06.学内事件
ドアを開けた直後の描写で非常に迷いまして
なかなか書けずに色々試行錯誤をしていましたが、何とか形にできたためアップしました。
いじめという場面に出くわした事がないので、正直、どう表現したらいいのかわからずかなり困りました…。
目の前に、何かが飛び込んでくるのが見えた。
反射的に両腕を顔の前で交差させ、顔面をガードする。
……しかし、ドアを開けた私に襲いかかってきたのは、水だった。
「ひゃっ!?」
何かの物体が飛んでくると予想していた私は、予想外の冷水に、つい驚きの声を上げる。
恐らく、掃除用具の中にあるバケツを利用して、わざわざ私のためにトラップを仕掛けたのだろう。
「うっわ、マジで引っ掛かりやがった。引くわー」
教室の一番奥、何人かの不良が溜まっているグループの中の一人が、ふざけたように言う。
「……あーあ、かわいそ。あれ、ブラとか絶対濡れちゃってるよねぇ。授業とかどうすんだろ」
更に不良グループの中に紛れていたギャルの一人が、はっちゃけた様子で嘲笑う。
「ひゃっ!? だってさ。似合わなすぎてウケるんですけどぉ」
「ここまでされて、よく学校来る気になるよねー。ウチなら絶対ありえないわ」
「あーほんと、なんでまだ学校来てんのかわかんないよね」
便乗するかのように、不良達から次々と誹謗中傷の言葉が投げかけられる。
周りに居た他の生徒は、当然のように我関せずといった様子だった。
「あんたさぁ、床がびしょびしょなんだけど、それちゃんと自分で片付けてよね」
「そうそう。あんたが汚したんだからさー、自分の責任は自分で取らないとね」
不良グループの中で、最も扉に近かった二人組のギャルが、キツい香水の匂いを振りまきながら私に近づいてくる。
「……」
私はそれに応じることもなく、その場に俯き、立ち尽くしていた。
「おい、なんとか言えよ。耳まで腐ってんのか?」
「もしもーし。聞こえてますかー? あ、もしかして放心状態ってヤツぅ?」
更に追い打ちをかけるように、二人組のギャルは中傷の言葉を放つ。
ある程度の事は予想していたものの、想定外の出来事に、私は頭の中が真っ白になる。
……だが気付いた頃には、もう私は動いていた。
反射的な行動だった。
我慢とか、穏便にとか、そんな事を考える余裕もなく、私の中で何かが吹っ切れていた。
私は《彼女達の影》へ命令を送りつける。
それに応じるように、影達が動く。
――そしてその数秒後には、既に事態は終結していた。
「……ぅぐっ……な、に……これ……」
ほんの少し前まで、私の顔を覗き込むようにしてあざ笑い、優越感に浸っていたギャルの一人が、驚きと苦痛の混じった声を漏らす。
「ぅあ……ぐるじ……」
「……い、息が……できな……」
同じように、教室の奥に居た不良グループの全員が苦しそうな声を上げる。
「……どう?自分達の《影》に首を絞められている気分は。できれば教えて頂きたいものだけれど」
先ほど、私に近づいてきたギャル二人組の内の一人の首を、彼女自身の《影》が強く絞め上げる。
今の自分が《彼女》の身体に転移している事も忘れ、私は感情を隠そうともせず、ストレートに表す。
「あなた、さっき言っていたわよね。自分の責任は自分で取るべきだと。なら、私を怒らせた責任は、あなたが自分で取らなくてはね」
そして私は、ギャルの《影》へと更に強い命令を送りつける。
「……ぁっ……んっ……」
《影》に強く首を絞められているためか上手く呼吸ができず、徐々に顔色が悪くなっていく。
「どうしたの?さっきのように威勢の良い姿を見せて頂戴よ。それとも、このまま抵抗もせずに死にたいのかしら?」
既に意識が朦朧としているのか、私の問いかけに返事をする様子はない。
こんな小娘、一人や二人死んだ所で私に何ら影響もないだろう。ならばいっその事……。
その時、突然後ろから肩を掴まれた。
「……やめろ。もういいだろ、離してやれ」
顔を後ろに向けると、そこには硬い表情をした彼――本郷勝が立っていた。
「とにかく影を離せ。これ以上、騒ぎを大きくするな」
冷静な声でそう言った彼は、無意識に上げていた私の右手を掴むと、ゆっくりと下に降ろす。
どうやら無意識の内に、右手で首を絞めるような格好を取っていたらしい。
「……あっ」
彼の声で冷静さを取り戻した私は、すぐに影達へ行動中止の命令を出す。
すると、ドサドサっと大きな音を立て、首を絞められていた不良達が床へ倒れこむ。
「……げほっげほっ」
私の近くで一番強く首を絞められていたギャルが、苦しそうに咳き込む。
「お前、何があったんだ? どうしてこんな事になってるんだよ」
「……」
彼の問いかけに、返す言葉が見当たらない。
「……わかったよ。ここは俺が何とかしておくから、お前は保健室に行け。あそこなら誰にも聞かれずに話ができるだろ。詳しい事はそこで聞かせてもらうから」
彼はそう言うと、そのまま教室に入り、酸欠で倒れ込んでいる生徒達に声をかけ始める。
しばらくの間、私がその場を動くことができずに立ち尽くしていた。
それに気付いたのか、彼が視線で合図を送ってきた。早く保健室へ行け、という意思が伝わって来る。
それに誘発された私は、やや重い足取りで保健室へと向かう。
次回は未定です。
私と彼女について、彼が気付いてしまうかもしれません。