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元勇者、勇者をクビになる

 勇者召喚魔法を(、、、、、、)魔族が使用した(、、、、、、、)


 その知らせは、瞬く間に全世界に広まった。


 そもそも、勇者召喚魔法は人類が魔族に対抗するための切り札だ。細かい術理は省くが、勇者召喚魔法は『術者が敵と定めた存在を絶滅させうる素質を持つ、術者に近い存在を、異世界から呼び出す』効果を持つ。


 つまり魔族が勇者召喚魔法を使ったという事実は、人類の絶滅の可能性が出てきたという事に他ならない。


 市民の多くが危機感を抱いた。街の外に出なければいけないような用事の時は、特に。


 そして、多くの研究家が危惧したように、魔族の王である魔王は、その狡猾な頭脳と人類を絶滅しうる召喚勇者を使って人類への侵攻の手をさらに強めて行く。


 人類と魔族の巨大戦争が、まさに勃発しようとしていた。




 ◆  ◆




 「解雇です」

 「マジかよ」


 王城の謁見の間に呼び出された上での突然の通告に、俺はそう言うことしか出来なかった。


 俺が召喚されて、もうそろろ一年になる。


 「どういうことです?」

 「世代更新です」

 「いや、もうちょっと分かるように言ってくださいよ」


 王女ははぁ、と溜息をつく。


 (溜息をつきたいのはこっちの方だよ)


 俺はそう思う。ちなみに王女に反感は抱いていない。上から目線なのはちやほや育てられたからだが、別に俺を殺そうとしたり利用しようとしたりはしていないからだ。王女が黒幕の転移ものと比べれば、かなりマシな部類に入るのでは無いだろうか? だからといってべつに恋心とかも抱いていないが。


 「あなたも聞いているでしょう? 魔族が勇者召喚魔法を使ったという報告を」

 「まあ、その話なら聞いていますが……」

 「私たちが使っているものと同じだけの性能を持っている魔法かどうかは分かりませんが、最悪の事態を想定するなら私たちより遥かに強い存在が召喚されたと見るべきです。そんな相手に、あなたが敵う訳がありません」

 「王女様、その言い方はマズイのでは……」

 「うるさいわね」


 突然会話に口をだしてきた大臣の言葉を一喝する王女。王女の言葉にカチンと来ていた俺も、王女に反論する。


 「いや、俺だって勝てるかもしれないじゃないですか」

 「いえ、絶対に無理です」


 それでも勝てないと断定する王女に、さっきの大臣がめげずに忠告する。


 「王女様っ! それ以上はっ!」


 (……ん、なんだ? 機密事項でも口を滑らそうとしてるのか?)


 大臣の慌てようにそう予想して、どんな秘密を漏らすのかワクワクする俺に、王女は決定的な一言を突き付けた。



 「旧世代のあなたに、倒せる訳がないです」



 (な……っ? 旧、世代……?)


 頭の中をぐるぐるとその文字が回る。まだ何か王女が言っているようだったが、頭に入ってこなかった。




 ◆  ◆




 その後強引に連れ去られた(これ以上秘密を漏らさないようにする処置だろうか)王女の代わりに、さっきの大臣がやって来て、話をしてくれた。


 そこで色々な駆け引きがあったがここでは割愛して、分かったことだけをまとめると、こういうことになる。


 まず世代というのは、勇者召喚魔法における敵の定義の世代だそうだ。


 勇者召喚は、その時に確認されている一番強い魔族を術者の思い描く『敵』として設定して行われる。


 つまり、一番強い『敵』が更新された以上、今までの召喚勇者が『敵』に歯が立つ保証はない。故に、新しく『敵』を設定し直して勇者召喚を行うということらしい。大臣が気にしていたのは、そんな簡単に勇者召喚を出来るという事実を言われたくなかったようだ。


 王女が言っていた『世代更新』もそういうことだろう。


 新しく設定した『敵』にそって勇者を召喚し直すから、俺は要らなくなった、ということなのだ。


 (これで王女が俺を何も気にしない理由が分かった)


 俺は思う。


 更に強い者が自分の好きなタイミングで召喚できる以上、王女の中では相対的に『弱い』自分は、利用価値すらなかったのだ。


 真実に気付いた俺だったが、不思議と怒りは湧いて来なかった。


 (まあこれくらい、元の世界で読んだ勇者を奴隷化する王女よりましか)


 そう思えば、怒りも湧いて来なかった。なにせ、一年にも満たない期間勇者をやるだけで、自由な異世界ライフを手に入れられたのだから。


 魔族側の勇者についても問題ない。ほかっておけば、新しい勇者が討伐してくれるだろう。

 戦争が起こりそうだ、と言われていても、俺はあまり心配はしていなかった。


 「よし、やり直したつもりで楽しむかっ!」


 そう宣言して、俺は立ち上がったのだった。

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