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とある夏の一幕

作者: gm_rikusen

練習作として書きました。

ほんのわずかでも、お楽しみ頂けましたら幸いです。

「うぅ……暑いぃ」


自宅の玄関を開くなり靴を脱ぎ捨てて、汗をびっしょりかいた体を廊下に投げ出した。

8月。

梅雨明けの乾いた暑さは、頭のてっぺんから足の先まで、じっとりとした汗で濡らしてくれた。

ちょっと近くの本屋まで出かけただけなのに、このざまだ。

まったく、こんな日に外出するんじゃなかった。

自分の愚かさを悔やみつつ、何とか体を起こしてリビングへ向かう。


買ってきた本をテーブルに放ると、エアコンのスイッチを入れた。あまり冷房ばかり使うのも体に悪いというが、今はそんな事にかまっていられない。

そのまま座布団に転がりたい衝動に駆られる。が、一度寝ると疲れて起きられないだろう。

休みたいのもそうだが、今は汗をかいた体を一刻も早くどうにかしなければならない。

そう思い、疲れ切った両足に力を込めて立ち上がる。

水分補給を手短に済ませると、着替えを持って浴室へ向かった。




頭がかゆくて仕方ない。

たっぷりかいた汗のおかげか、酷いものだ。無闇に掻き毟ってはいけないのだが、我慢すればするほどかゆくなる。

そうでなくとも、体にへばりつく汗は一刻も早く洗い流したくなる。

汗だくの服を洗濯機に投げ捨て、浴室へ飛び込んだ。


冷水を被りたくなるところだが、そんな事をしたら心臓が止まりそうで、かえって気分が悪くなる。

ぬるま湯を足からゆっくり、肩までかけ流す。

熱のこもった体がじんわり冷やされていく。これだけでも清々しい気分だ。

石鹸を使って体中の汚れを落とす。


次は、いよいよ頭を洗い始める番だ。

まずは予洗い。熱めのシャワーを頭にかける。指先を使って、髪をかき分け地肌にまでお湯を行き渡らせた。こうするだけでも、余分なものが流されるようで結構気持ちいい。

お湯の熱さが、さらにスキッとした爽快感を上乗せしてくる。

頭全体をお湯でしっかり濡らすと、シャワーを止めてシャンプーを手に取る。

よく泡立てて、フワフワになったそれをまんべんなく頭に塗った。

最初は包むように、掌を広げて(わしわし)と地肌を掴む。

地肌全体にひんやりした泡が浸透し、汗の詰まった毛穴の奥までクリアになる感覚。これが何ともすっきりする。

生え際の辺りも丁寧にこする。そこから後頭部まで行ったり来たり。繰り返し洗う。

指先をぐっと立て、ぐりぐり刺激するとツボ押しのようでなかなか効く。


側頭部から頭のてっぺんまで、掻くように素早く指を動かす。

頭全体がかゆいので、何とも心地よい。頭がビリビリしてくる。

爪を立てたくなる衝動をぐっと堪えて(ひっかき傷が出来ると、後が大変である)、指だけでしゃかしゃかとリズミカルに洗う。

しばらくそれを繰り返すと、べったりとした頭のかゆみがスーっと取れてきた。


続いて、耳の脇やこめかみの辺りをこする。溜まった脂が、泡と混ざって溶け落ちるような錯覚を受ける。

ここもかゆかったのだが、こしこしと軽いタッチでこする事により、すっかり解消された。

ついでに、こめかみも親指で念入りに押した。

指の圧力が頭にじんじん響き、これまた気持ちいい。


そうこうしているうちに、腕が重くなってきたのでシャワーに切り替える。

今度は丁度いい温度のお湯で、後頭部から順にゆっくり泡を洗い落とす。

水の勢いも、最初とは違って抑え気味にする。

生え際から後頭部まで指で梳いて、全体を何度も流した。細胞の一つ一つに(じわーっ)と湯が浸み込むようで、思わずほっとした。

ついでに襟足を細かくこすって、僅かに残ったかゆみを取り払う。

泡と共に、今日一日の疲れも溶けてゆく気分だった。



ああ、さっぱりした。

濡れた髪をタオルで拭きながら、浴室を後にする。

冷たいものを飲んで、買ってきた本を読もう。

そんな事を考えながら、身支度を整えるのだった。

御感想、御指摘など頂けましたら、感謝致します。


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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。一通り拝読させて頂きました。 夏場なら誰しもが経験しうることばかりで、「日常」の表現としては非常に好感触であると感じました。「地に足が付いた暮らし」そのものと言いますか。 ここか…
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