。普段は一発攻撃をもらったら消えちゃうんだけど。コイツも、もう分身は残ってないって感じてたみたいだし。それに気付いた瞬間、私は閃いた。私である『本体』を意識も丸ごと『分身』に投影できないかなぁってね。」
小冬「本体を分身に投影?」
史織「そう。まあよく分からないと思うけど、要はコイツが『本体』だと思っている『本体』を『分身』に入れ替えると同時に『分身』を『本体』が乗っ取るのよ。」
伊戸「(うーん、少しややこしくなってきました・・・。)」
史織「戦法はこう。まず『本体』は『分身』を『本体』の上空へと潜めさせて、『本体』は入れ替わる直前までコイツの気を引く。そして、コイツが『本体』に奥義を放ってくる直前に入れ替わりをして、実際には『分身』がコイツの奥義をシールドで受ける。受け止められる見込みがないのは分かってたからね。で、『分身』がやられて落ちていくのを見ていたコイツを、上空で潜んでいた元『分身』現『本体』である私が奥義をコイツの頭にぶち込んだ。分かった?」
伊戸「え、えーと。まあ・・・(分かりませんでしたっ!)。」
伊予「そ、そうね・・・(分かるわけないでしょっ!)。」
小冬「す、凄いですわね、史織って!(今度やってもらいましょう。)」
史織「ま、分身とは言え、自分の姿がやられていくのをまじまじと上から見るのは、ちょっと気が引けたわ・・・。」
伊戸「うーん・・・。でも、分身と本体を入れ替えるなんて、失敗したら大変なことになりそうなのによくやる決心が着きましたね。」
史織「あー、勘よ勘。思いついたのは閃きだけど、できそうな気がしたのは私の勘。それを信じた私の勝ちってことね。念じれば、何とかなったわよ。」
伊予「(そんな簡単なもんですか・・・!)」
史織「さてと。これで一先ず、今回の事件の犯人はとっちめたし、コイツもちゃんと元に戻すって言ってたから、アンタらを信用してコイツのことは任せたわよ。」
伊戸「はっ、分かりました。」
伊予「何でそんなにいい返事なのよ。」
史織「ああぁ、もう。今日は本っっ当に疲れたわ。今すぐにでも休みたいくらいだわ。うぐぐ・・・。」
小冬「あああ。じゃあ早くお家に帰りましょう?もう日も暮れてからかなり経ちましたし。私もお付き合いしますから。」
史織「ええ。宜しく・・・頼むわ・・・、小冬・・・。もうそろそろ、私も、限界だ・・・から・・・。」
ガクッ
小冬「ああぁ!史織ぃぃぃ!!!」
伊予「やれやれ。さ、伊戸。私たちも早くお嬢様を館にお連れするわよ。」
伊戸「了解しました!」
ウェンディ「うぐぐぅぅぅぅ・・・。」
午後九時過ぎ、星空がよく見える静かな夜。
小冬さんは史織さんを抱きかかえて、大急ぎで古屋図書館へと向かいます。二人の大変だった一日は終わりを迎えようとしています。ですが、この二人の強き人間の存在は瞬く間に怪異たちへと広まっていくのです。そのことを今の二人は知りません・・・。
まあ、今は知らなくてもいいんです。今日は早く帰って今日の疲れをしっかり癒せるようゆっくりと休んで下さい。また明日から、いつもの日常を過ごせるように・・・。
〇史織の技『半月心霊』
体内に備わる霊魂を呼び覚まし、実体を与える(以下、分身とする)。分身は本体と同等の力を持っており、声も出せ、術も使える。姿も同じであり、本体との判別は全くできないと言ってもいい。要は、全く自分と同じ人間を呼び出すのと同義。分身は本体の制御・意思によってのみ行動する。分身は本体か分身のどちらかが強い攻撃を受けると消滅する。本体が究極的に集中すれば、本体と分身の交換術が可能になる。実用性としては、今回のような本体だけに危機的状況が差し迫った場合に、緊急回避的な役割での利用が有効かと思われる。
〇ウェンディの奥義の一つ『シュトリッツカンプファー』
元々ウェンディが召喚していた風の剣と雷の力による合わせ技。風の出力を最大限に引き出し、かつ、雷の力を付与した強力で大きな斬撃を与える。二つの自然の力が合わさったこの攻撃を受け切れる者など、健康体時の伊戸ぐらいなものだろう。余りにも大きな自然の力を二つも扱っているため、その分の体への負荷も大きい。




