episode0009
幼少期 第九話
今日はいよいよ俺の六歳の誕生日である。
まあ言うほど楽しみにしているわけではないが、この世界に転生して六年、この世界での一つの節目でもある大事な年なのだ。
朝食を摂り終わった俺は今出かける準備をしている。
日本で過ごしていたころでさえ持っていなかったオーダーメイドの服にそでを通す。
誂えたかのようにといいたくなるほどピッタリである。
もちろん誂えたのだが、そう言いたくなるほどだったのだ。
一通りの準備を終えた俺は部屋を出た。
エントランスに向かう途中階段を丁度降りた時シェリルに声を掛けられる。
「おはよう、エレク」
「おはよう、シェリル。 見送りにでてきてくれたのか?」
「ええ、大事な節目だもの、年の近い私が見送ってあげたら少しは気が楽になるかと思ったから着てあげたわ、感謝なさいな」
「感謝感激雨霰だよ。」
「はっ? 何を言ってるの? 意味が解らないこと言わないでもらえる」
「はははっ、まあ感謝してるって特殊な言語で言っただけだよ。 それじゃ行ってくる」
「ええ、行ってらっしゃい」
やはり日本語は通じないよな。
こうしてシェリルに見送られエントランスへと向かう。
エントランスには俺の父であるルードレイク・フィファイス・フォールダイン、そして母であるプリシーラメラ・エステアード・フォールダインがゴージャスな格好で待っていた。
父であるルードは髪もいつもとちがいきっちりと決めている。
もともと見た目からして日本で暮らしていたら十人中二十人は振り返るくらいのイケメンである。
そんな父がしっかりと服装を整えて臨む俺の洗礼式とは…… 拙いちょっと緊張してきた。
そしてそんな父の斜め後ろにいるのが母であるプリシラである。
母は何と言うか今日はおめかししているが、良くも悪くもそこそこ綺麗な奥さんって感じである。
背中まで伸ばしている透き通るような銀髪を今日は頭の上でくるくるまとめている。
その辺りが何だかいつもよりゴージャスな感じであるが、美男美女が多いうちの中では落ち着く存在である。
「準備は万全か?」
「はい、大丈夫です」
「うむ、ならば行くとしよう」
そういうなり父は外へと向かった。
それに散歩遅れてついて行く母だった。
この世界の奥様方は散歩後ろを歩かないといけないとかじゃないよな?
そんな益体のない考えを浮かべながら両親について行った。
屋敷を出ると目の前には二頭立ての馬車…… この世界の移動手段である物が停まっている。
この世界の馬車は鳥車という。 要は馬の代わりにずんぐりむっくりした鳥が引くのだ。
最初に見た時は驚いたものだが今となっては割と慣れた。
運転手というより御者という方があっているだろうその人は勿論ルークである。
本当何でもこなせるよなルークは……
ルークが鳥車の扉を開けるとまず父が乗り込む。
そして続く母の手を取り、それに合わせて母が場所に乗り込んだ。
こういう細かいのはこの世界の基準なのであろうか? 俺は残念ながらうち以外をあまり見た事が無いのでこのような所作が一般的なのか、貴族特有なのかわからない。
ただ一般的でも貴族特有でも俺からしたらそういうのはちょっと恥ずかしいと思ってしまう。
エスコートというのだろうが、日本で暮らしていた時はその様な事をする機会は少なかったしな。
まあ鳥車どころか馬車とかですら珍しい物だったし。
車に乗る時だって普通に生きてるだけならエスコートなんてしないだろう。
黒歴史もあるっちゃあるが、そういう事もあってちょっと見てるだけでも恥ずかしくなってくるのだ。
父と母続いて俺も鳥車に乗り込んだ。
鳥車の中は快適とまではいかないが屋敷の敷地内は鳥車の通る道はしっかりと整備されているのでそんなに揺れる事も無い。
街に出ると多少ガタゴトするがそれは仕方のない事だろう。
鳥車で揺られること三十分ほどであろうか?
