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幼少期 第五話
杖作りを始めてから三日短いようで長かった。
今俺は出来上がった杖を手にやり遂げた感で満たされている。
そう、二度の失敗を経て、やっと満足いく杖が完成したのだ。
一本目、慣れない良く削れるナイフに悪戦苦闘、結構うまく行ってるなと思った瞬間に本来削るつもりのない部分を削ってしまって心に大きなダメージを受けた。
これから長く使う事になる物なのだ、失敗は許されない。
フィア先生はその位の失敗は問題ないですよと言っていたが、今後俺のやる気に響いてくる。妥協はしたくない。
そして取り掛かった二本目、一本目の失敗で集中力が失われていたのだろう。
結構最初の方で失敗してしまって新しい枝を貰いに行く。
その際良い大きさの物が無かったのでフィア先生に切ってもらった。
魔術でさくっと切ってしまったよあの先生。まあ詠唱で少し時間は掛かっていたけどノコギリでギコギコ切るよりは早いかもしれない。いや同じ位かも…… まあさくっと切れたことには変わりないのでその辺は気にしないでおこう。
三本目に取り掛かるのはその日早めて置いてその日は作業を中断した。
ルシオの杖はルークが言っていた通り、その日のうちに終わった。
この杖制作などは本来六歳過ぎからやるらしい。そもそも四歳から家庭教師を雇うとかめったにない事らしい。そんなことなので今回は間に合わせで大丈夫ということでシンプルなそれこそ枝本来の味を持たせたものになっていた。
魔力は如何したのかというと、何気にルシオも魔力を流せていたようで、一応ちゃんとした杖と呼べるものになったようだ。
さて出来上がった杖をフィア先生に見せてみようと思う。
「フィア先生、完成しました!!」
「はい、では確認しますね」
俺はフィア先生に杖を渡した。
それを受け取りひっくり返したり持ち上げたり、軽く振ってみたりしながら確認を行うフィア先生。少し子供っぽい。
やがて俺の作った杖に満足したのか、一度頷いた後杖を俺に返して言った。
「とても素晴らしい杖になりましたね。ではエレク様が作られた杖に名を付けてあげましょう」
はっ? 今何と言った? 杖に名前を付ける?
そんな事必要なのか?
おそらくそんな疑問の表情が顔に出てしまったのだろう。
フィア先生がため息交じりに言ってきた。
「はぁ、いいですか? このように自らの手で作り上げた道具というのは名を付ける事でより愛着がわくのです。そして愛着がわくという事は魔術を使う際にも効果が上がるような気分になるのですよ」
「えっと…… 気分なんですか?」
「はい、気分です」
あっ、ダメだこの先生気分と言い切ってしまった。
恐らく実際には名前を付けたからと言って効果が上がるものではないなこれは……
まあ、何を言っても意味がなさそうだから名前を付けるとしますか。
ガランガラという木から杖を作ったからその名前を使うべきだろうか?
だとしたらガランガ―とかかな? いや安直すぎるか? あとなんかそんな名前のが昔あった気がする。よってガランガ―はやめておこう。
俺は杖に視線を落とす。
杖は少し気合を入れて削った。そして一部に細工を施している。細工と言っても削って模様を付けただけだけど。
これは俺がエレクになる前まだ田浦雄介だった頃そこそこ気に入っていた模様である。
と言ってもナイフ一本で掘れる模様なんてたかが知れてるので桜の模様なのだが。
五枚の花弁の桜を三つ、と丸を二つ、杖の半ばより少し上部のあたりに一周するように模様を刻んだのだ。この模様から名前を連想してみようと思う。
桜、サクラ、和名だと何と言うか微妙かな? 英語だと確かチェリーブロッサムだったか?
うん、余計に微妙になった気もするが…… ふむそういえば模様は英語だとパターンだよな。
ブロッサムパターンとかどうだろうか? ブロッサムは何だったっけ?花とかそういう意味だった気がするから花の模様みたいな感じで良いかもしれない。
よし、そういう事で今日からこの杖はブロッサムパターンという事にしよう。
「フィア先生、ブロッサムパターンという何しようと思います」
「ブロッサムパターン、またどうしてそのような名を……」
地球の言葉をここで説明するのも難しいな。思いついたからで良いよな?
