〈第四面〉夜の館の灯(後編)
今回も少し長めです。いよいよ最終局面に突入です。
後半の終わり少し前にて、伊予のドイツ語発言があります。ご注意下され。どうして若鄙でドイツ語発言があるのか、なんてことは思わないで下さいな(笑)。皆、気分屋で気持ちがちょっと昂っているだけです(笑)。
史織「今度はこっちからいかせてもらうわよっ!!」
気合を入れ直した史織さんの言葉が、館に響きます。
伊予「そうはさせませんっ。青の火、『炎隼』!」
史織「(乗ってきた・・・!)」
ブォォォォ!!
伊予「私の炎に、どこまでも追いかけられ・・・。」
ボォドカーン!!
伊予「え?直撃?もう少し逃げ回っているところが見たかったんですが・・・。まあ、所詮はこの程度であったと。」
メラメラメラ・・・、ヒュゴォォ!
伊予「っ!?」
史織「アンタ、言ってたわね。この火の鳥は相手に攻撃が決まるまで対象を追い続けるって・・・。私が放った場合はもちろん、アンタが対象になるのよね?」
伊予「炎隼を受け止めてるっ!?」
史織「今日の昼前に相手をしたヤツはね、私が返せばソイツの操る毒が効いたのよ・・・。私の勘だと、返せばアンタにも自分の炎は効くはずよっ!」
伊予「マ、マズいっ!!??」
史織「さあ火の鳥!アンタの主人を追い続けなさいっ!『到来返戻』!!!」
史織さんの放った『炎隼』が超高速で伊予さんに襲い掛かります。
伊予「くっ・・・!!!」
パリーン!
ブォォォッ!!
伊予さん、窓を破って外へと退避します。が、炎隼も続いて追いかけます。
伊予「(もうっ!こんな事初めてよっ!)」
史織「おおぉぉ、逃げ回ってるわね。クスッ、いい気味だわ。逃げるってことはやっぱりアイツにも効くってことよね。うーん・・・。」
伊予さんと炎隼の懸命の追いかけっこが上空で続いています。
史織「でも、両方同じ速度だから当分は追いつかれないし追いつけないわね。ま、その内疲れてきて追いつかれるでしょ。うぐっ・・・!」
ガクッ!
っ!?史織さん、一瞬膝から崩れ落ちかけました。どうしたんでしょうか?
史織「ああ、昼前の時とは違って返す力は自分の中の力を使ったから、やっぱり結構疲れがグッとくるわね・・・。雑用戦での疲れも合わせると、なかなか辛いわ・・・。今日の内に返せるのも、後一発が限度かしら・・・。」
うーむ、史織さんの疲労もかなり溜まってきているようですね・・・。
・・・・・・
一方、伊予さんはというと・・・?
伊予「はっ!」
ピュンピュンピュンッ・・・!
ブオォォォォ!!!
伊予「もうっ!一体どうしたら・・・?」
どうやら伊予さん、『炎隼』に向かって攻撃をして撃ち落とそうとしているようですが、全く勢いは収まりませんね。
伊予「さすが私の『炎隼』と言ったところね。・・・、言ってる場合じゃないけれど!」
ブオォォォォ!!!
伊予「せめて、能力を書き換える暇さえあれば・・・!」
???「・・・。全く。」
ビュゴオォォォォォ!!!!
その時、凄まじい突風が伊予さんに襲い掛かりました!
伊予「きゃあっ!!!」
ブオォォ・・・、シュゥゥゥー・・・
なんと!突風により『炎隼』が鎮火してしまいました。
突風に煽られ体勢を崩した伊予さんは地上へと落下していきます。
そのことに気付いた史織さん。
史織「ん?今、アイツに当たってないのに火の鳥が消えたわね・・・。アイツも落ちていった・・・。どういうこと?」
史織さんも館の外へと出てみます。
伊予さんが館前で倒れています。
伊予「痛たた・・・。今の突風で『炎隼』も消えたみたいね。助かったと言えば助かったけど、『炎隼』が消えるほどの突風って、まさか・・・。」
史織「あ、いた。なぁんだ、やっぱり落ちただけで火の鳥を浴びたわけじゃないのね。」
伊予「・・・ええ。突風様に助けられましたわ。」
史織「突風、様?」
伊予「では、仕切り直しで。」
史織「むっ!まだやるのねっ!?」
伊予「当然です。・・・、はっ!」
ボォッ・・・!