この世界では細かい時間が解らないので凡そであるが……
鳥車の中ではシェリルについての話題が挙げられていた。
昨日だけで凄く仲が良くなったじゃないかと父が言い出したのがきっかけで、母が逸れに乗っかってきた結果だ。
やはり女性というのは色恋沙汰の話はお好きなのか、シェリルの事をどう思っているのか等聞かれて正直ちょっとうざいと思ってしまった。
そんな色々な質問に辺り鰆に無い返事を返しながら過ごしていると小窓からルークが声をかけてきた。
「そろそろ到着いたします」
「うむ、わかった」
ルークに返事を返した父が俺に向き直る。
先ほどの雑談の時とは違う真剣な表情だ。
「解っているとは思うが、これからエレクレールお前の洗礼式だ。 普通の洗礼式自体は難しい事は無い、ただ質問されることに返事をするだけだからな。 しかしお前はこの領主である私の息子、それも長男だ。 将来この地を背負って立つことになる。 普通の者やそこまで位の高くない者達なら先ほど言ったように質問を返すだけとなるが、お前には宣誓の儀がある。 それは大丈夫か?」
「はい、特に問題はありません」
「そうか、ならば私はただ楽しみにしておくとしよう」
「大丈夫ですよ。 エレクは私達よりしっかりしていますもの。 ただたまに突拍子もない事をしでかすのが怖いところではありますが…… 大丈夫ですよね? エレク?」
なんかものすごく心配そうな表情で見つめてくる母であるが、流石に俺も今日が大事な日であるという事は理解しているので大丈夫だと思う。
だからそんな表情で見るのはやめて欲しい…… 段々と自信がなくなってくるじゃないか。
「だ、大丈夫だと思います。 母上」
「それなら良いのですが」
「到着いたしました」
ルークの声が聞こえてすぐに鳥車は停車した。
降りる順番も先ほどと同じだ。
本来なら俺から降りないといけないのだが本日は俺が主役となるので一番後になる。
父と母を見送ってから、一つ不覚呼吸をした。
「よし、行くか」
洗礼式を行う場所はこの町で一番大きな神殿である。
鳥車を降りて俺は最初に驚いた。
だって物凄く白いんだもの。
ただ白いだけではない、汚れ一つ見当たらないのだ。 そして不思議な感じ、いやな感じではないが何かが俺に囁きかけてくるかのような、そんな解らない不思議な感じを神殿を目にしてから感じている。
一つ言える事はこれは普通の建物ではないという事だろう。
俺のいる位置から右方向を見ると一本のこれまた白い柱が建っていた、左を見ても同じような柱が建っている。
子の感じから行くとここからは見えないが神殿の反対側とかにも同じような柱が建っているんだと思う。
何の意味がある柱かは知らないがここから見るだけでも神殿と同じ材質でできてると思える柱だった。
「さて、ここからは私達とお別れだ。この先に進むのは洗礼式を受ける子供だけ。私達は別の場所からエレクの洗礼式を見ることになる。 何緊張するな、別に取って食われたりするわけではないからな。さあ行ってこい」
「はい、行って参ります」
まあこれはもともと聞いていた事だから特に問題はない。
ただ俺がこの神殿を見て色々考えていたのを緊張してると取られたのだろう。
俺は父に即され歩みを進めた。
やはりこの神殿は不思議だ。 それが神殿にある程度近づいた時はっきりとわかった。
まあ、魔法等がある世界だ。 この位の不思議はこの先もある気がする。
この不思議な感覚は言うなれば何かが接触してきているんだと思う。 何が接触してきてるかは解らない。 ただ悪い物ではないそんな気がする。 いやな感じがするわけじゃないからな。
どちらかというと温かみのある感じだ。
俺は不思議な感覚を気にせず進んだ。
やがて神殿の扉の前へと行くと扉は自動的に開いた。
「うぉっ!?」
驚きのあまりちょっと変な声を出してしまった。
この世界に自動ドアがあるなんて思いもよらなかったから仕方ないだろう。
まるで入って来いというように開いた扉の中へ進む。
内部は思っていたよりも普通だった。
美しくはあるが、外のあの白さからすると劣っている。
外をあれだけきれいにしてるなら内部もそうしろってもんだ。
そうこうしているうちに数人の子供が集まっている間へとたどり着く。
道は一本しかなかったので間違っている訳では無いと思う。
という事は彼らは今日洗礼式を行う、いうなれば俺と誕生日が同じ子供達という事だ。
俺の登場に子供達から「だれだ?」「初めて見るな、最近この町に着たやつか?」「おい、やたら高そうな服を着てるから貴族じゃないのか?」等の声が聞こえてくる。
俺を知らないのも無理はないだろう。 だって滅多に街に行くことなんてないんだもの。
屋敷から出る時は馬車だし子供たちの目に触れる事なんてそうそうない。
特に子供たちの声を気にせず集まっている辺りまで進んだら一人の子供が声をかけてきた。
「やあ、初めまして、僕はこの街のリンディール商会長の息子で、ラスカレイス、ラスとよんでくれ。 それで君は?」
「私はこの街の領主の子エレクです」
「「「「はっ!?」」」」
俺の言葉を聞き取ったものが見事にハモった。
「女の子なのにエレクなんて変わった愛称だね、エレクレアとかそう言った感じの名前なのかな?」
「いや、私、俺は男だぞ」
「「「「はぁ!?」」」」
こいつらは毎度ハモらないといけない病気なのだろうか?
