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元勇者、王国最強に教えを請う


 「そんなことより……? ヒロ、おまえ魔族の事より大事な事があるっていうのかよ」


 ミヒャエルのちょっとした剣幕の怒りに、俺はすこし身を引きながら答える。


 「いや、確かにそれは言い過ぎだったかもしれない」


 「……ふん。それで、なんなんだ」


 ぶっきらぼうなミヒャエルの言葉に、俺は初っ端から単刀直入に訊いた。


 「なあ、ミヒャエル。この前言ってたろ……? ……強くなりたかったら俺に聞けって」


 その言葉に。


 ミヒャエルの表情が本気になった。


 「……んで?」


 先を促すミヒャエルに、俺は切り出す。


 「俺が強くなるためには……どうしたらいい?」


 「えっ」


 その言葉に、一番最初に反応したのはエギスだった。


 「ヒロ……、団長さんに訊くの?」


 「ああ。前にミヒャエルに世話になった時、教えてくれるって約束したんだ」


 「……」


 本気の顔で沈黙するミヒャエルの前に、エギスも半分納得したように引き下がる。


 「……ヒロ」


 静かな、しかし確かな圧力を持ったミヒャエルの呼び掛けに、俺は音を立てて息を飲む。


 「まず、だ。エインヘリヤルがお前さんの剣閃を止めたと聞いた時、俺はさほど驚かなかったんだが、なんでか分かるか?」


 「え……?」


 戸惑ったような俺の声に、ミヒャエルは意気揚々と話しはじめた。


 「お前の剣の威力は、すでに一級品だ。それは保証する。だがな、それはお前の力……『寵愛』によるものだろ?」


 「ああ、そうだけど……?」


 「つまりだ」


 ミヒャエルは、その結論を徹底的に俺に叩き付ける。




 「お前には、技が足りねえんだ」




 「……? だからどうした、威力はあるんだろう?」


 「……なるほど」


 まだ分からない俺とは対照的に、エギスの方は理解したようだった。やっぱり、こっちでの戦いにおける経験値が違えば、感覚が事なってくるのだろうか。


 「お前は、騎士が全身と技を用いて到達する速度域より上に、『寵愛』で辿り着けている。だから技を磨かねえ。『寵愛』を抜きにしたお前の剣術の腕前は、素人以上……嗜み以下だ」


 「……なるほど」


 ようやく理解した俺は、得心がいったと呟きを漏らす。


 「そんな素人に毛が生えた程度の腕前で、英雄とも言われる熟練度に挑んだんじゃあ、いくら威力があっても蹴散らされるわな。巨鎚だったら違ったかもしれんが、剣をも鍛えておいて損は無いだろう」


