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高速に挑む君へ -SoulCHANGE-  作者: ヒレカツ定食
第二章
6/10

06.学内事件

ドアを開けた直後の描写で非常に迷いまして

なかなか書けずに色々試行錯誤をしていましたが、何とか形にできたためアップしました。

いじめという場面に出くわした事がないので、正直、どう表現したらいいのかわからずかなり困りました…。

 目の前に、何かが飛び込んでくるのが見えた。

 反射的に両腕を顔の前で交差させ、顔面をガードする。

 ……しかし、ドアを開けた私に襲いかかってきたのは、水だった。

 「ひゃっ!?」

 何かの物体が飛んでくると予想していた私は、予想外の冷水に、つい驚きの声を上げる。

 恐らく、掃除用具の中にあるバケツを利用して、わざわざ私のためにトラップを仕掛けたのだろう。

「うっわ、マジで引っ掛かりやがった。引くわー」

 教室の一番奥、何人かの不良が溜まっているグループの中の一人が、ふざけたように言う。

「……あーあ、かわいそ。あれ、ブラとか絶対濡れちゃってるよねぇ。授業とかどうすんだろ」

 更に不良グループの中に紛れていたギャルの一人が、はっちゃけた様子で嘲笑う。

「ひゃっ!? だってさ。似合わなすぎてウケるんですけどぉ」

「ここまでされて、よく学校来る気になるよねー。ウチなら絶対ありえないわ」

「あーほんと、なんでまだ学校来てんのかわかんないよね」

 便乗するかのように、不良達から次々と誹謗中傷の言葉が投げかけられる。

 周りに居た他の生徒は、当然のように我関せずといった様子だった。

「あんたさぁ、床がびしょびしょなんだけど、それちゃんと自分で片付けてよね」

「そうそう。あんたが汚したんだからさー、自分の責任は自分で取らないとね」

 不良グループの中で、最も扉に近かった二人組のギャルが、キツい香水の匂いを振りまきながら私に近づいてくる。

「……」

 私はそれに応じることもなく、その場に俯き、立ち尽くしていた。

「おい、なんとか言えよ。耳まで腐ってんのか?」

「もしもーし。聞こえてますかー? あ、もしかして放心状態ってヤツぅ?」

 更に追い打ちをかけるように、二人組のギャルは中傷の言葉を放つ。

 ある程度の事は予想していたものの、想定外の出来事に、私は頭の中が真っ白になる。

 ……だが気付いた頃には、もう私は動いていた。

 反射的な行動だった。

 我慢とか、穏便にとか、そんな事を考える余裕もなく、私の中で何かが吹っ切れていた。

 私は《彼女達の影》へ命令を送りつける。

 それに応じるように、影達が動く。

 ――そしてその数秒後には、既に事態は終結していた。

「……ぅぐっ……な、に……これ……」

 ほんの少し前まで、私の顔を覗き込むようにしてあざ笑い、優越感に浸っていたギャルの一人が、驚きと苦痛の混じった声を漏らす。

「ぅあ……ぐるじ……」

「……い、息が……できな……」

 同じように、教室の奥に居た不良グループの全員が苦しそうな声を上げる。

「……どう?自分達の《影》に首を絞められている気分は。できれば教えて頂きたいものだけれど」

 先ほど、私に近づいてきたギャル二人組の内の一人の首を、彼女自身の《影》が強く絞め上げる。

 今の自分が《彼女》の身体に転移している事も忘れ、私は感情を隠そうともせず、ストレートに表す。

「あなた、さっき言っていたわよね。自分の責任は自分で取るべきだと。なら、私を怒らせた責任は、あなたが自分で取らなくてはね」

 そして私は、ギャルの《影》へと更に強い命令を送りつける。

「……ぁっ……んっ……」

 《影》に強く首を絞められているためか上手く呼吸ができず、徐々に顔色が悪くなっていく。

「どうしたの?さっきのように威勢の良い姿を見せて頂戴よ。それとも、このまま抵抗もせずに死にたいのかしら?」

 既に意識が朦朧としているのか、私の問いかけに返事をする様子はない。

 こんな小娘、一人や二人死んだ所で私に何ら影響もないだろう。ならばいっその事……。

 その時、突然後ろから肩を掴まれた。

「……やめろ。もういいだろ、離してやれ」

 顔を後ろに向けると、そこには硬い表情をした彼――本郷勝が立っていた。

「とにかく影を離せ。これ以上、騒ぎを大きくするな」

 冷静な声でそう言った彼は、無意識に上げていた私の右手を掴むと、ゆっくりと下に降ろす。

 どうやら無意識の内に、右手で首を絞めるような格好を取っていたらしい。

「……あっ」

 彼の声で冷静さを取り戻した私は、すぐに影達へ行動中止の命令を出す。

 すると、ドサドサっと大きな音を立て、首を絞められていた不良達が床へ倒れこむ。

「……げほっげほっ」

 私の近くで一番強く首を絞められていたギャルが、苦しそうに咳き込む。

「お前、何があったんだ? どうしてこんな事になってるんだよ」

「……」

 彼の問いかけに、返す言葉が見当たらない。

「……わかったよ。ここは俺が何とかしておくから、お前は保健室に行け。あそこなら誰にも聞かれずに話ができるだろ。詳しい事はそこで聞かせてもらうから」

 彼はそう言うと、そのまま教室に入り、酸欠で倒れ込んでいる生徒達に声をかけ始める。

 しばらくの間、私がその場を動くことができずに立ち尽くしていた。

 それに気付いたのか、彼が視線で合図を送ってきた。早く保健室へ行け、という意思が伝わって来る。

 それに誘発された私は、やや重い足取りで保健室へと向かう。


次回は未定です。

私と彼女について、彼が気付いてしまうかもしれません。

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