「いえ、なんかカッコいい響きを考えていたら思いつきました」
「そ、そうですか…… 因みにですけどブロッサムというのは結構凶悪な魔物の名前なのですが、本当にそれでよいのですか?」
な、魔物の名前だったのか…… なんか一気に微妙感が増したけど、本来の俺の込めた意味が別にあるからいいかな。
「別に構わないです。そ、それに凶悪な魔物だとしたらその名前を使ってれば強そうじゃないですか」
「そういう事でしたら、私は構いませんが……」
どうにも釈然としない表情を浮かべられている気がするがもう気にしない。今日からこいつはブロッサムパターンだ。
こうして俺の杖作りは終わった。
さて、杖作りが終わったとなると次は魔術の指導になる。
準備するものは作り終えたブロッサムパターンだ。
と思ったら最初は杖必要ないらしい。
それなら何で作らせたんだよと思ったら、杖に魔力を流す作業も一応ちゃんとした指導内容だったようだ。魔力をうまく操る訓練になるそうだ。
その後色々そのことについて説明された。
曰く、詠唱に魔力を乗せるにはこのように魔力を流す練習が必要になるらしい。
曰く、詠唱に魔力を乗せるのは多すぎても少なすぎてもダメ。
という事らしい。
因みに詠唱に多く魔力を乗せても、得られる効果は変わらない。なので無駄になる。
しかし少なすぎると今度は発動しないというのだ。
意味が解らん。
ゲームとかだと魔力、いやマジックポイントとかだったけど大体一定だったからな。
実際に使うとなるとそういう微妙な調整が必要になるみたいだ。
まあそのための練習も杖作りで行っていたというのなら文句などいえないな。
そして、最初に行う事は詠唱の練習だった。
結果だけ言おう。
やはり俺には詠唱は無理だった。
フィア先生いわく、本来魔術を使ったりするのも六歳くらいからになるので年齢的に使えないんじゃないかとの事らしいが…… 俺は嫌な予感しかしていない。
まあ一応そういうことなので詠唱は練習するという事になった。
でも聞いてほしい、魔術の詠唱の為の言葉、難しすぎると思うんだ。
単純な水を呼ぶ詠唱を教えてもらったんだが、水よ集まれという意味で発音するとあっているかわからないがリフォーディアジョルゥワ、多分こんな感じだ。俺が言うと発音がおかしいのでびみょうだがこんな感じなのだから仕方ない。
これを何度か繰り返すと発動するらしい。それを朗々と繰り返すので詩にも聞こえる、まあとにかく俺には理解しがたい不思議だった。
まあ今後もし俺がこの魔術言語を理解できない場合はあれしかない…… ぼそぼそ呟いて詠唱しているふりとか、それで行けばきっと大丈夫だろう。
フィア先生ところどころ抜けてそうだし、大丈夫だよな?
とりあえず一応の魔術のさわりの部分を学び終わった後俺は部屋に戻った、ルシオも自分の部屋に戻っている。そろそろおねむの時間だからお昼寝している頃じゃないかな?
俺はフィア先生に言われた通り詠唱の練習をする。
「リフォーディアジョルゥワ、リフォーディアジョルゥワ――」
うん、そうだよね。
思った通り魔力を乗せてもうんともすんとも言わない。
一応に十回くらい繰り返し唱えてみたんだが駄目だった。
もしくは歌うようにすればいいのかな? と思い立ったのでやってみる。
「リフォーディ♪アジョルゥワ♪、リフォーディ♪アジョルゥワ♪――」
何だか悲しくなってきた。
結果はまあダメでした。
俺は今度は詠唱せずに頭の中で水をイメージする。
水をこの何もない空間から出すためにはまずどうするべきか。
空気中にも水分は存在する。量とかそういうのは詳しく覚えていないが、湿度が高ければその分多く含まれているという事である。
まあ別に今湿度が高いとかはないが空気中の水を集めるイメージをしてみようと思う。
暫く眼を瞑り、空気中の水分を集めるイメージを強くする。
眼を開く、そこには水の球体が付与付与と浮いている。
「うん、やはり詠唱しなくても魔術使えるじゃないか」
そうなのだ、俺はこのようにイメージすると魔術が使える。
まだ誰にも言ってないけど。
果たしてこれは言っていい事なのか、ここら辺が解らない所だな。
まあ詠唱できて損はないし、とりあえずは練習だけしておこうっと。
―――――
それから日々魔術の詠唱の練習をした。
一応詠唱して魔術を発動できるようにはなったけど一部のみだった。
それも凄く簡単な物だけ。
水を生成する魔術。まあ生活魔魔術と呼ばれる魔術だけどこれと簡単な日を起こす魔術のみ詠唱で魔術を使うことが出来るようになった。
最初言っていたリフォーディアジョルゥワ、これを例に挙げると言葉にちゃんと意味があるようでそれを明確にしたら発動した。
因みにちゃんとした発音の練習もしたらこのようになった。
リフォーディ・アジョルゥワで水よ・集まれという意味らしい。リフォーが水を意味しているようだ。そして接続句としてディがあり、集まれがアジョルゥワという訳だ。
単語を覚えるだけでもういっぱいいっぱいである。
ここら辺の簡単な物ならまあ詠唱できるようになったけど発音や単語の意味がほとんどわからないからはっきり言って俺は詠唱が詰んでる感じがする。
ただ、フィア先生に聞いた話だと何度も同じ魔術を使っていると次第に詠唱が早くなったり、稀にだけど詠唱を省略して発動できる人もいるとの事なので懸念が一つ消えたのは良かった事か。
だけど詠唱を小楽できる人でも精々一つくらい、それも本当によく使うものだけという事らしい。
それも書物で残っているだけで現在では無詠唱で魔術を使える人は存在しないのではないかとの事だった。
そしてルシオだが、やはりあの子は天才なのではないだろうか?
多分俺と違って自然に魔術言語を理解できるというのもあるだろうが詠唱して魔術を唱える状態であれば俺より先に進んでいる。
ちょっと負けてるのが悔しいので詠唱した振りをして無詠唱で魔術を何度か使ってごまかしているが……
こうして俺はごまかしが多いけど魔術をそこそこ使えるという事になっている。
まあ今後も詠唱の練習はちゃんとしようとは思ってる。
これが俺の半年の成果だ。
明日からは中級魔術に入る事になる。
中級魔術がどのくらいの物なのか楽しみだ。
投稿した物を携帯での表示チェックを兼ねて読み返してみたら誤字が結構多い事に気付きました。
ワードで書き終えた時にもチェックしてはいるのですがなかなか難しいものですね。
――17.09.12――
詠唱句を変更しました。
後々増えてくる詠唱で母音等関係なくただ単に暗号化していたため自分でもどう読めばいいのか解らない物が出てきた締まったためです。
母音とそれ以外の文字を分けて暗号化したので今後はその様な事は起こらないと思います。
詠唱句が多少変更されますが物語に影響はございません。