「そ、それは失礼した。 領主に子供がいるというのはきいたことがあったけど君がそうだったんだね。 ってこのように軽々しく話しかけちゃってダイジョブなのかな俺、って私?」
「きにしなくていいよ、ここは親の目もないし、俺からしたらそうやって気軽に声をかけてくれる方が楽だよ」
「そ、そっか…… それならいいんだけど、取り合えず今日洗礼式を受ける子供が全員揃うまで始まらないからよかったら君、エレク様も一緒に皆と話などしないかい?」
カレーライスみたいな名前だった奴が誘ってくれたのでそれに頷き子供たちの輪の中に入っていった。
カレーライスもとい、ラスカレイス、通称ラスは言うなれば人当たりが良く証人としての教育も既に受けていてなかなか面白いやつだった。
今後は俺も街に行くことが増えるだろうからその時はよろしくと言っておいた。
皆で喋っていると息を切らせた子供が足早にこの広間に到着した。
「ち、遅刻は洗礼式にはないよね、うん」
第一声が遅刻の心配だった。
子の洗礼式には遅刻なんてない。 そもそも正確な時間の概念が無いのだ遅刻なんてきっと無いに違いない。 俺が知らないだけで時間の把握の方法があるなら話は別かもだが。
そういえば店とかはどのようにして開く時間とか決めてるんだろうな? あとでラスにきいてみよっと。
遅刻を心配していた少年は肩にかからない程度の長さでそろえられた金髪で青い目をしていて中性的な容姿をしている。
将来きっとモテモテになるであろう、そんな予想がすぐ立つ容姿だった。
そして彼はこちら、とはいってもラスに気付き名前を呼びながら近づいてきた。
「あっ、ラス!! なんで待っててくれなかったのよ」
「一緒に行くとは一言も言ってないと思うけど……」
「それでも幼馴染の私に声を掛けるとかしてくれてもいいじゃん!! 生まれた日も同じで家もすぐ近くなんだから」
あれれ? なんか話を聞いているとひょっとして……
「女の子?」
あっ、やべ…… 口に出しちゃった。
「ん? ラスこの子は誰?」
「ん、ああ、こちらの方は領主様のご子息でエレク様だよ。 そんななれなれしく話しかけちゃだめだぞ」
「えっ? はっ? 何? 冗談? って名前からして男の子? ふぁぁっ!?」
「私はれっきとした男ですが?」
「あ、えと、あの…… ごめんなさい!!」
いきなり飛び上がりそのまま着地と同時に両ひざをつきさらに地面に頭擦り付けるように土下座を始めたこの少女…… いったい何なんだろうか?
因みに俺の事を先ほど知った者達は腹を抑えて笑いをこらえていた。
きっとこの子はこのように笑われることが多い子なのだろう……
暫くして落ち着いた少女から自己紹介された。
名前はマールコット、姓は無しでただのマールコットだ。
マールコットは先ほど話で出ていたようにラスの幼馴染なようで今日という大事な日に寝坊してしまったらしい。 ラスは「いつの者事だよ」と言っていた。
「それで、えっと…… 私の事はマールとお呼びください。 エレク様」
「わかった、俺の事はエレクとよんでくれ」
「えっと、それは無理です!! そして女の子と間違えてごめんなさい!!」
また土下座しようとしたマールを止めて俺も謝っておく。
「いや、土下座はもういいからっ! それと俺もごめん。 君の事最初男の子だと思ってた」
「あっ、それはよく間違われるので慣れてます……」
「そうなんだ……」
なんか気まずい雰囲気になりかけている気がする。
「そうそう、マールはよく男に間違われるんだよ。 きちんとしてたらそこそこ見た目は良いんだけどね」
「ちょっ、ラス、そんな口の利き方――」
「ああ、俺がそれで構わないと言ったんだよ。 そっちの方が俺も話しやすいしさ。 だからマール君も普通に話してくれると俺は嬉しいかな」
「えっと、それじゃ…… って難しいです!」
「まあ、追々という事で」
「はい……」
マールの力ない返事と共に俺達が入ってきた通路の扉が閉まりだした。
皆が扉に注目していると今までそこそこ明るかった広間が少し暗くなる。
自動調光の機能までこの神殿は備えているらしい。
そしてコツコツと扉の反対側の方から音が聞こえてくる。
薄暗くてよくは見えないがどうやら人がこちらに向かって来ているようだ。
音からしてヒールのある靴な気がする。
女性だろうか?
