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元勇者、金策を探していると魔物に出会う



 「とにかく、魔物の討伐を行ってくださいっ! 倒した数だけ報酬は支払いますから、魔物の全滅を第一に考えてくださいっ!」


 俺とエギスが正門、つまり今日入って来た門へととんぼ返りした時には、すでに乱戦が始まっていた。


 「あなた、初心者でも構いません、生き残ることを優先しながら倒してくださいっ!」


 職員さんの悲痛な声を聞きながら城門から出れば、そこは200メートルほど右手に森が見えるだけの、平坦な平地だ。


 その、通常時にはセーラムの街に入ることを望む者で列が出来ることもあるスペースは、数百下手をすれば数千近い、埋め尽くさんばかりの魔物の群れで一杯だった。


 「ゴブリン、ホブゴブリン、血塗みれ狂狼(ブラッディウルフ)、オーク、ジャイロタイラントっ!? まずいよ、このレベルの魔物が群れたら、抑えられるか分からない! ヒロっ、ヒロの『模倣神技』ならまとめて殲滅できるよねっ!?」


 「ああ、出来る」


 俺の答えにやっぱり、と頷くエギスだったが、その次の言葉に凍り付いたかのように動きを止めた。


 「だけど今のままだと、他の冒険者も巻き込むことになるっ、今は撃てないっ!」


 「……っ!」


 焦燥に駆られているかのようにその顔を歪ませるエギス。高ランク冒険者であるエギスは、これがどれだけの戦力差であるのか痛いほどに分かるのだろう。特に、エギスの『模倣神技』は自身の強化系。俺みたいな広範囲殲滅系の手札がない場合の対多戦闘の厳しさは、身を以って体験して来たはずだ。


 遅れて正門をくぐった、オレンジ色の少女が言う。


 「ここのところ、ずっとこんな感じさ。なんとか撃退されているみたいだけど、毎回ギリギリ、薄氷の勝利ってやつさ」


 そして魔物の群れに走っていくオレンジ色の少女を視界の片隅に捉らえながら、俺はエギスい提案した。


 「とりあえず、今戦ってくれている冒険者達に、後退するよう伝えないか! だいたい一列に並んでくれさえすれば、その後ろをまとめて焼き払える。エギスは左手、俺は右手で」


 「ダメだよ、ヒロ、さっきとは状況が違うっ!」


 だか、それもエギスに途中で遮られる。さっき、というのは撃破の大熊(バスターグリズリー)のことだろう。


 「さっきは、ヒロが撃破の大熊(バスターグリズリー)の攻撃を受ける可能性は限りなく少なかったっ、でも今は違うっ! こんな状態では、いつどこで不意打ちを食らうか分からない。一回でも食らったら、死んじゃうかもしれないんだよっ!?」


 その、不安げに揺れる瞳とともに、エギスの口から放たれたその言葉に、俺は何も言い返せなくなる。


 「だから、ヒロは皆が後退するまで、ここで待っていて。それから『模倣神技』をつか」


 「嫌だ」


 今度は、心の底から沸き上がってくる感情に身を任せて俺がエギスの言葉を遮った。


 「エギスだけを行かせるなんて、絶対に認めない」


 『模倣神技』だって万能ではない。たとえエギスが『模倣神技』を使っていたとしても、周囲を囲まれて時間稼ぎをされ、魔力が切れたらそれまでだ。『模倣神技』の恩恵を失ったエギスは、どうすることもなく蹂躙されるだろう。