伊予さん、今度はマッチの赤い火に包まれました!
史織「で、今度は何を強化したの?」
伊予「あら、毎回毎回貴方に教えるとでも?」
史織「ふっ。まあ、そうよね。」
伊予「・・・おや。さっきと比べても、また随分とお疲れのようなのですね。」
史織「うっ・・・!」
伊予「ふっ。必死に誤魔化そうとしても、私の前では無駄なことですね。ですが、そうですか・・・。お疲れですか・・・。」
史織「け、今朝からほとんど動きっぱなしなのよ!仕方ないでしょ!何よ、情けなんて必要ないわよっ!」
伊予「いえ。情けをかけるつもりなど微塵もありませんよ。ただ・・・、はっ!」
ボォッ・・・!
伊予さん、先ほど赤い火の能力をかけたばかりですが、橙色の火に包まれました。引き上げる能力を赤から橙に変えたようですね。
伊予「お疲れなのでしたら、この橙の炎の方が効果的かと思いまして。」
史織「ぐぬぬ・・・。何だかいいように遊ばれてる気がするわ。」
伊予「さあ。舞いなさい、私の橙の炎。ありったけの火力で!」
ゴオォォォォォ・・・!!!
橙の火柱が暗い夜を照らしながら、史織さんと伊予さんを囲うように放たれていきます。
史織「(ん・・・?何なのこれは。ちょっと周りが熱くなっただけで、別に攻撃じゃないし・・・。いえ、油断は禁物。これ以上、体に負荷はかけられないもの。)」
ゴオォォォォォ・・・!!!
伊予「うっふふふふふ・・・!それっ!」
ピュンピュンピュンッ!!
史織「(さっきの火の粉!これならシールドで防げる!)」
バシュバシュバシュッ!!
伊予「ふふっ、それそれそれっ!」
ピュンピュンピュンピュンピュンピュンッ!!
伊予さんが特に重い一撃にならない火の粉攻撃の猛攻を続けます。史織さんもシールドで防御を続けます。
史織「(うぐぐぐ・・・!し、しつこいっ!)」
バシュバシュバシュバシュバシュバシュッ・・・!!
すると、伊予さんの攻撃がピタリと止みました。
史織「(はぁ・・・はぁ・・・。な、何なのよ一体・・・。)」
伊予「うっふふふふふ・・・。」
史織「(うぎぎ・・・、腹の立つ!今度はこっちが!・・・、えっ?)」
ガクッ、ドサッ。
なんと!史織さんがすっ、と膝から崩れるように倒れ込んでしまいました!一体何が・・・!?
史織「(えっ・・・!?何で、私、倒れてるの・・・?ダメージは受けてなかったはず・・・。なのに・・・、何で・・・!?)」
伊予「ふふっ、貴方はこう思っているはず。『あんな弱い火の粉じゃダメージなんて受けないのに、どうして私が倒れているの?』、と。理由は簡単です。私たちの周りにある橙の火柱、そして、貴方に乱射した火の粉。この二つの橙の火の力で、貴方にかかる体力の負荷量を増やしたからです。」
史織「体力の、負荷量・・・?」
伊予「先ほど貴方が既に疲れ切っていることを見抜いた私は、力で捻じ伏せる赤い炎ではなく、力を削ぎ落とす橙の炎を選んだ。そして貴方はまんまと私の罠にかかり、火の粉を避けるのではなく防ぐことを選んだ。まあ確かに避け続けるのも困難でしょうが、シールドで防御し続ける方が貴方への負荷は大きかった。そして今、貴方は気付かぬうちに体力の限界へと陥り、地面に伏せているのですよ。」
史織「はぁ・・・はぁ・・・、うぐっ・・・!」
伊予「・・・、はっ!」
ボォッ・・・!
伊予さんが、赤い火に包まれました。
伊予「おかげで私は、地面に伏して動けない的に目がけて、この赤い炎を目一杯叩き込むことができます。赤い炎はかなりの火力がありますが、なにぶん命中の精度が低めなので。動かない的なら、容易いですがね。」
史織「(うぐぅっ・・・。動けない・・・。このままじゃ・・・!)」
伊予「これでようやく・・・、エンデデススピールス・・・。」
史織「(でも、ここでまたやられたら、小冬に合わせる顔がないわっ!)」
伊予「お嬢様にみっともないところを見せてしまった不始末、償ってもらいますっ!」
史織「(今しか、ないっ!)」
はむっ・・・!
