03.《彼女》の特異性
まさか《彼女》にこんな特異能力が秘められていたとはー!(棒)
短くて申し訳ないですが、更新しておかねば。と思い、急いで書き上げました。
私が目を覚ましたのは、どうやら《記憶の整理》を行ってから一時間後の事らしい。
時間感覚に関して「らしい」という表現が増えてしまうのは、私の持つ特異能力《魂交換》の副産物とも呼べる現象だろう。
今までに数々の転生を繰り返してきた私は、その回数に応じて様々な人物の人生を謳歌してきた。社会人のサラリーマンの場合もあれば、高位な貴族になった事もあるし、今のように年端も行かない若者になった事もある。
その経験からだろうか、時間という概念に対して、普通の人間よりも執着がなく、とてもわかりやすく言えばとんでもなくマイペースなのだ。
ただ今回、一時間程度で目を覚ましたのは私のマイペースさによるものではなく、またも携帯電話による着信音によってだった。
ベッドで仰向けに寝転がっていた私は、身体を起こしてベッドに腰掛けた状態になると、ポケットに手を突っ込んで、取り出した二つ折りの携帯電話を片手で開く。差出人はまたも『本郷勝』とあった。
一応、念の為に中身を確認してみたが、どうも急を要するものではないようなので、そのまま携帯電話を閉じると、ベッドの隅へと携帯電話を放り投げる。
実は《記憶の整理》というのは、整理を行ったからといって完全に記憶を得られるという優れものではなく、得られる記憶と、忘れたままになる記憶がある。
例えば、生まれた直後の彼女の記憶も、今の私の中に存在はしているのだが、通常、生後間もない状態での記憶というのは誰しも覚えているものではない。
いわゆる『物心がついた』時の状態からの記憶が、主に私の記憶として記録されていくのだ。厳密に言えば、例え物心がついてからの出来事でも、彼女自身が忘れていた事に関しては、忘れたままになっている場合も多々ある。
そして今回《記憶の整理》を行った事で、彼女自身の特異能力が明らかになった。
彼女には《他人の影を操る》という特異能力があったのだ。
……影を操るというのは、一見するとさほど特異性が高いようには見えないのだが、実際はかなり自由に影を操る事ができるようで、《他人の影》を実体化して何かを持たせたりする事もできるし、サイズを変えたり切り離したりして操る事も自由自在らしい。
彼女の家系は《影》を操るという特異能力を引き継ぐ有名な一族であり、そして、そのほとんどが《自身の影》を操る事に特化していた。
つまり、《他人の影》を操るという彼女は、歴代の《影使い》の中でも特異な体質らしく、今までも《他人の影》を操るような能力が一部発現した者も存在したらしいのだが、《他人の影しか操れない》というのは彼女が初めてだそうだ。
当然、《他人の影》に特化した彼女は、過去にも存在した《他人の影》を操作できる《影使い》よりも、高精度で《他人の影》を操る事ができるが、その代償として、彼女自身には《影》が存在しない。
《影使い》の一族として、《自身の影》を持たないという事は、それだけで欠陥品である。というのが本家の判断らしく、一緒に暮らしている家族はともかく、本家からの扱いには耐えかねるものがあるようだ。
彼女はその事で随分思い悩み、一時は一族を脱退しようと試みた事もあるのだが、家族に見つかり、止められた記憶がある。
どうやら、彼女はこの異能力について快く思っていないようで「普通の女の子として生きて行きたかった」という強い願望と、それと同じ位に強い悲しみが、私の胸を抉る。
「……影、か」
想像していたものとはやや異なる特異能力ではあったが、落ち着いて考えてみれば、母親が影のような物を操っていた事も、自室に影が出現した事も、これで合点が行く。
……そういえば、あの影達は一体誰の影なのだろう? 《記憶の整理》を行った事で、あの影達に対する不安や不審感といった類のものは無くなったが、あれらが《誰の影》なのか、という部分に関しては、思い出すことができない。
もしかしたら彼女自身、この事は覚えていないのかもしれない。
……もしくは、彼女にとって忘れてしまいたい存在なのかもしれない。
次話の予定は未定です!
まさか《影》という特異能力を扱うことになるとは、思ってもみませんでした!
どうして《影》になったんだろう…!