 もし、俺がここでのほほんと待っている時に、エギスが窮地に陥っていたら、そんなことになっていたら、俺は死ぬほど後悔するだろう。


 だから、嫌だ。エギスをそんな所に、一人で行かせることなんて出来ない。


 「ヒロ……」


 そんな言外の言葉が伝わったのか、反論することの出来ないエギスを見て、俺はエギスを窮地に追いやる可能性が少なくなったと安堵する。


 だが、状況は逼迫している。


 魔物の大群と冒険者の戦力は均衡しており、出来るだけ早く救援に向かう必要がある。


 「どうすれば……」


 俺がそう呟いた、その時だった。


 「よう兄ちゃん、鎧が必要か?」


 そんな声が、俺の後ろから響いたのは。


 「ああ……。貸してくれる、……っ!?」


 振り返った俺は、言いかけた言葉を途中で取りこぼして驚愕する。


 そこにいたのは、度重なる戦いで引き締まった精悍な顔つきをした、くすんだ金髪を短く刈り上げ、白銀に輝く騎士鎧を纏った男。


 鎧はまるで新品のように輝いているが、俺は知っている。それはこの男が鎧を一切傷つける事なく敵を一掃できることを。今のこの男の主な仕事は、直接戦うことではないから、というのもあるにはあるだろうが。


 「ああ、ヒロじゃねえか。あのおやっさんに作ってもらった鎧はどうしたんだ?」


 「ミヒャエルっ!? もう来たのかっ!」


 そんな会話を聞いて、エギスがミヒャエルの素性を聞いてくる。


 「ヒロ、その人は……?」


 その声に、俺は体をもう一度エギスの方に向け直して、彼をエギスに紹介した。


 「エギス、こいつはミヒャエル・カリバーン。王国騎士団最強、王国最後の防衛線の、騎士団団長だ。」


 「え……っ!」


 エギスが驚きの声を上げる中、ミヒャエルが俺に向かって言葉を紡ぐ。


 「鎧なら予備の奴があるが、いつもの感覚で扱うんじゃねえぞ? あれと比べりゃ、どんな鎧でも紙だからな」


 「分かってるよ。それよりも、お前他の騎士団団員はどうしたんだ。王都側から来なかったってことはどこかに出張してたんだろうけど、まさか一人じゃないだろう?」


 「ああ。なんか変な音が鳴ってたから、ちょっくら置いて見に来た。たぶんもうすぐ来るだろ」


 「いいのかよそんな独断で動いて……」


 俺の呆れたような声を聞かないふりをして、騎士団団長-ミヒャエルは戦場を見渡した。


 「なるほど。ヒロ、さっさと鎧を着ろ。予備を待っている暇はねえ、俺のを使え。」


 「分かった」


 即座に鎧を脱ぎはじめるミヒャエルに、渡されたそばから着て行く俺。とんとん拍子で話が進んで行く様子にエギスがぽかんとしている中、ミヒャエルは俺に指示を下す。


 「後退するにも余力は必要だ。今の状況に、冒険者達がそれを持っているとは思えない。ヒロと……お嬢さんは、助太刀しつつ、後退するよう伝えてくれ。そしてヒロは、合図があったら全力で『模倣神技』をぶちかませ」


 「だって、エギス。これでいい?」


 俺がミヒャエルの鎧を着終わって、エギスの方を向いて訊くと、エギスは一つ頷いて、剣を抜いた。


 「わかったよヒロ、行こうっ!」


 「ああ」


 俺とエギスお互いに頷きあって気持ちを一つにしているところに、無遠慮な声が割り込んだ。


 「よし、話はまとまったみたいだな」


 ミヒャエルはそう確認すると、呟きを……いや。戦争の到来を告げる。




 「Mikha'el」




 それは、怒りと暴虐を告げる言葉。あたかも反逆を鎮圧する軍隊の指揮官が下した、号令の一部のような言葉は、戦場を駆け回りながら蹂躙を助長するように戦地全体を包み込む。


 そして、ヒロとエギスの体の奥から、力が沸き上がってきた。


 「な、に……? この力は……」


 戸惑ったように自分の体を見るエギスと対照的に、俺は久しぶりに味わう心地良い全能感に、安心して身を任せていた。


 「エギス、これがミヒャエルの『模倣神技』だ。効能は、味方能力の大幅な強化。いつもより高いパフォーマンスが発揮できるはずだ」


 「そうなの? わかったよヒロっ!」


 そう言葉を交わした俺とエギスは、魔物の大群に向かって駆け出して行った。




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