・・・何かを飲み込んだ史織さん。
伊予「赤の火、『紅煉』!!!」
ボォッボボボォッ・・・!
史織「そこよぉぉぉっ!!!」
すると史織さん、息を吹き返したかのように立ち上がりました。そして、史織さんに向けて放たれた『紅煉』の火種を、持ち前の勘と反応力を全力稼働させ紙一重で避けていき、伊予さんとの間合いを超神速で詰めました!
伊予「バ、バカなっっ!!??」
史織「吹き飛べぇ!!『刹那魂砕』!!!」
ドキュオォォォォン・・・!!!
伊予「うぐぅぅっっ!!!がぁぁっっ!!!」
バシュコォォォォン・・・、ドガァァァァン!!!
伊予さんが鉱山岩肌まで吹き飛び、そのまま激突しました。
『紅煉』が伊予さんの手から放たれ史織さんの『刹那魂砕』が決まるまで、僅か一秒の出来事でした。
史織「ふぅ・・・。」
ブブボボゴォォォォォ!!!!!
史織さんの背後奥の方で、『紅煉』が炸裂し燃え上がっています。
伊予「・・・・・・、ぐはっ・・・。」
どさっ・・・
この決闘、勝負ありのようです。
史織「うぐぐ・・・。窮地だったとは言え、秘薬をもう飲み切ってしまったわ・・・。今も無理矢理疲れを押し殺して動いてるだけだから、どっと疲れが押し寄せてくる前に、この事件を解決しないと!」
なるほど。さっきまで疲労で動けなかったのを何とか古屋家秘伝の秘薬で乗り切ったんですね。しかし、図書館で飲んだ分と小冬さんに飲ませた分、そして、今飲んだ分で使い切ってしまったようです。
???「うっふっふ。まあなんてことよ。鉄壁の守護神と謳われた伊戸が敗れ、万能人たる伊予をも討ち取るとは・・・。こんな人間もいるものなのねぇ・・・!」
史織「誰っ!!??」
午後八時頃、物語の最高潮は星空輝く最高の夜になりそうです。
〈伊予の炎色能力〉※下記以外にも存在
伊予が炎色能力を使用している間は、自身の目と炎の色が能力の色と同じ色に染まる。
・青の火 自身の全ての速度及び炎の全ての速度を引き上げる
簡潔に言うと、『自分の思考、行動、反応など速さが関わる全ての速度』と『炎の発火、発射、移動など速さが関わる全ての速度』の二つを引き上げる。青の奥義は『炎隼』。鳥の形を模した大きな炎の塊を放つ。一度狙われた標的に命中するまで追い続ける。追跡を解く手段は、術者が解除するか余程の鎮火要因がなければ不可能。雨や岩ごときでは消えない不屈の炎でもある。
・橙の火 自身に係る負担を軽減し及び炎の熱により相手に係る負担を増加する
この橙の火の近くにいる者は術者が意図的に排除しない限り、総じて悪性疲労がかなり溜まりやすくなる。受けている相手がそれを自覚するのは極めて難しい。逆に術者らは係る疲労が軽減され、炎による術攻撃などがかなり楽になる。補助的能力の一つ。
・赤の火 自身の筋力及び炎の火力を引き上げる
純粋に肉体的攻撃力と術的攻撃力(炎の火力)を引き上げる。破壊力は絶大。ただし、速度や精度は通常時より落ちる。赤の奥義は『紅煉』。手元から超強力な火種を放ち、着弾後、地獄のような真っ赤な炎が相手を焼き尽くす。一回で二~四つの火種を放てる。
〇史織の奥義の一つ『刹那魂砕』
刹那の間に相手との間合いを詰め、その移動速度の力を最大限に利用し、手から渾身の衝撃波を放つ。相手の体に手が接触していないと放てない。また、相手が粘り強く頑丈であるほど効きづらい。物理系の相手より魔法系の相手の方が効果的。完全な直接攻撃技であるため自身の筋力の影響を諸に受ける。普段の史織はあまり使いたがらない。だが、相手を直接ぶん殴りたい時等は発散代わりによく使用する。