人影が数段高くなっている場所へと経つとその人を中心に光の柱多立ち昇る。
いや立ち昇るというよりスポットライトを浴びていると言うべきなのだろうか?
詳しくは解らないけど目立つことは街が無い。
それまでガヤガヤと聞こえていた子供たちの声は無く静まり返っている。
スポットライトを浴びている人は予想通り女性であった。
それも年齢もそこそこ、エレクになる前の俺の好みど真ん中とまではいかないが、エレクで無かったら惚れていた可能性もある美人さんだ。
「これから洗礼式をはじめます。 親に聞いていると思いますが特に難しい事はありません。 本日洗礼式を受ける子供の人数は十八名です。 途中それぞれに質問がありますが思うまま答えてください。 そして本日の洗礼式にはこの地を治める領主のご子息もいらっしゃいます。 ですので普通とは少しだけ違う洗礼式になるでしょう。 滅多にある事ではないので皆さんとても運が良いですよ」
最後のは皆の緊張をほぐすためだろう、ニコッと微笑みその女性はいったん口を閉じた。
そして訪れる静寂。
その静寂を破ったのは何処からともなく響く鐘の音だった。
そして進洗礼式。
屋敷の人間に聞いていた通り、全体に向けた話のあと一人一人が前に出て質問に対して受け答えをする。
ただ質問する内容が毎回違っているのだがあれはあの美人さんが思いつきで質問しているのだろうか? それとも事前調査とかを家に行ったりしたうえでの質問なのだろうか?
質問に対して答えられない子供は今のところ誰もいないようだ。
やがてマールの番になる。
「マールコット、そなたの求める者は何か?」
「私が求める者は友です」
「マールコット、その為にそなたは何を成す?」
「私自身がよき友であるよう努力します」
「よろしい、それではマールコットの洗礼の儀を終える」
「ありがとうございます」
なる程マールは友達がいっぱい欲しい子なんだな。
てか本当に質問がどこから出てきているのか気になってきた。
それから数人が終わりラスの名が呼ばれた。
「ラスカレイス・リンディール、そなたは将来何を成す?」
「お、私は将来旅商人となり承認があまり行き来していない村などに商品を運びたいと思っています」
「ラスカレイス・リンディール、そなたの目指す道はとても険しい、その険しき道を行くために何を成す?」
「私はそのためにフレイスベルグにある学園へ入学するつもりです。 そしてそこで冒険者として技術を、力を身につけます」
「ラスカレイス・リンディールそなたは、よき友に恵まれている。 今後そなたに大きな苦難が訪れるであろう。 その時そなたは…… いやこれよしておこう。 それではラスカレイス・リンディールの洗礼の儀を終える」
洗礼の儀を無事に終えたラスが俺達の元へと戻ってきた。
表情を見ると何かやり遂げたかのように晴れ晴れとした表情だ。
そしてさほど間を開けずに俺の名が呼ばれた。
「次で本日の洗礼の儀は最後である。 エレクレール・フォールダイン前へ」
「はい」
返事をした俺は前へと進む。
ほんの数十歩の距離がやけに長く感じるがこれは緊張しているせいだろうか?
やがて美人さんの前へと着く。
美人さんは俺の顔を見て、一つ頷くと言葉を発した。
「エレクレール・フォールダイン、そなたは力を何に使う?」
いきなり困るような質問を投げかけられた。
力を何に使うか? そんなのわかる訳ない。 まあただいえる事は大事な人を守りたいか。
「私にとって大事なものを守る為に使います」
「エレクレール・フォールダイン、そなたの求める力とは何か?」
本当この質問は何だろうか?
