6.じっちゃんからの手紙
「で、今日はまた何しに来たの?まだ来る時期ではないような」
お茶を入れながら聞く僕。
だって、いつもは収穫が終わって次の次の月くらいに来るのに。
「いやな、北周りルートが今閉じてもーててん。せやから、ちょぉ遠回りになるんやけど、南回りルートから進むっちゅーこって常の逆で、街のほうからこっちにきてん」
「そっかぁ」
あー、なんか商人訛りきくと面白いけどほんとに耳に残りそ。
「でな、街によったときにな、坊主のじっちゃんから手紙、受け取ってきてん」
「え?」
きょとんとした顔をしてる僕をよそに兄ちゃんが懐から手紙を一通取り出した。
慌てて、受け取る。
四角い地味な白い封筒。
指でぴっと開けて中身を見て読む。
読んでしばし・・・・
「なにこれ?」
手紙の中にはこうあった。
『しばらく戻れそうにない。ついでに家をやる。だがお前一人じゃ心許ないだろうし、その辺一帯の魔物も駆逐できんだろう。ゆえに、このあとは好きにしてもいいが条件として、一度街に来て冒険者機構に登録しろ』
そうあった。
何アホなこと言い出すんだ、このくそじじいは。
っていうか条件が冒険者になれってどういうこっちゃ。
それに冒険者になっても兵役とか任務とかあるんでしょ?んなのいやにきまってるじゃないか。
それならしばらく戻ってこれないなら、このまま黙って家でご~ろご~ろしていたほうがいいや・・・・・って思っていたのだけども・・・・
『追記:あと、家でごろごろするのは構わんぞ。魔物が出てきてもお前がどうにかできるなら別に構わん。ついでに言うなら、戻れん理由として魔物がちょっと強くなってきているようでなぁ。おそらくその辺一帯もちょっと物々しくなってくるやもしれんしなぁ・・・・あー、強くなって一帯が静かになれば、のんびりできるじゃろうになぁ』
って、書いてあった・・・・
あのじじい・・・・
確かにね、僕はごろごろが好きだ。
だけども、家事技術がうまくなっていることもあり、時間が有限であることも知っていることから、
『やるべきことを早く終わらせて、残った時間をだらだら時間にする』
という、信義である。
昔はなんにも考えないでだらけていたところもあったが、あのじっちゃんがうるさくてうるさくて渋々やっているうちに、とりあえずやることやっていたらじっちゃんもとやかくは言わないということに気がついて、気づけばやることを早めに終わらせる技術が向上してあとだらけるという形になった。
で、そのなかの問題として魔物の問題があるが、じっちゃんがいるうちは用心棒よろしく見つけたらじっちゃんに知らせるという形で定着していたが、これからはそれを自分でしないといけないということである。
そもそも
「魔物は危険」
と教え込んだのはじっちゃんであって、これまで一度として相手をしたことがない。
そういう未知の相手に対してこれまでの狩りの獲物のように相手取るわけにはいかない。
それはもう、いやというほど魔物のことについてはじっちゃんに教え込まれたからね。
多少、おおげさなのもあるかもしれないけど、武器を使う知恵があるということで動物と戦うこととは違うのは明白だ。
うーん、一応、下手に取らずにうだうだしつつびくつくのもそれじゃぁ、安心して全力でだらけられないしなぁ・・・・
あー、どうしよ。
「あー、ついでにいうとくとな、兵役やらの心配しとんのやろ?その辺は心配せんでえーぞ」
一番気になっていたこと二の足踏んでいたことをさらっと言う兄ちゃん。
「え?どゆこと?」
「なんかあのおっさんが特例で兵役免除をとってくれたみたいでな、任務も緩和してくれたみたいやで」
「へー」
なにそれ、どんな裏技使ったの?
まぁ、あのじっちゃんだから、なんか変なルートでもありそうな気配はあったし、それ使ったんだろうか。
ま、どっちにせよ、そういうことなら冒険者になってもいっかな。
「なら街までどうやっていこう?」
「ほな、わてが一緒にいこか」
お茶をぐいっと飲み干して立ち上がる。
「え?でも、街にはいってきたとこなんでしょ?」
「なぁに、あのおっさんのこった。わてが別ルートからくることは予測してたんやろうからこの手紙を渡したんやろ。で、昔からの誼や、多少日が前後したかて支障はあらしまへんよ。これでも行商人。魔物なんぞへでもないわ、はっはっはっは」
くいっと服の下で隠れていたけども紐で首から下げていた一枚のカードを取り出した。
「それって、冒険者カード?」
「そや、行商人なら誰でももっとるわ。でなきゃ、旅なんぞこのご時勢できるもんやあらしまへんがな。護衛なんぞやとおうもんなら銭が飛ぶわ」
からからと笑って答えてくれた。
あはは、確かにそうだものね、今まであんまり行商人についてはてっきり隊商組んで行っているものと思っていたけどもそういえば兄ちゃんはいつも一人でここにきていた。
下に待ち合わせているのかなとも思っていたけども、この口ぶりからすると一人で行動しているみたいだな。
となれば、相当腕に覚えがあるのかもしれないし、何よりも冒険者カードがあるということは強者の位置にいるってこと。
それなら、安心かな。
じゃ、一緒に街までいってこうかな。
で、とっとと帰って安眠しよう。
次は道中話。家から街までの話で、あと、冒険者の職業についての補足説明