元勇者、振り返る
「結局、魔族の目的って、ミヒャエルを倒すことだったんだよな……?」
「うん、そうだと思うけど……」
数日後。
俺とエギスは、騎士団の泊まっていた宿の日陰で、騎士団の荷物の積み込みが終わるのを待っていた。
騎士団がセーラムの街に駐留していたのは魔族の企ててた企みを阻止するためで、そえを何とかした今急いで王都へと帰還しなければならないらしい。
あの戦いの後、フィラエ兄妹からの聞き取りからリーエルの行おうとしていた事が明らかになった。
といっても、概ねは予想通り。
撃破の大熊の混乱に上じてこの街に入り込み、他の街から来た冒険者を利用して『神遺物』を獲得し、その力をかりてミヒャエルを倒そうとしていた。その冒険者に俺達を選んだのは、偶然なのかそれとも勇者監視の意味があったのか。
そして、『神遺物』の場所に目星を付けたリーエルは、ランク外依頼を受けるフリをして、迷宮探索に必要な資材を盗み出し、フィラエ兄妹を連れて神跡を踏破。そこでアセトに『セラフィムの聖翼』を復元させ、後日エインヘリヤルの魔族と共にミヒャエルを襲撃する、という計画だった。つまり、あそこで出会ったのは完全に運らしい。
「だとしたら、その次は何をするつもりだったんだろうな?」
その疑問に、完全にエギスは押し黙った。
もしも魔族の計画がうまく行っていれば、王国最強と勇者という二大戦力が今頃いなくなっていたはずだ。そうなっていれば、王国は魔族にとって格好の餌になっていただろう。
その場合、魔族はどう出ていたのか。
この世界における、魔族と人間の軋轢の歴史を知らない俺には何も察することは出来ない。
「……守れたんだから、きっと大丈夫だよ」
そして、エギスは口を開く。
守れなかったら、ではなく、守れたんだからきっと上手く行くだろう、と。
「……そうだな」
俺も、賛同するようにそう呟いた。
俺の目の前を、完全装備の若い冒険者達がわいわいと話しながら通っていく。
「この風景を守れたんだからな」
「うん」
あの後、『セラフィムの聖翼』は焼けずに残っていた。というか、焔が聖翼の近くに近寄れなかったのだ。
きっと魔勇者のような、『触ることの出来ない』性質でも持っていたのだろう。
『セラフィムの聖翼』は、きちんと元の場所に置いてきた。
アセトの案内で元の場所を特定出来たのだ。
これで、『聖遺物』が失われたことによる神跡の崩壊はしないだろう。」
「……あ、そうだ」
「……?」
不思議そうな顔をするエギスに、俺は封筒を取り出して渡す。
「これは……?」
そう言いながら封筒を開けるエギスの顔は、中身を開けても変わらず不思議そうなままだった。
封筒の中身は『劇団詩季』、今日の講演用のペアチケットだ。
「また来るって約束、セーラムでは果たせなかったからな……。それは、次回のためのチケットだよ」
そういう俺の顔は、赤くなっているに違いない。正直、エギスを見ているだけでもかなり恥ずかしい。
それを聞いて、エギスはすこし顔を俯けると、胸にそのチケットを持った手を当て、やや小さな顔で告げる。
「……うん。待ってる……」
俺はエギスのそんな表情をいつまでも見てみたい、と思いながらも、エギスに元気を出してもらえるよう、大きな声で告げた。
「さあ、帰ろう……。王都に」
ここで一度、この物語を閉めさせていただきます。
またヒロとエギスの物語が始まるかは分かりませんが、あるかもしれない別の機会まで、しばしお待ちください。
ありがとうございました。