俺の求める力、そんなもん解るかいっての――
「わかりません!!」
「ふむ、それではエレクレール・フォールダインの洗礼の儀を終える。 続いてエレクレール・フォールダインには宣誓を行ってもらう。 大丈夫かい?」
最後の大丈夫かい田家は俺にしか聞かれないくらいの小さな声だった。
それに対して俺は一つ頷く事で返した。
「ではこれより宣誓の儀を執り行う。 エレクレールよ、ここにいる皆に嘘偽りなくそなたの言葉を伝えよ」
「はい」
俺は美人戦に背を向け子供たちの方へと向き直り一歩前へと出る。
そして言葉を紡いだ。
「かたっ苦しい言葉なんて聞いていても楽しくないだろうから俺の素の喋り方で失礼する。 俺は正直まだこの領地を背負って立つ事になるという立場を分かっていないとは思う。 本当は家で考えてきた言葉を言って終わろうと思ってたけどちょっと気が変わった。 俺は、俺はこの街の事、いやこの世界の事をまだほとんど知らない。 だから俺は世界をもっと知りたい。 見たい。 色々な人の話を聞いてみたい。 こんな事をもししたら領地はどうなるんだという者も居ると思う。 だがそれでも俺は…… 俺はおそらく力を持っている。 それは権力もあるがそれ以外の力だ。
俺はすでに中級魔術の合格を受けている――」
この時周りが少しざわついた。
しかし俺は気にせず話を続けた。
「先ほども言ったように、俺はこの力を大事な物を守るために使いたいと思っている。 それは俺自身であり、家族であり、そして今日ラスやマールと知り合ってお前たちも守りたいと思った。 そしてお前たちが暮らすこの街の事も守りたいと思う。 だが俺に少しばかりの力があったとしても全てを守る事なんて到底できない。 だから俺は全てを守れるだけの力を付けたい。 そのついでに世界を見て回りたい。 我儘かも知れないがこれが今の俺の気持ちだ。 将来この街に暮らす者達に多大な迷惑をかけることになるかも知れない、だがそれでも、いやだからこそ俺はここに宣言しよう。 俺は世界を見て、そして力も心も強くなって見せる」
行った後俺は美人さんに向き直る。
そして目を閉じ頷いた。
頷き終わって目を開いたそこにはニコッと笑った美人さんがいた。
その後は特に何も言われることなく今日の洗礼の儀は終わった。
外に出るまでの道でラスやマールに色々言われたが特に問題という問題は無く扉を潜り外へとでた。
外にはそれぞれの子供の親が待っていた。
家の親も勿論そこにいた。
今日知り合った者達に別れを告げ、鳥車へと乗り込む。
そしてルークの「出発します」という言葉と共に鳥車は進みだした。
しばらく鳥車が進んだころ母から声が掛かった。
「やはり、やってしまいましたね……」
「まあ、そういうな、ただ私も正直驚いたがな」
「すみません。 なんか気付いたら…… って内容まで知ってるんですか? あそこに父上も母上も居ませんでしたよね?」
「ああ、家族や付き添いの者は、別に用意されたところで洗礼の儀を見ることが出来るのだ。 なんだったか古代の技術の水遠視というものがつかわれているのだったか?」
「今は失われ仕古代の魔法でしたね」
「なるほど、そういう物が用意されているんですね」
「ああ、なのでお前の宣誓の儀もすべて見ていた」
「うっ、なんというか、本当にすみませんでした」
「いや、きにするな。 私もプリシラもお前が一つの所でとどまって終わる人間だとは思っていないからな。 フィア殿を迎えてから色々考えていたのだが、エレク…… お前が十二歳になったら王都フレイスベルグの王立魔術学院に入学してみないか?」
「王立魔術学院?」
「ええ、もともと何かしらの学院には通わせる予定でしたが、やはり今日の宣誓のを聞いてしまうと王立魔術学院がふさわしいでしょうね」
「ああ、私もそう思う」
「えっと、その王立魔術学院とは?」
「ん? ああ、説明の途中だったな。 王立魔術学院とは簡単に言うならば魔術のエリート達が通うための学院だ。 その学院を卒業した者は宮廷魔術師や、一級冒険者等になったりしているような学院だな。 おそらくエレクならば問題なく入学できるだろう。 しかしながら卒業するのがとても大変という話だ」
「なるほど、そのような学院があるのですね。 私からしたら願ってもない事です」
「うむ、まあそう来るだろうなとは思っていた」
「ええ、因みにお爺様もその学院を卒業なさってますよ」
「えっ?お爺様が? 確かに魔術に詳しいという話を聞いたことがありますが」
「ああ、まあ落第ギリギリだったと私はきいているがな、はははっ」
そんな話をしながら鳥車に揺られて屋敷に戻った。
その後は俺の洗礼の儀のお祝いが大広間で行われ、父は俺が洗礼の儀でやらかしたことを皆に言いふらしたり、俺が王立魔術学院に行こうと思っている事を聞いたシェリルが「ならば私も行くわ」といいだしたり、そんな感じで楽しく過ごすことが出来た。
こうして俺は一つの節目を終え、自分のやりたい事をきちんと認識することが出来た。
さてこれからは王立魔術学院入学に向けてさらに頑張っていかないと。
思ったよりも長くなってしまいました。
ただ二回も予告詐欺をするのもと思ったので分割せずに投稿します。
これにて幼少期終了です。
次回はサイドストリー的な物を数話はさみ少年期に突入です。
評価、ご感想お待ちしております。