路地裏の楽器店
「お、ここいい感じの路地裏じゃないか。こういう所に穴場の飯屋があるんだな♪」
俺、六車 末蔵はバンドのツアー先で地元飯ってやつを食べるのが大好きだ。それも有名な店じゃなく、ちょっとくたびれた外観だけど店員のおっちゃん・おばちゃんが元気いっぱい迎え入れてくれる、そんな下町っぽい店が大好きなんだ。
30前のバンドマンってのはバンド活動以外にも楽しみが必要なんだよ…。
その日もいい感じにくたびれた飯屋を探しに路地裏にグイグイと入っていったわけなんだが、見つけたのはくたびれにくたびれた楽器店だった。
「楽器店…か、古臭い店だな。こういう楽器店って定価のまんま売ってたりして高いんだよなぁ…。でも、生産中止されたパーツとかも定価のまんまで安かったりするから…。入ってみるか!」
カランコロン♪
「いらっしゃい」
店に入ると聞こえてきたレトロなドアチャイムとしわがれた声。
声の主は…と、いたいた。黒いローブをまとった恐らく婆さん。恐らくってのは口元しか見えないのと、先ほど聞こえた声からの予想だ。
胡散臭い、とは思ったけれども顔には出さずに店内を物色する。
まずはドラムコーナーだ。俺の本職はドラムだしな。
しっかし狭い…な…、っておい!ビンテージの山じゃないか!60〜70年代のものは当たり前、40年代の単板まで置いてある!極め付けはSONORのベルブラスだ。リムまでベルブラスってことはコレって…。
あまりにもレア過ぎるものに俺はゾクっとした。
いや、店主がドラマーだからドラムコーナーだけ充実しているんだろう。
次は弦楽器のコーナーだな。
店主はドラマーって推理は外れていそうだ。
こっちもとんでもない代物の山。それも恐ろしく状態がいい。
ここまでくると逆に怪しいな。パチモン屋かここは?
とは思ったものの目利きには自信がある。ここにあるのは全部本物だ。
「婆さん、こんだけの商品があるのになんでこの店は路地裏にあんだよ?もっといい立地じゃないとこの楽器たちも使ってくれる奴に出会えないんじゃないか?」
「おや、アンタここにある子達が本物だってわかるのかい?他の客はニセモノだ贋作だって騒いで帰るんだけどね。」
「そりゃあこんだけの宝の山じゃな、胡散臭くもなるんだろうよ。けど俺は目利きに自信があるんだ。ここにあるものは全部1級品で間違いない!」
「へぇ、弱いとはいえ一応認識阻害をかけてあるっていうのに…。どうやらアタシ達の待ち人はアンタのようだねぇ…。」
「あん?何言ってんだよ?」
「もっと見たくはないかい?店頭に出せないようなものをさ。」
「は!?これよりすごいものがあるのかよ!?いや、見せてくれるってんなら是非見たい!…けど、俺金ないから買わないぞ?」
「いいよいいよ。来るのかい?来ないのかい?」
「行くよ!行くに決まってんだろ!で、行くってどこにだ?裏に在庫でも置いてんのか?」
「ふふふ、言ったね?向かう先がどこかは、そこで出会った者にでも聞けばいいさ。」
「ん?楽器の話だよな?」
「世界を鳴らしておいで。」
「なんのこ…と…」
視界が真っ暗になる。
ドサッ!
俺の背中に何かぶつかってきた。いや、俺が倒れたのか?
前後上下左右がわからない。
う…、眠い…。なんだこれ…?
「救っておくれ。」
最後に婆さんの声、ではなく知らない女の声を聞いて俺の意識は途絶える。