 「わたしも、岩を斬る程度、最低限の剣閃だったから防がれたんだ……本気で斬りかかってれば……」


 エギスの声に、ミヒャエルは律義に反応して推測する。


 「ああ両方止められたという事態は、避けれらたかもしんねえ」


 うん、と頷くエギスに満足げな表情をしてから、ミヒャエルは俺へと視線を戻す。ミヒャエルは意外に説明好きなのかもしれない。


 「次に、『模倣神技』だなやっぱり」


 その言葉に、俺は首を傾げた。


 「『レーヴァテイン』を……? どうして」


 その言葉が割と本気なことに気づくと、ミヒャエルはまだ大きく溜息をつく。


 「お前さんよお、今回の苦戦要因はそれだと言っても過言じゃ無いだろう?」


 「ああ……そういう解釈もあるな」


 煮え切れない言葉に、ミヒャエルはすこし怒ったようにまくし立てた。


 「じゃあ、今回『レーヴァテイン』を放てればどうなっていた? 魔物襲撃の時は? 『レーヴァテイン』には何か足りないと、本当に思わないのか?」


 「あ、ああ……」


 しどろもどろになる俺に対して、ミヒャエルは出来の悪い生徒に呆れるような声色で告げる。


 「人がいるから使えません、じゃあかんだろう。精密制御を出来るようにして来い」


 そう言い切ったミヒャエルに、俺は自分なりに納得して反芻する。


 確かに、これまでの戦いでの苦戦要因を見直すかぎり、それは有効な方法に違いない。


 剣術を上達させる、ということはどこかに師事する必要がありそうだが……王都まで一緒に行く必要があるのだ、ミヒャエルに教えてもらえれば良いだろう。


 「すごいね……ヒロ。本当に、騎士団長さんなんだね、ミヒャエルさんって……」


 「なんだ、信じてなかったのか?」


 「だって雲の上の人過ぎて、こんな風に会話できるなんて思ってもなかったよ……」


 それもそうか、と俺も思い直す。一般の冒険者にとって、一国の騎士団団長なんて、実際に会うことなど考えもしないことなのだろう。


 「あーミヒャエル、ありが……」


 「最後に」


 俺がお礼を言って切り上げようとした時、ミヒャエルがそう言葉を上げた。


 「あーわりい、なんだ?」


 俺がそう言って先を促すと、ミヒャエルは今までより一番険しい顔をして言う。


 「これが一番辛くて、めんどいかもしれない。積み上げてきたものをさらに高くするんじゃなく、ゼロから1を作るんだからな」


 「え……」


 予想もつかないその言葉に、ミヒャエルは静かにその唇を開く。




 「奥の手の準備だ」




 「……」


 その時、俺の胸をつくものがあった。


 「お前さんの体技、そして『模倣神技』両方に対応されて、打つ手がなくなった時のための、奥の手を用意しておかねえとなんねえ」


 たしかに、俺が負けた魔勇者は、魔法と物理、両方が効かない究極の防御を持っていた。


 エインヘリヤルの時も、レーヴァテインを封じられ、そして物理も封殺された時だった。


 その時のための対策、というのを考えておいても、いや考えておくべきなのだろう。


 そこで。


 そこで俺の心の中から湧き出してきたのは、奥の手という言葉に対するワクワクだった。


 冒険者登録をしようとした時のような興奮が、俺の全身を包み込もうとする。


 「まとめるぞ。お前さんのやることは、剣術の上達、『模倣神技』の精密操作、奥の手の開発だ」


 「ああ、分かったミヒャエル」


 返事をする俺の顔は、奥の手という言葉の響きにニヤニヤしていたと思う。


 「ヒロ……頑張ってね!」


 エギスのそんな言葉も、俺のやる気をますます出させる。


 「そうだな……手合わせぐらいならやってやってもいいが……」


 「あ、こんな所にいた団長っ!」


 と、ミヒャエルがそういいかけた時、どこからかそんな声が突き刺さった。


 ミヒャエルの体がビクッと揺れる。


 その声の主は、銀の騎士鎧を輝かせながらつかつかとこちらに歩み寄ってくる。


 「団長っ、急にいなくなったと思ったらどうしてこんな所で油を売ってるんですか? あなたも狙われる立場だということが分かっていますか? 聞いてますか団長っ!?」


 そんな、部隊の中の紅一点という訳でもない部下に口うるさく言われるミヒャエルは、しかし頭が表立って逆らうことはない。


 二人には二人の関係があるのだろう。


 「あ、ああそうだな」


 焦りつつどもってミヒャエルの口から出たのはそんな言葉。


 それでも一向に腰を上げようとしないミヒャエルに業を煮やしたのか、部下はミヒャエルの耳を掴んで自分の口に近づけ、叫んだ。


 「ほ、ら、行、き、ま、す、よっ!!」


 「が、がぁっ! 分かた、分かったっかっら!」


 その驚いた勢いで立ち上がってしまったのが運の尽き。ミヒャエルは部下に耳を引っ張られたままズルズルと引きずられて行く。


 「ヒ、ロすまんっ! 手合わせは今度だ!」


 「なんですって団長。僕の前で脱走の約束とは、良い度胸ですねえ?」


 騒がしく、嵐のように去って行く二人を、俺とエギスは黙って頭を下げ、見送るしかなかった。


 「団長さんをあんな風に扱える人なんて、いるんだね……」


 ただ、二人が見えなくなった後にエギスがポツリと漏らした呟きが、周囲が思っていた全てを代弁していた。


 「……さて、今日は消耗品の補充で終わりそうだな、この街に入ってから初めての本格的な補充だし」


 「そうだねヒロ。きちんと質が良くて安い店を見つけておかないと」


 気持ちを切り替えて、俺とエギスはそう話しながら立ち上がる。


 「あ、ナオヒロさんエギスさんこんにちはっ!」


 「鎧は、大丈夫ですか……?」


 「よう、鎧は問題ないぞ」


 「こんにちは、ウシル、アセト」


 途中ですれ違った兄妹を横目に、俺とエギスは街へと繰り出した。



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