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元勇者、休息を終わり依頼を受ける



 俺とエギスは、連れだって冒険者ギルドを訪れていた。


 既に、『劇団詩季』のデートは昨日の話。


 本来は、ミヒャエルがここを発つまでの一ヶ月間、何もしなくて良いのだが、ただ待ってるだけ、というのはとても詰まらない。


 なので、暇つぶしに依頼を受けるか、と冒険者ギルドへと来た訳だ。


 時刻は朝八時前。


 十分に早い時間で、冒険者ギルドの中に冒険者はちらほらとしか見えない。


 「暇つぶしってだけなら、魔物の襲来を待っているだけで良かったんだけどな」


 「うん、止まったんだって、わたし達が来た日から。きっと魔物もヒロが怖くなったんだよ」


 「かもしれないな」


 「うん、きっとそうだよヒロ!」


 そんな話をしながら依頼ボードの所へと俺とエギスは向かう。


 「今日はどんなのにしてみるか? 今日は軽目のにしておくか?」


 「そうだね、一つ前のは大変だったし……」


 俺とエギスは張られている依頼を一つ一つ見比べていく。


 「これは期間が長いし、これはちょっと難易度が高いし……」


 そんな中、俺は一つの依頼を見つける。


 「おっ、これなんてどうだ?」


 「どれ?」


 俺の声に、エギスは俺の方に寄り掛かるようにして、おれの指差す依頼を見る。


 「『護衛』依頼、始めて討伐依頼に出掛ける初心者冒険者の見守り……?」


 「ああ、依頼者はその初心者の子の母親だな。最初の一回は心配だから、ついて行ってほしいらしい」


 先に下の方まで読んだ俺が、大まかな内容を読み上げたエギスに補足して説明する。


 「場所は草原と森で目標はゴブリンの討伐、採取品は色を付けて買い取り、だとさ。完全に慣れるための依頼だな」


 「そうだよヒロ、二枚目を見てみて?」


 「二枚目?」


 エギスが依頼の紙を持ち上げると、そこには二枚目の紙が添付されてた。俺は腰を落として覗き込む。


 「これが、その初心者の子の依頼書だよ。依頼者を見てみて、冒険者ギルドでしょう?」


 「なるほど」


 エギスの言葉の通り、二枚目の紙、つまり初心者の子が受けた依頼そのものの依頼者は、冒険者ギルドだった。


 「あれ、でも『討伐』依頼ってCランクからじゃなかったっけ?」


 俺の疑問に、エギスはまず、うん、と頷いてから補足するように言った。


 「そうだよ、だから、これはCランクに昇格したい子が受ける、準備のための依頼かな」


 「なるほど」


 俺は、エギスの説明に頷いてから、エギスに訊いてみる。


 「それで、どうする?」


 「いいよ、受けてみようかヒロ!」


 そんな訳で、今日の依頼が決定した。






 依頼書を受付に持って行き、依頼を受けた俺とエギスは、少しの間待ってから、今回の護衛対象である新人冒険者と対面した。


 確かに、すぐに護衛依頼が受けられる訳でもない。その子達の方もここ何日か待っていたらしい。


 「ウシル・フィラエです。よろしくお願いします」


 「アセト・フィラエです……。はい、お願いします」


 現れたのは、白い髪に黒い目をした少年と、鳶色の髪に収穫期の麦のような薄い茶色の色をした少女だった。


 場所は冒険者ギルド前、やや端に寄って邪魔にならないところに移動したところだ。


 どうやら、兄妹で冒険者をやっているらしい。


 「ああ、よろしく。俺はナオヒロ。ヒロでいい」


 「わたしはエギス。二人ともよろしくね?」


 自己紹介を交わすと、ウシルとアセトは顔を見合わせた。


 「エギスさんとナオヒロさんって……」


 「もしかして、撃破の大熊(バスターグリズリー)討伐して神跡の新しいルートを発見したっていう、あのお二方ですか?」


 「俺とエギスを知っているのか? ……そこまで有名になっていたとは驚きだな」


 そして告げられた問いに、俺の方が驚いてしまう。


 「良かったねヒロ、有名になれたよ?」


 「別に成りたかった訳じゃ無いけどな。……そう言うエギスはどうなんだ?」


 俺のその言葉に、エギスは少し恥ずかしそうにしながら答えた。


 「わたしは今更だよ。王都ではエースって呼ばれてたんだから」


 「まあ確かに、な」


 エギスはそう答えるが、しかしその表情を見れば『今更だけれど、こそばゆい気持ちは変わらない』と、本当は感じている事がすぐわかる。


 「うわあ、やっぱり本物なんですね! 凄いなあ、感激です!」


 「お兄ちゃん、ちょっと大袈裟過ぎだよ……」


 兄ウシルの言葉に呆れたように、ため息でもつきそうな声の調子で妹アセトは兄へと言う。


 「だってほらアセト、あの撃破の大熊(バスターグリズリー)を倒した人達たぞ? アセトだって先輩が話してたのをドキドキしながら聞いてたじゃないか」


 「そ、そんなことないもんっ! ドキドキしてたのはお兄ちゃんだけだよ……!」


 しかし、ウシルからの反撃に会い、顔を真っ赤にさせながらあたふたしながら懸命に否定した。


 「えぇー、そうか?」


 「むぅー……」


 そんなアセトをからかうようなウシルの言葉に、アセトは頬を膨らませて不機嫌そうな声を出す。


 「微笑ましいな」


 「そうだね」


 俺とエギスの顔に微笑が生まれる中、アセトもやっと機嫌を直し、ようやく面通しが終わる。


 「さて、行くか」


 とりあえず、問題も無いようなので俺が兄妹にそう声をかけると、兄妹の顔がかすかに引き締まる。


 一応の冒険者らしい一面を見せた訳だが、そこでエギスが一度その流れを引き止めた。


 「あ、ちょっと待って?」


 「どうした、エギス」


 俺の言葉にエギスは一つ頷くと、兄妹へと訊いた。


 「準備は出来てる?」


 その言葉に、兄妹は自分のポーチの中を確認する。


 「……え? はい、水筒もある、非常食もある、回復薬(ネクタル)もある、剣も持った、登録証もある……。アセトは?」


 「大丈夫よ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが今言ったものは全部持ってる」


 「たぶん、大丈夫だと思いますけど……?」


 アセトの言葉に、ウシルは何かを試されているのかと不安な表情を浮かべる。


 「うん、じゃあ行こうか」


 しかし、それもエギスの言葉を聞いて払拭されたようで、ほっとした表情で兄妹は俺とエギスの後ろについて、歩きはじめた。



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